常習累犯窃盗という言葉を聞いたことはあるでしょうか。何度も繰り返し窃盗を行っていると、窃盗罪よりも刑の重い、常習累犯窃盗罪によって処罰される場合があります。
常習累犯窃盗は、通常の窃盗とは異なる点がいくつかあります。また、常習累犯窃盗を犯してしまう人には、犯行の背景に病気が存在している場合があることも判明しています。
この記事では、常習累犯窃盗とは何か、常習累犯窃盗と窃盗との違い、常習累犯窃盗の刑の重さや執行猶予の可能性、常習累犯窃盗の背景にある病気などについて解説していきます。
目次
常習累犯窃盗とは
常習累犯窃盗の成立要件
常習累犯窃盗とは、常習的に窃盗を行っていて、過去に窃盗罪で処罰されたことのある人を通常の窃盗罪よりも重く処罰するための規定です。
具体的には、窃盗罪・窃盗未遂罪を犯した人が次の2つの要件に該当する場合に常習累犯窃盗罪が成立します。
- 常習的に窃盗・窃盗未遂を行ったこと
- 窃盗・窃盗未遂を行った日からそれ以前の10年以内に、窃盗・窃盗未遂で3回以上にわたって懲役6か月以上の刑を受けて刑務所に入ったことがあること
「常習的に」とは、犯人が何度も反復して窃盗を行っていることを意味します。どれくらいの頻度で窃盗を行うと「常習的」になるのかについて法律上の規定はありませんが、前科・前歴・性格・素行・犯行の動機などが総合的に判断されます。
過去10年間で3回以上、窃盗罪で刑務所に入っている場合には、常習累犯窃盗として処罰される可能性が高くなります。
常習累犯窃盗と窃盗との違い
規定されている法律が違う
常習累犯窃盗罪は、「盗犯防止法(盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律)」という法律で規定されている罪です。
これに対して、窃盗罪は刑法235条に規定されている罪です。このように、常習累犯窃盗罪と窃盗罪は、規定されている法律がそれぞれ異なります。
もちろん常習累犯窃盗罪と窃盗罪とは、いずれも物を盗む行為について成立する罪であるということには変わりありません。通常、物を盗む行為には窃盗罪が成立します。
しかし、「盗犯防止法」に規定されている特別な要件を充たした窃盗については、常習累犯窃盗罪が成立します。常習累犯窃盗罪は窃盗罪のうち特別な類型であるということができます。
刑罰の重さが違う
常習累犯窃盗と窃盗の大きな違いは、刑罰の重さです。
窃盗罪は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」が法定刑ですが、常習累犯窃盗罪は「3年以上の懲役」です。
なお、刑期の上限について法律上の規定がない場合には、上限は20年となります(刑法12条)。そのため、常習累犯窃盗の刑の範囲は「3年以上20年以下の懲役」となります。
常習累犯窃盗には罰金刑がなく、有罪になる場合にはどんなに軽い窃盗でも必ず懲役刑が科されます。また、懲役刑の長さも長い方の期間で比べると2倍もの差があります。
常習累犯窃盗に対して重い刑罰が科されるのは、常習的かつ複数回にわたって窃盗を繰り返す行為は犯罪としての悪質性が高いからです。
また、重い刑罰を科すことによって、窃盗が繰り返されることを防止しようという目的も含まれています。
常習累犯窃盗で執行猶予はつくのか
懲役刑で執行猶予がつく条件
法律上、懲役刑で執行猶予をつけることができるのは、刑の長さが3年以下の場合に限られます。3年を超える懲役刑を科す場合には執行猶予をつけることができず、常に実刑となるのです。
さらに、過去に禁錮以上の前科がないことや、禁錮以上の前科がある場合には刑の終了から5年以上経過していることも、執行猶予がつく条件となります(刑法25条)。
常習累犯窃盗の法定刑は3年以上の懲役であるため、裁判所が下限の懲役3年を選択した場合には、執行猶予をつけられることになります。
また、特に情状酌量すべき事情がある場合には、裁判所は法定刑を2分の1に減らした枠内で判決を出すことができます。これを酌量減軽と言います。
常習累犯窃盗罪の場合には、酌量減軽がなされれば最も軽くて懲役1年6か月の刑を言い渡すことができます。このような酌量減軽により懲役1年6か月~懲役3年の刑が言い渡される場合にも、執行猶予をつけることが可能です。
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常習累犯窃盗で執行猶予判決になりうるケース
常習累犯窃盗で執行猶予になりうるケースとしては、以前の刑が終了してから5年以上が経過しており、今回の窃盗の被害も比較的軽い場合などがあります。
執行猶予になるためには、特に情状酌量してもらえるような事情があることが必要です。
例えば、窃盗の被害額が非常に少なく、示談によってその被害金額も弁償して被害者の許しを得られているような場合などには、特に情状酌量するべき事情があると判断されやすくなります。
常習累犯窃盗で実刑になる場合
常習累犯窃盗で実刑になるケースとしては、次の二つが挙げられます。
- 前回実刑判決になり、刑務所を出てから5年以内に再び窃盗を犯す
- 前回執行猶予判決になったものの、執行猶予期間中に再び窃盗を犯す
1の場合には、法律上執行猶予をつけることができないので、実刑判決が下されます。
2の場合、再び犯した窃盗が常習累犯窃盗と判断されれば、酌量減軽がなされたとしても刑の範囲は「懲役1年6ヶ月以上」になります。
再度の執行猶予は法律上、執行猶予中に犯した犯罪が1年以下の懲役・禁錮刑の場合にしかつけられません。そのため、実刑判決が下されることとなります。
常習累犯窃盗は、常習的に窃盗を行うことが特徴である犯罪です。このため、常習累犯窃盗罪が成立する場合には、執行猶予付き判決が下されたり刑期を終えて釈放されたりした後すぐに窃盗を行ってしまう場合が少なくありません。
短期間のうちに何度も繰り返し窃盗を行ってしまって常習累犯窃盗で起訴されてしまうと、法律上執行猶予をつけることができない場合に該当してしまうことが多くあります。そうなった場合には、実刑判決が下されることになりやすいのです。
常習累犯窃盗がクレプトマニアである場合
クレプトマニア(窃盗依存症)とは
クレプトマニアとは、窃盗行為をすること自体に対して依存症を生じてしまっている病気です。自己の意思とは関係なく窃盗や万引きをしたいという衝動が起こり、そのような不適切な衝動を抑えることができないのがクレプトマニアの特徴です。
常習累犯窃盗で逮捕された場合には、クレプトマニアを疑ってみることが必要である場合があります。
クレプトマニアの場合には、たとえ窃盗や万引きが悪いことだと分かっていても、衝動的に窃盗を犯してしまいます。本人が窃盗や万引きを悪いことだと分かっていないから窃盗や万引きをしてしまうのではありません。
クレプトマニアは近年その存在が認知されるようになり、窃盗罪や常習累犯窃盗罪を犯してしまう人の一定数はクレプトマニアであることも分かっています。
クレプトマニアには適切な治療を行う
クレプトマニアはれっきとした病気であることから、クレプトマニアであると診断されれば治療を受けることができます。
専門の治療プログラムを用意している病院もあります。クレプトマニアの治療をすることで、衝動的な窃盗癖を改善し、再び同じように窃盗や万引きに及んでしまうことを防ぐことが可能となります。
また、クレプトマニアの治療をすることは、刑事裁判を受ける上でも有利な事情になります。窃盗の原因となった病気を治療によって改善しようと治療プログラムを受けていることは、裁判の中で情状酌量するべき事情として考慮してもらえることがあるのです。
常習累犯窃盗を犯してしまった場合には、クレプトマニアの可能性を疑い、専門的な医療機関を受診して診断と治療を受けることが重要です。
クレプトマニアなら刑が軽くなる?
クレプトマニアであることを理由として、裁判で刑が軽くなる可能性は極めて低いです。
刑法39条では、心身喪失者であれば無罪、心身耗弱者であれば刑が減軽されると定められていますが、クレプトマニアでどちらかに認定されるケースはほとんどありません。
自身の行為の善悪を判断する能力又はその判断に従って行動を制御する能力が全くなければ心神喪失者、著しく低ければ心神耗弱者と呼ばれます。
いずれも、精神障害や知的障害などがある特殊なケースになるため、クレプトマニアでは刑が軽くなる可能性が低いのです。
ただし、既にご説明した通り、クレプトマニアという病気を治療し、克服しようという姿勢が、刑を軽くする可能性は残されています。
治療による改善の度合いや再犯防止策などを適切に裁判官に伝えることで、軽い刑罰で済むこともあるため、クレプトマニアで刑を軽くしたい場合には刑事事件に強い弁護士に相談してください。
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常習累犯窃盗で逮捕されたら弁護士に相談を
常習累犯窃盗で逮捕されそうな場合や家族などが逮捕された場合には、まずはすぐに弁護士に相談するようにしましょう。
弁護士に相談すれば、できる限り逮捕を回避することができるように弁護活動を行ってくれます。すでに逮捕されてしまっている場合には、逮捕されている方と接見をすることで状況を把握し、早期の身柄解放のために必要な活動を行ってくれます。
常習累犯窃盗罪の場合、逮捕を回避するための活動としては、被害者との間で示談を成立させることが重要です。示談を成立させて被害弁償を行い、被害者が加害者を許し処罰を求めないという内容の示談書を作成できれば、逮捕を回避できる可能性が高まります。
窃盗は財産的な被害を生じる犯罪であるため、財産的な被害を弁償によって補うことができれば、重い処分を科す必要はないと判断されやすいのです。
交渉は、示談の経験が豊富な弁護士に依頼して代理してもらうことが重要です。示談の経験が豊富な弁護士が示談交渉を行うことで、加害者本人が示談交渉を行うよりも円滑に交渉が成立する可能性が高まります。
また、単に示談を成立させるだけではなく、作成する示談書にどのような文言を記載するのかということも重要です。示談書が処分を軽くするための証拠となるからです。
弁護士に依頼することで、処分を軽くするために効果的な文言を適切に記載した示談書を作成してくれます。
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