指導者(コーチ・監督)と選手の間の性的関係は、犯罪になる可能性があります。
コーチと選手の性的関係は、2023年に新設された不同意わいせつ・性交等罪の8類型の第8号である「地位の利用」が問題となるケースが多いです。
不同意わいせつ罪であれば6か月以上10年以下の拘禁刑、不同意性交等罪であれば5年以上の有期拘禁刑という重い刑罰が科される可能性があります。
この記事では、コーチと選手の性的関係がなぜ犯罪となるのか、警察や所属団体から連絡が来た際に絶対にしてはいけないこと、そして事件を起こしてしまった後の対応を解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
コーチが知るべき法的リスク|選手に行う性的行為の危険性
改正刑法で明文化された「地位の利用」の意味
2023年7月に施行された改正刑法では、不同意わいせつ罪(刑法176条)・不同意性交等罪(刑法177条)が新設されました。
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪では、「同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態」を生じさせる行為として8つの類型が具体的に明記されました。

その第8号(経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮)は、コーチと選手の関係において問題となりやすい類型です。
同意を得たと思い込んでいても、「性的行為を断ったら不利益を受けるかもしれない」と相手が感じていた場合、同意がなかったものとして処罰される可能性があるのです。
コーチと選手の関係はなぜ犯罪が成立しやすいのか
スポーツや部活動において、コーチ・監督は選手の将来を左右する強大な権限を持っています。具体的には以下のような権限です。
コーチが持つ権限の例
- レギュラー選考や試合の出場機会の決定権
- スポーツ推薦(進学・就職)の推薦権
- プロ契約・実業団契約の更新に関する発言力
このような権限を持つ指導者が選手に対して性的関係(性交、キスや身体への接触など)を求めた場合、「断れば試合に出られなくなる」「進路に響く」という心理的圧迫が選手側に生じます。
たとえ言葉で脅していなくても、そのような関係性がある場合、指導者の影響力によって不利益を憂慮させたと評価される可能性があり、地位の利用が認定されやすい傾向があります。
合宿・遠征など密室環境が加重要素になることも
性的な行為が行われた場所も、犯罪の成否を左右する重要な要素になります。合宿先のホテル、遠征先の宿泊施設、部室、コーチの車内などは、いずれも指導者の管理下にある「密室」です。
逃げ場がなく、指導者の指示に従わざるを得ない環境で行為が行われた場合、たとえ物理的な暴行がなくても「心理的に抵抗できない状態だった」という認定がされやすくなります。
第8号の「影響力」に加えて環境的要因が重なることで、捜査機関がより強く犯罪成立を立証できる材料となります。
被害者・加害者の性別を問わず成立する|男性選手への加害も処罰対象
不同意性交等罪・不同意わいせつ罪は、被害者・加害者の性別を問わず成立します。かつての強姦罪は「女性に対する男性の犯行」のみを対象としていましたが、2017年の刑法改正で男性も被害者となり得ることが法的に明確化され、2023年の不同意性交等罪・不同意わいせつ罪もこの枠組みを引き継いでいます。
つまり、男性コーチから男性選手に対するわいせつ行為や性的な接触であっても、第8号の「地位の利用」のもとで行われれば、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪が成立します。
実際に、スポーツの現場では男性指導者から男性選手への性的加害が報道されるケースも出てきており、「同性間だから問題にならない」「男性相手なら大事にならない」という認識は完全な誤りです。女性コーチから男性選手へのわいせつ行為も同様に処罰対象となります。
年齢要素が加わる場合の法的リスク
性的関係にあった選手が16歳未満の場合は、同意の有無にかかわらず不同意性交等罪・不同意わいせつ罪が成立します(ただし13歳以上16歳未満の場合は5歳以上の年齢差が条件)。
また、18歳未満であれば、各都道府県の青少年保護育成条例違反にも問われる可能性があり、指導者の立場と年齢要素が重なることで、より重い処罰が予想されます。
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性的行為が発覚するきっかけ
この種のトラブルは、当事者間だけで収まらず、第三者の介入によって一気に刑事事件に発展する特徴があります。性的行為が発覚するきっかけを見ていきましょう。
(1)被害者が警察に相談する
最も直接的なきっかけは、選手本人が警察に相談するケースです。
関係が続いている間は「自分も同意していた」と思い込んでいた選手が、チームを離れた後に冷静になり、「あれは対等な関係ではなかった」「断れる状況ではなかった」と認識を改めて被害届を提出するパターンなどが挙げられます。
関係が終わってから数か月〜数年後に被害届が出されるケースも存在します。不同意性交等罪の公訴時効は15年、不同意わいせつ罪は12年であり、相当な期間が経過しても刑事事件化する可能性が残ります。
(2)関係性を怪しんだ保護者・チームメイトの追及
選手が未成年の場合はもちろん、成人であっても、様子がおかしいことに気づいた親やチームメイト、他のスタッフが問い詰め発覚するケースです。
「成績や実力が伴わないのにレギュラーになっている」「あの子だけ練習後にコーチから呼ばれている」などの不審な点から、周囲が異変に気づくことがあります。
選手本人に被害者意識がない段階でも、保護者が主導して被害届を提出することもあります。この場合、選手本人の「同意していた」という証言はむしろ「指導者による心理的支配の証拠」として不利に扱われることがあります。
(3)団体内通報から捜査機関への発展
スポーツ団体の中には、ハラスメント通報窓口を設置しているところも多くあります。
チーム内部での通報がまず団体の調査委員会に上がり、その調査結果が警察に提供されることで刑事事件化するのが一般的な流れです。
公益財団法人日本スポーツ協会(JSPO)が運営する「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」には、2024年度に過去最多となる536件の相談が寄せられています(JSPO 2025年4月発表)。
相談内容の内訳は暴言が41%、暴力が13%と多くを占めますが、セクシュアルハラスメントに関する相談も約2%あり、件数にすると約10件に上ると考えられます。
この数字は、JSPOの窓口に寄せられたものだけであり、各競技団体や都道府県の独自窓口、警察への直接相談を含めれば、実際の件数はさらに多いと推測されます。
警察から連絡が来た場合の初動対応【やってはいけないこと・やるべきこと】
絶対にやってはいけないこと|相手方への連絡・謝罪
焦って選手本人や保護者に連絡を取ることは、絶対に避けてください。「誤解を解きたい」「謝りたい」という行動であっても、この段階では「口裏合わせの強要」「証人威迫(証拠隠滅行為)」と捜査機関に受け取られます。
これは逮捕の要件である「証拠隠滅のおそれ」を自ら作る行為に他なりません。連絡を取りたい気持ちは理解できますが、すべての交渉は弁護士を通じて行うべきです。
やるべきこと|証拠の保全
自身の身を守るためには、客観的な証拠を確保し、弁護士に共有することが不可欠です。スマホのデータ・やり取りの記録は絶対に消さないでください。
証拠の例
- 連絡履歴
LINE・DMの履歴は、「同意」を示唆するやり取りだけでなく、前後の日常会話も含めて保全してください。文脈が切り取られることを防ぐために、全体を残すことが重要です。 - 行動記録
遠征・合宿の日程表は、当時の状況を説明するために必要です。指導日誌・業務報告書も、当日のあなたの行動を裏付ける客観的資料として有効です。 - 選考・評価記録
選考会議の議事録や評価シートなど、他の選手と同じ基準で評価していたことを示す記録は極めて重要です。
弁護士への早期相談が結果を左右する理由
指導者(コーチ・監督)の性犯罪事件では、適切な対応をとれば在宅事件(逮捕されずに捜査を受ける形)に持ち込める可能性があります。
しかし、初動で誤った行動をとれば、その可能性は大きく損なわれます。弁護士に早期に依頼することで、以下のような対応が可能になります。
弁護士に依頼するメリット
- 取調べにおける供述戦略の策定(何を話し、何を話さないか)
- 捜査機関への意見書提出による逮捕回避の働きかけ
- 実名報道を控えるよう警察に申し入れ
不起訴・刑事処分の軽減を目指すためには
弁護士を通じた被害者側との交渉
警察が介入した場合の最も重要な目標は、不起訴処分(裁判にならないこと)の獲得です。そのために有効な手段が、被害者(選手・未成年であれば選手の保護者)との示談交渉です。

弁護士が間に入り、謝罪の意思を丁寧に伝えつつ、示談条件(慰謝料・接触禁止・守秘条項など)を交渉します。
被害者側から「処罰を望まない」という意思表示を含む示談が成立すれば、検察官が不起訴(起訴猶予)の判断を下す可能性が高まります。ただし、被害が重大な場合や余罪がある場合は、示談が成立しても起訴されるケースがある点は留意が必要です。
不起訴に向けた主張のポイント
検察官に対しては、以下の点を客観的証拠とともに主張し、不起訴処分を求めていきます。
不起訴を目指すためのポイント
- 真の同意の存在
威圧や地位利用がなかったことを裏付ける客観的証拠(選手側からの積極的な連絡記録など) - 関係性の実態
一方的な搾取ではなく、双方の意思に基づく関係であったことを示す事情 - 深い反省と再犯防止策
反省の態度、カウンセリングや治療プログラムへの参加、環境改善への取り組み
コーチと選手の性的行為に関するよくある質問
Q.選手本人が「同意していた」と言っている場合でも、犯罪になりますか?
選手本人が同意を主張していても、犯罪が成立する可能性はあります。
捜査機関は、選手の主観的な証言だけでなく、指導者と選手の力関係、チーム内の雰囲気、選考権の有無など客観的な状況を総合的に判断します。
指導者の「影響力」が認定されれば、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪のいずれにおいても、選手の「同意」があったと主張されていても、法的には同意がなかったと評価される可能性があります。
Q.「同意のつもり」でも事件化する典型例は?
直接的な脅しがなくても、以下のような「空気」があったと認定されれば、コーチが同意があったと認識していても事件化するケースがあります。
「同意のつもり」でも事件化するケース
- 普段から指導者が絶対的な権力を持ち、逆らえない雰囲気がチーム内にある
- 過去に指導者に意見した選手が冷遇された事実がある
- 「君のことは特別に評価している」と告げた直後に身体的接触や性的行為に至った
捜査機関は、コーチと選手の直接の会話やSNSでのやり取りだけでなく、チーム全体の雰囲気や他の選手からの証言も含めて「影響力」を総合的に立証しようとします。
Q.キスや身体を触った行為だけで逮捕される可能性はありますか?
キスや身体を触った行為だけであっても、逮捕される可能性はあります。
性交に至らないわいせつ行為であっても、不同意わいせつ罪(刑法176条)が成立し得ます。法定刑は6か月以上10年以下の拘禁刑であり、軽い罪ではありません。
Q.不同意性交等罪と不同意わいせつ罪の示談金相場はどのくらいですか?
示談金の金額は事案ごとに異なりますが、一般的に不同意性交等罪では数百万円規模、不同意わいせつ罪では50万〜150万円程度が実務上の目安とされています。
ただし、指導者と選手の関係性、被害期間の長さ、被害者の精神的ダメージの程度などにより大きく変動します。
弁護士が代理人として交渉することで、適正な金額での合意と、接触禁止・守秘義務などの条件設定を含めた包括的な解決を目指すことが可能です。
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アトムの解決事例
スポーツチームのコーチが親しくなった選手と性行為をした事例
コーチと選手の性行為(微罪処分)
30代の男性が自身が指導するサッカーチームに所属する未成年の女性と親しくなり、お互いの同意のもとで性的な画像の交換や複数回の性行為を行った事案。依頼者が女子生徒と話していたところ、その様子を不審に思った第三者が警察に通報した。
弁護活動の成果
被害者側は刑事処分を望んでおらず、金銭的な賠償よりも、依頼者が今後被害者に近づかないことや、所属していたチームの関係者へ経緯を説明することなどを求めていた。弁護士の活動の結果、示談金の支払いなしで宥恕付きの示談を成立させ、微罪処分となった。
まとめ
指導者と選手という関係性がある以上、「同意があった」という主張は法的に非常に脆いものです。
2023年7月の刑法改正により、暴行や脅迫がなくても「経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること(第8号)」が犯罪成立の要件として明文化されました。
この第8号は、不同意性交等罪だけでなく不同意わいせつ罪にも共通する要件です。
レギュラー選考などの決定権を持つ指導者が選手に対して性的な行為を行った場合、「地位を利用した」と判断されるリスクは極めて高いのが現実です。
いずれの罪であっても、早期に弁護士へ相談し適切な初動対応と示談交渉を行うことで、不起訴や執行猶予の可能性を高めることができます。事態が悪化する前に刑事事件の弁護経験が豊富な弁護士にご相談ください。
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