「誰かが忘れていった財布を拾い、つい自分のものにしてしまった」……何気ない行為ですが、これは立派な犯罪であり、占有離脱物横領と通称されます。
占有離脱物横領は、初犯であっても実刑となるのでしょうか。この記事では、占有離脱物横領の初犯で実刑になる可能性についてや、そもそも占有離脱物横領罪の成立する要件について、刑罰の相場などを解説します。
占有離脱物横領により前科が付くことを回避するためには、不起訴処分を得ることが重要であり、そのためにすべきことなどについても解説します。
目次
占有離脱物横領とは?罪となる行為について
占有離脱物横領とはどのような罪なのでしょうか。
占有離脱物横領は、罪名そのものは聞きなれませんが、私たちが日常で遭遇するような身近なシーンで罪が成立することがあります。
占有離脱物横領の刑罰
占有離脱物横領は、遺失物等横領ともいい、刑法254条に定められた罪です。
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
刑法254条
具体的には、誰かがベンチやトイレなどに忘れていった財布やバッグ、あるいはATMに置き忘れられた紙幣を自分のものにしてしまうといったような、「置き引き」行為を思い浮かべるとわかりやすいでしょう。
また占有離脱物横領が成立するためには、不法領得の意思があることが前提となります。これは自分のものにしようとする意思という意味であり、例えば財布を拾い警察に届けようとしたものの何らかの事情で遅れた場合などは、占有離脱物横領に問われることはないでしょう。
占有離脱物横領と窃盗罪などとの違い
占有離脱物横領と混同されがちな罪に、刑法235条の窃盗罪があります。
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法235条
占有離脱物横領は、拾得したものが人の占有を離れている場合に成立する罪です。例えば、路上に誰かが置いていった、まだ使用できる傘を持ち去った場合、その傘は人の占有を離れているとみなされ、占有離脱物横領が成立します。
一方、コンビニの傘立てに置いてある傘を持ち去ったり、会社や学校の傘立てにある「置き傘」を無断で持ち帰ってしまった場合、窃盗罪が適用されます。これは、傘立ての傘は誰かがあえてそこに置いてあるものであり、その人の占有下にあるとみなされるためです。
また占有離脱物横領と同系統の罪に、刑法252条および253条に定められた横領(単純横領)や業務上横領があります。
第二百五十二条 自己の占有する他人の物を横領した者は、五年以下の懲役に処する。
第二百五十三条 業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、十年以下の懲役に処する。
刑法
いわゆる横領は他人から預かった、もしくは業務上使用する金品を自分のものにしてしまった場合に適用される罪で、その刑罰は占有離脱物横領よりも重くなっています。
先ほどの傘の例で言えば、友人などから借りた傘を自分のものにした場合は横領が、会社から支給された傘を自分のものにした場合は業務上横領が適用されるでしょう。
占有離脱物横領に問われる可能性のある行為
占有離脱物横領は、忘れ物の金品を自分のものにするようなケースのほかにも、以下のような行為を行った場合、罪に問われる可能性があります。
・買い物の際、本来の精算額よりもおつりを多くもらったが、後で気が付いたにも関わらず返却しなかった。
・セルフレジに忘れられていたお釣りや商品を持ち去った。
・私有地に乗り捨てられた自転車を勝手に処分した。
このように、私たちが日常で遭遇する何気ないシーンにおいても、成立することがあるのが占有離脱物横領です。
悪意がなかったり、被害が軽微であれば立件されることはほとんどありませんが、落とし物などを勝手に持ち去ることは避けるのはもちろん、自転車を無断で駐輪されたなどの場合であっても、トラブルを避けるため、まずは警察などしかるべき機関に届け出ることが無難です。
占有離脱物横領の罪に問われる可能性のある行為や、窃盗罪などとの違いについては以下の記事でより詳しく解説しています。ご参照ください。
占有離脱物横領の初犯の刑罰の相場
一般的には初犯(これまでに刑罰を受けたことのない者が罪を犯した場合)であれば処分は軽くなる傾向があり、それは占有離脱物横領の場合であっても同じです。
占有離脱物横領は窃盗や横領よりも軽微な罪であり、警察からの注意のみで済む微罪処分となることもあります。ただし、被害金額が大きい、常習的に置き引きを行っていたなどの場合は相応に罪も大きくなることが考えられます。
占有離脱物横領の初犯で逮捕された後の流れ
占有離脱物横領における逮捕には、いくつかの種類があります。ここでは代表的な2つの逮捕の形式における、逮捕された場合の流れ、およびその後最終的な罪が確定するまでをみてみましょう。
逮捕には2つの形式がある
まずは通常逮捕があります。後日逮捕とも呼ばれる形式で、刑事訴訟法に基づき、一定階級以上の警察官や検察官などが逮捕状を請求し、裁判官が逮捕の理由と必要性を認めた場合のみ逮捕令状を発行し、それによって逮捕が行われます。
次に現行犯逮捕があります。犯行中や犯行直後の犯人を逮捕することをいい、犯人を間違える可能性は低いため、逮捕状なく一般人でもできる(私人逮捕)ことが特徴ですが、逮捕後はすぐに警察官などに犯人を引き渡す必要があります。その後は最寄りの警察署に連行され、取り調べを受けることになります。
逮捕勾留から起訴前の釈放までは最長23日間
次に、逮捕された後の流れをみてみましょう。逮捕されてから起訴・不起訴の決定が行われるまでは、最長で23日間の身体拘束が続く可能性があります。
上記のように、占有離脱物横領においては警察は微罪処分として釈放する場合もありますが、それ以外の場合、事件を検察官に引き継ぐ検察官送致(送検)が48時間以内に行われます。検察官の判断により24時間以内に勾留請求が行われ、勾留質問などのあと、原則として10日間身柄が拘束されます。必要に応じ、さらに最長で10日間の勾留延長が行われます。
捜査の結果、検察官は起訴・不起訴を判断します。不起訴となった場合は釈放されますが、起訴されると略式裁判もしくは正式裁判が開かれ、罰金刑や懲役刑などの刑罰が決定されます。
軽微な罪の場合は在宅事件となることが多い
以上、逮捕された場合の流れを解説しましたが、占有離脱物横領は比較的軽微な犯罪であるため、逃亡や証拠隠滅の恐れがないと判断されれば身体拘束を受けない在宅事件として捜査が進むことが多いです。
実際に、警察庁が発表している統計「令和2年の犯罪(PDF)」によると、令和2年の占有離脱物横領の件数11,455件のうち、9割以上の10,534件が身柄不拘束となっています。
また逮捕のうち現行犯逮捕は15件と非常に少なく、反対に通常逮捕は443件と多くなっていますが、遺失物横領ではなく窃盗罪に該当すると判断された場合などは現行犯逮捕の可能性は高くなります。
身体拘束を受けなければ捜査中でも普通の生活を行うことができますが、捜査機関から呼び出しを受けた場合などは当然対応する必要があります。
占有離脱物横領の初犯で前科をつけないためにすべきこと
占有離脱物横領の初犯で前科をつけないためには、早期に弁護士に相談し、不起訴処分を得ることが重要です。
不起訴処分を獲得し前科を回避する
検察官により起訴が行われた場合、裁判で無罪になるのは非常に難しくなります。しかし、検察官が不起訴処分の判断を下した場合は、裁判を受けること自体がなくなるため、前科がつく可能性はゼロになります。
すなわち、前科がつくことを回避するためには、不起訴処分を目指すことが最も現実的な手段となります。
示談により不起訴の可能性を高める
占有離脱物横領は被害者のいる犯罪であり、早期に被害者対応を行うことが肝要です。
まずは横領した金品の返還・弁償をしっかりと行いましょう。さらに、被害者との間に示談を締結することで、検察官が再犯の可能性や加害者家族への影響などといった様々な情状を考慮し、最終的に「起訴するほどではない」と判断する「起訴猶予」の可能性が高まります。
被害者と示談するためには弁護士に相談する
被害者との間に示談を締結するためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
逮捕されてから起訴される前の身柄拘束が続く期間は最大で23日間ですが、起訴が決定された後で示談が成立しても、後から不起訴とすることはできないため、示談交渉はその間に行う必要があります。そのため、できる限り早い段階で弁護士に相談することが大切になってきます。
逮捕されている場合、加害者本人は示談交渉はできず、また逮捕されていない場合であっても加害者と被害者が直接示談交渉を行うことは困難です。そのため、示談交渉の際は弁護士を間に立てることが必要となります。