国選弁護人とは、被疑者・被告人に弁護士を依頼する資力がないときに、国の費用で選任してもらえる弁護人のことです。
国選弁護人は、被疑者でも被告人でもつけることができます。資力要件を満たし、審査を通れば、国に弁護士をつけてもらうことができるのです。
この記事では、国選弁護人、私選弁護人、そして当番弁護士制度についても解説しています。
刑事事件で弁護士をつけるときには、国選弁護人は重要な選択の一つです。私選弁護人との違いを正しく理解し、いざというときどちらを選ぶか判断の参考にしていただければと思います。
刑事事件の手続で、自分がどの段階にあるかによって選択は変わってきます。それぞれの特徴をおさえて、納得のいく弁護士選任をしていきましょう。
目次
国選弁護人とは?選任の条件、費用、流れ
国選弁護人制度とは?
国選弁護人制度は、資力が乏しく自分で弁護士を選任することができない人を救済するために設けられた弁護士選任制度です。
日本国憲法37条3項では、刑事被告人はどんな場合でも弁護士に依頼することができると定められています。
刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
憲法37条3項
これを元に、刑事訴訟法では国選弁護人制度が具体的に定められています。
国選弁護人に依頼できる条件とは?
国選弁護人に依頼できる条件は、起訴前と起訴後とで変わります。
起訴というのは、刑事事件において検察官が裁判の開廷を決定する手続きのことで、事件が起訴されると原則として裁判が行われ、有罪・無罪の判決が行われることになります。
起訴前(捜査段階)のときに国選弁護人に依頼する条件
起訴前の段階で国選弁護人に依頼することを被疑者国選と言います。
被疑者国選は、以下の条件をいずれも満たすときに依頼できます。
被疑者国選の条件
- 資力が50万円を下回っている
- 勾留状が発せられている
条件の1つ目は資力要件です。現金や預金などの流動性のある資産の合計金額が50万円を下回っている必要があります。
もっともこの資力要件を満たしていなくても、次の2つ目の条件を満たしかつ私選弁護人が選任できないような場合には国選弁護人が選任されるのが実務上の運用です。
条件の2つ目は勾留状が発せられていることです。勾留とは逃亡や証拠隠滅のおそれのある被疑者を留置場などに留めておく処分です。
「そもそも在宅事件として捜査を受けている」「逮捕後に在宅事件に切り替わり勾留されなかった」と言った場合、被疑者の段階で国選弁護人に依頼することはできません。
起訴前 | 起訴後 | |
---|---|---|
名称 | 被疑者国選 | 被告人国選 |
資力 | 50万円未満 | 50万円未満 |
身柄 | 勾留状が発せられている | 起訴されている |
起訴後に国選弁護人に依頼する条件
起訴後の段階で国選弁護人に依頼することを被告人国選と言います。
被告人国選は、自分で国選弁護人に依頼する場合、裁判所が強制的に国選弁護人を選定する場合の2つのパターンがあります。
まず、自分で国選弁護人に依頼する場合は、以下のどちからの条件を満たす必要があります。
国選弁護人を自分で依頼する場合の条件
- 資力が50万円を下回る
- 資力が50万円以上だが私選弁護人が選任されていない
まず資力が50万円を下回っている場合には、起訴後すぐに誰でも国選弁護人に依頼することができます。
資力が50万円を上回っていたとしても、私選弁護人が選任されていない場合には国選弁護人に依頼することができます。
この場合、事件を管轄する裁判所の所在地を管轄する弁護士会に私選弁護人の選任を申し出ていなければなりません。
続いて裁判所が国選弁護人を選任するのは以下のいずれかを満たす場合です。
国選弁護人を裁判所が選ぶ場合
- 必要的弁護事件で、弁護人がいないか不出頭の場合
- 被告人が「未成年者」「70歳以上」など特定の条件を満たす場合
- その他裁判所が必要と認めた場合
※条件2は「未成年者」「70歳以上」「耳が聞こえない」「口がきけない」「心神喪失者または心神耗弱者の疑いがある」のいずれか
条件1の必要的弁護事件とは、「死刑または無期もしくは長期3年を超える懲役・禁錮刑にあたる事件」のことです。
必要的弁護事件に該当する殺人や強盗などは重大犯罪であるため、弁護人が選任されている状態でなければ裁判を開廷することができないとされています。
必要的弁護事件に該当する事件で被告になった場合かつ私選弁護人を選任していない場合は、資力に関わらず裁判所が強制的に弁護士を選任します。
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国選弁護人の費用は?
国選弁護人を選任しても、弁護士費用は発生しません。国選弁護人の報酬は、法テラス(日本司法支援センター)から支払われます。
例外的に、弁護士費用を支払うことができる資力が実際にあると判明した場合には、法テラスから国選弁護人の費用が請求されることがあります。
また、裁判終結後に資力があると判断された場合には、裁判所から訴訟費用の負担を命じられる可能性があります。国選弁護人の費用は、この訴訟費用の中に含まれます。
刑の言渡をしたときは、被告人に訴訟費用の全部又は一部を負担させなければならない。但し、被告人が貧困のため訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるときは、この限りでない。
刑事訴訟法181条1項
被告人の責に帰すべき事由によつて生じた費用は、刑の言渡をしない場合にも、被告人にこれを負担させることができる。
刑事訴訟法181条2項
上記の規定は原則として、事件終了後の資力が十分にある場合に適用されます。
私選弁護士を委任する資力がなく国選弁護人を利用していたようなケースで、訴訟費用の負担が命じられることは一般的にはありません。
国選弁護人に依頼する流れとは?
国選弁護人に依頼する場合、刑事手続き上どの段階にいるかで依頼の流れが変わってきます。刑事手続きについては『刑事事件の流れ【弁護士監修】』の記事が参考になりますので、あわせてご確認ください。
国選弁護人は、起訴前の被疑者段階で依頼する「被疑者国選」と、起訴後の被告人段階で依頼する「被告人国選」の二つにわかれます。それぞれどのような流れで依頼することになるのかみていきましょう。
被疑者国選の場合
起訴前の捜査段階で国選弁護人に依頼する場合、被疑者は勾留されています。
勾留中、警察官に国選弁護人を選任したい旨を告げると、 資力申告書などの必要書類を受けとれます。
裁判所は書類をもとに国選弁護人をつけるための要件を満たしているかを審査し、要件を満たしていれば、法テラスに弁護士の人選を求めます。その後、裁判所が国選弁護人を選任します。
被告人国選の場合
起訴され、被告人という立場になると、被告人国選を利用することができます。
資力などの要件を充足しているか審査されるのは、被疑者国選の時と同様です。被告人国選では、身体拘束を受けていない状態でも希望を出すことができます。
まだ弁護士をつけていない場合、在宅起訴されると起訴状が裁判所から被告人宅に送付されます。そのとき、国選弁護人の選任を希望するかアンケート用紙も同封されていますので、希望者はそれに記入して裁判所に提出することになります。
裁判所が被告人から国選弁護人選任の希望を受け取ったあとの流れは、被疑者国選と同じです。法テラスの人選に基づいて、裁判所が弁護士を選びます。
当番弁護士制度とは?
国選弁護人と似たものとして「当番弁護士」という言葉を聞いたことがある人がいるかもしれません。
当番弁護士制度とは、逮捕された人に、弁護士が1回無料で面会する制度のことを言います。
弁護士との初回の接見(面会)によって、法的なアドバイスを受け、警察の取り調べに適切な対応をとることができるようになります。
一方で国選弁護人と違い、あくまで弁護士が一回だけ面会に来るという制度なので、その後も継続して弁護活動を受けられるわけではありません。
当番弁護士 | 国選弁護人 | |
---|---|---|
費用 | 無料 | 無料 |
呼べる条件 | 逮捕された人なら誰でも | 資力要件など複数の条件あり |
呼べるタイミング | 逮捕後 | 勾留決定後、もしくは起訴後 |
活動内容 | 1回だけ接見(面会)をする | 弁護活動を継続して行う |
なお接見にきた当番弁護士にそのまま私選弁護人として弁護活動を依頼することもできます。
また勾留後に当番弁護士を呼んだ場合で、かつ各種の条件を満たしている場合には国選弁護人として依頼をお願いできる場合もあります。
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国選弁護人のメリット・デメリット|私選弁護人との違い
国選弁護人のメリット
- 費用がかからない
- 基本的には私選弁護人と同じく必要な弁護活動を真摯に行ってくれる
国選弁護人の最大のメリットは費用がかからないことです。
資力のない人に向けた制度である関係上、弁護活動がどれだけ長期間に及ぼうと、また裁判がどれだけ難しいものになろうと原則として弁護士費用が発生することはありません。
国選弁護人への報酬は法テラスから行われます。
また費用が無料だからと言って弁護活動に差が生じるということも原則としてはありません。
国選弁護人も通常の私選弁護人と同じく、依頼者の状況を法律の専門家の観点から客観的に把握し、警察や検察、裁判所に対して必要な手続きを代行し、依頼者の希望に沿いながら事件解決に向けて活動してくれます。
国選弁護人のデメリット
- 依頼できるタイミングが限られる
- 弁護士を選ぶことができない
国選弁護人のデメリットは、依頼できるタイミングが被疑者国選では勾留後、被告人国選では起訴後になるという点です。
刑事事件は時間との勝負という面があります。早期に弁護士に依頼することができれば、身体拘束を回避したり不起訴処分の獲得により有罪判決を受けずに済んだりする可能性が高まります。
国選弁護人では依頼タイミングの関係で、身体拘束の回避、不起訴処分の獲得という点で私選弁護人に比べ不利になります。
また弁護士を選ぶことができないという点も大きなデメリットになります。
国選弁護人は弁護士会から自動的に派遣された人にしか依頼できず、また弁護人の変更も原則としては不可能です。
つまり、刑事事件に精通していない弁護士が選任されてしまったり、場合によっては相性の悪い弁護士が選任されてしまう可能性もゼロではないのです。
「国選弁護人は報酬が少ないからやる気がない」ってホント?
「国選弁護人は報酬が少ないのでやる気がない」と聞いたことがあるのではないでしょうか。
国選弁護人の報酬が少ないというのは事実です。
国選弁護人の報酬は法テラスが定めていますが、報酬金として貰えるのは10万円~20万円程度です。事件の内容にもよりますが、これは私選弁護人の着手金にも満たない水準の金額です。
この点、国選弁護人はどうしても積極的な弁護活動をしにくい状況にあり、サービスの質で劣るという面もあるかもしれません。
しかし、弁護士の職責や職務を定めた法律に弁護士法というものがあります。
第一条 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。
弁護士法 1条
弁護士は弁護士法を遵守しなくてはならないですし、不誠実な行為ばかりしていると弁護士会から処分が下される場合もあります。
この点、国選弁護人も弁護士なので、基本的にはきちんと誠実に職責を果たしてくれると考えてよいでしょう。
私選弁護人のメリット
- 要件を満たしておらず国選弁護人を選任できない
- 身体拘束を回避してほしい、不起訴処分を獲得したい
- 刑事事件に精通している人に依頼したい
このような方は私選弁護人に依頼したほうがよいでしょう。
私選弁護人は弁護士費用が発生しますが、弁護士を自由に選ぶことができ、事件の早期から弁護活動をしてもらうことができます。
私選弁護士と国選弁護士では、弁護士資格をもった弁護士が刑事弁護にあたってくれるという点では共通しています。
しかし、国選弁護士は必ずしも刑事事件に精通した専門家が派遣されるわけではなく、弁護活動の成果に不満が残ってしまう可能性もゼロではないのです。
私選弁護士は積極的な弁護活動を展開してくれることが期待できます。
逮捕されてしまうかもしれないという状況から逮捕を回避したり、在宅事件の被疑者の段階で起訴を回避したりといった活動は私選弁護人にしかできません。
また自分で弁護士を選ぶことができるという点が、私選弁護士と国選弁護士の大きな違いです。納得のいく結果を得るという点で、弁護士を自由に選択することができるという点はとても重要です。
国選弁護人 | 私選弁護人 | |
---|---|---|
メリット | 原則無料 | 自分で弁護士を選べる |
デメリット | 自分で弁護士を選べない | 費用が掛かる |
国選弁護人から私選弁護人に切り替える方法
国選弁護人にやる気が感じられない!私選弁護人に切り替えられる?
この記事をお読みの方の中には、今まさにご自身やご家族が国選弁護人に依頼しており、その活動内容に不安を持っているという方もいるかもしれません。
国選弁護人のはたらきに不安・不満をお持ちの場合には、私選弁護人への切り替えをおすすめします。
国選弁護人を解約できる条件というのは刑事訴訟法という法律で定められています。
第三十八条の三 裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、裁判所若しくは裁判長又は裁判官が付した弁護人を解任することができる。
一 第三十条の規定により弁護人が選任されたことその他の事由により弁護人を付する必要がなくなつたとき。
二 被告人と弁護人との利益が相反する状況にあり弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき。
三 心身の故障その他の事由により、弁護人が職務を行うことができず、又は職務を行うことが困難となつたとき。
四 弁護人がその任務に著しく反したことによりその職務を継続させることが相当でないとき。
五 弁護人に対する暴行、脅迫その他の被告人の責めに帰すべき事由により弁護人にその職務を継続させることが相当でないとき。
刑事訴訟法 38条の3
一号に書かれている通り、国選弁護人を依頼している人が新しく私選弁護人を選任したら、それまで弁護活動を行っていた国選弁護人は解任されます。
国選弁護人から私選弁護人への切り替えは法律で定められている通りなんら問題のない行為ですので、もし切り替えたいと思っている方は躊躇わずに切り替えの手続きをはじめてください。
国選弁護人から私選弁護人に切り替える方法とは?
国選弁護人から私選弁護人へ切り替えたい人は、まず私選弁護人を選任するところから始めましょう。
私選弁護人が選任されれば国選弁護人は自動的に解任されます。引継ぎの作業なども選任された私選弁護人が行います。
勾留中の場合、ご家族を経由して私選弁護人を選任するとよいでしょう。
被告人国選など、現在拘束を受けていない場合には、ご自身で私選弁護人を探して依頼すれば国選から私選への切り替えができます。
国選弁護人から私選弁護人に切り替えるための具体的な方法については『国選弁護人を解任したい…解任方法と私選弁護人への切り替え手続き』の記事でも解説していますので、ぜひ、あわせてご確認ください。
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