2023年7月13日以降の事件は「撮影罪」に問われます。
盗撮や痴漢、万引きといった比較的軽微な犯罪は「現行犯でなければ捕まらない」と思っている方も少なくありません。こういった犯罪が捕まるケースの多くが現行犯であることは確かです。
しかし、ある日警察から呼び出しの電話が来たり、突然家に警察がやってきて逮捕されたという相談も法律事務所では数多く受けます。
被害届が出され、警察が捜査を行って犯人が特定されれば、現行犯でなくとも逮捕される可能性は十分あるのです。そして、犯人特定に至るもっとも大きな手掛かりが「防犯カメラ」です。
この記事では、防犯カメラでの犯人特定やその期間、逮捕に不安がある場合にすべきこと、実際に防犯カメラがきっかけで後日捜査を受けたケースについて解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
犯人特定と防犯カメラの役割
犯罪検挙数の1割は防犯カメラによる犯人特定がきっかけ
警察庁のまとめによると、2020年に警察に検挙された刑法犯27万430件(交通事犯を除く)のうち、防犯カメラやドライブレコーダーの画像によって犯人特定に至った事件は3万3327件(約12.3%)にのぼります。
総数 | 防犯カメラ等による検挙 | |
---|---|---|
刑法犯 | 27万430件 | 3万3327件(約12.3%) |
万引き | 6万2212件 | 1万399件(約16.7%) |
強制わいせつ | 3716件 | 791件(21.2%) |
公然わいせつ | 1774件 | 269件(約15.1%) |
住居侵入 | 6286件 | 508件(約8%) |
器物損壊 | 7394件 | 1535件(約20.7%) |
防犯カメラによる犯人特定は、職務質問による検挙(2万7981件)や参考人取り調べをきっかけとする検挙(2万3623件)よりも多い件数となっており、極めて重要な捜査手段となっています。
今後、防犯カメラがさらに普及し、カメラ自体の画質も向上していくことで防犯カメラによる犯罪の検挙数はさらに増加していくと予測されます。
防犯カメラでわかること
防犯カメラは長時間の映像を記録しているため、古いアナログ画質であることが多く、不鮮明な画像であることも少なくありません。
しかし、重要なのは画像から直接犯人の人相を割り出すことだけではありません。そもそも、「防犯カメラに映った犯人の顔が似ている」という情報は不確かなものです。
防犯カメラの解析で重要なのは、客観的に特定が可能な数字・記号・特徴です。例えば、車体の特徴や車のナンバー、身に着けている服のロゴなどが犯人特定に至る有力な証拠となります。
また、防犯カメラの捜査では、カメラに写った犯人を特定するのみならず、犯行現場付近の複数の防犯カメラ画像を利用して犯人や事件関係者の足取りをたどるためにも用いられます。
防犯カメラの証拠だけでは不十分なことも
画質の問題以外にも、防犯カメラの映像は、犯人の顔や犯行の様子が直接映っていないなど、それだけでは証拠として不十分なこともあります。
そのため、通常は交通系ICの利用履歴や目撃者の証言など、他の証拠と防犯カメラから得られた情報を組み合わせて犯人を特定します。
もっとも、重大犯罪でない限り、確実に犯人を特定できるだけの十分な証拠を得るためには捜査のコストがかかりすぎて難しいというケースもあります。
警察から呼び出しがあった場合に、防犯カメラが決定的な証拠にならないケースでは取り調べでの供述が極めて重要になるでしょう。
コラム:防犯カメラによる犯人特定技術と警察の捜査
警察は、迅速に防犯カメラ画像を収集・分析できる体制を構築しています。
たとえば、捜査支援分析センター(SSBC)という専門組織が2009年に警察庁に設置され、防犯カメラの画像解析をはじめとする捜査の支援を行っています。
SSBC内のDAIS(捜査支援用画像分析システム)と呼ばれるシステムでは、多少の不鮮明な画像でもある程度容易に鮮明化できるようです。
また、次のような、防犯カメラ映像に基づく新たな個人識別の技術も導入・開発が進められています。
①三次元顔画像識別システム
三次元顔画像識別システムとは、被疑者の三次元の顔画像データを取得し、防犯カメラの映像と重ね合わせることで、両者が同一であるかどうかの識別を行うシステムです。
この技術により、従来は個人の識別が困難であった、帽子やマスクなどで顔が隠れているような画像であってもより高い精度で個人を識別することができるようになっています。
②歩容解析
歩容とは、歩行時の身体運動の様子(歩幅、姿勢、腕の振り方)をいいます。歩容や身長・体型をあわせて解析することで、顔画像に頼らずとも高い精度で個人の識別が可能となる技術が開発されています。
防犯カメラでの犯人特定にかかる期間・防犯カメラの保存期間
防犯カメラの映像には保存期間があります。いくら画質を落としていても、ひたすら増えていく動画データをいつまでも保存しておくわけにはいきません。
また、情報管理の面からもあまり長期間保存しておくことは推奨されていません。
金融機関などの特にセキュリティが重視される機関で数か月〜1年程度、一般的には1週間〜1か月程度でデータが上書きされます。場所によっては当日〜数日しか保存していないこともあります。
防犯カメラ保存期間の例
- 街頭防犯カメラシステム(警視庁):最大30日
- 電車や駅構内(東京都交通局):7日以内
- コンビニ・スーパー:1週間~1か月程度
また、防犯カメラの映像は個人情報保護の観点から、警察からの開示依頼以外で外部に提供されることは通常ありません。
そのため、防犯カメラの映像から犯人を特定するためには、警察が事件から1か月以内に捜査を始めて、防犯カメラの映像を確認する必要があります。
したがって、被害届が出され、防犯カメラで容易に犯人が特定できるような場合、たいてい事件から1か月以内で、逮捕か任意の取り調べがあることが多いです。
ただし、なかには数か月経ってから突然警察が自宅に来るというケースもあるので1か月経てばもう安心というわけではありません。
防犯カメラでの特定が不安!弁護士に相談すべきケース
被害者や目撃者に気が付かれて逃走した場合
防犯カメラの映像によって逮捕される可能性が最も高いのは、被害者や目撃者に気がつかれて逃走したケースです。
このような場合はすぐにでも弁護士に面談して相談をしておくべきです。
- 被害者が被害届を出した場合
- 目撃者が通報をした場合
このどちらの場合であっても、すぐに警察の捜査が始まり、防犯カメラによって特定されて逮捕されたり呼び出しを受ける可能性があります。特に逃走をした事実は不利な事情として考慮されます。
警察が事件を認知しているかわからない場合
防犯カメラの映像は何事もなければ数日~1か月ほどで上書きされてしまいます。そのため、犯行が誰にも気づかれなければ、そもそも防犯カメラがチェックされることはありません。
- 被害届が出されているかわからない
- 今後捜査をされることがあるのか不安
このような場合、何事もなく済むケースもあるでしょう。とはいえ、やはり弁護士に相談しておくことが望ましいといえます。
被害届が出ているかどうかを知るすべはありませんし、突然自宅に警察が来て逮捕される可能性も0ではありません。
そのため、正しくリスクを把握して、今後の適切な対処方法を知るためにも弁護士に相談をしてください。
弁護士に相談をした上で、必要に応じて弁護士同行の自首を検討したり、いざという時のために弁護士と顧問契約を結んでおくという方法も考えられます。
警察から呼び出しがあった場合
防犯カメラで犯人として特定されたとしても、いきなり逮捕されるとは限りません。一度任意で呼び出されて取り調べ(事情聴取)を受けるということは結構あります。
防犯カメラの映像だけでは逮捕の決め手として不十分ということもあります。
もっとも取り調べでは、犯人特定が困難な映像しか証拠がない場合であっても、画像を見せないまま「防犯カメラにはっきり映っているぞ」などと迫り自白をとるといったことも考えられます。
このような取り調べに一般人が適切な対応をすることは困難です。警察の呼び出しがあった場合には、必ず弁護士に相談して助言を得ておくことを強くおすすめします。
防犯カメラで特定された事例|盗撮・痴漢・万引き
実際にアトム法律事務所に寄せられた相談のうち、盗撮・痴漢・万引きで防犯カメラで特定された事例をご紹介します。
盗撮
ケース① 盗撮
コンビニで、複数回に渡り同僚の被害者女性のスカート内をiPodで盗撮したケース。店員に通報され防犯カメラ解析後、家宅捜索されて任意同行に応じた迷惑防止条例違反の事案。同種の余罪あり。
弁護活動の成果
示談は不成立であったが、情状弁護を尽くした結果、略式起訴で罰金刑となった。
盗撮の場合、被害者に気が付かれない犯行が考えられます。単なる第三者からの通報だけでは、必ずしも積極的な捜査がされるとは限りません。
通常、防犯カメラの管理権者は、個人情報である防犯カメラの映像をみだりに開示しません。警察からの要求があっても「捜査関係事項照会書」がなければ映像を提供しないという対応をとっている企業もあります。
そのため、被害者が特定されていなかったり、他の物証がないような場合、防犯カメラの捜査まで至らないことがあります。
しかし、このケースのように、店員などから通報を受けた場合、店舗側も積極的に捜査に協力することが多く、防犯カメラの映像が提供されて犯人特定に至る可能性は高まります。
また、トイレに隠しカメラを仕掛けるなどの設置型の盗撮や、住居や建物に侵入しての盗撮の場合も、店舗や建物の管理権者から通報されて付近の防犯カメラの映像をもとに犯人が特定されることが多いケースです。
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痴漢・強制わいせつ
ケース② 痴漢
駅のホームにおいて、被害者女性の臀部を服の上から触る痴漢行為を行い、当日は逃走したが数か月後に防犯カメラとICカード履歴から身元を特定された迷惑防止条例違反の事案。
弁護活動の成果
被害者に謝罪と賠償を尽くし、宥恕条項(加害者を許すという条項)付きの示談を締結。不起訴処分となった。
ケース③ 強制わいせつ
路上で被害者女性の後方から抱きつき胸や陰部を触りキスをする等した事案。防犯カメラに犯行が記録されており、数か月後に逮捕された強制わいせつの事案。
弁護活動の成果
被害者に謝罪と賠償を尽くし、宥恕条項(加害者を許すという条項)付きの示談を締結。不起訴処分となった。
痴漢や強制わいせつ(現不同意わいせつ)の場合、被害届を出されれば後日逮捕されるケースは少なくありません。被害届が出されたかどうかは、捜査上の秘密情報ですので知る方法はありません。
放っておくとこれらケースのように数か月後に逮捕されるということは十分考えられます。
なお性犯罪は、被害者の供述は直接的な犯行の証拠ですから重視される傾向にあります。そのため、具体的かつ迫真であるなど信用性のある供述があれば、防犯カメラの映像が不十分であったり、客観的な証拠がなくても捜査・立件されることがあります。
万引き
ケース④ 万引き
商業施設において、夫婦で複数のオーディオ機器(約14万円相当)を万引きしたケース。防犯カメラ映像や車のナンバー等から身元が判明し、警察の捜査をうけることになった窃盗の事案。
弁護活動の成果
被害の弁済や贖罪寄付を行った結果、不起訴処分を獲得した。
万引きも現行犯逮捕が基本となる事件類型ですが、それは現行犯でない場合、犯人を特定し万引き行為を証明することが難しくなるためです。
逆にいえば、防犯カメラの映像や他の証拠とあわせて、犯人の身元が特定でき、犯行が証明でき得るのであれば後日逮捕の可能性も十分あるといえます。
防犯カメラの映像だけでは不十分であったとしても、車で来店しているのであれば、車の特徴やナンバーは有力な手掛かりになりますし、一部の商品をレジに通していれば、その際の電子マネーやクレジットカードの決済情報も犯人特定につながる情報といえます。
最近では事前に登録した常習犯や要注意人物の顔がカメラに映った際に検知する「顔認証システム」を万引き対策として導入している企業もあります。
また、万引きは余罪があるケースがほとんどですから、防犯カメラで余罪の捜査をされるのかもよく相談を受ける点です。余罪についても警察はある程度の捜査はします。もっとも保存期間の問題で防犯カメラの映像が残っていないことも多く、立件されないことも多いです。
余罪について心配がある場合は、取り調べ対応など事前に良く弁護士と相談しておいてください。