
刑事事件を起こすと逮捕されるイメージが強いですよね。しかし、罪を犯せば必ず逮捕されるわけではありません。被疑者のうち身柄をとられた人の割合は、過失運転致死傷等及び道交法違反を除き、2019年が35.7%(令和2年版犯罪白書)、2018年が36.1%でした(令和元年版犯罪白書)。
逮捕されない場合、被疑者在宅のまま捜査が進む在宅事件として処理されることが多いです。在宅事件になると「書類送検」された後、検察官が起訴・不起訴の判断を行う流れが一般的です。
この記事では、逮捕と書類送検の基準をそれぞれ解説した後、交通事故の場合を例に逮捕の基準を具体的にご説明します。さらに、逮捕や起訴を回避する方法についても詳しくお伝えします。

※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は有料となります。
目次
逮捕の基準は?
逮捕には、通常逮捕、緊急逮捕、現行犯逮捕の3種類があります。逮捕は国民に重大な不利益を被らせる処分なので、許される基準が刑事訴訟法に厳格に規定されています。
いずれの手続きの場合も、逮捕後は警察署に連行され取調べを受けます。警察は、逮捕後48時間以内に、被疑者の身柄を捜査内容をまとめた書類と一緒に検察官に送致しなければなりません。
検察官は、引き続き身柄を拘束する必要があると認める場合、送致から24時間以内に裁判官に勾留請求します。その請求が認められると、被疑者は最長20日間身柄を拘束されることになります。
逮捕とその後の刑事手続の流れについてさらに詳しく知りたい方は、「逮捕されたら|逮捕の種類と手続の流れ、釈放のタイミングを解説」をぜひご覧ください。
通常逮捕の基準
通常逮捕は、裁判官があらかじめ審査して「これは被疑者を逮捕してもいい事案だ」と判断したときにだけ許されます。この場合、裁判官は逮捕状を発付します。
なぜ逮捕に裁判所が関与するのでしょう?それは、捜査から中立的な立場にある裁判所が関与することで、正当な理由のない身体拘束が行われるのを防止するためです。
通常逮捕できるのは、検察官、検察事務官、司法警察職員(司法警察員と司法巡査)です。一般的には、私服警察官が逮捕状を持って早朝に自宅にやってくることが多いです。早朝であれば、会社等に出勤する前なので被疑者が在宅している可能性が高いからです。
通常逮捕の基準は、①逮捕の理由(相当性)と②逮捕の必要性の2つです。
①逮捕の理由(相当性)
逮捕の理由とは、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」ことです。
「相当な理由」は以下の判例で示す通り客観的な証拠に基づいた嫌疑でなければなりません。
(略)逮捕の理由とは罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由をいうが、ここに相当な理由とは捜査期間の単なる主観的嫌疑では足りず、証拠資料に裏づけられた客観的・合理的な嫌疑でなければならない。(略)
大阪高等裁判所昭和50年12月2日
たとえば、複数人の目撃証言と被疑者の容貌が一致していたり、監視カメラに映像が残っている場合は客観的な証拠といえるでしょう。
②逮捕の必要性
逃亡のおそれ、または、罪証隠滅のおそれ等がある場合に逮捕の必要性は認められます。罪証隠滅には、証拠を壊したり隠したりすることはもちろん、被害者や目撃者を脅す行為も含まれます。
ただし、刑事訴訟規則143条の3に規定されている通り、逮捕の理由があったとしても明らかに逮捕の必要がない場合は、逮捕状が発付されることはありません。
第百四十三条の三 逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。
刑事訴訟規則143条の3
なお、30万円以下の罰金、拘留または科料にあたる罪については、住居不定か、正当な理由なく出頭要求に応じない場合に限り逮捕することができます(刑事訴訟法199条1項但書)。
第百九十九条 (略)ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
刑事訴訟法199条1項但書
具体的には、過失傷害罪や軽犯罪法違反などが対象になります。
緊急逮捕の基準
緊急逮捕の基準は、①法定刑の比較的重い犯罪、②犯罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由、③逮捕状を求める時間的余裕の欠如です。具体的には、殺人罪や傷害罪の他、器物損壊罪も対象になります。緊急逮捕の基準はかなり厳しいので、それほど頻繁に行われていません。
緊急逮捕の場合、逮捕状は不要です。その代わり、逮捕後直ちに逮捕状を請求する必要があります。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければなりません。
緊急逮捕できるのは、検察官、検察事務官、司法警察職員です。
現行犯逮捕の基準
現行犯逮捕の基準は、現行犯人であること又は準現行犯人であることです。準現行犯とは、例えば、返り血を浴びた服を着て逃げているとか、「この人が犯人です!」と言われながら追いかけられている者をいいます。
刑事訴訟法213条に規定されている通り、現行犯逮捕も逮捕状は必要ありません。さらに、逮捕後も令状請求は不要です。現行犯逮捕は、裁判官のチェックがなくても不当な身体拘束となるおそれがないと考えられているからです。
被疑者が犯罪を行ったことが明らかなので、私人でも現行犯逮捕することができます。
第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
刑事訴訟法213条、214条
第二百十四条 検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。
なお、現行犯逮捕した後はすぐに「地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員」に身柄を引き渡さなければなりません。警察官は司法警察職員に該当するので、通常は現行犯逮捕の直後に警察を呼ぶことになります。
労働基準法違反で逮捕されることもある?その基準は?
非常に珍しいケースですが、労働関係法規に違反する行為が確認され、労働基準監督署の是正勧告等に従わない重大・悪質なケースでは、労働基準監督官が経営者を逮捕することもあります。
「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う」(労働基準法102条)という条文が、逮捕権限の根拠になっています。
実際に逮捕されたケースとしては、最低賃金法違反や長時間労働による労災事故を起こした事案があります。いずれのケースも、再三の是正勧告や出頭要請を拒否したことが逮捕の基準となったようです。
逮捕されないとどうなる?書類送検の基準は?
全ての事件で被疑者が逮捕されるわけではありません。ニュースで「警察は、容疑者を〇〇罪の疑いで書類送検しました」と報道されているのを聞いたことがありますよね。ここでは、書類送検とはどのような手続なのか詳しく解説します。
そもそも「送検」って何?
書類送検についてお伝えする前に、そもそも「送検」とは何なのかご説明します。送検というのはマスコミ用語で、正式には「検察官送致」といいます。
検察官送致は、警察が捜査した事件を検察官に送ること。事件を扱う責任者が警察から検察官に替わると理解していただくとわかりやすいと思います。警察が捜査した事件は、原則として全て検察官に送致しなければなりません。
検察官送致には①身柄送致と②書類送検の2種類があります。なお、「身柄送致」も「書類送検」もマスコミ用語で正式な法律用語ではありません。
①身柄送致
被疑者の身柄と事件に関する書類及び証拠物を検察に送ること。警察は、逮捕後48時間以内に身柄送致しなければなりません。
②書類送検
被疑者を逮捕しないまま事件の書類及び証拠物のみ検察官に送ること。逮捕後に釈放されて書類送検になる場合もあります。
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書類送検になる基準は?書類送検後の流れは?
書類送検になる基準は、①被疑者死亡の場合、②逃亡または罪証隠滅のおそれがない場合です。
書類送検になったとしても、無罪になったわけではありません。ですので、書類送検後も逮捕されないまま捜査は続きます。最終的に検察官が起訴・不起訴の判断をします。
書類送検後、起訴・不起訴が決まるまで、期間の制約はありません。場合によっては1年以上経ってから起訴されるケースもあります。ですが、一般的には、書類送検されてから半年以内に起訴・不起訴の判断が下ることが多いようです。
一方、逮捕の場合、逮捕から起訴・不起訴の決定まで最長で23日間という制約があります。身体拘束は国民の権利を著しく制約するものなので、法律で厳しく歯止めがかけられているんですね。
書類送検になると留置場に入る?前科になる?逮捕歴になる?
①留置場に入る?
書類送検の場合、逮捕と異なり、手錠をかけられることも留置場に入ることもありません。書類送検後は日常生活を送ることができます。
②前科になる?
書類送検されても不起訴になれば前科になりません。前科になるのは起訴されて有罪判決が確定した場合だけです。前科がつく有罪判決は、死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留、科料の6種類です。
③逮捕歴になる?
書類送検は、逮捕ではないので逮捕歴にはなりません。前歴としては残りますが、前科のように免許取り消しなど資格制限を受けることはありません。
交通事故で逮捕される基準は?
逮捕と書類送検の基準が分かっても、実際の刑事事件ではどうなるのか気になりますよね。ここでは、誰しも当事者となる可能性がある交通事故を例に、逮捕される基準について解説します。
交通事故における逮捕の基準は「態様」と「結果」
交通事故で逮捕されるかどうかの基準は、行為態様の悪質さと、被害結果の大きさです。
逮捕の要件の一つに、逃亡または罪証隠滅のおそれがあります。行為態様が悪質で被害結果が大きいほど、刑罰が重くなることが予想されます。その分、逃亡や罪証隠滅のおそれが高まると考えられるため、逮捕の可能性が大きくなるのです。
それでは、交通事故で逮捕の可能性が高いケースと低いケースを具体的に見ていきましょう。
逮捕の可能性が高いケース
①ひき逃げ
ひき逃げによる死亡事故や、被害者が重傷を負ったケースでは逮捕される可能性が高いです。
ひき逃げは、救護義務を果たさず逃亡した点で悪質性が高い犯罪だからです。また、犯行直後に現場から逃走していることから、逃亡のおそれが高いと判断されすいです。
もっとも、ひき逃げでも被害者が軽傷の場合には、逮捕されないこともあります。
ひき逃げで逮捕されるとどうなるかさらに詳しく知りたい方は、「ひき逃げすると逮捕されるの?|逮捕されるとどうなる?前科はつく?」もぜひご覧ください。
②飲酒運転
飲酒運転は、自動車検問などで飲酒検知を受けた結果、基準値以上のアルコールが検出され現行犯逮捕となることが多いです。また、飲酒運転の上、追突事故を起こしたことから飲酒の事実が発覚し、現行犯逮捕となることもあります。
逮捕の可能性が低いケース
①物損事故、結果が軽微な人身事故
物損事故や被害者が軽傷の場合の人身事故は、不起訴となる可能性が高いです。したがって、逃亡や罪証隠滅のおそれは低いため、逮捕される可能性は低いでしょう。
②スピード違反
スピード違反のほとんどは反則金を納めることで刑事事件になりません。したがって、飲酒の上スピード違反を行うなど、よほど悪質な態様でない限り、スピード違反のみを理由に逮捕される可能性は低いでしょう。
交通事故で逮捕されないとどうなる?在宅事件で逮捕される基準は?
交通事故の場合、逮捕されずに在宅事件となることが多いです。在宅事件になると、逮捕されないまま捜査が進み、書類送検後に起訴・不起訴の判断が下る流れが一般的です。
注意してほしいのは、捜査機関から事情聴取のため呼び出しがあったときの対応です。正当な理由なく何度も無視すると、逃亡のおそれありとして逮捕されるおそれがあります。少しでも不安があれば、弁護士に相談することをおすすめします。
警察からの呼び出しに関連する記事
逮捕や起訴を避けたいなら弁護士にご相談を
逮捕や起訴を避けたいなら、少しでも早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、個別の問題に応じた最善の対策を立て弁護活動を行います。ここでは、弁護士に依頼するメリットをご紹介します。
示談により逮捕の回避が期待できる
逮捕を回避するため重要なのが示談の成立です。示談が成立すれば、逃亡のおそれや被害者を脅すおそれはないと判断されやすくなるからです。
示談には細やかな配慮と豊富な法的知識の両方が必要。ですから、示談交渉は刑事弁護の経験豊富な弁護士に依頼するのが最善の方法です。
弁護士に依頼すれば、加害者を許すという宥恕文言や、被害届は出さないという合意を含んだ示談交渉を進めることができます。このような内容の示談が成立すれば、逮捕の回避が期待できるだけでなく、刑事事件化を防ぐことにもつながります。刑事事件にならなければ、仕事への影響はなく日常生活を続けることができます。
示談により不起訴処分の可能性が高まる
逮捕も書類送検の場合も、その後の人生を大きく左右するのは起訴・不起訴の決定です。
不起訴にはいくつか種類があります。その一つに、犯罪の軽重や犯罪後の情状等を考慮して今回は起訴を見送る「起訴猶予」があります。犯罪後の情状として重要なのが示談の成立です。
弁護士に示談交渉を依頼することで、起訴猶予になる可能性が高まります。示談には時間を要する場合が多いので、できる限り早く弁護士に依頼することが不起訴を獲得するポイントです。