福祉施設の職員が利用者との間で性的なトラブルを起こした場合、不同意わいせつ罪(刑法176条)や不同意性交等罪(刑法177条)に問われるリスクがあります。
2023年の刑法改正により、福祉施設の職員が利用者と性的接触を持った場合、「地位の利用」によって相手が断れない状態にあったと判断される可能性があります。たとえ合意していたつもりでも、利用者側が「断ったら不利益を受ける」と感じていた状態であれば、刑事事件に発展する可能性があります。
この記事では、福祉施設の職員が罪に問われる典型的なケースと警察介入前に取るべき初動対応、示談交渉による不起訴獲得の流れを弁護士が解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
福祉施設職員と利用者の性的トラブルの危険性
改正刑法で明文化された「地位の利用」の意味
2023年の刑法改正により、不同意わいせつ罪(刑法176条)・不同意性交等罪(刑法177条)が新設されました。
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪は、相手が「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」でわいせつ行為や性交等が行われた場合に成立します。
その原因となる行為・事由として共通の8類型が規定されており、その第8号(経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮)は、福祉施設職員と利用者の性的トラブルでも問題となり得る類型です。

たとえ行為者が「同意があった」と認識していても、「性的行為を断ったら不利益を受けるかもしれない」と相手が感じていた場合、同意がなかったものとして処罰される可能性があるのです。
不同意わいせつ罪に問われた場合の刑罰は6か月以上10年以下の拘禁刑、不同意性交等罪の刑罰は5年以上の有期拘禁刑です。
どちらも罰金刑は規定されていないため、刑事裁判が開かれ、直ちに刑務所に収容される実刑判決となるおそれもあります。
「大事にならずに解決できるだろう」と甘く考えるのは危険です。
福祉施設の職員と利用者の性的トラブルが問題化する構造
生活支援・判断支援が「断りにくさ」を生む構造
福祉施設の利用者は、食事・入浴・排泄・服薬管理など、日常生活の根幹を職員に依存しています。
このような関係のもとでは、たとえ職員が明確な暴行や脅迫を行わなくても、利用者の側に「拒否したら日常の支援を受けられなくなるかもしれない」という心理的な不安(不利益の憂慮)が生じやすくなります。
これが刑法上「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」と評価される可能性があるのです。
知的障害・精神障害のある利用者の場合はさらにリスクが高い
利用者に知的障害や精神障害がある場合、第8号の「地位の利用」に加えて、第2号「心身の障害があること」にも同時に該当し得ます。
つまり、複数の類型が重なることで、「同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態」がより認定されやすくなるのです。
また、知的障害のある方は、被害を言葉で説明したり第三者に訴えたりすることが難しい場合があります。そのため、性的虐待が長期間発覚しないリスクがあり、発覚の遅れが被害者の増加につながります。
結果として、発覚が遅れることで複数の被害が問題となる場合もあり、その場合は事案がより重く評価される可能性があります。
福祉施設でのわいせつ事件が発覚する経緯
(1)家族・同僚の気づきから施設への報告
多くのケースでは、利用者本人ではなく、周囲の人間が異変に気づくことから事件が発覚します。
具体的には、利用者の表情や態度の変化、身体のあざや傷、衣服の乱れなどに家族や同僚が気づき、施設の管理者に報告するという流れです。
(2)異変に気づいた施設内部の調査
異変に気づいた施設内部の調査で発覚することもあります。施設は、警察への通報・被害届の提出の前に、まず独自の内部調査を開始するケースが多くあります。
施設の種別によっては、障害者虐待防止法、高齢者虐待防止法、児童福祉関係法令などに基づく通報・届出対応が必要になる場合があります。そのため、内部調査の結果、不適切な行為が確認されれば、自治体の所管部署や警察への通報・相談に進むことがあります。
警察から連絡が来た/来そうなときの対応
相手が被害届を提出した場合、ある日突然、警察から電話がきたり、自宅に警察官が来たりします。この「初動」を間違えないことが、今後の刑事処分のカギを握ります。
任意出頭・事情聴取への対応
警察から「話を聞きたいから署に来てほしい」と言われた場合、それは任意出頭の要請です。突然のことで驚くかもしれませんが、その場ですべてを認めたり、感情的に否定したりするのは避けましょう。
「弁護士と相談してから日程を調整して折り返します」などと伝え、できる限り早めに弁護士に相談してください。準備なしに一人で出頭し、作成された供述調書にサインをしてしまうと、後から覆すことは極めて困難です。
警察署へ行く前に、必ず以下のポイントを整理し、弁護士のアドバイスを受けましょう。
| チェック項目 | 内容と注意点 |
|---|---|
| 事実関係の整理 | 「いつ」「どこで」「誰に」「何をしたか」を時系列でメモする。 |
| 就業規則の確認 | 万が一逮捕・起訴された場合、会社に報告義務があるか確認する。 |
| 示談の可能性 | 相手と示談交渉が可能か、弁護士に検討してもらう。 |
| 供述の方針 | 「認めるのか」「争うのか」の方針を弁護士と一致させる。 |
関連記事
・警察の事情聴取(取調べ)をどう乗り切る?不利にならない対応と今後の流れ
相手(相談者)への連絡・謝罪は避ける
「誤解を解きたい」「謝って済ませたい」と、相手に執拗に連絡するのは危険です。これが「口裏合わせ(証拠隠滅)の働きかけ」や「脅迫」とみなされ、逮捕の決定的な理由になることがあります。
被害届が出されている可能性がある場合、直接の接触は絶対に避けてください。
記憶が鮮明なうちに行うべきこと
弁護士への相談と並行して、以下の証拠を確保してください。
- 介助記録・ケアプラン
当日の支援内容、二人きりになった経緯、業務の必然性 - シフト表・勤務記録
自分の出勤状況、配置場所、勤務時間 - 支援日誌・日報
当日やその前後の利用者の様子、特記事項の有無 - メール・LINE等のやりとり
施設管理者や同僚との連絡履歴
「自分に不利かもしれない」と思うやり取りでも、独断で削除することは避けましょう。データの削除は「証拠隠滅」と疑われ、逮捕のリスクを高める原因になります。すべての判断は弁護士に仰いでください。
勤務先に発覚するタイミングと懲戒処分のリスク
福祉施設の職員が利用者との性的トラブルで、多くの方が恐れるのが「会社に知られること」と「懲戒解雇」です。警察が捜査を始めても、直ちに会社へ連絡が行くわけではありません。しかし、以下のタイミングで発覚するリスクがあります。
会社にバレるきっかけとなるもの
- 長期間の無断欠勤
- 実名報道
- 警察による会社への捜査
- 社内のハラスメント窓口への通報
社内調査と刑事手続きの並走に注意
社内のハラスメント調査と、警察の捜査は別物です。企業は独自の就業規則・事実認定に基づいて処分を判断するため、刑事で不起訴になれば、社内処分も防げるとは限りません。
ただし、刑事事件として「不起訴(嫌疑不十分など)」を獲得できれば、会社側に対して「法的には犯罪事実は認定されなかった」と主張する材料になります。
前科がつくと懲戒解雇になる?
労働者の懲戒処分について、法律に具体的な基準が定められているわけではありません。実際の処分は、各企業の就業規則に基づいて判断されます。
そのため、「前科がつく=即懲戒解雇」というわけではありません。
会社が従業員を懲戒解雇するには、通常、次のような事情が必要とされます。
- 当該行為により業務に著しい支障が生じたこと
- 企業の社会的信用を著しく失墜させたこと
つまり、単に有罪判決を受けたという事実だけで直ちに解雇が正当化されるわけではなく、企業活動への具体的影響が重要な判断要素となります。
対処法|不起訴を目指すためには?
被害者との示談が重要
性犯罪において、被害者との示談成立は、不起訴獲得に向けた最大のポイントです。ただし、本人が被害者に直接交渉を進めることは避けるべきです。直接接触は相手方に心理的負担を与えたり、捜査上問題視されたりするおそれがあります。
そのため、示談交渉は弁護士に依頼することが事実上必須となります。
福祉施設の事案では示談交渉が難航しやすい
福祉施設の利用者に対する性的トラブルは、一般的な事案よりも示談交渉が難航する傾向があります。その理由は以下のとおりです。
示談交渉が難航する理由
- 利用者が未成年や知的障害者である場合、本人との直接交渉ができず、保護者との交渉が必要になる
- 被害者家族は「施設を信頼して預けていたのに」という強い不信感・怒りを抱く
- 示談に応じることが「加害者を許すこと」と受け取られ、感情的に拒否されやすい
弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人として、被害者の心情に配慮しながら適切に交渉を進めます。示談では、示談金のほか、清算条項や守秘条項などを設けることにより、紛争の蒸し返しを防ぎ、解決内容を明確にすることができます。

刑事事件の示談の重要性に関してはこちらで詳しく解説しています。
宥恕をもらえば不起訴の可能性が高まる
刑事事件の示談交渉において、重要となるキーワードが「宥恕(ゆうじょ)」です。 法律用語で難しく聞こえますが、簡単に言えば「被害者からの許し」を意味します。
示談書の中に、宥恕条項として「被害者は加害者を許す」「処罰を望まない」といった一文が入っているかどうかが、その後の刑事処分を大きく左右することがあります。
宥恕条項つきの示談書が提出されることで、不起訴処分となる可能性が高まります。宥恕があることで、当事者間の問題は解決していることを検察官に示すことができ、検察官が「今回は起訴を見送ろう(起訴猶予)」と判断するための強力な材料になります。

示談不成立の場合の対応策
被害者側が示談に応じない場合でも、贖罪寄付(弁護士会などの公的な団体へ寄付を行う制度)や弁済供託(被害弁償金を法務局に供託する手続き)を行うことで、検察官に対して反省と誠意を示すことが可能です。
示談が成立しなかったとしても、贖罪寄付や弁済供託の事実は、刑事処分軽減の判断材料となり得ます。
福祉施設職員と利用者の性的トラブルに関するよくある質問
Q.福祉施設の職員が利用者とのわいせつ行為で逮捕される可能性はありますか?
福祉施設の職員が利用者とのわいせつ行為を疑われた場合、事案の内容や証拠関係によっては逮捕に至る可能性があります。
不同意わいせつ・性交等罪は重大犯罪に分類されており、被害届が提出された場合、通常逮捕(後日逮捕)される確率は高いといえます。
特に利用者に知的障害や精神障害がある場合、より重い事件として扱われる傾向があります。
Q.刑事事件で有罪になると介護福祉士や社会福祉士の資格はどうなりますか?
刑事事件で有罪判決を受けた場合、判決内容によっては、介護福祉士や社会福祉士の登録取消しや欠格事由の問題が生じる可能性があります。
特に、拘禁刑以上の刑に処せられた場合は、資格や登録への影響を慎重に確認する必要があります。
そのため、資格への影響を最小限に抑えるためにも、早期に弁護士へ相談し、刑事処分の見通しを踏まえた対応を検討することが重要です。
Q.施設のヒアリングで話した内容は刑事裁判で使われますか?
施設のヒアリングで話した内容は刑事裁判で証拠として使われる可能性があります。
施設が作成した調査報告書や聴取記録は、捜査機関が証拠として押収・提出を求めることがあり、裁判において不利な証拠として扱われるおそれがあります。
そのため、ヒアリングの前に弁護士に相談し、回答内容について助言を受けることが重要です。
福祉施設職員が利用者にわいせつをした裁判例
委託児童に対するわいせつ行為
委託児童に対するわいせつ行為が有罪とされた裁判例
千葉地判令6・6・19(令和6年(わ)79号・150号・206号)
福祉施設職員として児童相談所から委託を受けた被告人が、同居して監護する立場にあった13歳から17歳の女子委託児童3名に対し、保湿クリームを塗るなどと称して、胸部・臀部・陰部を直接手でなで回すわいせつ行為を行った事例。
裁判所の判断
「被告人と被害者の関係性に乗じて行われており、卑劣で悪質であり、本件以前から同種行為が繰り返されていたことも認められ、常習的な犯行の一端である。」
千葉地判令6・6・19(令和6年(わ)79号・150号・206号)
- 刑法179条1項(監護者わいせつ罪)に該当。
- 被害者3名はいずれも年齢的に未成熟で、監護者である被告人への依存関係から拒絶や被害申告が困難な立場にあったと認定。
- 本件以前から同種行為が繰り返されており、常習性が認められると認定。
最終的な刑罰
懲役2年2月(実刑)/未決勾留日数100日算入 (求刑:懲役4年)
まとめ
福祉施設職員と利用者との間で性的トラブルが生じた場合、刑法176条・177条の第8号(地位利用)の観点から、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪として厳しく判断される傾向にあります。
福祉施設職員が罪に問われてしまうと、刑事事件で実刑判決となる可能性はもちろん、勤務先の懲戒解雇、実名報道による社会的信用の喪失など、ダメージは回復困難なものとなります。
「同意だと思っていた」という主観だけでは、身を守ることはできません。警察が本格的に動き出す前に、弁護士を介して適切な弁護活動(示談交渉や証拠保全)を行うことが重要な対応の一つです。
アトム法律事務所では、プライバシーに配慮した対応実績が多数あります。まずは弁護士に相談し、今後の見通しを確認してください。
アトムは24時間365日相談予約受付中
アトム法律事務所は、弁護士相談の予約を24時間365日受け付けています。性的トラブルで不安を抱えている方は、まずは予約受付窓口までご連絡ください。警察が介入している事件については、初回30分無料で弁護士相談が可能です。
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