2025年6月より、懲役・禁錮刑が「拘禁刑」に統一されました。
刑事事件のニュースや法律の条文で「◯年以下の懲役または◯万円以下の罰金」といった表現を目にしたことはありませんか?
このような規定を見ると「懲役か罰金か、自分で選べるの?」「どっちになるかは誰が決めるの?」と疑問に思う方も多いでしょう。
結論からお伝えすると、被告人が刑罰を選ぶことはできません。懲役になるか罰金になるかは、裁判官が事件の内容や被告人の事情を総合的に判断して決定します。
この記事では、「懲役または罰金」の意味や、各刑罰が確定されるまでの流れと種類、刑罰同士の比較などを詳しく解説します。
なお、本記事では、新法に基づき解説していますが、過去の判例や一般的な表現として懲役という言葉を使用しています。
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目次
懲役と罰金は選べる?誰がどっちにするか決めるのか
日本の刑罰の多くには「懲役または罰金」が定められていますが、罪を犯した人間が、裁判において刑罰を選択できるなどという規定は存在しません。
この「または」という表現は、裁判官が懲役刑か罰金刑のどちらかを選択できることを意味しています。
ただし、被告人側の事情(反省の態度、示談の成立など)は量刑判断に大きく影響します。弁護活動によって罰金刑で済むように働きかけることは可能です。
懲役刑・罰金刑などの刑罰は誰が決める?
刑罰は以下のように、複数規定されていることが多いです。
(例:過失運転致死傷罪の刑罰)
「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」
前述したように、刑罰を決めるのは裁判官です(市民参加が主体の裁判員裁判制度を除く)。
また、刑罰が確定するためには、検察官が被疑者を起訴するところから始まります。起訴とは、ある刑事事件について、検察官が刑事裁判を開くように裁判所に求める手続きのことです。
起訴は、検察官が合理的な証明をしたときに限りなされる手続きで、検察官だけにしかできません(起訴独占主義)。
条文に併記されている刑罰の範囲内で、裁判官の判断・選択により刑を確定するという流れになりますので、有罪になった犯人が刑罰を選択できる余地はないのです。
懲役刑と罰金刑の違い
刑法においては、たとえば傷害罪や窃盗罪などにも、罰金刑が選択刑として規定されています。罰金刑とは、対象者に指定の金額を支払わせる「財産刑」と呼ばれるもので、「自由刑」といわれる懲役刑とは性質が異なります。
略式手続きは、形式面においては、検察官が起訴と同時に略式命令をおこない、本人の同意を得たことが明らかである文書によって成立する流れです。
罰金刑が確定し、罰金を支払えば事件は終了します。身柄拘束されている場合は、支払い後すぐに釈放されることになるでしょう。
刑法に規定されている罰金刑の金額は、1万円以上です(刑法第15条)。ただし、減軽する場合は、1万円未満に下げることができます。
なお、上記権限についても裁判官のみに与えられています。
罰金刑に対し、懲役刑の場合は、執行猶予が付かない限り、刑が確定した後ただちに刑務所へ収監されます。
また、罰金刑であっても懲役刑であっても、検察官の起訴を前置している点では共通しています。
よって、懲役刑・罰金刑どちらも前科がつくことに変わりありません。
懲役刑と罰金刑の両方が科されることはある?
「懲役または罰金」と規定されている犯罪では、原則どちらか一方のみが科されます。
しかし、一部の犯罪では懲役刑と罰金刑の両方を同時に科すことが認められています。これを併科といいます。
併科が認められるパターンは、主に以下の2つです。
懲役及び罰金と規定されている場合
条文に「及び」と書かれている場合は、必ず両方の刑罰が科されます。
「懲役又は罰金、又はこれを併科する」と規定されている場合
「懲役又は罰金、又はこれを併科する」と規定されている場合、裁判官は「拘禁刑のみ」「罰金のみ」「両方(併科)」の3つから選択できます。
犯行が悪質な場合や、罰金刑だけでは制裁として不十分と判断された場合に併科が選択されます。
併科が認められている犯罪の例としては、「特定商取引法」「麻薬及び向精神薬取締法」「著作権法」などが挙げられます。
懲役刑・罰金刑はどっちが重い?
前章でお話しした流れでおわかりかと思いますが、罰金刑と懲役刑では、自由刑である懲役刑の方が重くなっています。
この章では、その他の刑罰とも比較しながら、各刑罰についてご説明しましょう。
刑罰の重さの順番
刑罰の種類は全部で6種類あり、重い順から以下のように分類されます。
刑罰の種類6つ
- 死刑
- 拘禁刑(旧懲役刑・禁錮刑)
- 罰金刑
- 拘留
- 科料
- 没収
上記を大きく分類するとすれば、「没収」については付加刑だということです。
あくまで主刑に付される刑であるため、付加刑のみを言い渡すことはできません。
6つの刑罰の種類と内容
では、各刑罰について詳しくご説明しましょう。
死刑
死刑は、犯罪者の生命を奪う生命刑です。日本では、絞首刑により処刑されることになっています(刑法第11条)。
刑法では殺人について重く処罰規定が置かれていますが、死刑自体が処罰されることはありません。
その理由は、違法性が阻却されるからです。
冒頭で触れたように、刑罰が確定するには「違法性」や「責任性」が検討され、阻却事由に該当すれば罪にならない可能性があるのです。
死刑は応報刑とも呼ばれ、その刑に相当する重い犯罪に適用されます。
たとえば、殺人罪や強盗殺人罪、強盗致傷罪、強盗強姦殺人罪などです。
殺人罪は刑法第199条に規定されており、「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」と規定されています。
すべての殺人罪が死刑になるわけではなく、罪の内容や殺人した人数・その他背景事情により刑は確定します。
拘禁刑(旧懲役刑・禁錮刑)
拘禁刑は、2025年6月1日の刑法改正により新設された刑罰です。従来の「懲役刑」と「禁錮刑」を一本化したもので、受刑者を刑務所に収容する自由刑です。
拘禁刑には、刑務所に収容され、身体の自由が制限される無期拘禁刑と有期拘禁刑があります。有期の場合、刑期は原則1ヶ月以上20年以下(加重時は最長30年)となります。
受刑者の特性に応じて、刑務作業や更生プログラムを柔軟に実施します。
拘禁刑・懲役刑・禁錮刑の違い
| 拘禁刑(新) | 懲役刑(旧) | 禁錮刑(旧) | |
|---|---|---|---|
| 刑務作業 | 必要に応じて実施 | 義務 | 義務なし |
| 更生プログラム | 柔軟に実施可能 | 限定的 | 限定的 |
| 主な適用 | 故意犯・過失犯・政治犯 | 故意犯 | 過失犯・政治犯 |
拘禁刑の導入により、受刑者一人ひとりの特性に応じた処遇が可能となり、再犯防止と社会復帰支援の強化が期待されています。
また、拘禁刑には「実刑」と「執行猶予付き」の2種類があります。
実刑と執行猶予の違い
- 実刑判決
判決確定後、実際に刑務所に収容される - 執行猶予付き判決
一定期間(通常1〜5年)犯罪を犯さなければ、刑の執行が免除される
執行猶予が付けば刑務所に入る必要はありませんが、猶予期間中に再び罪を犯すと、執行猶予が取り消され、前の刑と合わせて服役することになります。
懲役刑の詳細を見る
懲役刑は、自由刑の1つです。
犯罪者の身体を拘束し、改善のための教育をすることで再犯予防を図っています。
前述の生命刑とは目的が異なります。
また、懲役刑といっても実刑になる場合と執行猶予がつく場合とがあり、執行猶予付き判決を得られた際は、刑務所に収監されずによくなります(刑法第25条)。
懲役刑には無期懲役と有期懲役とがあり、有期刑の上限は基本的に1月以上20年以下です(刑法第12条1項)。
また、懲役刑や禁錮刑を加重されることがあり、その場合でも最大30年以下とされています(刑法第14条)。
受刑者は、刑務所などの刑事施設に収容され、所定の作業(強制労働)をおこなうという点が特徴です。
作業は基本的に軽作業になり、簡単な物品を作ったり、刑務所内の工場で金属の加工をしたりと様々です。
全員が同じ作業に従事するわけではありません。
刑務所によって、生産作業・社会貢献作業・職業訓練・自営作業の4種類のうちいずれかが強制作業としておこなわれます。
禁錮刑の詳細を見る
禁錮刑刑も懲役刑と同じく、身体の自由を奪う自由刑の1つです。
刑法第13条に規定されています。
懲役刑との最大の違いは、刑務作業がないことです。
よって、懲役刑よりは軽い位置づけとなりますが、再犯防止という目的においては懲役刑と同じです。
そのほか、有期・無期の規定についても、懲役刑と同じように規定されています。
罰金刑
罰金刑は、犯人から一定の財産を取り上げる刑罰です。刑法第15条に規定されています。
「懲役刑または罰金刑」などと併記されていることも多く、懲役刑からの減軽で罰金刑になることがあります。
再犯予防の観点から適用される刑罰の1つであり、犯人の反省度合いや様々な背景事情により金額は変わってくるでしょう。
罰金刑の上限については、各犯罪規定によります。たとえば傷害罪の場合ですと、15年以下の有期懲役または50万円以下の罰金とされています(刑法第204条)。
罰金の支払いが困難な場合には、労役場にて罰金の金額に達するまでのあいだ労働することも可能です。罰金の金額を日当換算し、必要日数留置されることになります。
罰金刑の支払いについてはこちらの記事で詳細に解説しています。
拘留
先述の懲役刑・禁錮刑と同じ自由刑です。刑法第16条に規定されています。
懲役刑・禁錮刑同様、刑事施設に収容されますが、期間設定が短く、1日以上30日未満とされています。
刑務作業(強制労働)はありません。
また、拘留の刑期には有期刑しかなく、無期刑が存在しません。
科料
科料は、罰金刑と同様財産刑の1つですが、金額は1000円以上1万円未満と少額です。刑法第17条に規定されており、比較的軽い罪に適用されます。
たとえば、公然わいせつ罪や侮辱罪などに規定されています(刑法第174条・同法第231条)。
軽い罪といっても刑罰である以上、罰金刑同様に前科は避けられません。また、手続の流れについては、通常、検察官の略式起訴によります。
労役場留置は、罰金刑・科料の両方に適用されますが、罰金刑の場合は裁判が確定した後30日以内、科料の場合は裁判の確定後10日以内に納付しなければ、本人の同意がなくても労役場への留置の執行が可能になります(刑法第18条5項)。
没収
没収される物品などについては、刑法第19条に規定されています。
原則として、犯人以外の所有物については没収されません。以下が、没収されうる物件です。
- 犯罪行為を組成した物
- 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
- 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
- 前号に掲げる物の対価として得た物
たとえば、窃盗罪で得た盗品や、詐欺罪の受け子が報酬として得た金銭(お金)などが該当するでしょう。
これらはく奪された没収物は、国庫に帰属されます。
例外として、拘留または科料しか定めのない軽微な犯罪については、基本的に没収できないことになっています。
懲役または罰金に関するよくある質問
起訴されたら必ず罰金刑か懲役刑になりますか?
起訴されても必ず罰金刑や懲役刑になるとは限りません。起訴後は裁判で「無罪か有罪か」が判断され、無罪になれば刑罰は科されません。
一方、有罪になった場合は原則として何らかの刑罰が言い渡されますが、内容は事件や法定刑によって異なります。
科料や拘留などの刑罰は、法律上その犯罪の法定刑として規定されている場合に限って科されるため、法定刑に定めがない事件で「科料や拘留」が選ばれることはありません。
罰金刑になった場合、分割払いや後払いはできますか?
罰金は定められた期間内に一括払いするのが原則です。
しかし、経済的に一括納付が困難な事情がある場合には、検察庁の徴収担当者に相談することで、後払い(延納)や分割払いが例外的に認められるケースもあります。
何も対応せずに放置すると、最終的に労役場留置(1日約5,000円換算で労働)となる可能性があるため注意しましょう。
同じ罪でも懲役になる人と罰金で済む人がいるのはなぜですか?
裁判官は、犯行の悪質性だけでなく、初犯か再犯か、被害者との示談が成立しているか、反省の態度があるかなど、多くの事情を考慮して刑罰を決めます。
たとえば傷害罪でも、軽傷で示談成立なら罰金刑、重傷で前科ありなら実刑になることがあります。
懲役刑・罰金刑どっちが適用?弁護士へ相談しましょう
何らかの罪を犯した犯人は、逮捕から始まり、検察官に起訴された場合のみ刑罰が科せられます。
検察官に起訴されず、不起訴処分で事件が終了した場合には、刑罰は適用されません。
ご自分、あるいはご家族が逮捕された場合、まずはその後について不安を抱えるのではないでしょうか?
- 逮捕後、自分や家族はどうなってしまう?
- 近いうち、起訴される見込みがあるがどの刑罰が適用される?
- 刑罰は軽くしてもらうことができる?
- 懲役刑・罰金刑が適用される犯罪をした・・・前科はかならずついてしまう?
通常、刑事事件に慣れている方というのは少ないかと思います。
また、罪を犯した人のなかには、犯罪と知らずに手を出してしまい、いきなり逮捕されたなどというケースもあるでしょう。
これまでお話ししたように、条文に規定されている量刑は、すべての犯罪者に共通しているわけではありません。
- 逮捕後、起訴される可能性はどれくらいなのか
- 刑罰が適用されるとすればどの刑罰が可能性として高いのか
など、気になる点について弁護士に相談しましょう。
刑事事件に慣れている弁護士であれば、数々の解決実績をもとに実のあるアドバイスをすることが可能です。
まとめ
懲役刑と罰金刑では、同じ起訴後でも、身柄を拘束されるかされないかで大きな違いがあります。また、罰金刑かそれ以下になるかによっては、今後の社会生活に及ぼす影響も変わってくる可能性があります。
刑事事件・刑罰を弁護士に相談するうえで重要なことは、「早期に相談すること」です。
刑事事件は、特に勾留がつく身柄事件(逮捕後、身柄を拘束されたままの事件)の場合、約1か月程度で事件が終了するケースも多いです。
弁護士相談や弁護士依頼が遅れてしまうと、被害者のいる事件では示談交渉などが遅れてしまい、量刑に影響が出ることがあります。
また、弁護士依頼が遅れることにより、そもそも起訴されること自体を回避できなかったり、起訴後であれば実刑を回避できなかったりすることもあるのです。
刑事事件は、どの段階においても早期の行動が重要です。刑事事件に巻き込まれた際は、周囲と協力するなどして早期解決を目指しましょう。


