国選弁護人がついたが動きが悪い、思うような弁護活動をしてくれないので弁護士を解任したいというご要望は少なくありません。しかし、国選弁護人は国が選ぶ弁護士なので、自由に解任することはできません。
刑事事件において、ご自身やご家族の権利を守るために、国選弁護人を解任して最良の弁護士を選ぶにはどうしたらいいか、どのような理由があれば解任が認められるのか、解任する手続きはどうしたらいいのかなど、取るべき対応と弁護士を選ぶ際の注意点をご説明します。
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国選弁護人に不満…どんな時に国選弁護人を解任できる?
国選弁護人制度とは|刑事事件の経験に乏しい弁護人がつくことも
刑事事件の手続きにおいて、犯罪の容疑をかけられて捜査されている人(被疑者)や、起訴され刑事裁判にかけられた人(被告人)のために弁護活動を行う弁護士のことを「弁護人」といいます。弁護人は「国選弁護人」と「私選弁護人」の2種類に分けられ、手続き上は自分で選ぶ私選弁護が原則です。
しかし、私選弁護人をつけられない勾留後の被疑者・被告人には、国が弁護人を選任します。これが「国選弁護人」です。国選弁護人は、名簿に登録した弁護士が順番に割り振られるので自分で選べません。そのため刑事事件の経験に乏しいとか、別の専門業務で忙しい弁護士がつくこともあります。
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国選弁護人は自由に解任できる?
国選弁護人は、国が選任する弁護人です。そのため、解任できるのは裁判所だけであり、自分で自由に解任することはできません。国選弁護人を解任したい場合は、裁判所に解任請求を行うことになります。その場合でも、法律で定められた解任理由に該当しなければならないとされています。
しかし、法律で解任事由が定められているとはいえ、解任請求は実務ではほとんど認められないのが実情です。 というのも、被告人が国選弁護人の解任請求を繰り返して裁判を遅らせようとすることを防ぐこと、身柄の拘束の長期化を防ぐこと等の要請があるためです。
国選弁護人 | 私選弁護人 | |
---|---|---|
選び方 | 国が選任 | 本人・家族が選任 |
解任 | 原則できない | いつでもできる |
国選弁護人の解任事由
法律上の国選弁護人の解任事由は次の5つです。
- 私選弁護人に頼んで国選弁護人が不要になったこと
- 被告人と弁護人が利益相反関係にあること
- 弁護人が心身の故障などで弁護活動ができないこと
- 弁護人が職務に著しく違反したこと
- 被告人が弁護人を暴行・脅迫して弁護活動できないこと
上記の理由は刑事訴訟法第38条の3第1項に定められています。例えば、弁護人の動きが悪く解任請求したい場合は、上記の弁護人の職務違反に該当しそうですが、最低限のことをしていれば認められません。私選弁護人を選んだ場合以外は、国選弁護人の解任請求は認められないのが実務の運用です。
国選弁護人の解任を認めてもらうのが難しい理由
国選弁護人の解任が難しい理由は、裁判所・国によって選任された弁護人だからです。
日本では、刑事裁判で弁護人を付ける権利が憲法で保障されています。勾留された被疑者の段階でも、昨今は全ての事件で私選弁護人がつけられない場合は国選弁護人が付きます(被疑者国選)。しかし、あくまで手続きの原則は私選弁護人であり、私選弁護人をつけられない場合に限って選任されるのが国選弁護人です。
国選弁護人を自由に解任できてしまうと、憲法が保障する弁護人をつける権利を十分に保障することができないため、国選弁護人の解任の条件は厳しくなっているのです。
被告人本人やご家族にも、国選弁護人を解任する権利はありません。一定の解任事由がある場合に解任を請求することはできますが、実務上ほとんど認められることはありません。また、弁護人自身も、自分の意思だけでは辞任することができない決まりです。
私選弁護人がついたら国選弁護人を解任できる!
国選弁護人の解任事由は法律で定められているとはいえ、職務怠慢や相性が悪い等の理由では解任請求は認められません。しかし、私選弁護人を付けた場合は、国選弁護人の解任が認められます。国選弁護人がついている場合は、他の弁護士を私選弁護人にすれば、国選弁護人は自動的に解任されます。
国選弁護人がついている事件も、被疑者や被告人はいつでも私選弁護人をつけることができるのが原則です(刑事訴訟法30条1項)。ただし、例外的に、観護措置が取られている少年事件で審判期日が直前の場合は、国選の付添人を解任せず私選の付添人を併存させることもあります。
※付添人:少年事件における弁護士のこと
【私選弁護人に切り替え】国選弁護人の解任請求はどう行う?
国選弁護人を解任請求するには上申書を提出する
解任事由があり、国選弁護人を解任したい時には、裁判所に上申書を提出します。たとえば、被告人が無罪主張しているにもかかわらず弁護人が有罪主張をしようとしている場合など、被告人の意思に弁護活動が反したり不利になる場合です。この場合、被告人は裁判所に「国選弁護人解任の上申書」を提出できます。
上申書には、弁護人の弁護活動が任務違反にあたること、現実に不利益を被ったこと、解任すべきことなどを具体的に記載し、作成年月日や罪名、氏名を書いて管轄裁判所の担当裁判官に提出します。上申書を書いても解任できるとは限りませんが、裁判所に内容を検討してもらえます。
私選弁護人を選べば国選弁護人は解任される!
被疑者や被告人は、いつでも私選弁護人を選任できます(刑事訴訟法30条1項)。私選弁護人の選任は国選弁護人の解任事由にあたるので、国選弁護人は解任されます。
被疑者や被告人、そのご家族も、国選弁護人から私選弁護人に変えるのに自分で国選弁護人の解任手続を行う必要はありません。通常、私選弁護人を選任して弁護人選任届が提出されれば、国選弁護人は自動的に解任されると考えて構いません。弁護人選任届は通常弁護人側で検察庁や裁判所等に提出します。
その後の私選弁護人への対応は?
国選弁護人から私選弁護人に変わった場合、まずはこれまでの事件の経緯を説明し、コミュニケーションを取ることが重要です。国選弁護人が持っている資料などは、通常は私選弁護人に送られてきます。しかし、それ以外の事情についても、十分に説明したり接見に行ってもらうようにしてください。
刑事事件は、スピードが命です。国選弁護人の動きが悪い、対応が悪い等の場合は、遅れを取り戻すためにも、信頼関係の構築の相互協力が大切です。交代の時期や事件の状況によっては、私選弁護人に変えても結果が変わらないこともあるので、変更のタイミングは十分検討することをお勧めします。
国選弁護人解任の注意|再度の選任はできる?
国選弁護人の解任請求を行い、私選弁護人の選任以外の理由で解任請求が認められた場合は、裁判所が再度国選弁護人を選任します。
一方、私選弁護人を選任して国選弁護人が解任された場合は、国選弁護人制度を再度利用することはできません。
また、国選弁護人と違って私選弁護人であれば何回でも解任して再度選任もできますが、その場合にも解任にあたっては取るべき対応が取れなくなってしまったり、裁判まで準備不足になるというリスクも考えなければなりません。
国選弁護人を解任する前に|よい私選弁護人の選び方とは?
(1)刑事事件解決の実績が豊富な弁護人
私選弁護人を選ぶ際は、刑事事件解決の実績が豊富な弁護人を選んでください。弁護人選びは医者と同じです。病気やけがに合わせて専門の医者を選ぶ必要があります。弁護士にも専門分野があり、刑事事件の分野は、まさに専門性が活かされる分野です。
刑事事件解決の実績が豊富かどうかは、まずはホームページをみて扱っている分野が広いか、刑事事件の対応が詳しく書かれているかをチェックするとよいでしょう。そのうえで、法律相談を利用して実際に話を聞き、今後の対応をしっかり取ってくれる弁護士かを判断することをお勧めします。
(2)法律相談の説明がわかりやすい弁護人
刑事事件は、専門用語が多くわかりにくい分野です。私選弁護人は、法律相談でわかりやすい説明をする弁護士を選びましょう。難しい専門用語を駆使する弁護士の方が偉くみえるかもしれませんが、専門的な内容をわかりやすく説明できる弁護士の方が、知識や経験が豊富と思って間違いありません。
刑事事件に巻き込まれる経験は、一生に一度あるかないかです。刑事弁護士の対応が、あなたご自身や、大切なご家族、友人の一生に関わります。それだけに、今の状況や、今後取るべき対応をご自身も十分把握することが大切です。そのためにも、分かりやすい説明で信頼できる弁護士を選んでください。
(3)料金体系がわかりやすい弁護人(弁護士事務所)
国選弁護人と異なり、私選弁護人を依頼するには弁護費用がかかります。弁護費用の内訳には、受任前の相談時の法律相談料、接見を頼む初回接見料、受任した時の着手金、事件が成功した場合の報酬金、弁護士が示談や裁判に出張した際の日当や、郵送費や交通費などの実費が含まれます。
私選弁護人を選ぶ際は、料金体系が明確でわかりやすい事務所を選びましょう。一見安くても、保釈で急に大金が必要になったり、曖昧な説明で後から追加請求されることもあります。当初は高額でも、事件途中で金策に走らなくて済む、結果的に安く済むこともあるので、見積もりを出してもらいましょう。
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(4)連絡が取りやすく対応が早い弁護士
刑事事件でご自身やご家族が当事者になると、弁護士を通じて状況を知りたい、中にいる人と連絡を取りたいというご要望は非常に多いです。また、実際に弁護活動を進んでいく中でも、捜査や示談の進捗など現状の把握や、裁判に向けた打ち合わせなどで弁護人との連絡は欠かせません。
国選弁護人は自分で選べないので、民事事件を多く抱え時間がないとか、刑事弁護に不慣れで対応が遅い弁護士にあたる可能性もあります。残念ながら私選弁護人にもそういう人はいます。しかし、弁護費用を払って自分で選ぶのですから、連絡が取りやすく、対応が早い弁護士を選ぶようにしましょう。