「痴漢で現行犯逮捕される証拠は?」「どのような証拠があれば後日逮捕されるのだろうか…」
痴漢事件で多いのは、その場で被害者が被害を申し出て、電車内や駅のホームで現行犯逮捕され、警察に身柄を引き渡されるというケースです。このようなケースでは、被害者や目撃者の供述、取調べでの自白などが有力な証拠となります。
その場では現行犯逮捕されずに済んだ場合でも、被害届の提出などを受けて捜査が進められ後日逮捕されるというケースもあります。後日逮捕の場合は、被害者や目撃者の供述のほか、繊維鑑定・DNA鑑定・防犯カメラ映像・改札の入出場記録などが証拠となり、捜査が進められます。
この記事では、痴漢の証拠となるものを現行犯逮捕の場合と後日逮捕の場合に分けて解説します。

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痴漢で現行犯逮捕される場合の証拠は?
現行犯逮捕は被害者によって行われる
痴漢の現場で被害の申し出があった場合、駅事務室に連れて行かれ、そこで鉄道警察に身柄を引き渡されることとなります。鉄道会社では、駅員は事情を聴かず、鉄道警察隊に通報して身柄を引き渡すことがマニュアル化されています。
警察に身柄を引き渡された時点ではじめて現行犯逮捕されたことになるとお考えの方もいらっしゃるかと思いますが、それは誤りです。
現行犯逮捕は、犯罪の行われている最中やその直後に行われ、被疑者(犯人)を取り違える可能性が低いことから、誰でも・逮捕状なしで行うことができるとされています(刑事訴訟法212条・213条)。したがって、法律上は、被害者に痴漢の被疑者であると扱われた時点で現行犯逮捕されたこととなります。
駅事務室で警察に身柄を引き渡されるのは、一般人が現行犯逮捕した場合には被疑者の身柄を引き渡さなければならないという、すでに現行犯逮捕が行われた後の手続に過ぎません(刑事訴訟法214条)。
現行犯逮捕者である被害者の供述が痴漢の重要な証拠となる
このように、現行犯逮捕を行うのは被害者自身ですから、この場合に重要な証拠となるのは被害者の供述です。痴漢で現行犯逮捕された場合、被害者の供述が信用できるかどうかで、起訴されるかどうか・有罪か無罪かの分かれ目になるといっても過言ではないほどです。
痴漢は、被疑者と被害者がお互いをまったく知らず、利害関係のないことがほとんどですから、被疑者をおとしめるために被害者がわざわざ嘘をつくはずがないと判断される傾向にあります(もちろん例外もあり、示談金を支払わせるために男女が協力して、女性が痴漢被害者・男性が目撃者を演じ、無実の人を痴漢の被疑者であると偽った冤罪の事例もあります)。
そのため、痴漢事件においては、被害者の供述は嘘ではないはずだという、被疑者にとっては不利な状況で判断される傾向にあると考えておかなければなりません。
被害者の供述が信用できるかどうかは、主に次のような点を基準として判断されます。
- 実際に痴漢の被害を受けた者でなければ話せないほど具体的・迫真的かどうか
- 重要な事項についての供述が痴漢被害の直後から一貫しているかどうか(痴漢被害直後の供述は「初期供述」と呼ばれ、特に重要な証拠です)
- 電車内の混雑具合や位置関係などから、被害者が被疑者を犯人と特定できる状況にあったかどうか
- 目撃者の供述などの他の証拠と整合するかどうか
目撃者の供述も痴漢の重要な証拠となる
第三者である目撃者がいる場合には、その供述も被害者の供述と同じくらい(場合によってはそれ以上に)重要な証拠となります。
痴漢の被疑者と第三者である目撃者との間には、利害関係がないことはもちろんのこと、被疑者と被害者という関係性すらありませんので、目撃者の供述は、被害者の供述以上に信用される傾向にあります。
被害者の衣服や持ち物も痴漢の証拠となる
被疑者が実際に痴漢を行ったのであれば、被疑者の身体(指や手のひら)に被害者の衣服の繊維が付着していたり、被害者の衣服や持ち物に被疑者のDNAが付着していたりすることがあります。
繊維の付着があるか確認することを「繊維鑑定」、DNAの付着があるか確認することを「DNA鑑定」といい、これらの鑑定結果は、被疑者や目撃者の供述を裏付ける客観的な証拠となります。
そのため、被害者の衣服や持ち物も、被疑者が痴漢の犯人であることを立証する証拠となるものです。
冤罪の場合も同様の証拠が重要となる
これまでお伝えした痴漢の証拠は、誤って痴漢の被疑者とされた冤罪の場合には、一転して無実を証明するための重要な証拠ともなります。
万が一、誤って痴漢の加害者とされてしまった場合には、直ちに弁護士に連絡してください。そして、被害者の初期供述を録音して確保する、自分が痴漢をしていないことを供述してくれている目撃者がいれば連絡先を聞いておく、被害者の衣服や持ち物の現状維持を警察に申し出るなどして、自身の無実を証明する証拠を確保するようにしてください。
取調べで「認めれば釈放されて罰金で済む」などと利益誘導されたとしても、虚偽の自白をして供述調書が作成されてしまうと、事後に撤回することが極めて困難で不利益な証拠となりますので、一貫して無実を主張しなければなりません。
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痴漢で後日逮捕される場合の証拠は?
その場では現行犯逮捕されずに済んだという場合であっても、被害者が事後に被害届を出し、そこから捜査が始まって後日逮捕されることもあり得ます。
後日逮捕につながる痴漢の証拠には、次のようなものが考えられます。
- 被害者の供述
- 目撃者の供述
- 電車内や駅ホームの防犯カメラ
- 改札の入出場記録
- DNA鑑定
- 繊維鑑定
- 被疑者が保有する痴漢関係の動画・画像・雑誌など
痴漢の証拠(後日逮捕)①被害者の供述
現行犯逮捕の場合と同じく、やはり被害者の供述は重要な証拠となります。
痴漢は、通勤・通学時の混雑した電車内で行われ、被疑者も毎日同じ時間帯・同じ車両に乗車することが多いですから、被害者の供述をもとに、痴漢の現場を現認すべく、警察による尾行捜査が行われることもあります。
尾行捜査が行われた場合には、尾行捜査の内容を記載した捜査報告書が作成され、これも痴漢の証拠として取り扱われることがあります。
痴漢の証拠(後日逮捕)②目撃者の供述
第三者である目撃者の供述も、被害者の供述と同じく、後日逮捕の場合でも重要な証拠となります。目撃者の供述によって、被害者の供述を裏付けるとともに、外見や特徴や服装などから被疑者の範囲を絞り込んでいくこととなります。
被害者と目撃者には利害関係がなく、口裏合わせをする理由がないのが通常ですので、被害者の供述と整合する目撃者の供述の数が多ければ多いほど、被害者の供述の信用性は高まることとなります。
痴漢の証拠(後日逮捕)③電車内や駅ホームの防犯カメラ
被害者や目撃者の供述によって被疑者をある程度絞り込むことができれば(または被害者や目撃者への事情聴取と並行して)、電車内や駅ホームなどの防犯カメラの映像が収集されます。
防犯カメラの映像に痴漢の現場そのものが映っていれば、それが直接の証拠となります。痴漢の現場そのものが映っていなくても、映像の中に被疑者が映っているかを被害者や目撃者に確認したり、被疑者が被害者の近くにいたかどうか(痴漢が可能だったかどうか)を確認するための証拠となります。
なお、防犯カメラの映像は、7~10日程度で消去されることが多いですので、万が一誤って痴漢の被疑者とされた場合には、直ちに弁護士に依頼して防犯カメラの映像の保全を行ってください。
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痴漢の証拠(後日逮捕)④改札の入出場記録
被疑者がある程度絞り込まれれば、警察が鉄道会社に捜査事項照会(刑事訴訟法197条2項)を行い、ICカードなどによる改札の入出場記録の提出を受けることとなります。
これによって、被疑者が痴漢被害のあった電車を実際に利用していたかどうかの裏付け捜査が行われます。
痴漢の証拠(後日逮捕)⑤繊維鑑定
被害者から痴漢の被害の申し出があったものの現行犯逮捕されずに済んだという場合であっても、通報を受けて駆け付けた警察は、被疑者の指などにテープを貼り付け、被害者の衣服の繊維が付着しているかの繊維鑑定を行います。
衣服の上から痴漢をしたのであれば、被疑者の指に被害者の衣服の繊維が付着していることがありますので、繊維が付着しているとの鑑定結果が出れば、被疑者が痴漢をしたという客観的な証拠となります。
ただし、密着するほど混雑した車内では、被害者の衣服の繊維が空気中を浮遊して色々な人に付着する可能性がありますので、誤って痴漢の被疑者とされた場合は、当時の車内の混雑状況を再現するなどして、痴漢によって繊維が付着したわけではないことを主張立証する必要があります。
痴漢の証拠(後日逮捕)⑥DNA鑑定
被疑者が被害者の衣服の上から痴漢を行った場合には、被害者の衣服に被疑者のDNAが付着しているはずです。また、被害者の身体を直接触る痴漢を行った場合には、被疑者の身体に被害者のDNAが付着しているはずです。
これらのDNA鑑定も、繊維鑑定と同じく、被疑者が痴漢をしたという客観的な証拠となるものです。
ただし、繊維鑑定と同じく、密着するほど混雑した車内では、意図せずして他人の衣服に身体が触れてしまう可能性がありますので、誤って痴漢の被疑者とされた場合には、当時の被疑者と被害者の位置状況を再現するなどして、痴漢によってDNAが付着したわけではないことを主張立証する必要があります。
痴漢の証拠(後日逮捕)⑦痴漢関係の動画・画像・雑誌など
このほか、被疑者の自宅などに痴漢関係の動画・画像・雑誌などがないかを確認するための捜索・差押えが行われ、発見されれば、被疑者は痴漢の性癖があると立証するための証拠として用いられることもあります。
痴漢はどのような罪で逮捕されるのか?罪によって証拠は違う?
痴漢は、迷惑防止条例違反か強制わいせつ罪(刑法176条)のいずれかによって逮捕される可能性のある犯罪ですが、いずれで逮捕された場合であっても、証拠となるものはほとんど共通します。
迷惑防止条例違反で検挙された場合と強制わいせつ罪で検挙された場合の大きな違いは、罰則の重さにあります。
東京都の場合、迷惑防止条例違反で検挙された場合の罰則は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金と定められています(8条1項2号)。
他方、強制わいせつ罪で検挙された場合の罰則は、6月以上10年以下の懲役と定められています(刑法176条)。迷惑防止条例違反と違って罰金刑で済むことはありませんし、事案によっては初犯でも実刑となる可能性もあります。
痴漢で逮捕された後の流れや罰則について詳しく知りたい方は、『痴漢で捕まったらどうなる?その後の流れと刑罰の重さ』記事もあわせてお読みください。