
ストーカーは本人に犯罪行為をしている自覚がないこともあれば、警察などから「警告」や接近等の「禁止命令」を受けてもやめられないというケースもあります。いずれにせよエスカレートしてしまえば、重大犯罪につながるおそれもあり、厳しい処分が予想されます。
ストーカーは、逮捕・勾留による長期間の身体拘束や、裁判で懲役刑を求刑される可能性の高い犯罪です。
ストーカーで逮捕されたら、すぐに弁護士に相談する必要があります。できるだけ早く被害者と示談をし、不起訴獲得に向けて動くことが大切です。ストーカー事案では、被害感情が極めて大きいため、弁護士のサポートがなければ適切な被害者対応はほとんど不可能です。真摯な被害者対応(示談交渉)は、事件の早期解決につながります。
ストーカー規制法違反に詳しい弁護士に相談し、警察対応や被害者対応について、正しい知識と理解を得ることからはじめていきましょう。

※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は有料となります。
目次
ストーカーで逮捕されるのはどんな行為?
見張りや待ち伏せなどのつきまとい行為を反復して行う「ストーカー行為」が主に逮捕される行為となります。公安委員会からの禁止命令を無視してつきまとい行為を行う「禁止命令違反」も処罰対象となる行為です。
ストーカー行為は、「ストーカー規制法」(「ストーカー行為等の規制等に関する法律」)により規制されています。
もっとも、暴行・脅迫・名誉毀損といった個別の様々な犯罪に該当する場合は、それらによっても処罰されることになります。
ここではストーカー規制法を中心に解説します。
ストーカー規制法違反で規制される行為
ストーカー規制法で規制される行為は「ストーカー行為」と「つきまとい等」の行為です。
- ストーカー行為
つきまとい等の行為を反復してすること - つきまとい等
恋愛・好意の感情や、それが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で以下の行為をすること
つきまとい等
- つきまとい、待ち伏せ、立ちふさがり、住居等の付近での見張り、押し掛け、はいかい
- 行動を監視していると思わせる事項の告知
- 面会・交際等の要求
- 著しく粗野又は乱暴な言動
- 無言電話・連続した電話・文書送付・ファックス・電子メールの送信
- 汚物や動物の死体等、不快・嫌悪の情を催させる物の送付
- 名誉を害する事項の告知
- 性的羞恥心を害する事項の告知、文書・図画の送付
直接的な接触以外にも、SNS等のネット上での執拗な嫌がらせもつきまとい行為に該当するため注意が必要です。
一方、上記の行為であっても、職場や隣人トラブル・単なる怨恨など、恋愛・好意の感情に起因しない動機の場合は、ストーカー規制法の規制対象にはなりません。
ストーカー規制法の「警告」「禁止命令」とは?
警告 | 禁止命令 | |
---|---|---|
どこが出すのか | 警察 | 公安委員会 |
何に出すのか | つきまとい行為 | 悪質なストーカー行為 |
違反への罰則 | なし | あり |
有効期間 | なし | 1年間(1年単位で延長可能) |
つきまとい等の行為をしている者に対し、警察は「警告」を出すことができます(4条)。「警告」に違反したとしても罰則はありません。
悪質なストーカー事案に対しては、都道府県公安員会が「禁止命令」を出すことができます(5条)。「禁止命令」に違反した場合は罰則があります。
ストーカー事案では、加害者にとって「悪いことをしている」という認識がないこともしばしばあるため、まずは自覚と注意を促すものが警告の目的です。
禁止命令は、ストーカー被害者の申出や職権によって出されます。禁止命令の有効期間は1年間ですが、必要に応じて1年単位での延長が可能です。
ストーカー規制法違反の刑罰
ストーカー行為や、禁止命令の違反に対しては刑罰が定められています。
対象 | 法定刑 |
---|---|
ストーカー行為をした者 | 1年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
禁止命令に違反してストーカー行為をした者 | 2年以下の懲役又は200万円以下の罰金 |
禁止命令に違反した者 | 6か月以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
つきまとい等の行為はそれだけでは処罰されず「禁止命令」に違反した場合に刑罰が科されますが、ストーカー行為(反復したつきまとい等の行為)となった場合は直接処罰の対象になります。
ストーカー事案での逮捕の場合、暴行・傷害・脅迫・住居侵入・器物損壊など、他の犯罪で立件されることも少なくありません。また、複数の犯罪が成立する可能性も考えられ、ケースによっては上記の刑罰ではすまないこともあります。
ストーカー行為は逮捕される可能性が高い
ストーカーが逮捕されやすい理由は?
ストーカー行為では、犯人を自由にすると被害者に危害を加えたり働きかける危険性が極めて高いため、逮捕状が発布されやすくなります。
逮捕状による逮捕(通常逮捕)は、犯罪行為の疑いがあるというだけでなく、逃亡や罪証隠滅のおそれがなければすることはできません。この罪証隠滅とは、物的証拠の隠滅だけでなく、証言をする被害者や関係者に働きかけることも含みます。
また、ストーカー行為の中でも直接的な接触であれば、被害者の相談を受けた警察官がパトロール等を行い、犯行を現認して現行犯逮捕することもあるでしょう。現行犯逮捕であれば逮捕状も不要です。
ストーカーの逮捕・検挙の状況
警察庁の資料によれば、2020年のストーカーの相談件数と、加害者に対する行政の対応は次のような数字になっています。
ストーカー事案の相談件数 | 20,189件 |
指導警告※ | 11,347件 |
警告 | 2,146件 |
禁止命令等 | 1,543件 |
※指導警告とは、ストーカー規制法の「警告」に含まれない事実上の指導警告
また、同年のストーカー行為の検挙件数は以下の通りです。
ストーカー行為罪 | 868件 |
禁止命令等違反 | 117件 |
その他の犯罪 | 1,518件 |
合計 | 2,503件 |
ストーカーは、ストーカー規制法違反以外の罪名で検挙されるケースも多く、暴行・脅迫・住居侵入・器物損壊などが特に多くなっています。
過去にアトム法律事務所で取り扱ったストーカー事案17件のうち11件(65%)が逮捕されています。逮捕されていない事案では、事件化する前に相談を受けて解決したケースも含まれるため、警察が介入した事案で逮捕される恐れはもっと高くなるでしょう。ストーカー犯罪の不安があれば早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
ストーカー行為で逮捕された後の流れ

逮捕後の刑事事件の流れ
ストーカーに限らず、成人が刑事事件で逮捕された場合、以下の流れで手続きが進められます。
逮捕後は、警察で取り調べを受け、48時間以内に検察庁に事件が送致されます。事件を引き継いだ検察官は、自らも被疑者と面談し、24時間以内(逮捕から72時間以内)に勾留請求をするかどうか決定します。
勾留とは逮捕に引き続き行われる身体拘束処分です。勾留されると10日間、捜査の必要性から延長されると最大20日間、身体拘束が続きます。
勾留中に検察官が事件を起訴するか不起訴にするか決定し、起訴をした場合には裁判が行われることとなります。
ストーカー事件が起訴されたら
ストーカーの場合、つきまとい行為を反復して行っており、突発的な犯罪に比べて悪質性が高い犯行であるといえます。「警告」や「禁止命令」を受けても止められなかったということであればなおさらでしょう。
また、ストーカーはエスカレートすれば重大犯罪に繋がるおそれもあり、検察官も安易に不起訴や罰金で終わらせることには慎重になります。
そのため、通常の起訴によって、懲役刑を求刑されて公開裁判となることが多い犯罪類型です。
もっとも、ストーカー犯罪の法定刑の上限は、禁止命令に違反したストーカー行為の場合でも「2年以下の懲役」です。3年以下の懲役刑であれば、法律上執行猶予が付く可能性が十分あるため、実刑を避けるためにも弁護士へご相談ください。
ストーカーで逮捕されたらどうする?|被害者対応が重要
ストーカー行為で前科を回避するには
ストーカー行為で刑罰をうけないためには、起訴されないことが重要です。
検察官が事件を不起訴処分とすれば、刑事裁判は行われず、前科がつくことはありません。
また、裁判になったとしても執行猶予付きの判決を得ることができれば、元の生活に戻ることができます。もっとも、執行猶予付き判決の場合は前科が付くことになります。
被害者対応(示談)は不起訴獲得につながる
不起訴処分となるには、被害者対応を行うことが必要です。被害者と示談をし、被害者の「許す」という意思を得ることで、不起訴処分の可能性を高めることができます。
被害者に対して謝罪を行い、示談金を支払うことで、被害届の取下げを目指します。示談金は、単に迷惑料だけにとどまらず、たとえば被害者が引っ越しを希望するのであれば転居費用を負担する、防犯カメラを設置するなどの防犯対策に投じた費用があればその負担も支払う、など被害者の状況に合わせて提案することが重要です。
示談交渉を弁護士に依頼する理由とは
弁護士が示談交渉を行うメリット
弁護士 | 本人・家族 | |
---|---|---|
示談交渉 | 交渉しやすい | ほぼ不可能 |
示談成立 | 早期成立 | 時間がかかる |
示談金 | 相場が分かる | 相場が分からない |
内容 | 不備のない示談が可能 | 不完全になる恐れあり |
ストーカー事案での示談交渉は、自分やその家族が行うことはほぼ不可能です。必ず弁護士に相談し、弁護士に対応してもらうことが大切です。刑事事件の中でも、特にストーカー事案は被害者が加害者との接触を避けたいと考えるでしょう。加害者に住まいを知られていたり、加害者が同じ生活圏にいることは大きな恐怖となります。そのため、示談はすべて弁護士にまかせることが望ましいです。
通常、ストーカー事案での示談交渉の内容には、被害者と今後一切接触を図らないことも盛り込まれます。加害者は、被害者が使用する可能性がある路線を使用しないことや、被害者の引越し費用を負担するなどの条件を示し、被害者の心的・経済的負担の軽減に務めることが大切です。弁護士は、被害者と加害者の意見を調整しながら、互いの合意を得る形で示談を締結します。
示談は執行猶予の獲得にも意味がある
ストーカー被害者と示談を締結することで、不起訴獲得の可能性を高めることができます。もし、示談がうまく整わず、起訴されてしまった場合でも、示談交渉を継続することには意味があります。被害者に謝罪をした事実や示談交渉の経緯を証拠化することは、執行猶予判決を獲得することにつながるからです。
仮に、審理が終了してしまってから示談が成立したとすれば、弁護士は弁論再開を求め裁判所に示談書などの証拠を提出します。真摯に被害者対応(示談交渉)に取り組んだことを示し、執行猶予付き判決が相当である意見を述べます。
ストーカー行為での逮捕はすぐに弁護士に相談を
ストーカー行為で逮捕されたら弁護士面会を要請する
ストーカー行為で逮捕されたら、まずは弁護士面会(接見)を要請しましょう。家族が逮捕されたときには、家族が弁護士を探し、派遣を要請してください。自分でも警察をとおして当番弁護士を呼ぶことができます。逮捕されると、その直後から警察の取調べがはじまります。後に不利益を被らないよう、取調べでの受け答えはとても重要です。専門家の助言をもとに、慎重に対応していくことが必要です。
弁護士面会(接見)では、警察職員の立会いをはずして、完全に一対一で法律相談を受けることができます。他人には聞かれたくないプライベートなことであっても、安心して相談することができます。また、勾留と同時に接見禁止処分が付されると、家族であっても面会ができません。そのときでも、弁護士は必要に応じて面会することができますので、家族の様子を弁護士を通じて確認することも可能です。
警察対応と会社対応はプロフェッショナルにまかせる
逮捕後は、警察や検察官の取調べが続きます。どう回答してよいかわからない質問に対しては、弁護士の意見を確認しながら対応することが望ましいです。警察での供述や検察官とのやりとりは、のちに裁判で証拠としてつかわれることもあります。少しでも早く釈放されたいという思いから、認識と異なる供述をすると、あとで取り返しのつかないことになる危険もあります。
また、逮捕されると完全に身動きがとれなくなるため、仕事や学業に重大な支障が生じるでしょう。会社への説明や仕事の引き継ぎなど、誰かにサポートを受けなくてはどうすることもできません。その点についても、弁護士に相談し、会社の誰にどのような連絡をすべきかを検討することができます。
逮捕後釈放されても、事件は終わっていない!
ストーカーで逮捕されて、すぐに釈放されることもあります。また、勾留されても満期を迎えたときに、処分保留で釈放となることがあります。釈放されると、精神的な解放感から、安心してしまい「事件が終わった」と勘違いをしてしまう方もいらっしゃるようです。
しかし、処分保留での釈放は、あくまで処分が先延ばしにされているだけで、決して事件は終わっていません。
在宅捜査に切り替わっただけの状態ですので、すぐに弁護士に相談にいき、今後の動きを確認してください。
まだ被害者対応をしていない場合は、検察官が処分を決めるまでに示談を進める必要があります。弁護士のサポートを受けながら、不起訴獲得に向けて準備を進めていきましょう。