
大麻は、諸外国では合法な国もあるため軽く考えられることもありますが、日本では厳しい刑罰が予定されている犯罪です。一方で、大麻で逮捕される有名人のニュースは後を絶たず、最近も有名芸能人やアイドル、オリンピックにも出場したスポーツ選手など、身近な薬物事件と捉えられがちです。
有名人の刑罰も話題になりますが、大麻は有名人だけの犯罪ではありません。大麻の刑罰はどのくらいなのか、執行猶予の可能性はあるか等、量刑の相場や前科がついた場合の影響について解説します。
なお、当記事で記載の未成年(少年)とは20歳未満の少年のことであり、民法上の成人(民法第4条)とは異なります。

※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は有料となります。
大麻の刑罰|犯行態様で処罰のパターンがわかる
大麻の所持・譲渡・譲受の刑罰
免許等なく個人で使用する目的で大麻を所持した場合や、売ったり(譲渡)購入(譲受)した場合の刑罰は、5年以下の懲役刑です(大麻取締法24条の2第1項)。罰金刑はなく必ず懲役刑になります。大麻の所持・譲渡・譲受で逮捕された場合は、早急に弁護士に相談し罪を軽くする活動を依頼して下さい。
所持は、自分の支配下に大麻があることをいい、携帯する場合に加え車や家で保管する場合も含みます。所持量が微量の場合は、大麻草なら不起訴の場合もありますが、濃度が高い樹脂だと通常起訴されます。路上で売買中に現行犯逮捕されたり、ネットの売買記録から通常逮捕されるケースが大半です。
大麻の栽培・輸出・輸入の刑罰
免許等なく個人使用目的で大麻を栽培したり、輸入や輸出した場合の刑罰は、いずれも7年以下の懲役刑です(同法24条1項)。罰金刑はそもそもないので必ず懲役刑になります。栽培や輸出入は社会に与える害悪が大きいことから、所持等に比べて重い刑罰になり、量刑は量や行為態様などが考慮されます。
栽培は、種まきから収穫までの行為をいい、種を撒けば既遂です。大麻種子は規制対象外ですが、輸入した種子と栽培道具などを持っていると、大麻栽培の予備罪で逮捕される可能性があります。輸出入では、税関で大麻が発見されたり、追跡された大麻が配送され受領した時点で逮捕されるケースが多いです。
営利目的の場合、刑罰は重くなる?
個人使用でなく、営利目的が認められると、刑罰は重くなります。営利目的の大麻の所持、譲受・譲渡の刑罰は、7年以下の懲役刑に加え情状により200万円以下の罰金も科される場合があります。栽培や輸出入の刑罰は10年以下の懲役刑に加え情状により300万円以下の罰金も科される場合があります。
営利目的があるかどうかは、大麻の量や売買金額等から判断されます。個人使用目的で所持していた場合でも、量が多ければ営利目的が疑われるケースもあります。営利目的が疑われた場合は、早急に弁護士に相談し、証拠を示して営利目的がないこと主張する弁護活動をしてもらうことが大切です。
大麻で懲役刑になる可能性はある?
大麻事件では、懲役になる可能性があります。大麻取締法で禁止される行為は、大麻の所持、譲渡・譲受、栽培、輸出入の4つですが、どの場合でも懲役刑しかなく、軽い罰金刑はありません。営利目的の場合は罰金の規定もありますが、懲役刑とダブルで科されるだけで、罰金刑で終わることはありません。
大麻で有罪になり懲役刑の判決を受けても、初犯で悪質性が高くないような場合は執行猶予がつく場合も多いです。しかし、再犯の場合は実刑になる可能性が高く、特に大麻で執行猶予付判決を受けてから5年以内の再犯では、原則として執行猶予を付けられないのでほぼ確実に実刑になり刑務所に入ることになります。
大麻の使用で刑罰が科されないのはなぜ?
大麻を使用しても、日本では刑罰が科されません。これは、昔から大麻が衣料の繊維や食品材料として利用栽培されてきた歴史があること、また法で禁止されていない茎や種子等の使用で陽性反応が出た場合に誤って処罰しないようにすることが主な理由です。なお、現在は栽培や利用は免許制になっています。
しかし、大麻を使用する際は、通常は前提として大麻を購入したり所持しているため、使用で刑罰が科されなくても所持や譲受で逮捕され刑罰を受けることは少なくありません。ネットや売人の記録から捜査されることもあるので、使用だけなら安心と思わず、大麻に関与した場合は弁護士に相談して下さい。
大麻で有罪になったら?|前科がついたときの影響
大麻で前科がつくのはどの段階から?
前科とは、有罪判決を受けて確定したことをいいます。大麻事件の場合、懲役刑、または営利目的がある場合に情状によって懲役と罰金刑の両方が科されるケースしかありません。そこで、大麻事件では、懲役刑等の実刑判決を受けるか、執行猶予付きの判決を受けて確定した場合に前科がつくことになります。
日本では、裁判で無罪になる確率は0.1%と言われています。そこで大麻で前科を防ぐには、そもそも裁判を防ぎ不起訴処分を目指すことが重要です。そのためには、弁護士に依頼して、悪質性の低さ、本人の反省や再犯防止に向けた活動、家族の支援があること等を検察官に伝えてもらうことが大切です。
大麻の逮捕・前科は学校にバレる?
大麻で逮捕されると、学校にバレる可能性があります。未成年が逮捕された場合、警察は基本的に親元に連絡をするので学校に連絡するのは稀ですが、身柄拘束が長期化しやすいので学校に行けずバレる場合があります。また、20歳以上の大学生が逮捕された場合は、氏名や学校名が報道される場合があります。
大麻の前科は、原則として学校にバレることはありません。前科の履歴は警察・検察、本籍地の市区町村に保管されていますが、第三者はもちろん本人も開示できない秘匿情報として管理されています。ただし、医学部生が国家試験に合格し医師登録をする際の申請書等から学校に知られる等の場合があります。
大麻の逮捕・前科で会社に解雇される?
一般企業の場合、大麻の逮捕で会社に解雇されるかは、会社が定めている就業規則によります。懲戒解雇には至らないとしても、私生活上の犯罪行為をしたとして、普通解雇の対象になる可能性は小さくありません。また、身柄拘束が長期化することで会社を辞めざるを得なくなる可能性もあります。
大麻の前科で解雇されるかも、逮捕と同様に会社の就業規則によります。ただ、大麻の前科がある場合、就職や転職の場合に伝えるかが問題になります。会社に情報を求められても応じるかは本人の自由意思ですが、隠したこと自体が、会社によっては解雇事由になる可能性があるので注意が必要です。
大麻の前科で就けない仕事はある?
前科により就けない職業は多いです。罰金刑以上で制限を受け例外的に許される資格(相対的欠格事由)と、禁固刑以上で例外なく制限される資格(絶対的欠格事由)があります。どちらも執行猶予期間中は制限を受け、資格によっては実刑期間が満了してもその後最長10年の制限を受ける場合もあります。
大麻は懲役刑のみのため、以下のように相対的・絶対的欠格事由の両方に該当します。
- 相対的欠格事由:医師、看護師、薬剤師、保健師、調理師、柔道整復師等
- 絶対的欠格事由:公務員、自衛隊、保育士、社会福祉士、古物商、士業全般等
資格制限を避けるには、弁護活動で不起訴を目指すことが重要です。
大麻の刑罰でパスポートがとれなくなる?
日本では、前科があっても原則パスポートを取得できますが、例外的に以下の場合にはパスポートが取れない場合があります(旅券法13条1項2号、3号)。
- 死刑、無期、2年以上の懲役刑の罪で起訴されたり逮捕状等が出されている人
- 禁錮以上の刑で服役するか、仮釈放や執行猶予中等の人
大麻取締法の主な刑罰は2年以上の懲役刑であるため、上記の両方に該当します。そのため、大麻事件で逮捕状が出されている場合や、起訴された場合、執行猶予期間中の場合、有罪判決を受けて服役中の場合は、パスポートが取れません。このような制限を避けるためにも、やはり不起訴の獲得が重要になります。
逮捕されただけで前歴がついたときの影響は?
前歴とは、被疑者として警察や検察などの捜査機関から捜査の対象になった事実をいいます。逮捕されただけの場合や、不起訴処分になった場合でも前歴はつきます。また、未成年の時に保護観察処分を受けたり少年院に入った等の経歴も前歴にあたります。一方、有罪判決が確定すると前科が付きます。
前科がつくと、上記のように資格やパスポート取得で制限を受ける場合がありますが、前歴がついても生活への影響はありません。一般人はもちろん、会社や学校が前歴を調べることはできません。前科と前歴では影響に大きな違いがあるので、前歴が前科にならないように、早急に弁護士に相談しましょう。
大麻での刑罰を軽くするために
再犯・前科ありだと大麻の刑罰は重くなる?
大麻を含む薬物事件では、同種前科・前歴があると刑罰が重くなります。常習性が認められ、情状が悪くなるからです。前回の大麻で不起訴になっても、再犯の場合の不起訴は困難です。また、前回の事件からの期間も影響し、執行猶予付の懲役刑の判決を受けてから5年以内の再犯の場合はほぼ実刑になります。
執行猶予中の再犯の場合、今回の判決が1年以下の懲役刑で、特に酌量すべき情状があれば、再度の執行猶予が可能です(刑法25条2項)。大麻の単純所持等では再度の執行猶予も期待できますが、再犯防止の取組みが不可欠です。取組みを見える化し、弁護士に十分主張してもらうことが大切です。
自白・反省を示すことで刑罰は軽くなる?
2020年、俳優の伊勢谷友介氏が大麻所持で逮捕・起訴されたニュースが記憶にある方も多いのではないでしょうか。約40回分の使用量に相当する20gという量が押収されたにもかかわらず、入手経路を明らかにしなかったことが、反省の情がないとして量刑に影響するのではないかと話題になりました。
実際は、大麻での反省や再犯防止対策を見える化することが重要です。具体的には、大麻の入手ルートを包み隠さず打ち明けたり、薬物を断ち切る病院や講習に通うことなどです。犯行の証拠が明白なのに否認したり、裁判で言葉を濁すと、再犯の恐れや大麻への未練が推認され罪が重くなる可能性があります。
大麻事件での執行猶予を目指す
大麻事件では、懲役刑か、懲役に罰金がプラスされる刑罰しかありません。大麻で執行猶予付き判決を得て、刑務所行きを避けるには、再犯しないことを裁判官に十分に理解してもらうことが重要です。執行猶予付判決をもらえれば、前科は付くものの、一定期間無事に過ごせば刑務所に入らずに済みます。
大麻の場合、初犯で個人使用目的の場合は執行猶予がつくことが多く、所持、譲受・譲渡の量刑相場は、懲役6か月〜1年で執行猶予3年です。ただし、営利目的、大量の所持、常習性がある場合等は実刑になりやすいです。弁護士と相談して準備を重ね、反省と再犯防止を伝える法廷弁護活動が重要です。
大麻で再犯しないために弁護士と家族にできること
大麻事件では、早期釈放や罪を軽くするために、再犯防止の取組をしっかり行い、その行動を見える化して検察官や裁判官に伝える弁護活動が不可欠です。一方で、大麻は再犯率が高い類型でもあります。それだけに、本人だけでなく、弁護士や家族も一丸となって再犯防止の取組を行うことが必要です。
具体的には、薬物専門の医療機関での治療を受けること、薬物のダルクなどの回復支援施設に入所して大麻依存を断ち切ることなどです。それらの医療機関の診断書や施設の入所証明書、家族のサポート体制などを、弁護士と協力して証拠化して提出することが再犯防止の取組みを伝えるために重要です。