交通事故を起こせば必ず刑事事件化するわけではありません。刑事事件になる可能性が高いのは、基本的に人身事故です。
この記事では、どのような場合に交通事故が刑事事件化するのかわかりやすく解説します。
また、不起訴になるポイントも解説します。早期に適切な対処方法をとれば不起訴の可能性が高まります。
「交通事故の加害者になってしまい不安」という方はぜひ参考になさってください。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
交通事故が刑事事件化するのはどんなとき?
ここでは、人身事故と物損事故に分けて交通事故が刑事事件化する場合を解説します。
人身事故が刑事事件化するのはどんなとき?
人身事故を起こした場合、主に自動車運転処罰法と道路交通法が適用されます。人身事故で成立しうる主な犯罪は以下の表のとおりです。
人身事故で成立する可能性のある犯罪
罪名 | 行為 | 罰則 |
---|---|---|
過失運転致死傷罪(自動車運転処罰法5条) | 自動車の運転上必要な注意を怠ること | 7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金 ※ただし、傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる |
危険運転致死傷罪(自動車運転処罰法2条) | 故意に一定の危険な運転を行うこと | ・人を負傷させた場合は15年以下の懲役 ・人を死亡させた場合は1年以上20年以下の懲役 |
救護義務違反(道路交通法117条2項・1項、72条1項前段) | 交通事故を起こしたにもかかわらず、負傷者を救護しないこと | 10年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
報告義務違反(道路交通法119条1項10号、72条1項後段) | 交通事故を起こしたにもかかわらず、警察官に報告しないこと | 3月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
人身事故を起こした後に現場から逃亡すると、「ひき逃げ」として刑事事件になる可能性が高いです。ひき逃げの場合、過失運転致死傷罪、救護義務違反、報告義務違反の3つの犯罪に該当する可能性があります。これら3つの犯罪で起訴されると、刑罰の上限は懲役15年になります。
また、故意に危険な運転をして人を死傷した場合、危険運転致死傷罪として重い刑罰が科されます。自動車運転処罰法2条が規定する危険運転致死傷罪に該当しうる行為は以下の6つです。
危険運転致死傷罪に該当する可能性のある行為
- アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為
- その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為(大幅なスピード違反)
- その進行を制御する技能を有しないで自動車を走行させる行為(未熟運転)
- 人又は車の通行を妨害する目的で、走行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の自動車の直前に侵入し、その他通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(あおり運転)
- 赤色信号又はこれに相当する信号を殊更に無視し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為(信号無視)
- 通行禁止道路を進行し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為
物損事故は刑事事件化しない?
物損事故を起こしただけであれば、原則として刑事事件化しません。
通常、他人の者を壊せば器物損壊罪(刑法261条)として処罰されます。同罪が成立するには故意が必要です。しかし、物損事故はわざと起こしたわけではないので故意があるとはいえず、器物損壊罪は成立しません。
もっとも、飲酒運転によって物損事故を起こした場合、酒気帯び運転や酒酔い運転の罪で刑事事件になる可能性が高いです。
また、自動車の運転者が、過失又は重過失により他人の建造物を損壊した場合、刑事責任が発生する可能性があります。この場合の刑罰は、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金です(道路交通法116条)。ここでいう「建造物」は、家屋又はこれに類するものを意味します。ガードレールや道路標識は「建造物」に含まれません。
交通事故事件の刑事手続の流れは?
交通事故で逮捕される基準は?
交通事故で逮捕されるかどうかの基準は、事故態様の悪質さ、過失の内容・程度、被害結果の大きさです。
逮捕の主な目的は、犯人の逃亡と証拠隠滅を防ぐことです。行為態様が悪質で、過失の程度が重く、被害結果が大きいほど刑事罰が重くなることが予想されます。その分、逃亡・証拠隠滅のおそれが高くなるので、逮捕される可能性も高くなります。
具体的には、ひき逃げによる死亡事故や被害者が重傷を負ったケース、危険運転致死傷の事案は逮捕される可能性が高いです。これらの犯罪は悪質性が高く、逃亡のおそれも高いからです。
一方、被害結果が小さい人身事故は、不起訴になることも多いため、逮捕の可能性は低いでしょう。
また、スピード違反の多くは反則金を支払えば刑事事件にはならないため、よほど悪質でない限り、逮捕されるおそれは低いです。
物損事故も通常は刑事事件にならないため、逮捕の可能性は低いです。
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交通事故で逮捕後の流れは?
交通事故で逮捕されるのは、通常逮捕(後日逮捕)と現行犯逮捕の場合が多いです。どちらの場合も、警察署に連行された後、取り調べを受けます。その後は留置場や拘置所で生活することになります。
逮捕後48時間以内に警察から検察官に事件が送致されます。送致後24時間以内に検察官が勾留請求するかどうか判断します。勾留が決定した場合、起訴・不起訴が判断されるまで最大20日間勾留されます。
交通事故で逮捕された後の流れ
交通事故で逮捕されなかった場合の流れは?
交通事故の場合、加害者が逮捕されないケースも多いです。典型例としては、被害者が軽傷の人身事故が挙げられます。また、逮捕されたものの、逃亡のおそれがないなどの理由で勾留されず釈放となるケースもあります。
これらのケースでは、被疑者は自宅で今まで通り生活することができます。ただし、無罪放免になったわけではく「在宅捜査」が続きます。
その後、被疑者を逮捕しないまま、事件の書類及び証拠物が検察官に送られます(書類送検)。
書類送検後、検察官が起訴・不起訴の判断を行います。一般的に、書類送検されてから半年以内に起訴・不起訴が決まるケースが多いようです。
注意していただきたいのは、在宅捜査になったからといって不起訴処分や執行猶予になると決まったわけではないということです。
在宅捜査期間中も、被害者への謝罪と賠償のため適切な対応を続けることが大切です。
また、捜査機関から呼び出しを受けた場合、素直に応じることも重要です。正当な理由なく呼び出しを繰り返し無視すると、逃亡のおそれありとして逮捕される可能性があります。
交通事故で逮捕されなかった場合の流れ
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交通事故で起訴される基準は?
交通事故の場合、主に以下の事情を考慮して起訴・不起訴が判断されます。
- 事故態様(相手が自動車か歩行者かなど)
- 過失の内容・程度(速度、安全確認の程度、ハンドル操作・ブレーキ操作などの適否、疲労・飲酒・薬物使用の有無など)
- 被害結果の重大性
- 示談の成否または被害弁償の有無
- 被害者の処罰感情
- 被害者側の過失
特に重要なのが、事故態様と過失の内容・程度です。人身事故の場合、示談の成否も重視されます。被害者の許し(宥恕)を得ている場合は、不起訴の可能性が高くなります。
交通事故で起訴後の手続きの流れは?
起訴すべきと判断されると、略式起訴または公判請求されます。ここでは、略式起訴と公判請求の違いを解説します。
略式起訴
略式起訴されると、裁判官が書面審理のみで略式命令を出します。法廷で刑事裁判が開かれることはありません。
令和元年の交通事故事件のうち略式起訴された割合は、過失運転致死傷等が10.8%、道路交通法違反が49.3%です(令和2年版犯罪白書)。
被害結果が軽微な過失運転致傷事案、時速30キロメートル以上の超過となるスピード違反事案などでは略式罰金となることが多いです。
略式起訴できる事件は、簡易裁判所の管轄事件で、100万円以下の罰金又は科料に当たる事件に限られます。被疑者に異議がないことも略式起訴の要件です。
略式起訴されると、逮捕から最大23日間以内に釈放されます。これに対し、正式な刑事裁判は、判決まで数か月かかることもあります。
略式起訴で罰金刑を科された場合も前科はつきます。したがって、前科をつけないためには不起訴を目指すことが最も重要です。
公判請求
公判請求とは、正式な刑事裁判における審理を求めることです。
令和元年の交通事故事件のうち、公判請求された割合は、過失運転致傷等が1.3%、危険運転致死傷が70.1%、道路交通法違反が2.8%です(令和2年版犯罪白書)。
被害者が死亡・重傷を負った重大事故、飲酒の上での人身事故などは公判請求される可能性が高いでしょう。
公判請求されると、通常、起訴後およそ1カ月以内に第1回の刑事裁判が開かれます。争いがなければ、1回で結審して判決に至ることが多いです。過失の内容等に争いがあれば、審理期間は数か月に及ぶこともあります。
交通事故が刑事事件化したら弁護士へ相談
交通事故の加害者になってしまった場合、できる限り弁護士に相談することをおすすめします。ここでは、弁護士に相談する具体的なメリットを解説します。
示談による不起訴が期待できる
交通事故が刑事事件化した場合に重要なのは、示談交渉を保険会社任せにしないことです。
その理由は、保険会社による示談交渉は成立までに時間がかかるからです。被害者が怪我を負った場合、後遺症が残るケースも少なくありません。その場合、後遺障害等級が決まってからでないと、保険会社による示談金は支払われないのです。後遺障害等級が決まるまでには、数年かかることもあります。したがって、保険会社による示談を待っているだけでは、刑事責任を軽減する効果は期待できません。
そこで頼っていただきたいのが弁護士です。弁護士は、ご依頼直後から示談交渉を開始します。
被害者の心情に十分配慮しつつ、適切な金額で示談が成立するよう丁寧に交渉を進めます。また、被害者の許し(宥恕)が得られるよう最善を尽くします。加害者の作成した謝罪文を弁護士から被害者にお渡しすることもあります。
示談成立が困難な場合でも、被害弁償やお見舞金の支払いを提案するなど、事案に応じて柔軟な弁護活動を行います。示談に限らず、一定の金銭賠償が行われた事実は、不起訴の判断に当たり有利に考慮されます。
交通事故の示談交渉は、被害者の処罰感情が厳しく成立が困難なことも少なくありません。だからこそ、刑事弁護の経験豊富な弁護士に依頼するメリットは大きいといえます。不起訴を実現したい方は、ぜひ早期に弁護士にご相談ください。
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身柄拘束からの早期解放が期待できる
交通事故を起こし逮捕されてしまった場合でも、弁護士に依頼すれば早期釈放が期待できます。早期釈放のポイントは、逃亡と証拠隠滅のおそれがないと説得的に示すことです。
例えば、定職についていることや、同居家族が身元引受を誓約していることなどを書面にまとめ提出します。また、保険証券の写しを提出したり、示談交渉の経過を報告し金銭賠償がされる見込みであることも検察官に説明します。
執行猶予など刑罰の軽減が期待できる
起訴された場合でも、執行猶予付き懲役刑が言い渡されれば直ちに刑務所に行く必要性はありません。弁護士は、事故態様や過失の内容を精査し、執行猶予など加害者の刑事責任が軽減されるよう尽力します。
まずは捜査機関が集めた証拠を吟味し、検察官の主張する事故態様や過失の内容に問題がないか検討します。場合によっては、現場を調査したり、関係者から事情を聴き取ります。これらの弁護活動を通じ、事故態様が悪質でないことや被告人の過失の程度が重くないことを裁判で主張します。
もちろん、示談の成立や被告人の反省など重要な情状も裁判官にわかりやすく伝えます。
交通事故の刑事裁判で刑罰の軽減を実現するには、刑事弁護の経験豊富な弁護士への依頼が不可欠です。
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