「酔って店の看板を蹴って壊した」「喧嘩して相手のスマートフォンを床に落として壊してしまった」など、器物損壊は身近に起こりうる犯罪です。
刑罰も軽いことから、軽微な犯罪と考えられがちですが、逮捕の状況や行為態様、余罪の有無などの条件によっては、逮捕され身柄が拘束される可能性もある犯罪です。
器物損壊罪は、被害者がいる類型で親告罪にあたるため、とりわけ示談が大きな意味を持ちます。
そこで、器物損壊罪が成立する事例や、刑罰の重さ、示談で被害弁償する際の注意点等について解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
器物損壊罪とは?弁護士解説
刑法261条【器物損壊罪】とその刑罰
第二百六十一条(器物損壊等) 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
刑法261条
※「前三条に規定するもの」とは、後で説明する公用文書等毀棄罪(258条)、私用文書等毀棄罪(259条)、建造物損壊罪(260条)を指します。
器物損壊とは他人の物を損壊することで成立する犯罪です(刑法261条)。器物破損と言われることもありますが、同じ意味です。「損壊」とは、物理的に破壊するだけではなく、物を本来の用途で使用できなくすることも含みます。
器物損壊は親告罪といい、被害者等からの告訴がなければ起訴されない類型です。起訴され有罪になった場合の刑罰は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料です。科料は1000円以上1万円未満の金銭を払う刑罰ですが、実際は科料になることはまずなく、初犯なら大半が罰金刑になります。
器物損壊罪にあたりうる具体的な事例
器物損壊罪は、他の条文で損壊について規定されている、文書やデータ(電磁的記録)、建造物を除く他人の物が対象になり、物理的に壊すだけでなく、物の本来の用途を失わせる行為も含みます。例えば、皿を割って壊す行為だけでなく、皿に放尿してその価値を低下させるような行為も器物損壊です。
同様に、窓ガラスを割って壊す行為や窓ガラスにビラを貼りつける行為、動物を殺傷する行為や、飼われている動物を逃がす行為も含みます。他にも、酔って看板を壊す・落書きする行為、いたずらで車に傷をつける行為、悪質な痴漢が女性の服に体液をかける行為等も器物損壊に該当します。
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器物損壊罪は故意がなくとも罪になる?
故意とは「わざと」行うことをいいます。これに対して「不注意で」行うことを過失といいます。過失の行為を罰するためには、その旨を定めた「特別の規定」が必要ですが、器物損壊罪には過失を処罰する規定はありません。
そのため、器物損壊罪が成立するにはわざと他人の物を損壊することが必要です。故意がなく過失で他人の物を壊したり本来の用途を損なわせた場合は、民事的に弁償する必要(損害賠償を請求される可能性)はありますが、犯罪行為として器物損壊罪が成立することはありません。
故意なし | 故意あり | |
---|---|---|
典型例 | 運転中の不注意で壁を壊すなど | 店の看板を蹴って壊すなど |
刑事責任 | なし | あり |
民事責任 | あり | あり |
器物損壊罪の時効|親告罪の告訴権はいつまで?
器物損壊罪は「親告罪」です。親告罪は、被害者等の犯人を処罰してほしいという意思表示である「告訴」がなければ起訴されない犯罪類型です。親告罪では、告訴が可能な時期は犯人を知った日から6か月とされています。
したがって、器物損壊罪でも、被害者が犯人を知ってから6か月以内に告訴がない場合には、起訴ができなくなる以上、警察に捜査をされる心配はなくなります。
また、器物損壊罪は3年で公訴時効にかかるため、器物損壊の被害が発生してから3年経過後は起訴されることはありません。器物損壊罪の場合は、被害者が弁償を請求することも多いですが、民事上の損害賠償の請求権も、損害および加害者を知ってから3年で時効消滅します(民法724条)。
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器物損壊罪での逮捕の流れは?
器物損壊罪は捜査されない・逃げ得って本当?
器物損壊罪は捜査されず、逃げ得と考える方がいますが、それは間違いです。また、現行犯逮捕されなければ大丈夫と言う方もいますが、それも間違いです。
器物損壊罪は親告罪なので、告訴がない段階では逮捕されない可能性はありますが、告訴されると捜査が進み、逮捕されることもあります。
また、器物損壊は過失の場合は犯罪が成立しないので、不注意だった場合は大丈夫と思うかもしれませんが、そうとは限りません。故意か過失かの判断は難しく、捜査機関が過失と認めてくれるかはわかりません。自分では過失と考えても、故意犯だった場合と同様に後日逮捕される可能性もあります。
器物損壊罪で犯人が特定・逮捕される流れは?
器物損壊罪は、比較的軽微な犯罪のため、実際に逮捕され身柄が拘束されるケースは多くありません。例外的に、現行犯の場合は、被害者に見つかって警察官を呼ばれ、警察署に連行される場合があります。しかし、態様が悪質でなく、身元も明らかな場合は、即日或いは数日で釈放されることも多いです。
もう一つの例外として、余罪がある場合も逮捕される可能性があります。近隣の車を何度も傷つけたとか、落書きをしたなどの場合です。防犯カメラの画像等から犯人が特定されると、悪質性が高いとして裁判官が発付した令状により後日通常逮捕され、場合によっては勾留される可能性もあります。
器物損壊罪で逮捕された後の流れ
逮捕後の流れ
器物損壊罪で逮捕されると、警察署の留置場に入れられ警察官の取調べを受けます。逮捕から48時間以内に検察庁に事件が送られ、検察官が取調べを行い24時間以内に勾留すべきか判断します。検察官の勾留請求を裁判官が認めると、10日間勾留され、勾留は更に最長10日延長される場合があります。
器物損壊罪に関わらず、逮捕された後の基本的な流れは以下の通りです。
逮捕・勾留が仕事に与える影響や、解雇を防ぐ方法を詳しく知りたい方は「逮捕されたら会社にバレる?解雇される?弁護士が教える対応法」をご覧ください。
器物損壊罪では在宅事件になることが多い
器物損壊罪の場合、逮捕されても勾留されず釈放される場合も多いです。この場合は在宅事件として捜査が進み、検察官に証拠が送られる書類送検が行われます。逮捕勾留された身柄事件の場合は勾留満期までに、在宅事件の場合は逮捕から数か月以内に、検察官が事件を起訴するか不起訴にするか決定します。
在宅事件のより詳しい流れや、捜査機関から連絡がこない理由などについては『在宅事件の流れを解説|起訴率は低い?逮捕される刑事事件との違い』の記事を参考にご覧ください。
器物損壊罪で逮捕されたら弁護士に相談を
器物損壊罪で逮捕の連絡を受けたらすぐ弁護士に電話を
器物損壊罪でご家族や友人が逮捕されたら、すぐに弁護士に電話をして、弁護士を警察署に派遣する依頼をしてください。弁護士と逮捕された人の最初の面会は「初回接見」といい、特に重視されています。初回接見は、正式に弁護士を依頼する前に1回分の日当で依頼することが可能です。
初回接見は、弁護士会に依頼すれば、1回無料で弁護士を派遣する当番弁護も利用できます。ただし当番弁護士は名簿順のため、刑事弁護の経験がない弁護士や、家族に連絡しないなど不誠実な弁護士が当たることもあります。自分で信頼できる弁護士を選びたい場合は私選弁護を検討することをお勧めします。
器物損壊罪では示談が重要|告訴取消し・不起訴を目指す
器物損壊罪は、被害者がいる犯罪で親告罪であるため、最終処分の決定には被害弁償や処罰感情が重視されます。被害者に謝罪と賠償を尽くして示談できた場合は、初犯なら不起訴になる可能性が高いです。さらに、告訴が取消されれば、親告罪の器物損壊罪では確実に不起訴になり、前科を避けられます。
器物損壊の示談は、弁護士に依頼した方が適切です。加害者が無理に示談すると事態が悪化する恐れがありますし、後の民事上の損害賠償も一挙に解決するケースバイケースの対応は刑事事件の経験が豊富な弁護士でなければ難しいでしょう。弁護士なら、器物損壊が親告罪であることを踏まえ、告訴取消しに向けた粘り強い交渉が期待できます。
弁護士 | 本人 | |
---|---|---|
示談交渉 | 交渉しやすい | 難しい |
示談成立 | 早期成立 | 時間がかかる |
示談金 | 相場が分かる | 相場が分からない |
内容 | 不備のない示談が可能 | 不完全になる恐れあり |
弁護士なら器物損壊罪の取り調べへのアドバイスが可能
器物損壊で逮捕されると、最長72時間の逮捕期間は家族も面会できません。この間面会できるのは弁護士だけです。弁護士なら、逮捕直後でも、警察官の立会いなく、朝晩問わずいつでも何時間でも面会することができます。この間に、できるだけ早く弁護士から取調べのアドバイスを受けることが重要です。
取調べでは犯人の前提で話を進める警察官に囲まれ、孤独や諦めからやっていない罪を認めてしまう恐れもあります。1日も早く弁護士接見を受けて、黙秘権の使い方や、納得できない供述調書を拒否する方法等のアドバイスを受けて下さい。気持ちの面でも支えになり、早期の対応が最終処分にも影響します。
器物損壊の示談金相場は?
損害額に5~50万円を加えた金額が器物損壊の示談金相場です。
ですが、被害者によっては過大な金額が請求されることもあります。適切な金額で被害弁償をするためには、弁護士を代理人として交渉してもらうことをお勧めします。
器物損壊罪は、他人の物を故意で損壊する犯罪のため、示談する際は被害弁償をすることが不可欠です。また器物損壊の示談では、被害の弁償に加え、精神的苦痛に対する慰謝料や告訴取消しの対価を加算して払うことも多いです。
また、壊した物によっては、被害者の保険が使える場合もありますが、保険料が上がる為利用を嫌がる人も多く、また被害感情を逆なですることもあるので、被害弁償は保険に頼らず加害者自ら行うのが通常です。
被害者に慰謝料・迷惑料を支払えば被害届は取り下げられる?
器物損壊は、他人の物を損壊する犯罪ですが、示談する際は、壊した物の対価だけでなく、慰謝料も上乗せして払うのが通常です。慰謝料とは、精神的苦痛に対する損害賠償のことを言います。慰謝料や迷惑料を払ったからと言って、必ず被害届を取り下げたり告訴を取り消してもらえるわけではありません。
しかし、慰謝料や迷惑料を条件に含めることで、被害届の取り下げに向け有利に交渉を進めることができます。また、高額の慰謝料を払っても被害届の取り下げを拒否された場合は、経緯を検察官等に伝えることで有利に考慮される場合もあります。まず弁護士に相談し、支払いや交渉の方法を検討しましょう。
器物損壊罪の弁護士費用
器物損壊罪で逮捕前にかかる弁護士費用
刑事事件の弁護士費用として通常、法律相談料、着手金、成功報酬、日当、実費がかかります。器物損壊罪で逮捕されていない場合でも、弁護士に依頼すれば着手金が発生します。弁護士に依頼することで逮捕を免れたり、事件化を防げた場合や、示談に成功した場合等には、別途成功報酬が発生することを留意しておきましょう。刑事事件で逮捕前の弁護士費用について詳しくは『まだ逮捕されていない場合にかかる弁護士費用の相場は?』をご参照ください。
器物損壊罪で逮捕後にかかる弁護士費用
器物損壊罪に限らず刑事事件の着手金・成功報酬は、通常、被疑者として逮捕されている場合の方が高くなります。被疑者として逮捕されている場合、身体を解放する活動のため、捜査機関や裁判所との交渉が必要だからです。逮捕後の弁護士費用で成功報酬が発生する場合としては、示談の成功や、勾留の阻止、勾留後の準抗告という手続きで身体を解放することができた場合等が考えられます。詳しくは『既に逮捕されている場合にかかる弁護士費用の相場は?』をご参照ください。
また、逮捕後の弁護士費用で成功報酬が発生するのは、これ以外にも様々な場合があります。ご依頼する法律事務所のHPを見て弁護士費用について確認しておきましょう。
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