傷害事件を起こしてしまった後、「いつ警察が来るのか」「この不安はいつまで続くのか」と、時計の針を気にする日々を過ごしていませんか。
傷害事件の時効は10年です。ただし、暴行した相手が怪我をしていなければ暴行罪として扱われ、時効は3年になります。
また、時効は、海外渡航歴があれば滞在している間はカウントが止まります。さらに刑事の時効が過ぎても民事で訴えられるリスクが最長20年続くことは、意外と知られていません。
この記事では、傷害事件の時効について、暴行事件との境界や時効が止まる例外条件、そして時効を待つ以外の選択肢について解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
傷害事件の時効は10年|怪我の有無がポイント
傷害事件の公訴時効(検察官が起訴できる期限)を判断するうえで最も重要なのは、相手に怪我をさせたかどうかです。怪我の有無によって適用される罪名が変わり、時効期間も大きく異なります。
傷害罪の時効は10年(怪我ありの場合)
殴る・蹴るなどの暴行によって相手が怪我をした場合は傷害罪が成立します。擦り傷、打撲、切り傷、骨折など、怪我の程度は問いません。病院で診断書が出るような状態であれば、傷害罪として扱われます。
傷害罪の法定刑は「15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」であり、公訴時効は10年です。暴行罪の3年と比べて3倍以上長い期間、起訴される可能性が続くことになります。
傷害罪と暴行罪の時効の違い
| 傷害罪 | 暴行罪 | |
|---|---|---|
| 内容 | 暴力により怪我を負わせた | 暴力を振るったが怪我なし |
| 公訴時効 | 10年 | 3年 |
暴行罪の時効は3年(怪我なしの場合)
相手を突き飛ばした、胸ぐらをつかんだ、頬を平手で叩いたなど、暴力を振るったものの相手が怪我をしなかった場合は暴行罪にあたります。
暴行罪の法定刑は「2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」と定められており、公訴時効は3年です。
つまり、暴力を振るった日から3年が経過すれば、その件で起訴されることはなくなります。
暴行罪の時効については別記事で詳細に解説していますので、興味のある方はご覧ください。
後日の診断書で時効が「3年→10年」に変わることもある
「その場では相手も大丈夫と言っていたから暴行罪だろう」と考えるのは危険です。
被害者がその場では大丈夫と言っていても、後日病院を受診し、診断書を警察に提出すれば傷害事件として受理されます。
翌日になって痛みが出た、数日後に腫れが引かなかったというケースは珍しくありません。診断書が提出された時点で、暴行罪(時効3年)から傷害罪(時効10年)へと切り替わる可能性があります。
「もうすぐ3年だから大丈夫」と安心していたところに、突然逮捕されるリスクがあることを覚えておいてください。
傷害事件の公訴時効とは?起算点と計算方法
傷害事件における公訴時効の仕組みと、いつから10年をカウントするのかを正確に理解しておきましょう。
公訴時効の仕組み
公訴時効とは、検察官が被疑者を起訴できる期間の制限です。この期間を過ぎると、たとえ犯罪の証拠が揃っていても、検察は起訴することができなくなります。
公訴時効は犯罪の法定刑に応じて定められており、傷害罪のように「長期15年以上の拘禁刑に当たる罪」の場合は10年と規定されています(刑事訴訟法250条2項3号)。
起算点は犯罪行為が終わった時
公訴時効のカウントは、犯罪行為が終わった時点から始まります(刑事訴訟法253条)。傷害罪の場合、暴行を加えて相手が怪我をした時点が起算点となります。
ただし、暴行の後しばらく経ってから後遺症が発覚した場合は、その症状が現れた時点から時効が進行するとされています。
たとえば、頭部を殴打された被害者が数ヶ月後に後遺障害を発症した場合、その発症時点が起算点となる可能性があります。
傷害罪は非親告罪|告訴なしでも起訴される
傷害罪は非親告罪です。これは、被害者からの告訴がなくても検察官が起訴できることを意味します。
親告罪であれば「被害者が犯人を知った日から6ヶ月以内」に告訴しなければ起訴されませんが、傷害罪にはこの制限がありません。
つまり、公訴時効の10年が経過するまで、いつでも起訴される可能性があるということです。
被害者が「もう気にしていない」と言っていたとしても、警察が独自に捜査を進め、検察が起訴に踏み切ることは法律上可能です。
時効停止に要注意
法律には時効の進行が一時的に止まる「時効の停止」というルールがあります。
海外に滞在している期間は時効が止まる
犯人が国外にいる間は、公訴時効のカウントが停止します(刑事訴訟法255条1項)。
これは海外逃亡に限った話ではありません。海外出張、海外旅行、海外留学など、理由を問わず国外にいる期間はすべて時効の進行が止まります。
たとえば、傷害事件から8年が経過していても、そのうち3年間を海外で過ごしていた場合、実際に進行した時効は5年分だけです。時効成立までには、あと5年かかることになります。
共犯者が起訴されると自分の時効も止まる
傷害事件に共犯者がいた場合、その共犯者が起訴されると、自身の時効も停止します(刑事訴訟法254条2項)。
共犯者の裁判が確定するまでの間、時効は進みません。共犯者の裁判が長引けば、その分だけ時効成立も遅れることになります。
逃亡中は時効が進まない
犯人が逃げ隠れしており、起訴状の謄本を送達できない場合も時効は停止します(刑事訴訟法255条1項)。
住所を転々としたり、身分を偽って生活したりしていて有効に起訴状の謄本の送達等ができなかった場合は、時効のカウントが止まります。
逃げ続けることで時効を迎えようとしても、法律上は難しい仕組みになっています。
傷害事件の民事上の時効は最長20年
ここは多くの人が見落としがちなポイントです。刑事上の公訴時効と、民事上の損害賠償請求権の時効は別物です。
民事の損害賠償請求権の時効は最長20年
傷害事件のような「人の生命・身体を害する不法行為」による損害賠償請求権の時効は、以下のいずれか早い方で消滅します。
- 被害者が損害および加害者を知った時から5年
- 不法行為の時から20年
被害者があなたの名前や住所を知っている場合、事件から5年で民事の時効は成立します。また、後遺症が残る事案では、症状固定日を起算点とするのが一般的です。
しかし、被害者があなたを特定できていない場合は、事件から最長20年間、損害賠償を請求される可能性が残ります。
判決確定後の時効
民事訴訟によって判決が確定したり、裁判上の和解が成立したりした場合、その権利の時効は確定から10年に延長されます。
この期間中に完納されない場合、時効完成前に再度訴訟を提起するなどの措置がとられることもあります。
刑事で逃げ切っても民事訴訟のリスクは残る
刑事の公訴時効10年が過ぎれば、逮捕や刑事罰を受けることはなくなります。しかし、その後も最長10年間は、被害者から民事訴訟を起こされるリスクが続きます。
民事訴訟で請求されるのは、治療費、通院費、休業損害、後遺障害による逸失利益、そして精神的苦痛に対する慰謝料などです。
さらに、支払いが遅れた期間に応じて遅延損害金が加算されるため、時間が経つほど賠償額は膨らみます。「警察に捕まらなければ終わり」ではないことを理解しておく必要があります。
時効を待つか示談か|加害者の出口戦略
傷害事件を起こしてしまった加害者には、大きく分けて2つの選択肢があります。時効の成立を待つか、被害者と示談して早期に解決するかです。
時効を待つリスク
時効を待つという選択は、大きなリスクを伴います。
まず、最長20年にわたる精神的ストレスです。刑事の時効10年を過ぎても、民事の時効が残っている限り、完全に安心することはできません。
「いつ訴えられるか」という不安を抱えながら生活することになります。
次に、時効直前での逮捕されるリスクです。被害者が被害届を出していれば、警察は時効成立直前まで捜査を続ける可能性があります。
精神的ストレスを長い時間耐えながら過ごして「あと数ヶ月で時効だったのに」というタイミングで逮捕されるケースも実際に存在します。
最後に、突然の逮捕による社会的信用の喪失です。数年後、仕事や家庭が安定した頃に逮捕されれば、築き上げてきたものを一瞬で失うことになりかねません。
示談による早期解決のメリット
一方、被害者との示談を成立させることには、複数のメリットがあります。
第一に、刑事罰の回避・軽減が期待できます。示談が成立し、被害者が「処罰を望まない」という意思を示せば、検察官が不起訴処分とする可能性が高まります。起訴前であれば前科がつくこともありません。
第二に、民事問題も同時に解決できます。示談書に「今後一切の請求を行わない」という清算条項を盛り込むことで、将来の損害賠償請求リスクをなくすことができます。20年間の不安から解放されるのです。
第三に、平穏な日常を取り戻せます。示談が成立すれば、「いつ逮捕されるか」「いつ訴えられるか」という恐怖から解放され、前を向いて生活できるようになります。
示談金の提示は債務の承認となる
加害者が被害者に対して示談金の提示を行うなどの行為は、債務の承認とみなされ、その時点で時効がリセット(更新)される可能性があります。
示談金の相場
傷害事件の示談金は、被害者の怪我の程度によって大きく異なります。一般的な相場は以下の通りです。
傷害事件の示談金相場
- 重傷・後遺症あり:100万円以上
- 軽傷(全治1週間程度):10万〜30万円
- 中程度の怪我(全治2週間〜1ヶ月):30万〜100万円
実際に、アトム法律事務所で取り扱った傷害事件の示談金相場は、約30万円前後でした(アトム「傷害の示談金の相場」より)。
示談金には、治療費や通院費の実費に加え、精神的苦痛に対する慰謝料が含まれます。被害者の処罰感情が強い場合や、怪我によって仕事を休まざるを得なかった場合は、金額が上がる傾向にあります。
示談交渉は、加害者本人が直接行うことは避けるべきです。被害者に恐怖を与えてしまったり、感情的になってさらなるトラブルに発展したりするリスクがあるためです。弁護士を通じて交渉を進めましょう。
傷害事件の示談についてより詳しく知りたい方は『傷害事件の示談|示談金の相場は?弁護士に任せるメリットも解説』を御覧ください。
傷害事件を起こしてしまったらすべきこと
弁護士に自分の法的な状況を確認する
傷害事件の時効は、怪我の有無、海外渡航歴、共犯者の有無など、さまざまな要素によって変わります。インターネットの情報だけで「自分は○年で時効だ」と判断するのは危険です。
弁護士には守秘義務があるため、相談内容が警察に漏れることはありません。「傷害事件を起こしてしまった」と相談しても、弁護士があなたを警察に通報することはないのです。
まずは傷害事件に強い弁護士に相談し、自分のケースの正確な時効期間と、現在の法的リスクを把握することをおすすめします。
被害者との示談交渉を検討する
時効を待つことのリスクと、示談による早期解決のメリットを比較したうえで、示談交渉を検討してみてください。
弁護士を介した示談交渉であれば、被害者の連絡先がわからない場合でも、警察や検察を通じて被害者に連絡を取ることが可能な場合があります。
また、適正な示談金額の算定や、将来のトラブルを防ぐ示談書の作成も任せることができます。
傷害の時効に関するよくある質問
被害届が出ているかどうかを確認する方法はありますか?
加害者側から警察に「自分に対する被害届が出ているか」を問い合わせても、警察は回答しません。
捜査情報は非公開であり、被害届の有無を教えてもらうことはできないのです。被害届が出ているかどうかは、警察から連絡が来るまでわからないのが実情です。
時効成立後に罪悪感から自首した場合、どうなりますか?
公訴時効が成立した後に自首しても、刑事罰を受けることはありません。時効の成立により、検察官は起訴する権限を失っているためです。
ただし、民事の時効が残っている場合、自首をきっかけに被害者があなたを特定し、損害賠償請求を行う可能性はあります。
示談を申し入れたら、逆に逮捕されるリスクはありませんか?
弁護士を通じて適切に示談交渉を行う限り、示談の申し入れ自体が逮捕のきっかけになることは通常ありません。
むしろ、示談が成立すれば不起訴になる可能性が高まります。ただし、すでに逮捕状が出ている段階で被害者に直接接触すると、証拠隠滅や口裏合わせを疑われる可能性があるため、必ず弁護士を介して行うべきです。
傷害事件における逮捕の流れはこちらの記事で解説していますので、併せてご覧ください。
被害者が示談を拒否した場合、どうすればいいですか?
被害者が示談を拒否した場合でも、謝罪文の送付や贖罪寄付(犯罪被害者支援団体などへの寄付)を行うことで、反省の態度を示すことができます。
これらの行動は、検察官が起訴・不起訴を判断する際や、裁判官が量刑を決める際に考慮される可能性があります。弁護士に相談し、示談以外の方法も含めて対応を検討してください。
傷害事件の加害者が未成年だった場合、時効は変わりますか?
公訴時効の期間自体は、加害者が成人か未成年かで変わりません。
ただし、事件当時に加害者が14歳未満だった場合は刑事責任を問われないため、公訴時効の問題は生じません。
14歳以上20歳未満の場合は少年法が適用され、家庭裁判所での審判となりますが、時効期間は成人と同じく10年です。
傷害事件は時効を待たずに弁護士へ相談を
傷害事件の時効は、相手に怪我をさせたかどうかで「3年(暴行罪)」か「10年(傷害罪)」かに分かれます。
ただし、海外渡航歴があれば時効のカウントが止まること、共犯者が起訴されれば自分の時効も停止すること、そして刑事の時効が過ぎても民事で20年間訴えられるリスクがあることを忘れてはいけません。
時効の成立を待ち続けることは、長期間にわたる精神的ストレスと、突然の逮捕や訴訟というリスクを抱え続けることを意味します。
被害者との示談による早期解決は、刑事・民事の両面でリスクを軽減し、平穏な生活を取り戻すための現実的な選択肢です。
自分のケースの正確な時効期間を知り、最善の対応を取るために、まずは弁護士への相談を検討してみてください。
アトムの解決事例
傷害罪(不起訴処分)
長年交際関係にあった会社の同僚女性と飲酒後、駅付近の路上で口論になった。その過程でカッとなり、女性の髪を引っ張り足を蹴って転倒させるなどの暴行を加えたケース。傷害罪の事案。
弁護活動の成果
示談金25万円で示談が成立。示談書には、被害者が依頼者を許し(宥恕)、被害届を取り下げる旨の条項も盛り込まれた。弁護士は速やかに示談書を警察に提出し、その後、検察官に対しても不起訴処分を求める意見書を提出したところ、不起訴処分となった。
示談の有無
あり (25万円)
最終処分
不起訴
傷害罪(不起訴処分)
ある場所で泥酔して寝ている人を発見し、心配して声をかけたところ、その相手から突然掴みかかられたため、応戦して殴ってしまい、相手に鼻骨骨折および側頭部挫創という傷害を負わせたケース。傷害罪の事案。
弁護活動の成果
示談金120万円で被害者との示談が成立し、加害者を許すという宥恕文言付きの示談書を取り交わした。示談成立を検察官に報告し、当事者の一連の経緯についても説明したところ、検察官はこれを考慮し、本件を不起訴処分とした。
示談の有無
あり (120万円)
最終処分
不起訴


