医師と患者の性的行為は、「同意があった」という主張が認められないケースが多くあります。
診察という密室環境、治療継続への依存関係、患者の心身の脆弱性——これらの要素が重なることで、刑法上の「不同意わいせつ罪」「不同意性交等罪」が成立するリスクが高くなるからです。
さらに、刑事処分だけでなく、病院による院内調査や行政上の対応が問題となり、事案の内容によっては医師免許の取消し・業務停止などの重大な不利益につながる可能性があります。
この記事では、医師と患者の間で性的なトラブルが生じた場合に直面する法的リスクの全体像、絶対にやってはいけない初動の誤り、そして医師免許を守るための具体的な対処法について解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
医師が知るべき法的リスク|医師と患者の性的関係の危険性
医師と患者の性的関係は、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。
2023年に新設された不同意わいせつ罪・不同意性交等罪では、「同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態」を生じさせる行為として8つの類型が具体的に明記されました。

この第8号(経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮)は、医師と患者の関係でも問題となり得ます。
具体的には、医師と患者の性的関係で「性的行為を断ったら治療を断られるかもしれない」などと相手が感じていた場合、同意がなかったものとして処罰される可能性があるのです。
医師が持つ影響力とは
医師は患者に対して、「地位の利用」が認められやすい関係とされています。具体的には以下のような影響力が考慮されます。
医師が持つ影響力の例
- 患者の治療方針を決定
- 薬の処方・変更・中止
- 転院や紹介状の発行
- 入院・退院の判断
医師側が「相手も性的行為に応じていた」と考えていても、患者が診療上の不利益を恐れて意に反して応じたとされ、そのような経緯が客観的事情から裏付けられる場合には、同意が否定され、犯罪の成立が問題となる可能性があります。
「合意があった」という主張が通りにくい理由
医師・患者間では、一般の恋愛関係における「合意」の主張が認められにくい構造的な理由があります。
患者の脆弱性の問題
患者は病気や精神的な不調を抱えており、判断能力が低下していることがあります。
特に精神科・心療内科の患者が医師に対して抱く「転移感情」(恋愛感情に似た強い信頼・依存)は、自由な意思に基づく同意があったかを慎重に判断するうえで重要な事情となります。
迎合行動の問題
患者からLINEで連絡が来ていた、食事に誘ってきたという事実があっても、それが「医師に見捨てられたくないための迎合行動だった」と評価されるリスクがあります。表面上の行動だけでは防御が困難です。
場所・環境の問題
行為が診察室・処置室・病室・往診先など医療現場で行われた場合、「正常な恋愛関係の延長」という主張は極めて通りにくくなります。これらは医師の支配領域・医療提供の場であり、私的な空間とは認められません。
医師と患者の性的関係が発覚するきっかけは?
医師と患者の性的関係やわいせつ行為が問題化するきっかけは、ある日突然やってくることがほとんどです。「バレないだろう」と思っていた関係が、以下のような経緯で表面化するケースが多くあります。
(1)患者本人による申告・被害届
最も多いきっかけが、患者本人が「被害を受けた」として動くケースです。関係が続いている間は問題にならなくても、関係が終わった後・転院後・医師への感情が変化した後に被害を申告するというパターンが非常に多くあります。
患者が「当時は断れなかった」と認識を改めた段階で、過去の行為が遡って問題になります。
(2)家族・第三者への相談から発覚
患者が直接警察や病院に訴えるのではなく、家族や友人への相談がきっかけで発覚するケースもあります。
相談を受けた家族が「それは犯罪だ」と判断し、病院や警察に連絡するという流れです。医師側が「二人だけの秘密」と思っていても、第三者に伝わるリスクは常に存在します。
(3)院内スタッフ・第三者の目撃・報告
診察室や処置室での不審な行動を看護師や他のスタッフが目撃し、病院の相談窓口に報告するケースがあります。
また、同じ医療機関を受診している別の患者が「自分も似たような経験をした」と複数の被害を申告することで、問題が一気に大きくなることもあります。
院内調査・警察での捜査対応で絶対にやってはいけないこと
患者がトラブルを最初に訴える窓口は、警察だけではありません。以下の順序で問題が表面化するケースも多いです。
性的関係が発覚した場合の流れ
- 病院の患者相談窓口・患者サポートセンターへのクレーム
- 病院による院内調査の開始
- 警察への被害届・告訴
- 厚生労働省・都道府県への行政処分申告
院内調査とは、病院が事実確認とリスク管理のために行うものです。しかし、この段階での不用意な発言や行動が後の刑事手続きに影響するおそれがあります。
ここでは、院内調査・警察の捜査段階でやってはいけないことを解説していきます。
(1)カルテの改ざん・追記・削除
自己保身のために電子カルテを書き換えることは絶対に避けましょう。
電子カルテにはアクセスログが記録されており、事後的な修正はすぐに発覚します。改ざんが発覚した場合、「証拠隠滅のおそれ」として逮捕の必要性が高まるほか、裁判での信用性が完全に失われます。
トラブル発覚後のカルテは、改ざんせず原本のまま保全することが原則です。
(2)患者への直接連絡
焦って患者本人や関係者に連絡を取ることは、絶対に避けてください。
「誤解を解きたい」「謝りたい」という意図であっても、この段階での直接連絡は、口裏合わせや不当な働きかけを疑われるおそれがあります。
被害を申告した本人や関係者への接触は控え、対応方法は弁護士に相談のうえ慎重に判断すべきです。
(3)事情聴取での不用意な供述
院内調査での発言は記録され、病院が警察や厚生労働省に提出する可能性があります。弁護士に相談する前に詳細な説明をすることは避けるべきです。
また、警察での事情聴取(取り調べ)対応も注意が必要です。一度、供述調書にサインしてしまうと、原則として後から取り消すことはできません。言葉のニュアンスによって罪が重くなってしまうリスクもあるため、何を話し、何を話さないかなど、弁護士と相談したうえで対応すべきでしょう。
医師免許はなくなるのか|行政処分のリスクを解説
刑事事件として処罰されるだけでなく、医師にとってより深刻なのが医師免許の取消・停止という行政処分です。刑事手続きと行政処分は別の手続きであり、同時並行で進むことを理解しておく必要があります。
医師法が定める行政処分の根拠
医師法7条は、一定の場合に医師免許の取消しや医業停止等の行政処分を行うことができると定めています。
- 罰金以上の刑に処せられた場合(刑事処分が確定した場合)
- 医師としての品位を損する行為があった場合
わいせつ行為や性交等は、刑事処分の有無にかかわらず、「品位を損する行為」に該当すると判断される可能性があります。つまり、不起訴になったとしても行政処分の対象になり得るという点は注意する必要があります。
行政処分の種類と重さ
医師に対する行政処分には、重い順に以下の種類があります。
行政処分の種類と重さ
- 免許取消
医師として最も重い処分。罰金以上の前科が付いてしまうと、免許を失ってしまうリスク - 業務停止
一定期間、医師としての業務を行うことが禁止される処分。勤務医であれば解雇、開業医であれば休廃業を余儀なくされるリスク - 戒告
最も軽い処分ですが、記録として残り、その後の行政処分の判断にも影響
罰金刑以上の前科|行政処分のリスクが高まる
刑事処分の結果によって、行政処分のリスクは大きく変わります。
具体的には、罰金以上の刑に処せられた場合には、医師法7条による行政処分が検討されることになります。
罰金刑・実刑・執行猶予いずれの場合も免許取消・停止の可能性が高く、医師としてのキャリアを継続することは困難になります。
医師免許への不利益をできる限り抑えるためには、刑事手続において不起訴処分を目指すことが重要です。もっとも、不起訴となった場合でも、事案の内容次第では行政上の問題が生じる可能性はあります。
不起訴・刑事処分の軽減を目指すためには
不起訴で前科を避けるためには、早期の対応が不可欠です。
被害者との示談が重要
性犯罪において、被害者との示談成立は、不起訴獲得に向けた最大のポイントです。ただし、加害者が直接被害者と交渉することは原則としてできません。連絡先を知っていても、警察から接触を禁じられるのが通常です。
そのため、示談交渉は弁護士に依頼することが事実上必須となります。
弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人となり、被害者の心情に配慮しながら交渉を行います。示談金を支払うだけでなく、「清算条項」「口外禁止(守秘義務)」などを盛り込み、将来的なトラブル再燃や会社への発覚を防ぎます。

刑事事件の示談の重要性に関してはこちらで詳しく解説しています。
宥恕をもらえば不起訴の可能性が高まる
刑事事件の示談交渉において、重要となるキーワードが「宥恕(ゆうじょ)」です。 法律用語で難しく聞こえますが、簡単に言えば「被害者からの許し」を意味します。
示談書の中に、宥恕条項として「被害者は加害者を許す」「処罰を望まない」といった一文が入っているかどうかが、その後の刑事処分を大きく左右することがあります。
宥恕条項つきの示談書が提出されることで、不起訴処分となる可能性が高まります。宥恕があることで、当事者間の問題は解決していることを検察官に示すことができ、検察官が「今回は起訴を見送ろう(起訴猶予)」と判断するための強力な材料になります。

医者と患者に関するよくある質問
Q.患者から好意を示され関係を持ちました。それでも逮捕されますか?
患者から積極的なアプローチがあった場合でも、逮捕される可能性はあります。
医師と患者の関係では、患者が「診療上の不利益を受けることへの恐れ」から意に反して応じた、あるいは「医師に見捨てられたくない」という迎合行動だったと評価されることがあります。
表面上の言動だけでは合意の証明にならないため、早急に弁護士へご相談ください。
Q.示談が成立すれば、医師免許への影響はなくなりますか?
示談が成立すれば、不起訴処分を得られる可能性が高まり、医師免許への行政処分リスクを回避できる可能性があります。
ただし、示談の成立が直ちに行政処分の免除を意味するわけではありません。不起訴処分の獲得と、その後の行政対応も含めて弁護士と戦略を立てることが重要です。
Q.院内調査が始まりましたが、正直に話した方がいいですか?
院内調査で詳細な供述をすることは、弁護士に相談する前には避けるべきです。院内調査での発言記録が警察・厚生労働省に提出される可能性があります。
「弁護士と相談のうえで回答します」と伝え、まず法律の専門家に対応方針を確認することを強くおすすめします。
アトムの解決事例
医療従事者が患者である未成年の女性と性的関係を持った事案
未成年の患者との性的関係(不起訴処分)
30代の医療従事者の男性が、担当していた未成年の女性患者と複数回にわたり性的関係を持った事案。その後関係が悪化し、被害者側の弁護士から被害届提出の可能性を示す書状が届いた。
弁護活動の成果
受任後すぐに相手方弁護士との示談交渉を開始し、依頼者の意向に沿って示談金500万円での早期解決を目指した。被害届提出前に示談が成立・宥恕を獲得し、刑事事件化を完全に回避。依頼者は医療従事者としての職を失わずに済んだ。
医療従事者が元患者と性的関係を持った事案
元患者との性的関係(不起訴処分)
医療従事者の20代男性が、かつて勤務先に入院していた未成年の元患者と退院後に合意の上で性的関係を持った事案。後日、警察が自宅に家宅捜索に訪れ、携帯電話等が押収されるとともに任意聴取を受けた。
弁護活動の成果
弁護士が検察官に意見書を提出し、本件は児童福祉法違反には該当せず青少年育成条例違反が適用されるべきと主張した結果、最終的に起訴猶予による不起訴処分となった。示談は不成立だったものの、依頼者に前科がつくことなく事件は終結した。
まとめ
医師と患者の性的関係のトラブルは、刑法176条・177条の第8号(地位利用)の観点から、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪として厳しく判断される傾向にあります。
また、問題は刑事事件だけにとどまらず、院内調査・行政処分・医師免許の取消という複数のリスクが同時に進行します。
「同意だと思っていた」という主観だけでは、十分な防御にならない場合があります。警察が本格的に動き出す前、あるいは病院内での対応が進む前に、弁護士に相談し、示談交渉や証拠保全を含む適切な対応方針を検討することが重要です。
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