2023年(令和5年)7月13日、性犯罪の規定を見直す改正刑法が施行され、不同意性交等罪が新設されました。
不同意性交等罪とは、被害者が「同意しない意思を形成、表明、全う」することが難しい状態で性交等を行う罪のことです。
分かりやすく言い換えると、被害者が同意できない状態、拒否できない状態で性交等を行う犯罪ということになります。
不同意性交等罪の刑期は5年~20年であるため、比較的重い刑事事件といえるでしょう。
この記事では、不同意性交等罪の定義や構成要件、改正前の強制性交等罪との違いなどについて解説します。
不同意性交等罪の具体例なども紹介していますので、実際にトラブルになっている方や今後トラブルになったらどうすればいいのか不安な方は参考にしてみてください。
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不同意性交等罪とは?
不同意性交等罪の「不同意」とは?
被害者が、性交等について「同意しない意思を形成、表明、全う」することが難しい状態で性交等を行う罪が、不同意性交等罪です(刑法177条)。
被害者が性交等について相手に嫌だと言えない状態や、被害者が抵抗できない状態などに乗じて性交等を行うと、不同意性交等罪に問われる可能性が高くなるでしょう。
「同意しない意思を形成、表明、全う」することが難しい状態にさせる手段は、刑法176条に具体例が記載されています。
代表的なケースとしては、暴行・脅迫を用いて性交等を行う場合や、睡眠時やアルコールの影響で相手の意識がない状態で性交等を行う場合などが挙げられます。
不同意性交等罪の「性交等」とは?
不同意性交等罪の「性交等」とは、性交や肛門性交、口腔性交を指しています。
膣や肛門に陰茎以外の体の一部を挿入する行為も、不同意性交等罪の「性交等」に含まれます。
性交等とは
- 膣への陰茎の挿入
- 肛門への陰茎の挿入
- 口腔への陰茎の挿入
- 膣や肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為であってわいせつなもの
不同意性交等罪の構成要件
不同意性交等罪の構成要件は、次の3つに分類されます。
- 「同意しない意思を形成し、表明し、若しくは全うすることが困難な状態」のもとで、性交等を行う(刑法177条1項)
- 「わいせつな行為ではないと誤信させたり、人違いをさせること又は相手方がそのような誤信をしていること」に乗じて性交等を行う(刑法177条2項)
- 「相手が16歳未満」もしくは「相手が13歳以上16歳未満で、行為者が5歳以上年長である」場合に性交等を行う(刑法177条3項)
相手が同意できない状況もしくは同意する能力がない状況において性交等をすると、不同意性交等罪が成立する可能性が高いです。なお、16歳未満の相手との性交等は、たとえ同意があっても、不同意性交等罪が成立します。
刑法177条1項に規定されている「同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態」については、以下の手段・状態を用いることが例示されています(刑法176条)。
- 暴行・脅迫
- 心身の障害
- アルコール・薬物の摂取
- 睡眠・意識不明瞭
- 拒絶するいとまを与えない
- 恐怖・驚愕させる
- 虐待
- 立場による影響力
①暴行・脅迫を用いた性交等
暴行とは、人の身体に向けられた不法な有形力の行使のことです。具体的には殴る・蹴る・体を押さえつけるなどの行為が暴行にあたります。
脅迫とは、人を畏怖させるような害悪の告知のことです。具体的には「動いたら包丁で刺して殺すぞ」「抵抗すれば裸体の写真をばらまくぞ」などと脅す行為が脅迫にあたります。
暴行・脅迫を用いた性交等は、旧法では強制性交等罪に該当します。
②心身の障害を用いた性交等
心身の障害とは、身体傷害、知的傷害、発達障害、精神障害などを指し、一時的なものも含まれます。
相手が障害を持っている場合、性交等に同意する能力がないと判断されるため、不同意性交等罪に問われるのです。
旧法では、準強制性交等罪になる犯罪類型です。
③アルコール・薬物の影響を用いた性交等
飲酒や、薬物の投与・服用によって酩酊状態にある場合も、性交等に同意するかしないかの意思表示ができません。そのため、このような状態を利用して性交等を強行すると不同意性交等罪に問われます。
旧法では、準強制性交等罪になる犯罪類型です。
④睡眠その他の意識不明瞭を用いた性交等
意識が不明瞭な相手もまた、性交等に同意することはできないでしょう。そのためこのケースも不同意性交等罪に問われます。
旧法では、準強制性交等罪になる犯罪類型です。
⑤同意しない意思の形成・表明・全うするいとまがない状態
性的行為がされようとしていることに気付いてから、性的行為がされるまでの間に、その性的行為について自由な意思決定をするための時間のゆとりがないことをいいます。
例えば、相手の気を逸らしたり、他のことに集中したりしている時に、不意打ちで性交等を行うケースなどが該当します。
⑥予想と異なる事態に直面させて恐怖・驚愕させた性交等
性行為を持ち掛けられた状況などが予想と異なり、同意しない意思を表明できない被害者と性交等を行う場合などです。
突然のことで体が固まってしまい(いわゆるフリーズの状態)、明確に性行為を拒否できない場合などで問題になる類型です。
⑦虐待に起因する心理的反応を用いた性交等
身体的虐待や性的虐待、他者への暴行を見せるなどの心理的虐待を用いて、性交等を行う場合などです。
虐待を受ける状況が通常の出来事だとして受け入れていて、抵抗をしても無駄だと考える心理状態に付け込み、あるいは恐怖心を利用して性交等におよぶ場合が処罰対象となります。
性的虐待がどういったものか詳しく知りたい方は『性的虐待の弁護士相談|刑事事件のアトム法律事務所』の記事をご覧ください。
⑧「経済的な関係」・「社会的関係」にもとづく「不利益の憂慮」を利用した性交等
経済的な関係(金銭その他の財産に関する関係)や、社会的関係(上司と部下、家庭・家族など)にもとづく影響力によって、不利益を受けることを気にして、性行為に抵抗できない場合も、不同意性交等罪の処罰対象となります。
不同意性交等罪の刑罰
不同意性交等罪の刑罰は拘禁刑のみ
不同意性交等罪の法定刑は、5年以上の有期拘禁刑です。
改正前の強制性交等罪の法定刑は、5年以上の有期懲役です。
不同意性交等罪と強制性交等罪の刑罰を比べてみると、刑の上限に変更はありません。
罪名 | 刑罰 |
---|---|
(新法)不同意性交等罪 | 5年以上の有期拘禁刑 |
(旧法)強制性交等罪 | 5年以上の有期懲役刑 |
拘禁刑とは
拘禁刑とは、2025年に施行される見込みの改正刑法により新設される、新たな刑の種類です。自由刑の中の「懲役」と「禁錮」を一本化して新たに創設されることが決まりました。
拘禁刑の詳細については『拘禁刑とは?拘禁刑の内容、創設の理由を解説』をご覧ください。
不同意性交等罪は未遂も処罰対象?
不同意性交等罪は、未遂罪も処罰されます。
性交等を成し遂げなかったとしても、相手をおさえつける等の行為にでた時点で、不同意性交等罪の未遂罪が成立するでしょう。
関連記事
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・不同意わいせつ(旧強制わいせつ)の不起訴獲得のポイントは?裁判を回避した実例は?
不同意性交等罪と強制性交等罪の違い
不同意性交等罪の新設による変更点は、次の3点が主なポイントになります。
不同意性交等罪の改正ポイント
- 構成要件の拡大・明確化
- 性交同意年齢の引き上げ
- 時効の延長
構成要件の拡大・明確化
不同意性交等罪は、強制性交等罪に比べて成立要件が拡大されています。また、どのような手段を用いると構成要件を満たすのかが明確にされました。
不同意性交等罪が成立する要件は「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」における性交等です。
強制性交等罪 | 不同意性交等罪 | |
---|---|---|
構成要件 | 暴行・脅迫を用いた性交等 | 同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態における性交等 |
手段 | 暴行・脅迫のみ | ①暴行・脅迫 ②心身の障害 ③アルコール・薬物の摂取 ④睡眠・意識不明瞭 ⑤拒絶するいとまを与えない ⑥恐怖・驚愕させる ⑦虐待 ⑧立場による影響力 |
不同意性交等罪の構成要件は、改正前の強制性交等罪と準強制性交等罪の構成要件が統合されたものといえます。
準強制性交等罪とは、相手の「心神喪失と抗拒不能」に乗じて性交等を行う犯罪で、睡眠時や酩酊時などにおける性交等が典型例でした。
不同意性交等罪に改正されたことにより、強制性交等罪の「暴行・脅迫」要件と「心神喪失と抗拒不能」が組み合わさり、要件を満たすための手段が明確化されたといえます。
強制性交等罪の内容について詳しく知りたい方は『強制性交・レイプ(強姦)の弁護士相談|逮捕・不起訴・示談でお悩みの方へ』をご覧ください。
時効の延長
不同意性交等罪の公訴時効は15年です(刑事訴訟法250条3項2号)。今回の刑法改正に併せて刑事訴訟法も改正され、性犯罪関連の時効が延長されました。
刑事訴訟法が改正される前の強制性交等罪の公訴時効は10年でしたので、改正法により5年延長されたことになります。
性交等の結果、被害者を負傷させた不同意性交等致傷罪の時効も、15年から20年に延長されています。
なお、犯罪行為終了時点で被害者が18歳未満の場合には、被害者が18歳になるまでの期間が時効期間に加算されます。
強制性交等罪(改正前) | 不同意性交等罪(改正後) | |
---|---|---|
通常 | 10年 | 15年 |
致傷罪 | 15年 | 20年 |
致死罪 | 30年 | 30年 |
性交同意年齢の引き上げ
今回の刑法改正で、これまで13歳と定められていた性交同意年齢が16歳に引き上げられました。
これにより、たとえ互いに同意していたとしても、中学生以下の子供との性交は原則処罰されることになります。
なお、13歳以上16歳未満の人との性交等は、5歳以上の年長者が処罰対象となります。
この5歳差要件は、年齢差が大きくなれば絶対に対等な関係はあり得ないという心理学的・精神医学的知見から参考に規定された要件です。
年齢差が5歳未満・同級生でも不同意性交等罪は成立する?
性交等の相手が13歳以上16歳未満だとしても、年齢差が5歳未満であれば不同意性交等罪にはなりません。交際している同級生同士や年齢差の少ない者同士の性交等は、処罰対象から除外されています。
もっとも、年齢差が5歳未満の場合に処罰対象にならないのは不同意性交等罪のみという点に注意が必要です。
例えば20歳と16歳の者同士が同意の上で性交等を行った場合、年齢差が4歳になるので不同意性交等罪には該当しません。しかし、18歳未満の者とのみだらな行為を取り締まる、各自治体の青少年育成保護条例(淫行条例)には該当する可能性があります。
もちろん、同級生同士などであっても、不同意性交等罪の構成要件に該当すれば、罪に問われる可能性が出てきます。未成年同士の性交等で不同意性交等罪に該当するケースについて詳しくは『未成年同士の性行為で不同意性交等罪になる?』の記事をご覧ください。
少年事件として不同意性交等が問題になった場合はとくに、ご両親が主導して刑事事件に強い弁護士を見つけて、早期の被害者対応をおこなうことが重要です。
不同意性交等罪の具体的なケース
同意があると思っていたら後になって不同意だと言われた
性交等の時点で明確に拒否されなかったため、互いに同意があると思ってしまうケースです。後日になって不同意だったと訴えられる、不同意性交等罪の典型例といえます。
不同意性交等罪で訴えられてしまう方は、「食事をして良い雰囲気になったうえで性交したので同意していたはず」「ホテルや自宅に誘ったら来てくれて性交したので同意していたはず」とお考えの方が多いです。
しかし、相手が同意していたのだから自分は悪くないと判断するのは危険です。どこまでが同意ありの性交で、どこからが不同意性交になるのかは専門家でなければ難しいでしょう。
性犯罪では被害者の主張が聞き入られやすい傾向があるため、警察対応や被害者対応を放置していると、刑事処分が重くなる可能性があります。
性交等に同意していた証拠があれば罪に問われない?
不同意性交トラブルで容疑をかけられている場合、相手が同意していたと示すためには証拠が必要になります。第三者の証言や防犯カメラの映像から、不同意とはいえないと判断してもらわなければなりません。
性行為の前に同意書にサインしてもらったり、ボイスレコーダーで同意している音声を録音したりできれば、性交等に同意していた証拠にはなりますが、あまり現実的ではないでしょう。
被害者から訴えられた後、どのように行動すればいいのか不安な方はまず弁護士に相談してみてください。
18歳以上だと思っていたら相手が16歳未満だった
不同意性交等罪は、相手が16歳未満であれば同意の上の性交等であっても処罰対象となります。
性交等の前に年齢確認をしていたとしても、被害者が正直に答えなかったケースもありえます。しかし、このような場合でも、外見や口ぶりなどから被害者が16歳未満と認識できる可能性が高かったと判断されれば、不同意性交等罪に問われる可能性があります。
なお、相手が16歳~17歳であれば不同意性交等罪は成立しませんが、各自治体の条例違反に該当する可能性があるでしょう。
風俗店で本番行為をしてしまって不同意だと言われた
風俗トラブルの代表例である本番行為は、警察沙汰になると不同意性交等罪で立件される可能性があります。
多くのケースでは風俗店・風俗嬢と示談を成立させることでトラブル解決になりますが、被害者の処罰感情が強ければ被害届が出されてしまうかもしれません。
しかし、風俗業という業種の性質上、トラブルが起きたとしても、警察が本格的に捜査するケースは少ないです。警察を呼んでも、当事者同士で話し合うように言われるだけの場合もあります。
請求された慰謝料を払わないでいると、家族や職場に連絡してくる風俗店もあるので、穏便に解決したいのであれば示談を成立させるのが最適です。
アトム法律事務所では、風俗店での本番行為や盗撮などをしてしまったトラブルについても無料相談を実施しています。「違反金の金額が適切なのか」「風俗店と示談してほしい」どの希望があれば、まずはお気軽にご連絡ください。
不同意性交等罪に関するその他の質問
不同意性交等罪はなぜ新たに成立した?
不同意性交等罪は、改正前の強制性交等罪では処罰できないケースにも対応するために創設されました。
性交等の際に暴行・脅迫(により著しく抵抗が困難であることの立証)がないと、罪が成立しない点が、強制性交等罪の問題点でした。
被害者が自身の立場が危うくなることを恐れて性交等を断れなくても、暴行や脅迫がなければ強制性交等罪には該当しない事案が多かったのです。
しかし、現実には上司が権力を悪用して、暴力などを加えずとも部下を性的関係に追い込むようなケースが多数実在することが被害者団体などから指摘されていました。
そこで、このたび不同意性交等罪が新たに設けられることになったのです。
不同意性交等罪の処罰規定はいつから適用?
改正刑法は、2023年6月23日に公布されました。施行日は2023年7月13日となります。
これにより2023年(令和5年)7月13日以降の事件については基本的には、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が適用されて処罰されることとなります。
なお膣・肛門への陰茎以外の挿入については、2023年7月12日以前は強制わいせつ罪で処罰されていました。しかし、改正刑法の施行後は「性交等」に該当するものとして、より重い犯罪である不同意性交等罪(旧強制性交等罪に相当)で処罰されるようになります。
2023.7.12 以前 | 2023.7.13 以後 | |
---|---|---|
性交・肛門性交・口腔性交 | 強制性交等罪 | 不同意性交等罪 |
膣・肛門への陰茎以外の挿入 | 強制わいせつ罪 | 不同意性交等罪 |
胸やお尻を触る・キス・自分の陰部を相手に触らせるなど | 強制わいせつ罪 | 不同意わいせつ罪 |
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不同意性交等罪の問題点は?
不同意性交等罪の問題点は、性交等をした時点で同意があったと思っていた場合でも、後から被害者が「本当は同意していなかった」と申告することで、加害者として罪に問われる可能性があることです。
密室での性交等に同意があったことを証明するのは困難です。
被害者が後になって虚偽申告をした場合でも、強制性交等罪であれば、暴行や脅迫があったかどうかが判断基準なので、冤罪のリスクは低いと考えられます。
しかし、不同意性交等罪では、被害者が抵抗できる状況だったかどうかが判断基準になるため、従前の規定よりも罪が成立する可能性が高くなるのです。
上司と部下の例でいえば、上司の誘いを断れば自分の立場が危険になると部下が心配になり、抵抗できないような状況だったと認められれば、上司は加害者として処罰される可能性があります。
被害者の一方的な供述で罪に問われるのではないかという気持ちになるかもしれませんが、同意があったかどうかは被害者の供述のみで判断されるものではなく、供述を裏付ける客観的な証拠に基づいて判断されます。詳しくは『不同意性交等罪の「言ったもん勝ち」は誤解?悪法だといわれる理由』の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。
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不同意性交等罪(旧強制性交等罪)のトラブルを自分が起こしてしまったり、大切な家族が突然逮捕されたりしたとき、今後のどうなってしまうのか、今どう対応するべきか不安になるものです。
しかし、そうしている間にも刑事手続は進行し、時間が経てば示談の難易度もあがります。
そのため、事件後すぐに不同意性交等事件(旧強制性交等事件)に強い弁護士に相談することが、刑事処分を軽減することにつながる可能性があります。
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