
落書き行為を行い、逮捕された場合、その後はどうなるのでしょうか。
この記事では、落書きはどのような罪に問われるのかについてや、逮捕され前科が付く可能性、逮捕された場合の流れなどについて解説します。
落書きによって前科をつけないためには不起訴処分を得ることが重要であり、そのためには早期に弁護士に相談することが必要です。


※ 無料相談の対象は警察が介入した刑事事件加害者側のみです。警察未介入のご相談は有料となります。
目次
落書きで問われる可能性のある罪
落書き行為を行った場合、主に問われる可能性のある罪は器物損壊罪ですが、その他にも文化財保護法違反や軽犯罪法違反、各自治体の条例なども適用されることがあります。
器物損壊罪
器物損壊罪は、刑法261条に規定された罪です。
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
刑法261条
器物損壊罪は、建造物等以外の「他人の物」を損壊した場合に適用される罪です。
他人の所有物はもちろん、看板、記念碑、銅像、街路樹、標識、ガードレール、公園の遊具などといった公共物も自治体などの所有物であるため、落書きをした場合は当然器物損壊罪が適用されます。
建造物等損壊罪
家屋やビルなどの建造物、あるいは船舶などに落書きを行った場合は、刑法260条の建造物等損壊罪が適用されることがあります。
(建造物等損壊及び同致死傷)
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。(略)
刑法260条
建造物等損壊は罰金刑がなく懲役刑のみであり、また器物損壊とは違い被害者の訴え(告訴)がなくても逮捕が可能な非親告罪となっています。
文化財保護法違反
また、公共物の中でも特に文化財に対して落書きをはじめとした損壊行為を行った場合、文化財保護法違反が適用されることがあります。
第百九十五条 重要文化財を損壊し、毀棄し、又は隠匿した者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
文化財保護法
第百九十六条 史跡名勝天然記念物の現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をして、これを滅失し、毀損し、又は衰亡するに至らしめた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。
ここでいう文化財とは神社仏閣、古墳、城郭などの建造物や施設だけでなく、学術上価値があるとされる自然物なども含まれています。
そのため、観光客が史跡に落書きするといった場合のみならず、国立公園に指定されている区域内において樹木や岩などに落書きを行ったなどの場合でも、文化財保護法違反は適用される可能性があります。
迷惑防止条例など
そのほか、落書き行為に対しては各自治体が独自に定めている条例(例:横浜市落書き行為の防止に関する条例)や、特に程度の軽い場合は軽犯罪法1条33号などが適用されることがあります。
みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者
軽犯罪法1条
さらに、特定の人物に対する誹謗中傷を落書きした場合は刑法230条の名誉毀損罪や同法231条の侮辱罪が、落書きを行ったことで何らかの業務を妨害したとされた場合には同法234条の威力業務妨害罪や同法233条の偽計業務妨害罪が、それぞれ適用される可能性があります。
落書きで逮捕される可能性と、逮捕された場合の流れ
落書き行為を行った場合、逮捕や勾留に至る可能性はどの程度あるのでしょうか。逮捕の種類や、逮捕から起訴までの流れなどとともに見ていきましょう。
器物損壊事件の逮捕率および勾留率
アトム弁護士事務所の統計(2021年12月現在)によると、器物損壊の事例57件のうち、逮捕に至ったのは61%、また勾留されたのは26%となっています。(ただし器物損壊事件全体の統計であり、落書き事件についての個別統計でないことには留意が必要です)
逮捕には2つの形式がある
逮捕には種類があります。まず、通常逮捕は後日逮捕とも呼ばれる形式で、刑事訴訟法に基づき、一定階級以上の警察官や検察官などが逮捕状を請求し、裁判官が逮捕の理由と必要性を認めた場合のみ逮捕令状を発行し、それによって逮捕が行われます。
次に現行犯逮捕があります。犯行中や犯行直後の犯人を逮捕することをいい、犯人を間違える可能性は低いため、逮捕状なく一般人でもできる(私人逮捕)ことが特徴ですが、逮捕後はすぐに警察官などに犯人を引き渡す必要があります。その後は最寄りの警察署に連行され、取り調べを受けることになります。
落書き行為の場合、警戒中の警察官に現行犯逮捕されるケースもありますが、特に街中や施設内において落書きを行った場合は防犯カメラに記録され、そこからに後日逮捕に至るケースもあります。
逮捕勾留から起訴前の釈放までは最長23日間
次に、逮捕された後の流れをみてみましょう。逮捕されてから起訴・不起訴の決定が行われるまでは、最長で23日間の身体拘束が続く可能性があります。
警察は微罪処分として釈放する場合もありますが、それ以外の場合、事件を検察官に引き継ぐ検察官送致(送検)が48時間以内に行われます。検察官の判断により24時間以内に勾留請求が行われ、勾留質問などのあと、原則として10日間身柄が拘束されます。必要に応じ、さらに最長で10日間の勾留延長が行われます。
捜査の結果、検察官は起訴・不起訴を判断します。不起訴となった場合は釈放されますが、起訴されると略式裁判もしくは正式裁判が開かれ、罰金刑や懲役刑などの刑罰が決定されます。
落書きで前科をつけないためにすべきこと
落書き行為により前科をつけないためには、早期に弁護士に相談し、不起訴処分を得ることが重要です。
不起訴処分を獲得し前科を回避する
アトム弁護士事務所の統計(2021年12月現在)をみると、器物損壊の事例56件において不起訴となったのは86%にあたる47件となっています。一方、起訴された場合は9件と件数こそ少ないものの、懲役刑となったのは56%と半分以上を占めています。
検察官により起訴が行われた場合、裁判で無罪になるのは非常に難しくなります。しかし、検察官が不起訴処分の判断を下した場合は、裁判を受けること自体がなくなるため、前科がつく可能性はゼロになります。
すなわち、前科がつくことを回避するためには、不起訴処分を目指すことが最も現実的な手段となります。
示談により不起訴の可能性を高める
不起訴処分を得るためには、落書き行為の被害者との間に示談を締結することが重要です。
示談を締結することで、検察官が再犯の可能性や加害者家族への影響などといった様々な情状を考慮し、最終的に「起訴するほどではない」と判断する「起訴猶予」の可能性が高まります。
示談をするためには弁護士に相談する
適切に示談を締結するためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
逮捕されてから起訴される前の身柄拘束が続く期間は最大で23日間ですが、起訴が決定された後で示談が成立しても、後から不起訴とすることはできないため、示談交渉はその間に行う必要があります。
そのため、落書き事件においてはできる限り早い段階で弁護士に相談することが大切であるといえます。