「同意があったと思ったのに、後から不同意だと言われた」「部下が警察に行くと言っている」
2023年7月の刑法改正により、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪が新設されました。
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪では、不同意の具体的な状況を定義する「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」を生じさせる8類型が明文化されました。

その第8号(経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮)は、上司・部下の関係において問題となりやすい類型です。
この記事では、上司と部下の性行為が犯罪になるリスクと、警察から連絡が来る前・来た直後に取るべき初動、不起訴獲得までの具体的な進め方を、刑事事件に注力する弁護士の立場から解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
部下に行う性的行為の危険性|不同意性交等罪・不同意わいせつ
上司・部下の関係で行われる性的行為は、不同意性交等罪や不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。
刑法176条の条文には、不同意の具体的な状況を定義する「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」を生じさせる8類型が列挙されています。
冒頭でも述べたように、第8号に「経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること」があります。
具体的には、会社の上司・部下、取引先との関係など、社会生活上の立場の優位性を利用して、相手が「断ったら不利益を受けるかもしれない」とおそれさせる(またはそのおそれに乗じる)形で性的行為に及んだ場合に、犯罪が成立します。
上司が持つ影響力とは
上司は、部下に対して次のような権限や影響力を持っているケースがあります。
| 権限の種類 | 部下への影響 |
|---|---|
| 人事評価権 | 給与・賞与・昇進に直結する評価を行う権限 |
| 人事配置権 | 異動・配属先の決定に関与する権限 |
| 雇用継続に関する権限 | 契約社員・派遣社員などの契約更新に影響する権限 |
| 業務指揮権 | 日常業務の指示・タスク配分に関する権限 |
部下が「行為を断ったら評価を下げられるかもしれない」「契約を切られるかもしれない」という恐怖心から抵抗できなかった場合、たとえ激しい抵抗がなくとも、「同意があった」とは認められない可能性が高くなります。
地位の利用と評価されるタイミング
実務上、以下のようなタイミングで行われた性的行為は、「地位に基づく影響力」の利用と評価される可能性があります。
地位の利用と評価されるタイミング
- 人事評価の前後
評価面談の前後に飲食に誘い、その場で性的行為に及んだケース - 異動や契約更新の時期
栄転や契約更新を示唆して関係を持ったケース - 別れ話・関係解消の場面
部下が関係を終わらせようとした際に、立場を利用して引き止めたケース
部下が被害を訴えると、刑事処分(逮捕・起訴・有罪判決)と会社内の処分(減給・解雇等)が並行して進む可能性があります。
不同意わいせつ罪に問われた場合の刑罰は、6か月以上10年以下の拘禁刑、不同意性交等罪の刑罰は、5年以上の有期拘禁刑です。
どちらも罰金刑は規定されていないため、刑事裁判が開かれ、直ちに刑務所に収容される実刑判決となるおそれもあります。
「職場内で大事にならずに解決できるだろう」と甘く考えるのは危険です。被害者との示談で前科を防ぎたい、刑事処分を軽減したい方は、弁護士に相談してください。
「同意があったつもり」でも不同意性交・不同意わいせつになる?
LINEや交際の事実があっても「同意の証明」にならない
「LINEで仕事以外の会話もしていた」「ホテルには一緒に入った」という事実があれば大丈夫と考える方もいるでしょう。しかし、上司・部下の関係では、これらは必ずしも同意の証明になりません。
部下は、上司に対して「NO」と言いにくい立場にあります。そのため、LINEでのやり取りが友好的であったり、表面上親しげに振る舞っていたとしても、それは「職場の人間関係を壊さないための処世術」と評価されることがあります。
裁判においても、被害者(部下)が表面上従順に振る舞っていた場合であっても、それが「上司の機嫌を損ねないための迎合」であったと認定されれば、同意があったとは認められないケースが存在します。
断れない空気を作ったと評価されやすい言動
行為に及ぶ際、以下のような言動があった場合には、地位を利用したと評される可能性があります。これらは「心理的拘束」を生じさせたとして、不利な事情となり得ます。
地位の利用と判断されやすい言動
- 今のプロジェクトから外されたくないよな?
- 次の契約更新、どうしようか迷っているんだ
- 俺と仲良くしておけば、悪いようにはしない
直接的に「関係を持たなければクビ」と言及しなくても、文脈から不利益をほのめかしたと判断された場合、不同意性交等罪・わいせつ罪が成立する可能性が高まります。
警察から連絡が来た/来そうなときの対応
相手(部下)が被害届を提出した場合、ある日突然、警察から電話がきたり、自宅に警察官が来たりします。この「初動」を間違えないことが、逮捕回避・会社バレ防止の生命線です。
任意出頭・事情聴取への対応
警察から「話を聞きたいから署に来てほしい」と言われた場合、それは任意出頭の要請です。突然のことで驚くかもしれませんが、その場ですべてを認めたり、感情的に否定したりするのは避けましょう。
「弁護士と相談してから日程を調整して折り返します」などと伝え、できる限り早めに弁護士に相談してください。準備なしに一人で出頭し、作成された供述調書にサインをしてしまうと、後から覆すことは極めて困難です。
警察署へ行く前に、必ず以下のポイントを整理し、弁護士のアドバイスを受けましょう。
| チェック項目 | 内容と注意点 |
|---|---|
| 事実関係の整理 | 「いつ」「どこで」「誰に」「何をしたか」を時系列でメモする。 |
| 就業規則の確認 | 万が一逮捕・起訴された場合、会社に報告義務があるか確認する。 |
| 示談の可能性 | 相手(部下など)と示談交渉が可能か、弁護士に検討してもらう。 |
| 供述の方針 | 「認めるのか」「争うのか」の方針を弁護士と一致させる。 |
関連記事
・警察の事情聴取(取調べ)をどう乗り切る?不利にならない対応と今後の流れ
相手(部下)への連絡・謝罪は避ける
「誤解を解きたい」「謝って済ませたい」と、相手に執拗に連絡するのは危険です。これが「口裏合わせ(証拠隠滅)の働きかけ」や「脅迫」とみなされ、逮捕の決定的な理由になることがあります。
被害届が出されている可能性がある場合、直接の接触は絶対に避けてください。
記憶が鮮明なうちに行うべきこと
弁護士への相談と並行して、以下の証拠を確保してください。
- LINE・メール履歴
削除せず、すべてバックアップを取る - 業務上のやり取り
普段の業務上の関係性が分かる資料 - 当日の状況メモ
食事の内容、移動手段、会話の内容などを時系列で詳細に記録 - 事件前後の行動記録
交通系 ICカードの履歴、レシートなど客観的な証拠
「自分に不利かもしれない」と思うやり取りでも、独断で削除することは避けましょう。データの削除は「証拠隠滅」と疑われ、逮捕のリスクを高める原因になります。すべての判断は弁護士に仰いでください。
部下へのセクハラが不同意わいせつ罪・不同意性交等罪に発展するケース
職場でのセクハラは、行為の内容や程度によっては単なる社内問題にとどまらず、刑法上の犯罪として立件されることがあります。
特に上司・部下の関係では、セクハラ行為がそのまま第8号(地位利用)を介した不同意わいせつ罪や不同意性交等罪に該当するケースが少なくありません。
セクハラの段階と刑事責任の境界線
セクハラ行為には、言葉だけのものから身体的接触を伴うものまで段階がありますが、上司・部下の関係においては、以下のように刑事罰の対象となる可能性があります。
| 行為の内容 | 刑事上の罪名 |
|---|---|
| 性的な発言・質問の強要 | 強要罪・侮辱罪の可能性 |
| 身体への接触(肩・腰・手を触る等) | 迷惑防止条例違反/不同意わいせつ罪 |
| キス・胸や臀部への接触 | 不同意わいせつ罪 |
| 性交・性交類似行為の強要 | 不同意性交等罪 |
上司・部下の関係では罪が重くなる可能性がある
上司・部下などの関係では、地位関係が背景事情として評価され、第8号の「経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮」の問題が生じやすい傾向があります。
部下は人事評価や雇用継続への影響を恐れて「嫌だ」と言えない状況に置かれやすいからです。
たとえば、見知らぬ人の身体への接触(肩・腰・手を触る等)は、迷惑防止条例違反にとどまることがある一方、上司という立場を利用した状況下で身体への接触をすれば、不同意わいせつ罪として立件される可能性が出てきます。
さらに、性交等をした場合には、部下が表面上抵抗していなくても不同意性交等罪に問われ得ます。
「コミュニケーションやスキンシップのつもり」が通用しない理由
加害者側が「コミュニケーションやスキンシップ程度の認識だった」「犯罪をするつもりはなかった」と主張しても、被害者が不利益を恐れて同意できない状態であったと認定されれば、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪は成立します。
行為者の認識ではなく、被害者が同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にあったかどうかを基準に判断するためです。
また、セクハラとして社内のハラスメント相談窓口に通報された場合、会社の調査と並行して被害者が警察に被害届を提出するケースも増えています。社内問題で収まると考えていたら、突然警察から連絡が来るという事態は決して珍しくありません。
会社にバレるタイミングと懲戒処分のリスク
上司・部下の関係で行われる性的行為で、多くの方が最も恐れるのが「会社に知られること」と「懲戒解雇」です。警察が捜査を始めても、直ちに会社へ連絡が行くわけではありません。しかし、以下のタイミングで発覚するリスクがあります。
会社にバレるきっかけとなるもの
- 長期間の無断欠勤
- 実名報道
- 警察による会社への捜査
- 社内のハラスメント窓口への通報
社内調査と刑事手続きの並走に注意
社内のハラスメント調査と、警察の捜査は別物です。そのため、刑事で不起訴になれば、社内処分も防げるとは限りません。
ただし、刑事事件として「不起訴(嫌疑不十分など)」を獲得できれば、会社側に対して「法的には犯罪事実は認定されなかった」と主張する材料になります。
前科がつくと懲戒解雇になる?
労働者の懲戒処分について、法律に具体的な基準が定められているわけではありません。実際の処分は、各企業の就業規則に基づいて判断されます。
そのため、「前科がつく=即懲戒解雇」というわけではありません。
会社が従業員を懲戒解雇するには、通常、次のような事情が必要とされます。
- 当該行為により業務に著しい支障が生じたこと
- 企業の社会的信用を著しく失墜させたこと
つまり、単に有罪判決を受けたという事実だけで直ちに解雇が正当化されるわけではなく、企業活動への具体的影響が重要な判断要素となります。
社内での犯罪はリスクが格段に高まる
行為が社内で行われた場合は、事情が大きく異なります。
たとえば、部下に対する不同意わいせつ・不同意性交や悪質なセクハラ行為などの社内での犯罪は、企業秩序を直接的に侵害し、職場環境を著しく悪化させます。
そのため、「企業秩序を重大に乱す」「業務遂行に深刻な支障を与える」と評価されやすく、懲戒解雇が有効と判断される可能性は高まります。
もっとも、懲戒解雇の有効性は個別具体的な事情にもよるため、悪質でない事案などは、部署異動や軽い懲戒にとどまるケースもあります。
対処法|不起訴処分で前科を防ぐためには
不起訴で前科を避けるためには、早期の対応が不可欠です。
被害者との示談が重要
性犯罪において、被害者との示談成立は、不起訴獲得に向けた最大のポイントです。ただし、加害者が直接被害者と交渉することは原則としてできません。連絡先を知っていても、警察から接触を禁じられるのが通常です。
そのため、示談交渉は弁護士に依頼することが事実上必須となります。
弁護士に依頼すれば、弁護士が代理人となり、被害者の心情に配慮しながら交渉を行います。示談金を支払うだけでなく、「清算条項」「口外禁止(守秘義務)」などを盛り込み、将来的なトラブル再燃や会社への発覚を防ぎます。

刑事事件の示談の重要性に関してはこちらで詳しく解説しています。
宥恕をもらえば不起訴の可能性が高まる
刑事事件の示談交渉において、重要となるキーワードが「宥恕(ゆうじょ)」です。 法律用語で難しく聞こえますが、簡単に言えば「被害者からの許し」を意味します。
示談書の中に、宥恕条項として「被害者は加害者を許す」「処罰を望まない」といった一文が入っているかどうかが、その後の刑事処分を大きく左右することがあります。
宥恕条項つきの示談書が提出されることで、不起訴処分となる可能性が高まります。宥恕があることで、当事者間の問題は解決していることを検察官に示すことができ、検察官が「今回は起訴を見送ろう(起訴猶予)」と判断するための強力な材料になります。

アトムの解決事例(上司・部下の性行為)
職場で部下に抱き着いたわいせつ事件
アトムの解決事例(上司と部下)
自身が理事長を務める教育施設において、部下である女性教員に抱きつくというわいせつ行為をした事案。被害者が同僚に相談し、問題が発覚した。
弁護活動の成果
弁護士が示談交渉に臨んだ結果、示談金90万円で示談が成立。被害届が提出されることはなく、刑事事件化を回避した。依頼者は理事長を退任することになったが、依頼者は前科が付くことなく、社会生活への影響を最小限に抑えた。
飲食店で発生した不同意性交
アトムの解決事例(店長とアルバイト従業員)
飲食店の店長がアルバイトの従業員と性行為をした事案。女性が警察に相談したため、警察から依頼者の勤務先に連絡が入り、警察官が訪れる事態となった。
弁護活動の成果
弁護士の提案が受け入れられ、最終的に示談金150万円で示談が成立。この示談成立により、被害届は提出されずに済み、本件は刑事事件化することなく終了した。
元部下に自宅でわいせつ事件
アトムの解決事例(上司と元部下)
元会社の部下であった20代女性と食事に行った後、自身の自宅で一緒に過ごし、女性の同意なく胸や下半身を触るなどのわいせつな行為をした事案。翌日、女性からメッセージで「お世話になったこともあり被害届を出すか悩んでいる」との連絡を受けた。
弁護活動の成果
弁護活動の結果、依頼から約1週間という短期間で、示談金80万円・宥恕つきの示談が成立した。この示談成立により、被害届は提出されることなく、刑事事件化を回避した。
まとめ|逮捕・会社バレ回避にはスピードが命
上司・部下の関係における性的行為のトラブルは、刑法176条・177条の第8号(地位利用)の観点から、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪として厳しく判断される傾向にあります。
「同意だと思っていた」という主観だけでは、身を守ることはできません。警察が本格的に動き出す前、あるいは会社が処分を下す前に、弁護士を介して適切な防御活動(示談交渉や証拠保全)を行うことが、今の生活を守る唯一の手段です。
当事務所では、会社への発覚を防ぎながらの解決実績が多数あります。まずは無料相談で、今後の見通しを確認してください。
アトムは24時間365日相談予約受付中
アトム法律事務所は、弁護士相談の予約を24時間365日いつでも受付しています。部下への性交・わいせつ行為で不安を抱えている方は、今すぐ予約受付の窓口までご連絡ください。警察が介入している事件の場合、初回30分無料で弁護士相談がうけられます。
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