痴漢容疑をかけられた場合、任意同行を求められることがよくあります。「任意同行に応じるとどうなるの?」「任意同行を拒否すると逮捕される?」とご本人もご家族も不安は尽きませんよね。
この記事では、まず、痴漢事件で任意同行を求められるのはどのような場合かご説明します。
任意同行を拒否しても必ず逮捕されるわけではありませんが、対応を誤ると逮捕につながることも。そこで、拒否する際の注意点についても解説します。
さらに、逮捕・勾留の回避方法や不起訴処分のポイントについても詳しくご説明します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
痴漢で任意同行を求められる場合とは?拒否できる?
ここでは、任意同行の意味、痴漢で任意同行を求められる場合、拒否して逮捕につながってしまうケースについてご説明します。
任意同行とは?逮捕との違いは?
任意同行と逮捕は、拒否できるか、逮捕状が必要かという2点で違いがあります。
任意同行とは
任意同行は、任意出頭を求める方法の一つで、被疑者と警察官が一緒に警察署等に行くことです。任意出頭とは、身体拘束されていない被疑者が捜査機関から呼び出しを受けて警察署等に出頭することをいいます。
任意同行は拒否できます(刑事訴訟法198条1項但書)。任意出頭は、あくまで出頭をお願いしているだけなので強制力はありません。また、任意同行の場合、逮捕と異なり、逮捕状は必要ありません。
任意同行後は警察署等で取調べを受けます。任意同行に応じたらからといって必ず逮捕されるわけではありません。しかし、取調べの結果、容疑が固まった時点で逮捕される可能性があります。
逮捕とは
逮捕には、通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕の3種類があります。痴漢事件の場合、現行犯逮捕されるか、後日犯人が特定されて通常逮捕されるケースが多いです。
逮捕は強制捜査に当たり、拒否することはできません。また、逮捕の場合、原則として事前に裁判官が発付した逮捕状が必要です。
ただし、現行犯逮捕の場合、逮捕状は不要です。また、現行犯逮捕は私人でも行うことができます。
逮捕後は警察署に連行され取り調べを受けます。その後、留置場で生活することになります。逮捕後に勾留されることもあります。
逮捕・勾留されると、検察官が起訴するかどうか判断するまで最長23日間にわたり身体拘束される可能性があります。その間に、会社に痴漢容疑で身柄拘束されていることが知られる事案も少なくありません。
痴漢で逮捕された後の流れについてさらに詳しく知りたい方は、「痴漢で逮捕された!その後の流れと早期解決に向けた対応を解説」もぜひご覧ください。
痴漢で任意同行を求められたらどうなる?
痴漢で任意同行を求められるケースは、大きく分けて2つあります。1つ目は、痴漢事件発生直後に現場にやってきた警察官に任意同行を求められる場合です。2つ目は、後日、被疑者の自宅にやってきた警察官に任意同行を求められる場合です。
痴漢事件発生直後に任意同行を求められる場合
痴漢事件で多いのが、電車内での痴漢容疑で事件発生直後に任意同行を求められるケースです。
この場合、ホームで被害者に犯人として名指しされ、駅員に駅員室まで来るよう言われます。駅員は被害者の意思を確認してから警察に通報します。しばらくしてやって来た警察官に言われるがまま警察署に同行し、そのまま留置場に入れられてしまうことが少なくありません。
ではこのケースで、いつ逮捕されたといえるのでしょうか?実は痴漢事件では、被害者が現行犯逮捕し、警察官に犯人を引き渡した扱いになっていることがよくあるのです。
駅員室に行ってしまえば後はあれよあれよという間に身体拘束手続が進んでしまう恐れがあるということです。特に、痴漢冤罪の場合「正々堂々と無実を主張したい」という気持ちもあるでしょうが、駅員室に行かずに立ち去ることがベストということを覚えておいてください。
もっとも、逃走は危険かつ逮捕・勾留されるリスクを上げるだけですのですべきではありません。とはいえ、いつまでも駅のホーム等で問答をしているわけにもいかないでしょう。名刺を渡すなど住所・氏名・身分等を明かすなどして立ち去るという方法もよく言われますが、実際にはそれで納得してもらうことも簡単ではありません。
そこで、痴漢冤罪の場合、その場で弁護士に連絡し、警察官に対し現行犯逮捕の要件がそろっていないことを説明してもらうべきです。
後日、任意同行を求められる場合
痴漢行為後、後日、自宅にやってきた警察官に任意同行を求められることもあります。この場合、防犯カメラや目撃者の証言からすでに痴漢容疑が固まり、警察官が逮捕状を持参していることもあります。では、逮捕状があるのになぜあえて任意同行を求めるかというと、被疑者の名誉やプライバシーに配慮してのことだといわれています。
一方、容疑が固まっていなくても、とりあえず事情聴取のために任意同行を求めるパターンもあり得ます。
いずれの場合も、任意同行に応じて取り調べに素直に応じれば、逮捕されないまま捜査が進む可能性があります。取調べの結果、容疑が固まり逮捕に至ることもあります。
痴漢で任意同行を拒否すると逮捕される?
痴漢事件で任意同行を求められた際、拒否しても必ず逮捕されるわけではありません。しかし、次のようなケースでは逮捕される可能性があるので要注意です。
逮捕されないためのポイントは、とにかく穏便に断ること。都合が悪い場合は、落ち着いてその旨を警察官に説明しましょう。
警察官に暴行・脅迫を加えた場合
任意同行を求められた際、警察官に対し、暴行・脅迫を加えると公務執行妨害罪(刑法95条1項)の疑いで現行犯逮捕されるおそれがあります。公務執行妨害罪の法定刑は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金です。
公務執行妨害罪の暴行は、公務員の身体に対し、直接・間接を問わず不法な攻撃を加えることを意味します。したがって、警察官を殴ったり、パトカーを傷つけたりすると同罪で現行犯逮捕される可能性があります。
任意同行を正当な理由なく拒否した場合
警察官が被疑者の自宅にやってきて任意同行を求める場合、すでに痴漢の逮捕状を持参していることがあります。この場合に、粗暴な対応をとったり、正当な理由なく任意同行を拒否すると、令状に基づき通常逮捕されてしまう可能性があります。
痴漢行為は何罪で処罰される?
「痴漢」は正式な罪名ではありません。痴漢行為は、態様によって、迷惑防止条例違反になる場合と、不同意わいせつ罪になる場合に分けられます。
一般的に、着衣の上から触ると迷惑防止条例違反、着衣の下から触ると不同意わいせつ罪になる可能性が高いです。もっとも、着衣の上からでも、悪質な態様であれば不同意わいせつ罪が成立することがあります。
迷惑防止条例違反になる場合
条例の内容は都道府県ごとに異なります。ここでは東京都の場合を例にとって説明します。
- 実行行為
公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること(5条1項1号) - 罰則
6月以下の懲役または50万円以下の罰金(8条1項2号) - 具体例
電車内や路上で女性の臀部や太ももを衣服の上から触る行為
不同意わいせつ罪(刑法176条)になる場合
痴漢の中でも態様が悪質なものは、不同意わいせつ罪(旧強制わいせつ罪)が成立する可能性があります。
なお、不同意わいせつ罪は非親告罪ですので、被害者の告訴がなくても起訴される可能性があります。
- 実行行為
①同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をすること
②16歳未満の者に対し、わいせつな行為をすること - 罰則
6月以上10年以下の拘禁刑 - 具体例
下着の中に手を入れて陰部を触る行為
痴漢事件の弁護を弁護士に依頼するメリット
痴漢事件を起こした場合、今後どうなるのか悩みや不安が尽きませんよね。弁護士に依頼すれば、刑事事件に関する不安をワンストップで解決することができます。
ここでは、弁護士に依頼する具体的なメリットをご紹介します。
弁護士費用について詳しく知りたい方は、「痴漢の弁護士費用|痴漢が発覚したらまず弁護士に相談を」もぜひご覧ください。
任意同行に付き添い、逮捕回避の説得を行う
弁護士は任意同行に付き添うことが可能です。取調べで不安が生じれば、すぐに弁護士に面会を求めアドバイスを得ることができます。
また、弁護士は、逮捕回避に向けて警察を説得することにも尽力します。
例えば、扶養家族がいることや定職があることを示し、逃亡のおそれがないことを示します。さらに、被疑者が被害者の氏名・住所を知らないため脅しが不可能であることも説明します。また、被害者と接触しないよう通勤電車の時間帯を変える旨の上申書を提出することも考えられます。必要に応じ、弁護士が責任をもって出頭させる旨の誓約書も提出します。
これらの弁護活動の結果、逮捕の理由がないと判断されれば、在宅で捜査が進むことになります。在宅事件では日常生活を送ることができるので、痴漢のことを会社に知られるおそれが相当程度低下します。
示談により逮捕・勾留の回避や早期釈放が期待できる
痴漢事件を起こした場合、最も重要なのが示談の成立です。示談成立によって、逃亡のおそれはないと判断されやすくなり、逮捕・勾留の回避が期待できます。仮に逮捕・勾留された場合でも、示談が成立すれば早期釈放が期待できます。
アトム法律事務所の解決実績によると、痴漢の示談金相場は50万円です。
痴漢事件では、被害者の連絡先が分からない場合が多いです。しかし、弁護士であれば、捜査機関に被害者の連絡先を問い合わせることができます。したがって、被害者の連絡先が不明なケースでも、弁護士に依頼すれば示談成立の可能性が高まります。
不起訴処分や執行猶予・減刑が期待できる
痴漢事件で前科がつくのを避けたい場合、できる限り早く弁護士に示談交渉を依頼することをおすすめします。なぜなら、示談が成立すれば不起訴処分が期待できるからです。不起訴処分になれば100%前科はつきません。
痴漢事件の場合、初犯で示談が成立しており、被害者が加害者を許す(宥恕)と表明していれば不起訴の確率は相当程度高まります。被害届取下書も提出できるとより効果的です。
示談が成立すれば、起訴された場合でも裁判所の判決において執行猶予や減刑が期待できます。
示談交渉は刑事弁護の実績豊富な弁護士に依頼するのが最適です。一人で悩まず、ぜひお気軽にご相談ください。