ある日突然警察から「ちょっと事情を聴きたいので署まで来てください」と言われた…こんな風に「任意同行」を求められた場合、「逮捕されるのでは」「拒否しても良いのだろうか」と不安ですよね。
任意同行は拒否することができますが、対応を間違えると逮捕につながってしまうリスクもあります。ですから、任意同行について正しい対応方法を事前に知っておくことが大切なんです。
この記事では、どのような場合に任意同行を求められるのか、拒否するとどうなるか、応じるとどうなるか分かりやすくご説明します。
任意同行について不安な方のために、弁護士に相談することのメリットもご説明します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
任意同行は拒否できる?任意同行を求められるケース
任意同行は拒否することができます。
任意同行には、職務質問の際に求められるものと、犯罪捜査のために求められるものがありますが、 「任意」である以上、どちらも拒否することができます。
また、任意同行に応じて取調べを受けたとしても、いつでも退去することが可能です。
以下それぞれのケースについて解説します。
①職務質問に際し任意同行を求められるケース
職務質問の際、任意同行を求められることがあります。警察官職務執行法という法律に職務質問と任意同行の要件が次のように規定されています。
警察官職務執行法
第二条 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
2 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
3 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
警職法2条
以下の要件を満たす場合、 警察官は、不審者を停止させて質問することができます。これが職務質問です。
職務質問の要件(警職法2条1項)
- 何らかの犯罪を犯した、もしくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由がある
- 既に行われた犯罪について、もしくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる
職務質問に際して、任意同行を求めることができるのは、その場で質問することが①本人に対して不利、または②交通の妨害になる場合です。そのときは、 警察官は、質問するため、付近の警察署、派出所または駐在所に同行することを求めることができます。
職務質問に際する任意同行の要件(警職法2条2項)
職務質問の際、その場で質問することが
- 本人に対して不利な場合
- 交通の妨害になる場合
具体例として、警察官が不審者について犯歴照会をした結果、覚醒剤等の前科が判明し任意同行を求めることがあります。
職務質問に際する任意同行は、拒否することができます。警職法2条3項で、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身体拘束、意に反する警察署等への連行、答弁の強要はできないと明確に定められているからです。
②犯罪捜査のために任意同行を求められるケース
職務質問以外にも、ある日警察が訪ねてきて任意同行を求められるケースがあります。
第百九十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
刑事訴訟法198条
検察官や警察官等の捜査機関は、犯罪捜査のため必要があるときは、被疑者(犯罪の嫌疑を受けて捜査対象になっている人)の出頭を求め、取り調べることができます。
この場合、通常逮捕の要件が揃っていないので任意で出頭を求めるケースが多いでしょう。
他方、通常逮捕の要件は揃っていてもあえて任意同行を求めるケースも存在します。逮捕の場合、警察は48時間以内に送検しなければならないという厳しい時間制限がありますが、任意同行ならばこのような制限なく事情を聴けるからです。
その他にも、逮捕の必要性がなく、被疑者在宅のまま捜査を進める在宅事件の場合も任意同行を求められることがあります。
どのような理由で任意同行を求められたとしても、「任意」である以上、拒否することができます。
また、任意同行に付き合って取調べを受けることになったとしても、いつでも退去することが可能です。
一方、逮捕の場合は強制捜査に当たるので、拒否することはできません。また、逮捕するには事前に裁判官が発付した逮捕状が必要ですが、任意同行は令状不要です。
任意同行 | 逮捕 | |
---|---|---|
令状 | 不要 | 必要 |
拒否 | できる | できない |
退去 | できる | できない |
任意同行を拒否するとどうなる?逮捕されるの?
任意同行を拒否するとどうなるのか。
この章では、職務質問に際して任意同行を求められたケースと、犯罪捜査のために任意同行を求められたケースに分けて拒否した後の流れについてご説明します。
職務質問に際する任意同行を拒否すると逮捕される?
職務質問の際、任意同行を拒否したからといって逮捕されることはありません。ポイントは、とにかく穏便に拒否することです。ただし、実際上は拒否することが難しいのもまた実情です。
拒否の対応を間違えると現行犯逮捕されてしまうおそれもあるので要注意です。職務質問の中で、警察官は執拗に任意同行を求めてくることもあります。そうすると、つい感情的になって手が出てしまうというケースも少なくありません。
職務質問中に警察官に暴行や脅迫を加えると、公務執行妨害罪の疑いで現行犯逮捕されるおそれがあるので絶対にやめましょう。公務執行妨害罪の暴行は、警察官の身体に直接向けられる必要はありません。殴る蹴るの暴行はもちろん、パトカーを蹴るなどの行為でも同罪が成立する可能性があります。
公務執行妨害罪について詳しく知りたい方は『公務執行妨害で逮捕されたら?示談や不起訴には弁護士依頼がポイント』の記事をご覧ください。
犯罪捜査のための任意同行を拒否すると逮捕される?
犯罪捜査のため任意同行を求められた場合も、拒否することができます。この場合も拒否したからといって必ずしも逮捕されるわけではありません。
とはいえ、正当な理由なく繰り返し拒否するのはやめましょう。実務上、3回程度拒否すると、逃亡または証拠隠滅のおそれがあると推定され逮捕状を請求される可能性が高くなります。
身体上の理由や家庭の事情など、どうしても任意同行に応じられないこともあるでしょう。そのような場合は、落ち着いて捜査機関に出頭できない理由を説明することが大切です。
事案によっては、不出頭以外の事実から、逃亡または証拠隠滅のおそれがあると判断されることもあり得ます。その場合は、1、2回拒否した程度でも逮捕につながる可能性はゼロではありません。
また、逮捕状をすでに得ているにもかかわらずあえて任意同行を求めているケースでは、拒否をすればその場で逮捕されることもあり得ます。
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職務質問のため | 犯罪捜査のため | |
---|---|---|
性質 | 任意 | 任意 |
拒否した場合 | 逮捕されない | 何度も拒否すると逮捕の可能性 |
任意同行は拒否すべき?適切な対応方法
任意同行は拒否することができますが、むやみに拒否をして状況が良くなることはまずありません。「任意だから拒否できる」という旗を振りかざし職務質問などの際に必要以上に警察と戦おうとする人がいますが、 協力できる範囲であれば捜査に協力することが最も穏当です。
警察の目的は公共の安全と秩序の維持にあります。確かに疑いの目を向けられることは気持ちの良いものではありませんが、決して嫌がらせ目的で職務質問をしているわけではないのです。
「不審な男を見つけ、犯罪の疑いを持ったため、職務質問をして任意同行を求めたが、断られたのでそのまま職務質問を終了した。その後、任意同行を拒否した男は、複数の死傷者が発生する凄惨な通り魔事件を起こしてしまった。」
もしもこのような事件が起こってしまったらとしたらどうでしょう。おそらく、警察は犯行を防げなかったことについて大きな批判を受けるでしょう。任意同行の求めを拒否されたからといって、簡単に引き下がるわけにはいかないということも分かるのではないでしょうか。
しかし、警察は時にやりすぎてしまうこともあります。特に一度被疑者として疑いを持った者への追及はかなり厳しいものです。警察に協力してすべて言うとおりに対応していたら、取り返しのつかない不利益を被ってしまう可能性もあることを忘れてはいけません。
任意同行への対応
拒否をする場合でも、穏当に対応することが大切です。たとえば、落ち着いて任意同行に応じることのできない理由を説明し日程の調整や理解を求めるなどの対応をとります。ただし、ずっと拒否し続けることは難しい場合も多いので弁護士に警察対応を相談することをおすすめします。
また、任意同行には応じたうえで、言いたくないことは全て黙秘して調書にもサインをせず帰ってくるというのも一つの方法です。
任意同行に応じるとどうなる?逮捕されるの?
ここでは、任意同行に応じると逮捕されるのか、任意同行が実質的に逮捕と同じ場合どうなるのか、という点についてご説明します。
任意同行後は何をするの?逮捕される可能性は?
任意同行後は、取り調べを受けます。この取り調べは、いつでも退去することができます(刑訴法198条1項但書)。
任意同行後に逮捕される可能性はゼロではありません。逮捕されるかどうかはケースバイケースです。
例えば、もともと逮捕の必要性がないと考えられていたケースで任意同行に応じれば、そのまま在宅で捜査が進む可能性が高いでしょう。また、取り調べの結果、疑いが晴れて終わることもあり得ます。
他方で、逮捕の決め手に欠けるため、任意同行で話を聞きたいと考えているケースもあります。その場合、任意同行後の取り調べや他の捜査内容から通常逮捕の要件が揃ったと判断され、逮捕に至ることもあり得ます。
また、通常逮捕の要件は揃っていてもあえて任意同行を求めているケースでは、途中で逮捕に切り替わる可能性は高いと言えます。
逮捕後は、起訴・不起訴の判断が下るまで最長23日間身体拘束される可能性があります。もし、任意同行後に逮捕されてしまったら、すぐに弁護士を呼んでください。
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任意同行が実質逮捕の場合は違法!
逮捕の要件を満たさないにもかかわらず、または逮捕によって生じる捜査の時間制限を回避するため、任意同行の名を借りて、実質的には強制的に取調室に拘束するような捜査は違法である可能性があります。
判例は、任意出頭時の取り調べについて、「事案の性質、被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様および限度において許容される」と判示しています(最決昭和59年2月29日刑集38巻3号479頁)。
実例として、9泊10日に及ぶ宿泊を伴う長期間の取調べが、任意捜査として許容される限界を超えた違法なものであると判断された裁判例があります(東京高判平成14年9月4日判時1808号144頁)。
この事例では、違法な取調べ中に得られた上申書及びこれに引き続く逮捕・勾留中に得られた検察官調書はいずれも自白を内容とするものでした。結果的に、これらの証拠の証拠能力は否定されました。証拠能力が否定された証拠は、裁判で判断材料とすることができません。
任意同行後の取り調べが不当な場合は、すぐに退去を求め弁護士に相談することをおすすめします。
取り調べの録音や弁護士の立ち合いはできる?
取り調べの録音
職務質問や取り調べを録音する行為は法で禁止されてはいません。 なお一般的に、法的に録音が禁止されていない場所での秘密録音(無断録音)は違法ではありませんし、裁判での証拠能力も認められます。
もっとも、警察官に許可を求めてもまず認めてもらえることはないでしょう。また、録音が発覚すれば停止やデータの削除を求められる可能性が高いです。
したがって、 警察と揉めるリスクを踏まえたうえで、録音をする場合は隠れて行うことになります。
取り調べの弁護士立ち合い
日本では、取り調べに弁護士が立ち会うことは認められていません。しかし、弁護士に同行してもらい取調室の近くで待機してもらうことはできます。
任意同行での取り調べは、いつでも自由に退室ができますので、弁護士に同行してもらえば都度弁護士に助言を求めることはできるでしょう。
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任意同行が不安…そんなときは弁護士に相談しよう!
弁護士 | 本人 | |
---|---|---|
任意同行の理由 | 正確に確認できる | 確認できる |
捜査方針 | 確認できる | 確認できない |
任意同行について、何だか不安な点がたくさん出てきましたね。でもご安心ください。その不安、弁護士に相談すれば解消することができます。ここでは、任意同行に関する弁護活動をご紹介します。弁護士に相談することで、様々なメリットを得ることができます。
任意同行の理由や捜査方針を捜査機関に確認できます
弁護士は、任意同行を求める理由を警察に対し直接確認できます。もちろん、自分で確認することもできますが、弁護士が確認すれば、ご自身がどのような状況に置かれているのかより正確に把握することができます。また、弁護士は、担当検察官に対し、捜査方針を確認することもできます。
任意同行を求められるのは、被疑者の場合に限らず、参考人の場合もあります。参考人は、刑事事件について事情を知っていると思われる人のことです。捜査機関は、対象者のことを被疑者と考えている場合でも、決め手がなくとりあえず参考人として任意同行を求めることもあります。被疑者か参考人かで、とるべき対応も変わってきます。弁護士は、捜査機関に対し、被疑者と参考人どちらの立場で呼び出しているのかも確認します。
弁護士を通じ正確な情報を集めることで、今後の見通しを立てることが可能になります。もし逮捕されそうな状況であれば、逮捕を回避するよう早急に対処します。
逮捕を回避できる可能性が高まります
もし逮捕されそうな状況であれば、弁護士は、捜査機関に対し、逮捕の必要性がないことを説明します。具体的には、被疑者には定職があること、扶養家族がいることを等を挙げて逃亡のおそれがないことを説得的に示します。
さらに、弁護士が責任をもって被疑者を出頭させる旨の誓約書を提出したり、弁護士が捜査機関との窓口になることで、逮捕を回避するよう尽力します。
弁護士が同行してすぐにアドバイスします
弁護士は、任意同行に一緒に行くことが可能です。同行者がいるだけで精神的な負担は相当軽くなります。また、弁護士は取調室のそばに控えているので、どんな些細なことでも問題が生じればすぐに質問して解決することができます。
事前打ち合わせで不安を解消します
弁護士に依頼すれば、取り調べの前に入念な打ち合わせを行うことができます。弁護士は、黙秘権や署名押印拒否権など、被疑者の重要な権利について事前に分かりやすくご説明します。黙秘権や署名押印拒否権について詳しく知りたい方は、『黙秘権って何?逮捕後に黙秘すると不利?有利になる場合とは?』をぜひご覧ください。
また、取り調べを受ける場合、個別のケースに応じて戦略を立てておくことが非常に重要です。罪を認める場合でも、犯行に至る経緯・動機などによって罪の重さが変わる可能性があります。「自分の場合、どうすればいいの?」と少しでも思う方は弁護士に相談してみてくださいね。
家族が任意同行から帰ってこない!どうすれば良い?
任意同行で連れて行かれた家族などが、帰ってこないというケースが度々あります。この場合、任意同行後に逮捕された可能性があります。
警察は事件の内容や状況の詳細について教えてくれないことも多く、逮捕後およそ3日間程度は面会もできませんので、残されたご家族としてはどうして良いかわからずに困り果てるということがあります。
このようなときは、まずは弁護士を通じてご本人の状況を確認しましょう。
刑事事件を扱う弁護士事務所であれば通常は「初回接見」という形で、即日弁護士を本人の元に派遣するという依頼を取り扱っています。
また、逮捕後に1度だけ弁護士を無料で派遣できるという当番弁護士制度を家族が手配することもできます。当番弁護士を依頼する場合は各都道府県の弁護士会を通じて行います。
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