大麻は入門薬物(ゲートウェイ・ドラッグ)と呼ばれ、好奇心から気軽に手を出してしまう人が少なくありません。日本における大麻事件は20歳以下の若年層を中心に平成26年以降増加が続き、令和2年も前年を大幅に上回る5,034人が検挙されています。特に大麻栽培は増加傾向にあり、検挙人員は232人、押収量も9,893本と大幅に増加しています。
この記事では、増加傾向にある大麻事件のうち、大麻栽培について取り上げました。大麻を栽培すれば逮捕されるのか、実刑になるのか、刑罰の相場はどれくらいかといった疑問に答えています。また、大麻栽培と他罪の関係や、弁護士ができることについても触れております。ぜひ最後までご覧ください。

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目次
大麻栽培で逮捕|法定刑と実際の量刑は?
大麻の「栽培」とは?
大麻の「栽培」とは、大麻の種子を蒔いてから大麻を収穫するまでの一連の行為をいいます。大麻の種子を【蒔いた時点】で、大麻栽培の罪が既遂となるため、実際には大麻を収穫しなくても犯罪が成立してしまうのです。観賞用のために大麻を栽培した場合でも、大麻栽培罪が成立するとした判例があります。
大麻を栽培したら逮捕される|大麻取締法に違反
大麻を栽培したら、大麻取締法に違反したとして逮捕されます。大麻を栽培する行為は、大麻の流通を促進する危険性があることから、大麻の単純な「所持」と比べ重い法定刑が予定されています。
具体的には、大麻の所持が「5年以下の懲役」(大麻取締法24条の2第1項)となっているのに対し、大麻の栽培は「7年以下の懲役」(同法24条1項)が法定刑です。なお、営利目的がある場合、所持・栽培ともに法定刑が加重されます。
行為 | 罰則 |
---|---|
栽培・輸出入(大麻取締法24条) | 7年以下の懲役 |
営利目的の栽培・輸出入(同法24条) | 10年以下の懲役 又は10年以下の懲役及び300万円以下の罰金 |
所持・譲渡・譲受(同法24条の2) | 5年以下の懲役 |
営利目的の所持・譲渡・譲受(同法24条の2) | 7年以下の懲役 又は7年以下の懲役及び200万円以下の罰金 |
大麻の栽培で逮捕|初犯でも実刑になる?
大麻の栽培が初犯でも起訴されることが多いといえます。執行猶予は、言い渡される刑が「3年以下の懲役」でなければ絶対につきません。大麻栽培の罪は法定刑が「7年以下の懲役」であるため、執行猶予がつくかは微妙なところです。とはいえ、営利目的がなく初犯で栽培の量も少なければ、懲役2〜3年、執行猶予3〜4年というのが相場的です。
一方、大麻栽培が営利目的でなされていた場合、初犯であっても執行猶予がつかず実刑になることがほとんどと言ってよいでしょう。営利目的の有無は、主に大麻栽培の量など客観的な証拠から認定されます。営利目的の大麻栽培なら、懲役5年と罰金約200万円の併科が相場です。
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大麻栽培とは別に大麻所持でも逮捕される
大麻の栽培で逮捕された後に、大麻を所持しているとして大麻所持でも逮捕されることがあります。大麻栽培と大麻所持の罪はそれぞれ成立し、併合罪(刑法45条前段)となるのです。併合罪となれば、刑の長期が罪の重い方の1.5倍となります。つまり、大麻栽培と大麻所持であれば、重い方の罪である大麻栽培(7年以下の懲役)が1.5倍され、10年6ヶ月以下の懲役となります。
実際は、大麻の所持で逮捕されたあと、家宅捜索を受けるなどして、大麻の栽培が見つかり再逮捕されるケースが多いです。
大麻種子の購入|大麻栽培の予備罪で逮捕
大麻種子を購入しただけでも、大麻栽培の予備罪で逮捕される可能性があります。
大麻種子は「大麻」の定義にはあたりません(大麻取締法1条)。そのため、大麻種子を所持しても、大麻所持で罰することはできません。しかし、大麻種子を購入する行為は、通常、大麻種子を蒔いて大麻を栽培する準備行為とみなされます。つまり、大麻種子の購入は、大麻栽培の予備罪(大麻取締法24条の4)として規制されるのです。
大麻栽培の予備罪で検挙されることは実際には少ないといえます。しかし、大麻種子を販売したものから、購入者が特定され検挙にいたるケースも考えられるでしょう。なお、実際に大麻を蒔いた場合(大麻栽培の実行に着手した場合)、大麻栽培の罪だけが成立し、大麻栽培の予備罪はこれに吸収されることになります。
大麻種子の販売|大麻栽培の幇助で逮捕
大麻種子を販売すると、大麻栽培の幇助犯となる可能性があります。
幇助(刑法62条1項)とは正犯の行為を物理的・心理的に容易にする行為のことです。購入者が、大麻種子を蒔いて大麻を栽培するということを知りながら、大麻種子を販売する行為は、大麻栽培の幇助といえます。営利目的でない大麻栽培の幇助が成立した場合、正犯の法定刑(7年以下の懲役)が減軽され、販売者には「3年6ヶ月以下の懲役」が科せられます。
なお、購入者が大麻種子を蒔いていない段階だと、購入者には大麻栽培の予備罪が成立するに留まりますが、販売者は大麻栽培の予備罪の幇助犯となるのではありません。この場合、大麻栽培の資金等提供罪(大麻取締法24条の6)が成立し、予備罪の幇助よりも重く処罰されます。法定刑は「3年以下の懲役」です。
大麻の栽培で逮捕されたときの弁護活動
大麻の栽培で逮捕されるきっかけ
大麻栽培で逮捕されるきっかけとして一番多いパターンは、栽培された大麻を購入した者が逮捕され、入手ルートの捜査から栽培者が特定される場合です。大麻栽培など薬物事件は、被害者が存在せず密行性の高い犯罪です。そのため、捜査機関は大麻購入者を逮捕した場合、必ず大麻の入手先を捜査します。購入者とのスマホ等でのやり取り履歴から、大麻栽培者が特定され芋づる式に逮捕されることも少なくありません。
また、大麻の所持で現行犯逮捕され、その後の家宅捜索で大麻の栽培が見つかり再逮捕されるケースも少なくありません。その他、大麻草を見かけた近所の人からの通報や、大麻を使用する際に出る大麻特有の匂いから、大麻栽培が発覚し逮捕に至るケースもあります。
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大麻の栽培で逮捕されたあとの流れ
大麻栽培など刑事事件で逮捕されれば、警察の取調べを経て48時間以内に事件と被疑者の身柄が検察に送られることになります。検察官は被疑者の身柄を受け取ったら、24時間以内に被疑者を勾留する必要があるか判断しなければなりません。検察官が勾留請求し、裁判所がこれを認めれば被疑者は勾留されます。
勾留とは逮捕に続き行われる身体拘束です。勾留の期間は、最大で20日間に及びます。この間に検察官は被疑者の起訴・不起訴を決めるのです。検察官に起訴されると、被疑者勾留から被告人勾留に切り替わります。被告人勾留は、保釈が認められない限り、通常、裁判が終わるまで続きます。

大麻の栽培など薬物犯罪は長く拘束される
大麻栽培などの薬物犯罪は、売人や客との口裏合わせや、薬物自体を破棄するなど、証拠隠滅のおそれが高いです。そのため、薬物犯罪で逮捕された場合、ほとんど勾留されると考えて間違いありません。令和2年度版犯罪白書によると、令和元年における大麻事件の勾留請求率は約98.6%、勾留認容率は約97%です。
また、押収した物の鑑定に時間がかかるため、勾留期間も長くなってしまうでしょう。勾留中は、証拠隠滅のおそれから接見禁止が出されることも珍しくありません。接見禁止が出されると、たとえ家族であっても被疑者と面会ができなくなります。弁護士だけが接見禁止中でも接見できるため、なるべく早く相談しましょう。
大麻の栽培で逮捕後に弁護士ができること
薬物事件は直接的な被害者が存在しないため、被害者と示談し、不起訴処分を目指すといった弁護活動はできません。また、大麻の栽培で逮捕されている以上、証拠は押さえられているはずなので、嫌疑なし・嫌疑不十分での不起訴処分は考えにくいでしょう。もっとも、起訴猶予による不起訴処分の可能性はあるため、検察官に被疑者の有利な事情を訴えていきます。
さらに弁護士としては、大麻栽培事件で有罪判決が出たとしても執行猶予がつくような弁護活動をしていきます。執行猶予付きの判決が出れば、刑務所に入らずに通常の生活を送ることが可能です。大麻の栽培で執行猶予付きの判決を目指すには、なによりも営利目的で起訴されないことが大切です。起訴前から検察官に働きかける必要があるため、早急に弁護士にご相談ください。
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