刑法における性犯罪規定が2017年に改正されました。それに伴い、強制わいせつ罪も親告罪から非親告罪になったのです。つまり、強制わいせつ罪を起訴するのに、告訴が不要となったわけです。
そして2023年7月13日から、強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪に変わりましたが、不同意わいせつ罪も親告罪ではありませんから、被害者の意思に関係なく、検察官は起訴することができます。
この記事では、非親告罪であることによる捜査や刑事処分への影響や、被害者と示談をして告訴を取り消してもらう必要性について解説しています。
弁護士の役割にも触れていますので、最後までぜひご覧ください。
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強制わいせつが告訴不要の非親告罪になった
強制わいせつ罪とは?(2023年7月12日以前の性犯罪)
第百七十六条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
刑法旧176条
強制わいせつ罪は、2023年7月12日以前におこした、わいせつ事件に適用される性犯罪です。
強制わいせつ罪は性的自由に対する犯罪です。13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした場合に成立します。なお、13歳未満の者に対してはわいせつな行為をしただけで成立します。法定刑は「6ヶ月以上10年以下の懲役」です(刑法旧176条)。
強制わいせつ罪における「暴行又は脅迫」は「相手方の意思に反して」という程度の行為で足りるとされています。また「わいせつな行為」とは、相手方の性的羞恥心を害する行為をいいます。具体的には、無理やりキスをする、陰部に手を触れる、乳房を弄ぶ等の行為です。
強制わいせつの起訴が告訴不要となった経緯
強制わいせつ罪は2017年の改正前、起訴するのに告訴が必要な親告罪でした。そのため、被害者と示談が成立するなどして、被害者が告訴を取り消せば、起訴されることはなかったのです。しかし、刑法改正により、強制わいせつ罪などの性犯罪が起訴に告訴が不要な非親告罪となり、被害者の告訴がなくても起訴できるようになりました。
改正が行われたのは、被害者の負担を軽減するためです。性犯罪の被害者は、肉体的・精神的に、多大な被害を被ります。そのような被害者に告訴をするかどうかの選択を迫ることは、被害者にさらなる精神的な負担を負わせることになります。このような負担を軽減するため、刑法改正は行われました。
強制わいせつの他、起訴に告訴不要となった性犯罪
2017年の刑法改正によって非親告罪となった性犯罪は強制わいせつ罪の他、準強制わいせつ罪、強制性交等罪、準強制性交等罪です。改正法が施行される以前の事件であっても遡及的に非親告罪として扱われます。強制わいせつ罪等が親告罪であったころに示談を成立させ、告訴されていなくても、理論上は起訴される可能性があるのです。
不同意わいせつも告訴不要の非親告罪
不同意わいせつ罪とは?(2023年7月13日以後の性犯罪)
第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
刑法176条
(以下、略)
不同意わいせつ罪も、性的自由に対する犯罪です。
不同意わいせつ罪は、2023年7月13日以後におこしたわいせつ事件に適用される性犯罪です。
不同意わいせつ罪は、強制わいせつ罪に代わるものとして、現在の刑法に規定されている性犯罪です。
強制わいせつ | 不同意わいせつ | |
---|---|---|
適用 | 2023.7.12まで | 2023.7.13から |
内容 | わいせつな行為 | わいせつな行為 |
不同意わいせつ罪には、以下の3つの類型があります。
不同意わいせつ罪の類型3つ
- 同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態
→暴行、脅迫、障害、飲酒、薬物、意識不明瞭、不意打ち、フリーズ、虐待、不利益への憂慮などが原因で、わいせつな行為にNOと思うこと・言うこと・つらぬくことができない状態 - わいせつな行為ではないとの誤解、人違い
- 被害者の年齢による区別
・被害者が13歳未満の場合
・被害者が13歳以上16歳未満の場合、自分が相手よりも5歳以上、年上であるとき
これらの類型に該当する状況で、わいせつな行為をした場合、不同意わいせつ罪が成立します。法定刑は「6ヶ月以上10年以下の拘禁刑」です(刑法176条)。
不同意わいせつ罪については、もっと詳しく知りたい方は『不同意わいせつ罪とは?逮捕されたらどうなる?強制わいせつ罪との違いを解説』の記事もご覧ください。
不同意わいせつで起訴の可能性があるパターン
不同意わいせつ罪について、犯罪成立が認められ、起訴の可能性があるパターンを整理しておきます。
被害者 | 自分 | 要件 |
---|---|---|
13歳未満 | – | わいせつな行為 |
13歳~16歳未満 | 相手より5歳年上 | わいせつな行為 |
13歳~16歳未満 | 年齢差が5年未満 | ①形成・表明・全うが困難な状態 ②わいせつな行為 |
13歳~16歳未満 | 年齢差が5年未満 | ①誤解、人違い ②わいせつな行為 |
16歳~ | – | ①形成・表明・全うが困難な状態 ②わいせつな行為 |
16歳~ | – | ①誤解、人違い ②わいせつな行為 |
不同意わいせつの起訴が告訴不要となった経緯
前身である「強制わいせつ罪」の流れを引継ぎ、不同意わいせつ罪を起訴するときも、刑事告訴は不要とされました。
不同意わいせつの他、起訴に告訴不要の性犯罪
不同意わいせつ罪の他、不同意性交等罪(旧強制性交等罪)なども非親告罪です。
改正前 (23.7.12まで) | 改正後 (23.7.13~) | 告訴 | |
---|---|---|---|
① | 強制わいせつ | 不同意わいせつ | 不要 |
② | 準強制わいせつ | 不要 | |
③ | 強制性交等 | 不同意性交等 | 不要 |
④ | 監護者わいせつ 監護者性交等 | 監護者わいせつ 監護者性交等 | 不要 |
⑤ | ー | 面会要求等 | 不要 |
不同意・強制わいせつ事件の流れ|告訴不要で刑事処分に影響は?
不同意・強制わいせつ事件の逮捕から勾留まで
刑事事件で逮捕された場合、被疑者及び事件は警察の取調べを経て48時間以内に検察官へ送致されます。検察官は被疑者の身柄と事件を受け取ったあと、24時間以内に被疑者を勾留請求するかを決めなければなりません。勾留請求がなされ、裁判官が請求を認めると被疑者は勾留されます。勾留期間は最大20日です。
2020年の検察統計によれば、強制わいせつ罪で逮捕された被疑者のうち約92%が勾留されています。そのうち勾留が延長されたのが約84%であることから、強制わいせつ罪の場合、逮捕されるとかなりの割合で勾留期限ギリギリまで身体拘束されることになります。
検察官は被害者の心情に配慮した処分をする
不同意・強制わいせつ罪等の性犯罪が非親告罪であるからといって、被害者の負担が大きくなっては本末転倒です。そこで、捜査機関は被害者の負担軽減を意識した運用を目指しています。たとえば、警察庁は通達で各都道府県警に対し、被害者の事情聴取は必要最小限にとどめることを改めて要請しています。
また、法務省も通達で「被害者の心情に配慮することが必要」と各地検などに要請しています。検察官はこのような要請を受けて処分を決定することになるでしょう。不同意・強制わいせつ罪等の性犯罪が非親告罪になったとはいえ、被害者の意思を無視した起訴がなされるのは考えにくいです。
不同意・強制わいせつの刑事処分に大きな影響はない?
強制わいせつ罪と刑事処分
強制わいせつ罪が非親告罪とされた際の刑法改正では、強姦罪が強制性交等罪に変わり、法定刑も重くなるという大きな変化もありました。
ただし、強制わいせつ罪は強制性交等罪のように法定刑が上がったわけではありません。また、検察官が被害者の感情やプライバシーに配慮して処分を決めることも、改正以前と変わらないです。
したがって、強制わいせつ罪が非親告罪になっても、刑事処分に大きな影響はないといえそうです。
不同意わいせつ罪と刑事処分
不同意わいせつ罪が非親告罪とされたことについても、不同意わいせつ罪が強制わいせつ罪の流れをくむものであるがゆえ、強制わいせつ罪と同じく、刑事処分に大きな影響はないといえるでしょう。
留意点
とはいえ、不同意わいせつ・強制わいせつ罪が非親告罪である以上、告訴がなくても起訴される危険性はゼロではありません。仮に起訴された場合、日本の刑事裁判における有罪率が約99.9%であることから、有罪になり前科がつく可能性は極めて高いです。この点は留意しておきましょう。
不同意わいせつの不起訴を目指す場合は、『不同意わいせつ(旧強制わいせつ)の不起訴獲得のポイントは?裁判を回避した実例は?』の記事をご覧ください。
不同意・強制わいせつの起訴が告訴不要でも示談は大切
不同意・強制わいせつの起訴に告訴は不要|示談の意味は?
強制わいせつ罪は2017年の改正前、親告罪でした。そのため、被害者と示談をし、告訴の取り消しがなされれば起訴されることはなく、事件はそこで終了していたのです。しかし、強制わいせつ罪が改正によって非親告罪となり、その流れをくんだ不同意わいせつ罪も非親告罪となっている今、告訴がなくても性犯罪を起訴することができます。
では、被害者と示談をする意味はなくなったのでしょうか。答えは「ノー」です。示談が成立し、被害届の取り下げや、告訴の取り消しがなされると、検察官が被害者意思に配慮して、起訴を見送る可能性は十分あります。強制わいせつ罪・不同意わいせつ罪が非親告罪となっている今でも、加害者にとって示談は最重要といえるのです。
不同意・強制わいせつ(性犯罪)の示談は犯人には難しい
不同意わいせつ罪・強制わいせつ罪などの性犯罪では、被害者から加害者への嫌悪の感情が強く、被害者や捜査機関が加害者に連絡先を教えてくれないことが通常です。そのため、不同意わいせつ・強制わいせつの加害者及びその家族が直接被害者と示談交渉するのは困難です。
また、仮に被害者の連絡先を知っている場合でも、加害者が直接会いにいくと、被害者が感情的になり処罰感情を高まらせてしまう可能性が否定できません。示談交渉のテーブルに載ることすら難しくなるため、加害者が自ら示談交渉するのはやめましょう。
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・不同意わいせつ(旧強制わいせつ)で示談する方法と示談金相場
不同意・強制わいせつの示談は弁護士にご相談を
不同意わいせつ・強制わいせつの示談は弁護士に任せましょう。捜査機関は、加害者に被害者の連絡先を教えてくれません。しかし弁護士であれば、「示談交渉がしたい」と捜査機関に申し出ることによって、被害者の連絡先を聞ける可能性があります。
また、被害者にとっても加害者と示談交渉するより、弁護士を介した方が示談条件について意見を述べやすいものです。刑事事件の経験豊かな弁護士であれば、性犯罪の被害者であることに十分配慮し、繊細な示談交渉を行えます。
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