交通事故を起こすと、刑事・民事・行政の3つの分野で責任を問われるケースがあります。
- 刑事:交通犯罪として罰金刑や懲役刑に処される刑事責任
- 民事:被害者への損害賠償責任
- 行政:免許停止や免許取り消しなどの行政処分
特に人身事故の加害者となってしまい、警察の捜査を受けている場合、「逮捕をされたり懲役刑になってしまうのではないか」「被害者への謝罪はどうすれば良いのか」など心配になり、どうしてよいか分からないかと思います。
事故加害者としての刑事処分について心配な場合は、刑事事件に特化した弁護士へ相談してください。
保険会社を通して示談を進めている場合でも、交通事故事件の刑事処分が科せられる恐れがあります。ご自身やご家族が交通事故の加害者となってしまったら、早急に刑事事件の相談窓口まで連絡しましょう。
この記事では、交通事故の刑事責任を中心に、交通事故の加害者が無料で弁護士相談できる窓口や、弁護士相談のメリットとポイントについて解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
交通事故加害者が負う3つの責任(刑事・民事・行政)
交通事故の加害者は、刑事・民事・行政という3つの責任を負います。それぞれに手続きやその責任内容が異なりますので、法律の専門家である弁護士に相談しておくことが大切です。
弁護士によって取り扱う分野も変わってきますので、ご自身の一番の心配事がどれなのかを把握することは、適切な相談先を見つけるためにも重要です。
交通事故加害者の「刑事責任」の内容
交通事故によって被害者に怪我を負わせたり死亡させたりすると、刑事事件として、罰金刑や懲役刑に処されて前科が付く可能性があります。
交通事故を警察が把握した時点から、刑事事件としての手続きが始まります。逮捕・勾留されることもあります。そうなると、起訴・不起訴の判断が下るまでの間、最大で23日間は警察署の留置場で生活をすることとなり、自宅に帰ることはできません。
逮捕に至らなかったり、逮捕されたとしても釈放されて在宅捜査という形になることもあります。
どちらにしても、事件は警察から検察官に引き継がれ、起訴・不起訴という刑事処分が行われます。起訴されると刑事裁判にかけられ、有罪になれば懲役刑や罰金刑に服することになります。有罪判決が確定すると、前科がつきます。
交通事故は早い段階で弁護士に相談し、不起訴を目指したり、裁判になっても執行猶予がつくよう活動を尽くしてもらうことが大切です。
交通事故加害者の「民事責任」の内容
交通事故加害者の「民事責任」とは、簡単にいうと、被害者に損害賠償(示談金)を支払う責任です。
示談金の項目には、被害者の怪我の治療代、通院にかかる費用、休業損害、慰謝料など様々なものが含まれます。 任意保険に加入していれば保険会社が示談交渉をしてくれますが、保険未加入であれば弁護士のサポートを受ける必要性が高いでしょう。
交通事故加害者の「行政責任」の内容
交通事故を起こすと、免許の違反点数が加算されたり、免許停止や免許取消しとなる場合があります。この処分が、加害者が負う「行政責任」になります。
免許に関する処分は、今後、車を運転できるかどうかに関わります。仮に、免許取消しに不服がある場合には、法律に基づいて不服申し立ての手続きを行う必要があります。これには法律知識が求められますので、弁護士に相談のうえ、対応を検討するとよいでしょう。
交通事故の加害者が無料で弁護士相談できる窓口
日弁連交通事故相談センター|民事責任を相談
交通事故の加害者側となってしまった場合、日弁連の運営する交通事故相談センターで、民事責任に関する相談を行うことができます。
民事責任に関する相談とは、事故の過失割合について不満がある場合の対応方法や、損害賠償金の算定、見舞金や治療費の支払いなどについての相談のことを指します。
日弁連の交通事故相談センターは、電話でも対面でも相談可能ですが、電話相談の場合は10分前後の相談となり、対面の場合は30分の無料相談を原則5回まで受けられます。
時間が限られてるため、相談に向かう場合には、不安に思っている内容や懸念点をリストアップしておくとよいでしょう。
もっとも、任意保険に加入している場合には、被害者との民事上の損害賠償は保険会社が代行します。示談成立まで、保険会社に対応を一任する加害者の方がほとんどです。
保険会社の進める示談に不満があったり、過失割合に納得できなかったりした場合には、交通事故相談センターを利用して弁護士相談することができるでしょう。
詳細は日弁連の公式サイトをご確認ください。
都道府県や市の交通事故相談所|民事責任を相談
各都道府県をはじめとした自治体の相談所も、事故の加害者側が民事責任を無料相談できる窓口です。
相談できる時間や回数などは各自治体によって異なりますが、無制限に相談できる自治体はないため、相談内容は事前に整理しておいた方がよいでしょう。
自治体によっては、弁護士が輪番制で対応している自治体もあります。ご自身がお住まいの地域の役所のサイトを確認してみてください。
弁護士(法律事務所)|刑事責任を相談
日弁連や自治体の相談窓口では、主に民事関係の問題について相談可能ですが、刑事処分についての相談を受けてもらうことはできません。
そのため、事故の加害者として逮捕されるのか、罰金刑や懲役刑が科せられる可能性はあるのかなど、刑事責任について気になる方は、刑事事件を取り扱う法律事務所に相談してみてください。
刑事事件に強い弁護士であれば、「加害者に対する刑事処分を望まない」旨の嘆願書を作成してもらったり、刑事処分に関する示談を別途締結したりするなど、刑事処分を回避するための対策をスムーズに行うことができるでしょう。
アトム法律事務所は交通事故加害者の弁護実績が豊富
アトム法律事務所は、交通事故事件をはじめとした、刑事事件の加害者弁護に特化した法律事務所です。
被害者との示談交渉や警察・検察との調整など、刑事処分を最大限軽減するためのノウハウを熟知しています。
ここでは、交通事故事案で不起訴を獲得した実例をご紹介します。
路上での過失運転致死傷(不起訴処分)
信号のある交差点において、自動車で右折中に横断歩道を渡っていた被害者と衝突。被害者に全治3週間の怪我を負わせた過失運転致傷の事案。
弁護活動の成果
保険会社による民事賠償が長引く見込みであったため、被害者に別途謝罪を尽くした結果、嘆願書を得ることができ検察官に提出。不起訴処分となった。
示談の有無
あり(嘆願書)
最終処分
不起訴
事故の状況などにもよりますが、原則として、交通事故の被害者に対して加害者側から示談について働きかけるべきではありません。当事者同士だと互いに冷静に話し合うことができないケースもあります。
刑事処分についての不安を解消したい事故加害者の方は、交通事故事件の解決実績が豊富な法律事務所に連絡することをおすすめします。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
交通事故の加害者が弁護士に相談するメリット
交通事故加害者が弁護士に相談・依頼するメリットは、「刑事処分の見込みがわかる」「取り調べ対応が分かる」「逮捕・勾留を回避する弁護活動をしてくれる」「被害者と適切な示談ができる」などが挙げられます。
刑事処分の見込みがわかる
交通事故で警察の捜査を受けたり逮捕されたりしても、不送致や不起訴になれば前科が付くことはありません。
また、起訴されて裁判で有罪となったとしても、その結果は罰金刑・執行猶予判決・実刑判決など事案によって様々です。
不送致や不起訴となりやすいのは、事故態様が軽微であったり、運転に過失が認められないようなケースです。
一方、ひき逃げであったり、飲酒運転や無免許運転で人を死傷させてしまったような悪質な事案では、かなり重い処分となることもあります。
ご自身がどうなるのかの処分の見込みは、具体的な事故の内容によって変わってきます。交通事故の刑事弁護経験が豊富な弁護士に相談することで、ご自身のケースについて、処分の見通しを教えてもらうことができます。
今後の見通しが分かれば、どうすれば良いのか、弁護士に依頼すべきなのか、指針を立てることができます。例えば、まだ発覚していない事故であれば「自首すべきかどうか」を検討したり、事故で被害者を死傷させてしまった場合の「被害者への謝罪はどうすれば良いのか」といったことについても事案に即した弁護士の助言を貰うことができます。
取り調べ対応が分かる
弁護士に相談をすれば警察や検察の取り調べ(事情聴取)への対応方法がわかります。
例えば、事故に気が付かずそのまま走り去ってしまったのであれば、ひき逃げにはなりません。しかし、取り調べをする警察は、接触したことを少しは認識していただろうと追及してくる可能性があり、慎重な対応が求められます。
曖昧な部分を、警察の誘導通りに供述をしてまうと、調書が証拠として成立し取り返しのつかない結果を生んでしまう可能性があります。取り調べでは自身の記憶にある事実のみを話すようにしてください。
供述調書は一度サインをしてしまうと、あとから覆すことができません。取り調べには弁護士の助言を受けてから臨むことが望ましいでしょう。
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・交通事故事件の加害者はどうなる?取調べの対応は?弁護士解説
逮捕・勾留を回避する弁護活動をしてくれる
重大事故を起こした場合は逮捕・勾留によって身柄拘束される可能性が高くなります。
弁護士に依頼することで、検察官や裁判官に勾留しないよう申し入れてもらったり、勾留決定後でも準抗告によって勾留の取消しを求めるなど早期釈放に向けた弁護活動をしてもらうことができます。
また、逮捕前に弁護士に依頼すれば逮捕を防ぐための弁護活動に注力してもらえるケースもあるため、交通事故でお悩みの方はぜひ弁護士までご相談ください。
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・勾留とは何か。勾留手続きや拘留との違いは?早期釈放を実現する方法
・逮捕されたら弁護士を呼ぼう|勾留期間はいつまで?弁護士を呼ぶメリットとは
被害者と適切な示談ができる
交通事故の示談は保険会社に任せているという方が大半かと思います。しかし、実は刑事処分については保険会社との示談とは別に刑事事件としての示談をすることも検討する必要があります。
刑事事件では適切に示談ができれば、被害が回復している事実と被害者の処罰感情が緩和している事実を勘案され、検察官から不起訴処分を下される可能性が高まります。もしも起訴されたとしても、刑が軽くなる見込みがあります。
しかし、保険会社の示談は賠償金の支払い(被害の回復)のみをカバーするもので、格別被害者に事件を許してもらうという意義は持ちません。そのため、刑事事件としての示談によって被害者に事件を許してもらう必要があります。刑事処罰を求めないという嘆願書が得られればもっとも良いでしょう。
また、通常保険会社の示談は、被害者の治療が終了し損害額が確定してから行われますので、刑事処分に間に合わない可能性があります。
弁護士は、被害者への示談金の支払いを誠意をもって行い、それを捜査機関に報告し、刑事処分を決める際の資料としてもらうよう検察官と交渉します。検察官は、被害者の怪我の程度や被害感情、加害者の反省の態度をみて起訴・不起訴を検討するため、加害者の示談状況の報告はとても重要です。
被害者対応を放置したり、被害者への示談金を支払わない場合、加害者は刑事手続きの中で「反省していない」「被害者に誠意をもって応じていない」とみなされ処分が重くなる可能性があります。
交通事故の不起訴については『交通事故で不起訴になるケースとポイントとは?交通事故事件の不起訴率は?』で詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
交通事故加害者の弁護士相談のポイント
交通事故の加害者になってしまった場合、どの弁護士に相談するのがベストでしょうか。
被害者向けの交通事故の示談交渉を取り扱う弁護士事務所は数多くありますが、交通事故加害者のの弁護を積極的に取り扱っている弁護士事務所は実はあまり多くはありません。
弁護士事務所を探す際には、①交通事故加害者の相談を積極的に受けているかどうか、②刑事事件の解決実績が豊富かどうかを確認すると良いでしょう。
交通事故加害者の刑事弁護の相談はお近くの弁護士事務所まで
交通事故の加害者となったときは、まずはお近くの弁護士事務所にてご相談されることが望ましいといえます。
民事の示談交渉の依頼であれば、遠隔地からでも郵送等で対応している弁護士事務所も多いです。しかし、刑事事件のでは警察署や裁判所に出向いたり、直接のやりとりが必要になることもあります。
迅速かつ小回りの利く対応を可能とするためには、刑事事件で遠方の法律事務所へ依頼することはあまり適切ではないでしょう。
アトム法律事務所では、全国主要都市に支部を持っており、刑事事件の相談は全国から受け付けています。交通事故の加害者相談を数多く取り扱ってきた実績もあり、加害者の当事者やそのご家族に安心してご相談を受けていただける環境が整っています。被害者との示談交渉をはじめ、刑事弁護活動など、交通事故加害者のサポートが充実していることでも評価をいただいている弁護士事務所です。
交通事故の無料相談は【電話】【対面】【メール】から
交通事故の加害者が相談をする際、「無料相談が受けられる」「相談方法が選択できる」というのも、チェックしておきたい点です。
アトム法律事務所は加害者の方の置かれている立場によって、無料相談をできるだけ早くお受けいただけるご案内をしています。また、24時間、365日、電話やメールで相談予約を受け付けていますので、ご都合に応じて問合せをしていただくことが可能です。
交通事故の中でも、刑事事件としての手続きは待ったなしで進んでいきます。その中で迅速に、適切な被害者対応を進める必要があり、弁護士相談は早い段階で受けておくことが望ましいです。夜中や休日に、突然交通事故の加害者になってしまったという方でも、24時間電話がつながる弁護士事務所があります。まずは、無料相談の案内をお受けください。
交通事故加害者でも弁護士費用特約を利用できるのか
弁護士費用特約の補償範囲は、それぞれの特約の内容次第ですので、まずは約款を確認してください。
一般的には、刑事事件の弁護活動で弁護士費用特約を利用することはできません。
刑事事件の加害者の方でも利用できる保険商品を販売している保険会社も中には存在しますが、一般的な自動車保険の場合、弁護士費用特約は民事事件の弁護活動にのみ対応しています。
民事の賠償責任についても、自身の過失が100%であれば弁護士費用特約の利用はできません。そうではなく、相手方にも一定の過失がある場合には、交通事故の加害者であっても弁護士費用特約を利用できることが多いです。
交通事故加害者の弁護士は「刑事事件の示談交渉の実績」で選ぶ
交通事故の加害者が弁護士を選ぶときには、示談交渉の実績を基準にするとよいでしょう。交通事故は被害者に怪我をさせる、死亡させるなど、深刻な被害結果を生じさせるケースがあります。
示談をするにしても、そのタイミングや方法を間違えると、被害者の感情を害してしまい、その後の示談交渉ができなくなることも考えられます。
被害者の置かれた状況に最大限配慮をしながら、誠心誠意、謝罪や賠償を尽くすことが加害者には求められます。それには単に示談経験がある弁護士に相談するというだけでは不十分といえるでしょう。
刑事事件の手続きがどの段階にあるかで、警察や検察官に主張すべき内容は異なります。交通事故事件は刑事裁判に発展することもありますので、刑事事件に詳しい弁護士に相談するという視点が大切です。
交通事故の加害者からよく寄せられる質問
交通事故加害者に科される刑罰は?
交通事故によって問われる刑事責任は、「道路交通法」によるものと「自動車運転死傷処罰法」によるものがあります。
「道路交通法」では自動車の運転に伴う義務違反が問題となり、「自動車運転死傷処罰法」では故意または過失によって被害者を死傷させたことについての刑事責任が問題となるでしょう。
事故加害者の刑罰①道路交通法違反
道路交通法72条1項では運転者の救護義務・危険防止義務・通報義務が規定されています。
事故を起こした場合は直ちに停止し、必ずケガ人を救護し、発炎筒や三角の表示板などを適切に使用して危険防止に務め、事故を警察に報告する義務があるのです。
特に死傷者のいる事故で、直ちに停止せず、救護義務・危険防止義務を怠った場合は一般に「ひき逃げ」と言われる犯罪になります。
ひき逃げの場合、「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処され、被害者の死傷の原因が加害者の運転にある場合は「10年以下の懲役又は100万円以下の罰金」に処されます(道路交通法第117条)。
また、事故後に警察へ通報しなかった場合は「3月以下の懲役又は5万円以下の罰金」に処されます(道路交通法119条1項10号)。
被害者がケガを負っていない物損事故の場合でも警察への通報義務は生じます。(見た目上は)被害者がケガを負っていなかったり、塀にぶつけたような事故でも必ず警察に連絡するようにしてください。
違反行為 | 結果 | 刑罰 |
---|---|---|
救護・危険防止義務違反(ひき逃げ) | 死傷 | 5年以下の懲役又は50万円以下の罰金 |
救護・危険防止義務違反(ひき逃げ) | 死傷 ※原因が加害者の運転にある場合 | 10年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
通報義務違反 | – | 3月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
事故加害者の刑罰②自動車運転死傷処罰法違反
過失によって、自動車の運転で人を死傷させた場合、過失運転致死傷罪が適用され、「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」に処されます(自動車運転死傷処罰法5条)。
自動車運転死傷処罰法にいう「自動車」には、通常の自動車やバイク、原付も含まれます。
飲酒運転など正常な運転が困難な状態で自動車を運転し、人を死亡させた場合にはより重い危険運転致死傷罪が適用されます(同法2条)。
危険運転にあたる行為
- 酒や薬物の影響下の走行
- 制御不能な高速走行
- 未熟な運転技能
- あおり運転
- 赤信号の殊更な無視
- 通行禁止道路の走行
また、酒や薬物、病気の影響によって、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で運転を始めたと認められた場合には準危険運転致死傷罪が成立します(同法3条)。
このほか、事故後にアルコール等の影響の発覚をおそれて、さらに酒を飲んだり、お酒を抜こうとした場合や、無免許運転であった場合にはより刑が重くなります。
違反行為 | 結果 | 刑罰 |
---|---|---|
過失運転 | 死傷 | 7年以下の懲役若しくは禁錮 又は100万円以下の罰金 |
危険運転 | 負傷 | 15年以下の懲役 |
危険運転 | 死亡 | 1年以上の有期懲役 |
準危険運転 | 負傷 | 12年以下の懲役 |
準危険運転 | 死亡 | 15年以下の懲役 |
ひき逃げの刑事責任についての補足
過失または(準)危険運転によって人を死傷させた者が、ひき逃げをすると、自動車運転死傷処罰法上の犯罪と道路交通法上の犯罪が両方成立します。
この場合の両罪は「併合罪」とよばれる関係になり、懲役刑の場合より重たい犯罪の刑期の上限が1.5倍された刑が科されます。罰金刑の場合は両罪の罰金上限額の合計が上限になります。
例えば危険運転で人を負傷させてひき逃げをした場合は、「22年6か月以下の懲役」となりますし、過失運転で人を死傷させてひき逃げをした場合、「15年以下の懲役または200万円以下の罰金」が科されることとなります。
交通事故加害者が刑事責任を問われる際の手続の流れは?
被害状況が軽微な交通事故の場合|在宅事件
重大な事故態様ではなかったり、ひき逃げや飲酒運転といった悪質な事案でなければ、事故後に逮捕される可能性は低くなります。
被害者が軽傷を負った程度の軽微な事故であれば、在宅捜査になるケースが大半です。
在宅捜査とは、身柄拘束されずに自宅で過ごしながら捜査を進められる手続きのことです。 一度逮捕されても、釈放されて在宅捜査に切り替わることもあります。
警察や検察から取り調べのための出頭要請があった場合は素直に応じる必要がありますが、それ以外は普段通りの生活を送ることができるため、仕事や日常生活にそれほど影響を及ぼしません。裁判になっても自宅から出廷しますので、逃亡したり実刑判決にならない限りは拘束されることはありません。
なお、検察庁から呼び出しがあった場合の対応方法は『交通事故で検察庁から呼び出しを受けた方へ|加害者の注意点』で解説しています。
初めて検察庁に行く方が大半だと思いますので、事前に心構えをするためにもぜひ上記のページをご参考になさってください。
被害状況が重大な交通事故の場合|身柄事件
被害者に重傷を負わせてしまったり、死亡させてしまったような重大事故や悪質な事案の場合は、逮捕・勾留される可能性が高まります。
逮捕・勾留によって身柄拘束された上で捜査が進められる事件を身柄事件といい、起訴・不起訴の判断が下されるまで最長23日間も身柄拘束されるケースがあります。
逮捕後の流れについてくわしく解説した以下の関連記事も併せてお読みください。
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交通事故加害者が負う賠償責任と示談・謝罪の方法は?
交通事故の加害者は、被害者に損害を賠償する責任を負います(民法709条,710条)。
支払う必要がある損害賠償
- 物損の修理費
- 治療費・入通院費等
- 休業損害
- 慰謝料
- 逸失利益
これらの損害賠償は、事故当事者の過失割合に応じて負担しなければなりません。
被害者に謝罪する際には保険会社に確認しよう
被害者へのお見舞いや謝罪を検討する際には、被害者感情を刺激してしまう可能性がある点にご注意ください。
とはいえ謝罪をしないと誠意も伝わりづらいと思うので、事前に加害者側の任意保険会社に謝罪に行ってもいいかどうか確認することをおすすめします。
場合によっては「任意保険会社の担当者も同行する」という条件付きで許可が出ることもあります。
また、謝罪へ行く際に手土産やお見舞金を持参する場合もあるかと思いますが、その際は「事故の賠償とは関係が無いお見舞いの品」であることを被害者に伝えた上で渡すようにしましょう。
そのような断りを入れておかなければ、受け取ったら許したとみなされてしまうのではないかという疑念を被害者の方に抱かれ、お見舞いの品を受け取ってもらえない可能性があるためです。
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交通事故加害者が自ら示談交渉をするのは困難
示談交渉は被害者の損害額が確定したタイミング(通常であれば症状固定後)から行い、交渉の場では当事者間で損害賠償の内容についてすり合わせていきます。
ただ、通常であれば加害者が加入している任意保険会社に示談交渉を任せることになるので、加害者本人が示談交渉や賠償金の支払を行うケースは稀です。
しかし、加害者が任意保険会社に加入していない場合であれば、自賠責保険で補償される上限額(120万円)を超過した賠償金や物損の弁償に関しては、加害者本人で示談交渉して負担もしなければなりません。
法律知識や賠償額に関する知識が無い状態で交渉をしても、被害者感情を刺激してしまったり、上手く話がまとまらずに時間だけがいたずらに過ぎていってしまうケースがありえます。
そのため、適切な賠償額を提示して早期解決を目指すのであれば、弁護士を代理人として示談交渉を行うことをおすすめします。
従業員の事故は使用者も賠償責任を問われる
会社の従業員が業務中に交通事故を起こした場合、使用者も「使用者責任」か「運行供用者責任」として民事上の賠償責任を負うケースが多いです。
運送会社のトラックやタクシー会社のタクシーが業務中に事故を起こしてしまった場合はもちろんながら、自車通勤を認めている場合における通勤途中の事故なども使用者は責任を負う可能性があります。
従業員と使用者が負担する損害賠償額の比率は従業員の過失の程度によって異なります。ただ、過去の裁判例から鑑みると、基本的には使用者が負担する割合のほうが高くなります。
具体的事例
タンクローリーを運転していた従業員の過失によって先行車に追突してしまった事案(最高裁昭和51年7月8日)では、使用者は従業員に対して賠償額の25%のみ求償する権利が認められました。
このように、従業員にある程度の過失があったとしても使用者のほうが賠償額を多く負担するケースは珍しくありません。
なお、従業員が交通事故を起こしたとしても使用者が刑事責任を負うことはありません。