傷害事件を起こしてしまい、被害者から損害賠償請求をされた場合に支払うべき損害賠償金の相場について解説しています。傷害事件の損害賠償金や慰謝料・示談金の相場は、被害者に負わせたけがの重さによって変わります。
損害賠償金を支払って民事上の責任を果たすことは、刑事上の責任を軽くするためにも非常に有効です。被害者とスムーズに示談を結ぶことができれば、刑事罰を受けずに事件が終了することも珍しくありません。
この記事では、傷害事件を起こしてしまった場合に支払うべき損害賠償金の相場や、傷害事件について損害賠償金を支払うことの有効性について解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
損害賠償金と慰謝料や示談金との違い
損害賠償金とは何なのか|刑事責任と民事責任
傷害事件を起こして他人にけがを負わせた場合、加害者には刑事上の責任と民事上の責任との2種類の責任が発生します。刑事責任とは、犯罪を行ったことに対して国家が制裁として科す責任のことを言います。懲役刑や罰金刑などは刑事責任の一種です。これに対して、民事責任とは、不法な行為によって他人に損害を与えたことに対して被害者が加害者に対して追及する責任のことを言います。民事責任を負った場合、損害賠償金として金銭を支払う義務が発生します。
このように、損害賠償金の支払義務は民事責任の一種です。また、刑事責任と民事責任とは別概念であり、罰金を支払ったり懲役に服したりして刑事責任を果たしたとしても民事責任である損害賠償金の支払義務がなくなるわけではありません。
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損害賠償金と慰謝料との違い
傷害事件における損害は、財産的損害と精神的損害から成ります。この損害に対する賠償金が損害賠償金です。財産的損害とは、具体的には、けがの治療費や入院費用、けがによって働けなくなった期間の休業損害のことを言います。これに対して、精神的損害とは傷害事件によってけがを負ったことについての苦痛や悲しみなど精神面での損害のことを言います。この精神的損害に対して支払う金銭のことを慰謝料と言います。慰謝料は損害賠償金の一部分を取り出した概念と言うこともできます。
財産的損害は、実際に必要になった治療費や入院費用、休業損害の額を賠償金として支払うことによって償います。他方、精神的損害は、傷害事件についての精神面での損害を金銭に換算した額を慰謝料として支払うことによって償うことになります。財産的損害に対してはもちろんのこと、精神的損害に対しても慰謝料として金銭を支払うことで償わなければならないのです。
傷害事件の損害賠償に含まれるもの
- 財産的損害の賠償金
治療費、入通院費、休業損害など - 精神的損害の賠償金(=慰謝料)
損害賠償金と示談金との違い
損害賠償金とは、傷害事件によって生じた財産的損害・精神的損害に対して民事上の責任を果たすために被害の埋め合わせとして支払う金銭のことを言います。このため、損害賠償金は民事責任に関係する概念です。これに対して、示談金とは、犯罪を行ったことを被害者に謝罪して許しを得て示談を成立させるために支払う金銭のことを言います。このため、示談金とは刑事責任に関係する概念です。
慰謝料 | 損害賠償金 | 示談金 | |
---|---|---|---|
内容 | 精神的損害の賠償 | 財産的損害の賠償 + 精神的損害の賠償 | 示談のために支払う金銭 |
具体例 | 慰謝料 | 治療費 入通院費 休業損害 慰謝料 など | 損害賠償金 +α |
このように、示談金は刑事責任に関係する概念ですが、示談金を支払うことで損害賠償金の支払も兼ねることとすることが多くあります。このため、示談金を支払うことによって民事上の責任を果たすことにもなり、結果的に示談金は民事責任にも関係する概念だと言うことができます。
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傷害事件における損害賠償金の相場
傷害事件における損害賠償金|相場は何で決まる?
けがの程度が軽ければ、治療費や休業損害の額も少なくなって結果的に損害賠償金の額は低いものとなりやすくなります。
これに対して、けがの程度が重いものであれば治療費や休業損害も大きな額となり、さらには精神的な損害も大きくなるため、損害賠償金の額は高いものとなりやすくなります。
傷害事件における損害賠償金の相場が具体的にどの程度の額なのかということは、傷害事件の結果によって変わってきます。傷害の結果として生じたけがの程度が軽いものであれば30万円~150万円、重いものであれば50万円~180万円が目安となります。
もっとも、傷害事件における損害賠償金の額は事件の内容に応じて様々であって必ずしも相場がはっきりしているというわけではありません。傷害事件の結果としてどの程度のけがを負わせてしまったのかによって損害賠償金の額は大きく変わってくるのです。
軽症の場合 | 重症の場合 | |
---|---|---|
損害賠償金の相場 | 30万円~150万円 | 50万円~180万円 |
けがの程度 | 全治1週間~2週間程度 | 骨折や全治3週間以上 |
損害賠償金の相場|①軽傷の場合
傷害事件の結果として生じたけがが全治1週間~2週間程度と軽傷の場合、損害賠償金の額は30万円~150万円が一つの目安となります。けがの程度が全治1週間~2週間程度のものであれば入院は必要にならないことも多く、けがのために仕事を休まなければならない期間も短くて済みます。このため、治療費や休業損害はあまり大きな額とならず損害賠償金の額があまり高くならないのです。
もっとも、傷害の結果として生じたけがが軽傷だったとしても、被害者の受けた苦痛が大きく精神的な損害が大きいという場合もあり得ます。このような場合には、たとえけがが軽傷で治療費や休業損害が低い額で済んだとしても精神的損害に対する慰謝料の部分が高額になってしまいます。この結果として損害賠償金の額が高額になってしまうということもあります。
損害賠償金の相場|②重症の場合
傷害の結果として生じたけがが骨折や全治3週間以上といった重症の場合、損害賠償金の額は50万円~180万円が一つの目安となります。傷害の結果として生じたけがが骨折や全治3週間以上といった重症の場合には入院が必要となることも多くあります。このような場合には、入院のために仕事を休まなければならない期間が長くなったり退院後も長期間通院を続ける必要があったりして治療費や休業損害が比較的高額となり、損害賠償金の額も高額になりやすいのです。
また、このように傷害の結果として生じたけがが重症であれば被害者の苦痛も大きくなりやすく精神的な損害が大きくなってしまいます。その結果として精神的損害に対する慰謝料の額も高額になってしまうことから、損害賠償金の額が高額になりやすくなってしまうということになるのです。
損害賠償金の支払の有効性
損害賠償金を支払うとどのような効果があるのか
傷害事件を起こした場合、被害者から損害賠償請求をされれば損害賠償金を支払わなければなりません。このように損害賠償金を支払うことは、傷害事件を起こしたことについて民事上の責任を果たすということになります。損害賠償金を支払えばそれ以上は民事上の責任を追及されないという効果があります。
これに対して、損害賠償金を支払ったとしてもそのことは刑事上の責任を果たしたことにはなりません。刑事上の責任として科される罰金刑や懲役刑は、損害賠償金を支払っても支払わなくても別途科されるのです。民事責任と刑事責任とは別の概念であるため、損害賠償金を支払って民事責任を果たしたとしても刑事責任は別途果たさなければなりません。
損害賠償金を支払うと刑事責任が軽くなる?
実務上、起訴・不起訴の処分が下されたり刑の重さを決めたりする際に損害賠償金を支払ったことが刑事においても有利な事情として考慮されることは多くあります。
ですが、損害賠償金の支払はあくまでも民事責任に関係することです。損害賠償金を支払わなかったからといって必ず刑事責任に影響するというわけではありません。
損害賠償金の支払の有効性
損害賠償金を支払わなかったから必ず起訴されたり刑が重くなったりするというわけではないのです。
損害賠償金を支払うことによって被害者に生じた損害を償ったことは、結果として被害を後から穴埋めして被害者の負担を軽くすることにもつながります。このため、損害賠償金の支払が加害者である被疑者・被告人にとって有利な事情として考慮されるのです。
示談を成立させることも重要
また、損害賠償金を示談金として支払い、被害者が加害者を許して処罰を望まないという内容の示談書を書いてもらって示談を成立させることができれば、示談の成立は加害者の刑事責任を軽くする方向に働きます。示談が成立して被害者が加害者を許して処罰を望まないという意思を示している以上は、加害者を重く処罰する必要が少なくなるからです。
このように、損害賠償金を支払うことで必ず刑事責任が軽くなるというわけではありませんが、損害賠償金の支払によって示談を成立させることなどを通して実際には多くの場合で刑事責任を軽くすることができるのです。
なお、一般的に初犯であれば、刑事処分は軽くなる傾向にあります。ただし、傷害事件で与えたけがによっては刑が重くなることもあります。傷害事件の初犯で前科をつけないためにすべきことを知りたい方は、『傷害事件の初犯は逮捕される?刑罰の重さ、不起訴の可能性は?』の記事をご覧ください。
損害賠償金の支払は弁護士に依頼するべき
損害賠償金の支払は弁護士に依頼して行うのが良いでしょう。傷害事件の場合には損害賠償金の額の相場に幅があるために具体的にいくら支払うべきなのかがはっきりしません。このため、適切な額を支払うためには専門家である弁護士に依頼して支払うべき金額を見極めてもらうことが有効だからです。
また、損害賠償金を示談金として支払うことにより被害者に加害者を許して処罰を求めないという内容の示談書を書いてもらって示談を成立させることで、不起訴処分を獲得したり刑を軽くしたりすることができます。このような示談は自分だけで行うことは難しく、示談に詳しい弁護士に依頼することで初めて適切な内容の示談を成立させて示談書を書いてもらうことが可能となります。
このようなことから、傷害事件について損害賠償金を支払う場合には自分だけの判断で支払うのではなく弁護士に相談や依頼をして支払うようにすると良いでしょう。
傷害事件でお悩みの方はアトム法律事務所に相談ください
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