「ふとした喧嘩で相手を怪我させてしまった」「駅のトラブルで相手から傷害事件で訴えられた」など、傷害事件は身近に起こりうる犯罪です。
刑事事件の被疑者となるのが初めてのことで、どのような流れで進むのか、逮捕・勾留されるのかなど、不安を抱えている方も多いでしょう。
被害者が入院するほどの重傷を負っている場合や、凶器を使った悪質な犯行の場合などは、逮捕される可能性が高い傷害事件のケースです。
この記事では、傷害事件の流れや逮捕された後の勾留期間などについて解説します。喧嘩やトラブルで相手を怪我させてしまい、今後が不安な方はぜひ参考にしてみてください。
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目次
傷害事件で逮捕された後の流れ
警察・検察の取り調べ
逮捕後は警察署に連行されて取り調べを受ける流れとなります。
取り調べでは、犯行に至った経緯や余罪の有無など、事件に関することを中心に尋問されるでしょう。家庭環境や仕事内容など、事件とは直接関係しない事柄について聞かれることも考えられます。
警察の取り調べは逮捕後48時間以内に終了し、事件は検察に引き継がれます。
警察から事件を引き継いだ検察は、24時間以内に被疑者の取り調べを行います。その結果、身柄拘束の必要がないと判断されれば、釈放して在宅捜査に切り替わるでしょう。
一方、身柄拘束を継続すべきと検察が判断した場合、裁判所に勾留請求が出されます。
勾留
請求を受けた裁判官が勾留を認めると10日間の勾留が開始されます。勾留はさらに10日間の延長が可能で、最長20日間の勾留期間となる場合がありえます。
勾留されても、不起訴処分を獲得できれば前科を付けずに事件を解決できます。そのためには、まず被害者と示談すること、中でも加害者を許す意向を示した宥恕付示談を得ることが重要です。
その他にも、弁護士を通して反省の情や更生に向けた取り組み等を示し、検察官に十分に主張することが求められます。
起訴・不起訴の決定
勾留期間が満期を迎えると、検察官によって起訴・不起訴の判断が下されます。勾留満期の時点で検察が起訴・不起訴を判断できない場合、被疑者は釈放されて在宅捜査に切り替わります。
起訴された後は、略式罰金か正式裁判を受けることになります。略式罰金は、正式裁判を開かず、罰金を払えば事件が終了する手続きです。
正式裁判になった場合、執行猶予付き判決を得ることができれば刑務所に入らずに済み、期間中平穏に過ごせば刑に服さなくてよくなります。
傷害事件の刑事裁判で実刑判決を防ぐためには、被害者に示談をしてもらうことが重要です。起訴後でも謝罪と賠償を尽くして被害者が事件を許していれば、有利な事情として裁判官に考慮してもらえます。
また、家族の支援体制を整えることも大切です。起訴されても、諦めずに弁護士に相談しましょう。
傷害事件の逮捕は現行犯?後日逮捕?
傷害事件は現行犯逮捕の可能性が高い
傷害事件では、現行犯逮捕されるケースが多いです。現行犯逮捕は、犯行中や犯行直後の犯人を逮捕することを言い、逮捕状なく一般人でもできます(刑事訴訟法212条1項、213条)。
被害者とすぐに示談できれば、逮捕されても早期釈放を目指せます。
また、喧嘩等で警察が介入する前に示談できれば、そもそも刑事事件化を防いで解決できる可能性があります。ただし、当事者同士で不十分な示談をしても後から蒸し返されてしまい被害届を出されることが少なくありません。
弁護士を通して、今後の追加請求や刑事事件化を防ぐ等の内容を適切に盛り込んだ示談を行うと安心です。
証拠があれば後日逮捕されることもある
防犯カメラの映像や目撃証言などから犯人が特定されると、警察官が自宅まで来て逮捕されることがあります。
裁判官が発付した令状に基づくこのような逮捕を後日逮捕と呼びます。
暴行の結果、被害者が後になって入院したり後遺症が残ったりした場合、傷害罪で後日逮捕される可能性が高くなるでしょう。
現行犯逮捕・後日逮捕どちらの場合であっても、逮捕されるとそのまま警察署へ連行され、取り調べを受けることになります。
現行犯逮捕 | 通常逮捕 | |
---|---|---|
令状 | 不要 | 必要 |
逮捕権 | 誰でも | 警察 |
傷害事件で逮捕されやすいケース
被害者が入院する程度の重傷を負った場合
殴る、蹴るなどの暴行を行い、被害者が入院する程度の重傷を負った場合、逮捕されやすいといえるでしょう。
「逃亡の恐れ」もしくは「罪証隠滅の恐れ」があると判断されたとき、警察は被疑者を逮捕します。
被害者が大怪我を負った事案では、刑事処分が重くなることが予測されます。そのため、被疑者が逃亡する可能性があると警察に判断されるケースがありえるのです。
相手を怪我させるだけでなく、重度の精神病やPTSDなどを発症させ、社会生活を困難にさせたような場合も、逮捕される可能性があります。
傷害の再犯の場合
過去に傷害事件を起こして有罪判決を受けている場合も、逮捕される可能性が高いです。傷害の再犯の場合も、逃亡の恐れが高いとみなされやすいでしょう。
一方、同種前科を持たない初犯で傷害の被害者が軽傷であれば、逮捕ではなく在宅捜査で事件が進むケースが一般的です。
傷害罪以外の犯罪も成立している場合
喧嘩やトラブルになった相手に対して手を出してしまうケース以外にも、被害者を負傷させる状況は数多く考えられます。
- 痴漢や盗撮をして逃げるときに相手を負傷させた
- 他人の住居に侵入したうえ相手を殴って怪我を負わせた
上記のような場合には、各都道府県の条例違反や不同意わいせつ罪、不法侵入罪などが成立する可能性があり、傷害罪のみが成立するケースよりも悪質な犯行と捉えられます。
捜査機関としては、逃亡や罪証隠滅を防ぐため、被疑者を拘束して捜査しようとするでしょう。
傷害事件で逮捕されたらどうすればいい?
弁護士を呼んで取り調べのアドバイスをもらう
傷害事件で逮捕されたら、弁護士を呼んで取調べ対応のアドバイスを受けてください。逮捕されたご本人は、ランダムに手配される当番弁護士を呼ぶことくらいしかできません。
可能であれば、逮捕される前に刑事事件に強い弁護士に相談しておくことが望ましいでしょう。
突然逮捕されてしまった場合などは、自由に動けるご家族が弁護士を用意することも多いです。
また、逮捕後72時間は家族も面会できず、弁護士しか面会できません。 傷害事件は被害者と早急に示談ができれば釈放されやすいです。まずは弁護士に相談し最善の対応を取りましょう。
弁護士に捜査機関を説得してもらう
逮捕後は起訴不起訴が決定するまで、最長で23日間の勾留となる可能性があります。なるべく早く身柄拘束から解放されるためには、勾留の必要性がないことを弁護士を通じて捜査機関に訴えていく必要があります。
勾留の必要性は、「逃亡の恐れ」もしくは「罪証隠滅の恐れ」がある場合に認められます。しかし、被疑者自身がいくら勾留の必要性がないと訴えても、捜査機関が納得することは原則ありません。
弁護士であれば、身元引受人が被疑者を管理監督することや、被疑者が仕事で責任ある立場にあり逃亡のリスクがないことなどを訴えます。
被害者との示談が締結できている場合には、この点も踏まえて捜査機関を説得することができるでしょう。
弁護士に被害者との示談交渉を依頼する
傷害事件の被害者は、加害者に対して強い恐怖心を持っていることが多いため、謝罪や示談の申し入れをしたくても、ほとんどの場合、直接顔を合わせてもらえません。
しかし、弁護士であれば会っても構わないと思ってもらえるケースもあり、示談交渉ができる可能性が高まります。
傷害事件での示談交渉の流れや示談金相場については、『傷害事件の示談金相場|示談の流れと不起訴を目指すメリット』の記事をご確認ください。
傷害事件で逮捕されない場合はどうなる?
在宅捜査として事件は進む
傷害事件で逮捕されなかった場合、在宅捜査として捜査が進みます。
在宅捜査とは、事件の性質や被疑者(犯罪の容疑がかけられている人)の立場等から、身体を拘束されず自宅で生活しながら刑事手続きが進められる捜査のことです。
在宅捜査になるのは、逮捕の理由と必要性がないこと、具体的には犯人の疑いがあっても、逃亡・罪証隠滅の恐れがない場合です。
傷害事件は、被害者に怪我をさせた経緯や程度によって捜査対応がかなり変わります。被害者の怪我の程度が小さく、加害者が被害者に危害を加えるなどの恐れがない場合等は在宅捜査になることがあります。
捜査状況に応じて警察・検察の呼び出しを受ける
在宅捜査の場合は、自宅で生活して会社や学校も通えるので、生活への影響は小さいですが、警察からの呼出には応じる必要があります。
また、事件が検察に送られている場合には、検察から呼び出しを受けることもあります。在宅捜査の場合は、書類だけを検察に送る書類送検が行われており、検察官が被疑者を呼び出して取調べを行い、起訴・不起訴を判断するのです。
逮捕されていない以上、捜査機関の取り調べを受けるかどうかは任意となりますが、理由なく拒否すると逃亡や罪証隠滅の恐れがあるとして逮捕されるリスクがあるでしょう。
逮捕されない場合も起訴される可能性がある
傷害事件で逮捕されなかったとはいえ、その時点で無罪になったわけではありません。
逮捕が必要なほど悪質な事件ではないと判断されていることは事実ですが、被害者対応や捜査機関への対応をしていないと、気づいた時には在宅起訴されているケースもありえます。
逮捕された場合は48時間以内の送検等の時間制限がありますが、在宅事件の場合はありません。事件から起訴・不起訴が決まるまで数か月かかる場合があります。
傷害事件のよくある質問
傷害罪の刑罰は?
傷害罪は「人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と規定されています。暴行罪の「2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に比べて重い刑罰です。実際は、被害者の傷害の程度、犯行の経緯や犯罪歴などが考慮されて刑罰が決まります。
傷害罪の中でも傷害の程度は様々です。被害者が以前の生活を送れないような重大な傷害を負わせた場合は、初犯でも懲役刑の実刑になる可能性があります。骨折等の大怪我では、示談が不成立だと起訴される可能性が高いです。初犯で喧嘩して軽い怪我の場合は、罰金刑や不起訴で終了する場合もあります。
傷害罪と暴行罪との違いは?
傷害罪は「人の身体を傷害した者」(刑法204条)が該当する犯罪です。これに対して暴行罪は「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったとき」(同法208条)に成立する犯罪です。
一般的には、殴る蹴るなどの暴行を振るうと暴行罪、その結果相手が怪我をしたら傷害罪が成立する関係にあります。
暴行罪か傷害罪かの分岐点については考え方がいくつかありますが、人の健康状態を悪化させたり、体に変化を加えると傷害罪になると考えられています。実務では、喧嘩等で怪我をさせたケースの場合、全治5日程度だと傷害罪、それ以下の軽い怪我では暴行罪にあたるとされることが多いです。
また、傷害事件は喧嘩で起きやすいので、頑なに正当防衛を訴える人もいますが、その主張は難しいのが実情です。 正当防衛が認められるためには成立要件を満たす必要があります。詳しくは『正当防衛が成立する要件や過剰防衛との違いを解説!どこまで正当防衛?』の記事をご覧ください。
暴行 | 傷害 | |
---|---|---|
被害者の怪我 | なし | あり |
刑罰 | 懲役/罰金/拘留/科料 | 懲役/罰金 |
傷害事件で逮捕されるまでの期間は?
傷害事件の逮捕までの期間は、法律上の規定は特になく、事件の内容や捜査の進行状況によって異なります。
被害者から被害届を受理した警察が捜査を行い、証拠が固まった段階で後日逮捕されるケースが多いですが、逮捕までの期間は明確に定まっているわけではありません。
警察から連絡がこないから大丈夫だろうと思っていると、傷害事件を起こしてから数か月後に逮捕される可能性もあります。
被害届が受理されているのか、捜査が開始されているのかについては、刑事事件の加害者側が把握することはできません。傷害事件の解決に向けてどのように動くべきか気になる方は、まず弁護士に相談してみてください。
殴る・蹴る以外で傷害罪になる可能性のある行為は?
傷害罪にあたりうる行為としては、殴る、蹴るなどの暴行をイメージする方が多いのではないでしょうか。しかし、傷害罪は、そのような暴力行為だけでなく、人の生理的機能に影響を与えれば成立します。相手が怪我した場合だけでなく、嘔吐や失神、PTSDを発症させた場合にも成立します。
例えば、次のような行為が傷害罪が成立しうるものです。
- 殴る蹴るなどの暴行を加えて怪我をさせる行為
- 髪の毛を承諾なく切る行為
- 自分が病気と知りつつわざと移して相手を罹患させる行為
- 大音量でテレビやラジオを流し続けて難聴にさせる行為
- 無言電話を鳴らし続けて精神状態を悪化させる行為
未成年・少年の傷害事件の場合の流れは?
未成年の傷害事件の流れは成人の事件と異なります。
14歳以上の未成年であれば「犯罪少年」として、成人と同様に逮捕勾留される場合があります。その後は全件家庭裁判所で審理されます。
14歳未満の場合は「触法少年」として刑事責任を問われません。逮捕・勾留されることもないですが、一定の重大事件や、家庭裁判所で審判を受けさせるべき場合は、家庭裁判所に送致されます(少年法6条の7)。
家庭裁判所の判断で少年審判が開かれると、保護観察や少年院送致などの処分が決定されます。重大事件では、検察に逆送されて刑事裁判にかけられる場合もあります。
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