頻発する盗撮の状況
弊所がご相談や弁護のご依頼をいただく盗撮事件、ニュース等で取り上げられる盗撮事件において、よく見られる盗撮の状況を紹介します。似た状況で盗撮を行い、警察に逮捕・検挙されてしまった方やそのご家族の方は、お一人で悩みを抱えず、盗撮事件に強いアトム法律事務所の弁護士にご相談下さい。
イベント会場での盗撮
近年、イベント会場において女性を、カメラ等を用いて盗撮したとして問題になるケースが増えています。
イベント会場での盗撮事件の事例
盗撮目的で野球場に侵入 アルバイト男性を逮捕
全国高校野球選手権佐賀大会が開かれているさがみどりの森球場(佐賀市)に盗撮目的で入ったとして、佐賀南署は、建造物侵入の疑いで、長崎県のアルバイト従業員の男(50)を現行犯逮捕した。逮捕容疑は、神埼清明―佐賀商の準々決勝が行われていた球場に盗撮目的で侵入した疑い。南署によると、佐賀商のチアリーダーが三塁側スタンドの通路を移動する際、スカートの下に足を差し向ける男の様子を保護者が目撃した。声を掛けたところ、その場から立ち去ろうとしたため、保護者が呼び止めて確保し、大会運営関係者に引き渡した。南署は、男が持っていた小型カメラとサンダルを押収、サンダルに小型カメラを仕込んでいたとみて調べている。
(佐賀新聞 2021年 )
高3女子の下半身、競技場で背後から動画撮影
陸上競技場で、女子高生アスリートを盗撮したとして、京都市の男性会社員がこのほど、京都府迷惑防止条例違反の疑いで書類送検された。報道によると、男性は、京都市右京区の「たけびしスタジアム京都」で開かれた陸上競技大会に出場していた女子選手(高校2年)の下半身を強調する写真34枚を盗撮した疑いが持たれている。警察の調べに、男性は「欲求を満たすためだった」と述べたという。
(ライブドアニュース 2021年)
水泳大会トイレを盗撮 男性教員を逮捕
秋田市内で行われた水泳大会会場のトイレで複数の男子高校生を盗撮したとして、秋田中央署が男性教員を児童買春・児童ポルノ禁止法違反の疑いで秋田地検に書類送検したことが、捜査関係者への取材で分かった。捜査関係者によると、男性教員は、秋田市内で開かれた水泳大会の会場を訪れ、男子トイレで生徒らをスマートフォンで動画撮影した疑い。同署の調べに対し、容疑を認めているという。同校によると、男性教員は現在自宅待機中という。
(読売新聞オンライン 2021年)
ビデオカメラをかばんに仕込み盗撮 会社員を現行犯逮捕
富士スピードウェイ(静岡県小山町)で開かれた自動車レースのイベント広場で盗撮したとして、御殿場署は、県迷惑行為防止条例違反(盗撮)の疑いで、千葉県我孫子市の会社員を現行犯逮捕した。この日は国内最高峰の自動車レースであるスーパーGTシリーズ第2戦「富士GT500キロレース」が開催されていた。逮捕容疑は、富士スピードウェイのイベント広場でビデオカメラをカバンに仕込み、東京都目黒区の30代女性のスカート内を盗撮したとしている。容疑者は容疑を認めている。
(産経新聞 2018年)
イベント会場での盗撮の違法性
イベント会場での女性の盗撮は、各県が定める迷惑防止条例に違反することがあります。
ここでは、東京都迷惑防止条例を例にあげて解説します。
(東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行 為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人 の身体に触れること。
(2) 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体 を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し 向け、若しくは設置すること。 イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる ような場所 ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用 し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
イベント会場での盗撮は、イベントのため観客の前に出て発表等をしている女性(以下「演者」といいます)や商品の販売者を撮影するというもの、イベント会場内や会場内トイレにいる一般女性の下着や用便の様子等を撮影するというものなど様々な類型が考えられます。
演者を盗撮する場合、盗撮の対象は下着等の場合と、それ以外の場合がありえます。下着等でない場合、例えば一般観客が普通に見ることのできるユニフォーム姿などを撮影する場合などは、条例の適用外なのではないかという問題があります。しかし、その場合でも、例えば撮影の対象が顔、胸部、臀部、太腿、股間等やその付近に集中していたり、極端に多い枚数を撮影していたりする場合などは、それを知った女性を極めて強く羞恥させ、不安を覚えさせる卑わいな言動と評価されることがあると考えられます。
また都道府県によっては、「公共の場所や乗り物」の盗撮のみを禁じているケースがあります。
「公共の場所」とは、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む)をいい、イベントを行う会場は様々ですが、不特定多数の者が自由に出入りできる施設であれば、公共の場所にあたります。
しかし、会場内のトイレの撮影は公共の場所ではないと評価されるので、公共の場所の盗撮のみを禁じている都道府県では軽犯罪法(覗き見)又は刑法(建造物侵入罪)により処罰される可能性があります。
まず、軽犯罪法に基づいて、ご説明します。
(軽犯罪法)
第一条 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
二十三 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者
軽犯罪法上は、迷惑防止条例とは違い、場所の公共性が要求されないため、トイレの盗撮一般を取り締まることができます。ただし、法定刑が拘留又は科料しかないため、同条例の場合(地域差がありますが、常習でない場合は概ね6月以内又は50万円以下の罰金です)と比して著しく刑が軽いといえます。
次に、刑法(建造物侵入罪)に基づいて、ご説明します。
(住居侵入等)
第百三十条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
盗撮目的、あるいは盗撮用の道具の設置・回収目的で、イベント会場に立ち入った場合、正当な理由がない侵入ということになりますので、立ち行った時点で建造物侵入罪が成立する可能性があります。盗撮の対象が演者か一般女性であるかを問いません。
イベント会場で盗撮事件が起きる背景と取締の必要性
イベント会場で盗撮事件が起きる背景としては、(1)イベント会場は盗撮の加害者・被害者となり得る人が集まる場所、(2)イベント会場は、盗撮の機会が生じやすい場所、(3) 露出の多いユニフォーム等が使用されている場合がある、(4)盗撮画像に市場価値がある場合がある、ことが考えられます。
(1) イベント会場は盗撮の加害者・被害者となり得る人が集まる場所
当然のことのようですが、盗撮事件が生じるのは、盗撮を行う男性と盗撮の対象となる女性がいる場所です。男性と女性がいない場所では盗撮事件は起きません。逆に、盗撮の潜在的な加害者となる男性と被害者となる女性が多く集まる場所では、人の少ない場所よりも相対的に盗撮事件が生じやすくなります。
イベント会場には、イベントの集客力や会場規模にもよりますが、多数の男女が集まります。例えば、野球の場合1試合あたり約2万人弱〜4万人強が集まります。コミックマーケットの場合、1日あたり約20万人前後が集まります。これがイベント会場で盗撮事件が頻発することの前提です。
(2) イベント会場は盗撮の機会が生じやすい場所
平成23年の警察庁の発表によると平成22年の盗撮の摘発件数は1,741件で、そのうちの98%に当たる1,702件が「下着などの盗撮」でした。平成25年の警察白書には盗撮された部位に関する統計は掲載されていませんが、下着など、スカートの下から密かに撮影がされているケースが多いと考えられます。
集客力が高いイベントでは、自由に体が動かせないほど人が密集することが多々あります。そのような場合には、男性が女性と密着していたとしても不自然ではない状況となります。そしてそのような状況下では、人は他人の行動を確認する余裕がない状態となります。特に、目が届きにくい下の方ほどその傾向は強まります。
スマートフォン等は手の平大の大きさであり、片手で撮影ができます。そのため、上述のような混雑の中でも、女性のスカートの下にもっていって撮影をすることが可能です。
(3) 露出の多いユニフォーム等が使用されている場合がある
一言でイベントといっても、様々なものがありますが、若者向けイベントの演者や、来訪者の注目を集めたい場合については、露出が多く、派手なユニフォームが使用される傾向にあります。例えば、モーターショーのコンパニオンのユニフォーム、野球場の売り子のユニフォーム、一部の音楽グループのユニフォーム等が挙げられます。
(4) 盗撮画像に市場価値がある場合がある
イベント会場での盗撮は、撮影者が自己の性的嗜好を満足させるために行う場合もありますが、商業的な目的で行われる場合もあります。例えば、盗撮した画像・映像を編集してDVD等にまとめ、販売する業者が存在します。このような商業目的の業者は、高い収益を上げることを目的としていますので、より過激で性的刺激の強い画像・映像を撮ろうとする傾向があります。また、イベントの主催者が撮影自体を制限している場合でも、これを無視し、あるいは、隠れて撮影を行うことすらあるようです。