自動車を運転する限り、誰でも死亡事故の加害者になり得ます。死亡事故の加害者になったら必ず刑務所に収容されるのでしょうか。実は必ずしも刑務所に収容されるとは限りません。
では死亡事故で刑務所に収容される基準とは何なのでしょう。この記事では、裁判例を挙げつつ、死亡事故で刑務所に収容される基準について詳しく解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
死亡事故を起こしたら何罪になる?
死亡事故で成立する可能性のある犯罪とは?
死亡事故を起こした場合、以下の罪に問われる可能性があります。
死亡事故で成立する可能性のある犯罪
罪名 | 行為 | 法定刑 |
---|---|---|
過失運転致死罪(自動車運転処罰律5条) | 自動車の運転上必要な注意を怠ること | 7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金 |
危険運転致死罪(自動車運転処罰法2条) | ①アルコール・薬物の影響による正常な運転が困難な状態での走行 ②大幅なスピード違反 ③未熟運転 ④あおり運転 ⑤信号無視 ⑥通行禁止道路における危険な速度での運転 | 1年以上20年以下の懲役 |
危険運転致死罪(自動車運転処罰法3条) | アルコール・薬物の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転すること | 15年以下の懲役 |
過失運転致死罪と危険運転致死罪の違いは?
過失運転致死罪は過失犯、危険運転致死罪は故意犯という点で違いがあります。
過失犯は不注意で起こしてしまった犯罪をいいます。一方、故意犯は「わかっていたのにあえてやった」犯罪をいいます。
危険運転致死罪(自動車運転処罰法2条)は、表中①~⑥の危険運転行為を故意に行った場合に成立します。
例えば、飲酒の影響で思ったとおりにハンドルやブレーキ操作ができない状態だとわかっていたのにあえて運転した場合は危険運転致死罪の故意があると判断されます。
このとき、「人を死亡させるとは思っていなかった」という主張は通りません。なぜなら、危険運転致死罪では人の死亡結果について故意は必要とされていないからです。人が死亡すると分かっていてあえて危険運転行為をした場合、殺人罪など別の犯罪が成立します。
2条と3条の危険運転致死罪の違いは?
2条の危険運転致死罪は、「正常な運転が困難な状態であること」の認識がある場合に成立します。
他方、3条の危険運転致死罪は、「正常な運転が困難な状態であること」の認識がない場合に成立します。
具体的には、身体にアルコール等を保有していることの認識と、その影響により正常な運転に支障が生じるおそれがあることをを認識していれば足ります。
自分では軽く酔っている程度だと思っていたとしても、結果的にハンドルやブレーキ操作が難しい状態に陥って人を死亡させれば3条の危険運転致死罪が成立する可能性があります。
3条の危険運転致死罪は、2条と比べると、自分の行為の危険性を認識していないため非難の程度が低く、2条の危険運転致死罪より法定刑が軽くなっているのです。
死亡事故の加害者が刑務所に入る可能性は?
死亡事故を起こした場合、過失運転致死罪・危険運転致死罪のいずれが成立するかにより刑務所に入る可能性は大きく変わります。
令和元年における過失運転致死罪と危険運転致死罪の科刑状況をご覧ください(引用元:令和2年版犯罪白書)。
過失運転致死罪と危険運転致死罪の科刑状況(令和元年)
罪名 | 実刑 | 執行猶予 |
---|---|---|
過失運転致死罪(1,252人) | 4.6%(58人) | 95.4%(1,194人) |
危険運転致死罪(12人) | 100%(12人) | ー |
過失運転致死罪で実刑判決を受けた人の割合は4.6%にとどまるのに対し、危険運転致死罪では100%にのぼります。
この数字から、死亡事故を起こした場合、その原因が不注意であれば刑務所に入る可能性は低いことがわかります。一方、飲酒運転など危険運転行為が原因であれば、刑務所に入る可能性は極めて高いといえます。
刑務所に収容される可能性が高くなる事情とは?
以下の事情があると、実刑判決の可能性が高くなります。特に、飲酒運転による死亡事故を起こした場合、実刑判決になる可能性は極めて高いです。
実刑判決の可能性が高くなる事情
- 飲酒運転
- 無免許運転
- 大幅なスピード違反による無謀運転
- 信号無視
- 交通事故の前科がある
- 任意保険未加入
【裁判例】死亡事故で実刑判決になった事案とは?
では、死亡事故で実際に実刑判決を受けたのはどのような事案だったのでしょう?ここでは3つの裁判例をご紹介します。
事例①飲酒運転による死亡事故、かつ、交通事故の前科があるケース
事件の概要
飲酒の上、後方車両に追突させる目的で、安全確認をしないまま相当速度で自車を後退させることを複数回繰り返し、後方車両の後ろにいた被害者に同車を少なくとも3回衝突させ死亡させた。
判決
懲役3年(過失運転致死罪)
このケースでは、被告人に同種前科があり、執行猶予期間が経過してから約3年で本件行為に及んだという事情も実刑判決を選択する事情になりました。
事例②重大な過失による死亡事故、かつ、任意保険未加入のケース
事件の概要
大型バイクに乗っていた被告人は、極めて見通しの良い直線道路で、対向車の確認が容易であったにもかかわらず、この注意義務を怠り、さらに、前車を追い越すため極めて危険な速度で対向車線にはみだし、大型バイクを被害バイクに衝突させ、被害者を死亡させた。
判決
禁錮2年(過失運転致死罪)
このケースでは、被告人が任意保険に未加入であったため、十分な賠償がなされる見込みがないことも重視されました。強制保険(自賠責保険)は遺族に支払われましたが、そのことを考慮しても、本件犯行に関する事情は悪質であり、執行猶予をつける余地はないとの厳しい判断が下されました。
事例③飲酒運転による死亡事故、かつ、動機・経緯、犯行後の事情が悪く、交通事故の前科もあるケース
事件の概要
治療費、休業損害、入通院慰謝飲酒の上、制限速度を大幅に超える速度で走行中、自車を対向車線に進出させ、被害車両右前部等に自車右前部を衝突させて被害者にけがを負わせ、よって被害者を死亡させた。
判決
懲役10年(危険運転致死罪)
このケースは、多量のアルコールを保有した状態で運転を開始し、大幅なスピード違反の上で死亡事故を起こしていることから、犯行態様が危険で悪質と評価されました。
しかも、多量のアルコールが身体に残っていることを自覚しながら、仕事のために一旦帰宅したいという身勝手な理由で飲酒運転に及んだ動機・経緯も重視されました。
さらに、被告人は過去にも死亡事故で有罪判決を受けたにもかかわらず、本件犯行後、被疑者を救助せず、事故状況等につき虚偽の事実を申述するなどしていました。
これらの事情が積み重なった結果、懲役10年という重い実刑判決が下されました。
死亡事故を起こし刑務所に入るまでの流れ
死亡事故で逮捕後~判決までの流れ
逮捕後の刑事手続き
死亡事故を起こした場合、現行犯逮捕されるか、後日、逮捕状に基づき通常逮捕される可能性が高いです。
逮捕後は警察署で取り調べを受けます。逮捕から48時間以内に、警察は検察官に事件を引き継ぎます(検察官送致)。
送致を受けた検察官は、送致後24時間以内に勾留請求します。勾留請求された場合、被疑者は裁判官と面談します。裁判官が、逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断すると10日間勾留されます。
やむを得ない理由で捜査が終わらない場合、さらに最大10日間勾留される場合があります。
逮捕から最大23日後に、検察官が起訴・不起訴を決定します。起訴されると、正式な刑事裁判か略式裁判を受けます。
刑事裁判を受ける場合、起訴後約1カ月後に第1回公判が開かれます。争いのない事件であれば、第1回公判から約1カ月以内に第2回公判が開かれ判決が言い渡されることが多いでしょう。
【コラム】死亡事故の検挙率は何%?
ひき逃げが死亡事故の場合、検挙率は100%近くになります。ひき逃げ死亡事故で逃げ切るのは困難と言えるでしょう。
動揺して立ち去ってしまった場合も、そのままにすることは絶対にしないでください。被害者とご遺族の苦しみから目をそむけて生きることは、さらなる苦しみを生みます。事故後の逃亡は量刑を重くする事情にもなります。
お困りの場合、弁護士への相談をおすすめします。弁護士は、自首同行、逮捕回避の説得、取り調べのアドバイスを行い、ご本人をサポートします。
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死亡事故で判決~刑務所収容までの流れ
第一審の判決に不服があれば控訴することができます。被告人も検察官も控訴しなければ、判決言い渡しから14日経過後に判決が確定します。
判決が確定すると刑務所に収容されます。交通事故で実刑になった場合、「交通刑務所」に収容されるケースもあります。
交通刑務所とは?
「交通刑務所」は正式名称ではなく通称です。交通刑務所は全国に2カ所のみ。1つは、千葉県の市原刑務所。もう1つは兵庫県の加古川刑務所です。交通刑務所は、一般の刑務所に比べ、規則が緩やかで開放的である点が特徴です。
特に市原刑務所は、全国でも数少ない「開放的施設」、いわゆる「塀のない刑務所」として有名です。受刑者は、自分の犯した罪の大きさを自覚し再犯防止策を学ぶ改善指導を受けます。
死亡事故を起こしたら一刻も早く弁護士へ
死亡事故を起こした場合に何より優先すべきは、真摯な反省とご遺族への謝罪です。ご遺族への謝罪は非常に繊細な配慮が必要です。交通事故事件の経験豊富な弁護士にできる限り早くご相談ください。
弁護士は、早期釈放の実現にも尽力します。早期釈放は解雇を避けるため重要です。釈放後は、ご本人と綿密にコミュニケーションをとり、直接の謝罪方法や裁判での対応について丁寧にご説明します。
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早期の示談交渉が執行猶予につながる
死亡事故事案で刑を軽くするためには、任意保険により損害賠償がなされる見込みである旨を主張することが大切です。
もっとも、保険金による賠償は当然であって、そのことだけでは特段刑を軽くする事情にはなりません。
実務では、保険金以外で加害者自身がどれだけの金銭賠償をしたか、示談成立に向けてどのような努力をしたかといった事情が重視される傾向にあります。
そこで重要なのが、弁護士を通じ早急に謝罪の意をお伝えし、示談交渉を行うことです。保険会社による支払いは事故発生から数年先になることもあるため、これを待っているだけでは不十分です。
計り知れないショックを受けたご遺族へ謝罪の意を表すため、加害者自身がお金を用意して示談を申し出ることが不可欠です。もし謝罪や示談を断られても当然のこととして受け止め、誠心誠意謝罪を続けることが重要です。
示談交渉に応じていただけた場合、弁護士はご遺族の心情に十分配慮しつつ、加害者に対する許し(宥恕)を得られるよう尽力します。
宥恕条項付き示談が成立すると、執行猶予付き判決を得られる可能性が高くなります。
アトム法律事務所は、死亡事故事案で示談を成立させ執行猶予を獲得した実績があります。
詳しくは『死亡事故の執行猶予率』をご覧ください。
事故態様等に関する有利な主張が執行猶予につながる
死亡事故事案で刑を軽くするため、示談のほかにもう1つ大切なことがあります。それは、事故態様や過失の内容・程度について、ご本人に有利な事情を主張することです。
弁護士は、ご本人のお話を丁寧に聴き取った上、現場検証を行ったり、ドライブレコーダーや信号サイクル表等を分析します。
その結果、ご本人の過失の内容・程度が検察官の主張と異なると判明することがあります。また、死亡結果を招いた原因がご本人の行為以外に存在するケースもあります。
弁護士は、分析の結果明らかになったご本人に有利な事情を検察官や裁判官に主張します。
これらの弁護活動により、執行猶予付き判決を得る可能性は向上します。場合によっては、不起訴処分になるケースもあります。
ご家族が死亡事故を起こし逮捕された方へ
この記事を読んでおられる方の中には、ご家族が死亡事故を起こし逮捕されてしまったという方もいらっしゃると思います。
そのような方は、ぜひ弁護士に接見を依頼してください。私選弁護士であれば逮捕直後から接見可能です。ご本人を法律面・精神面でしっかりサポートいたします。弁護士への早期の依頼がご家族の今後の人生を左右します。
弁護士による接見のメリットや弁護士費用等については『接見・面会を弁護士に依頼』をご覧ください。