
SNSなどで、簡単で手軽にお金を稼げるなどとして募集されていて、軽い気持ちで応募することができてしまう「出し子」。若い世代を中心に、出し子を行って逮捕される事例が後を絶ちません。
出し子は犯罪ですので、「軽い気持ちだった」「犯罪とは知らなかった」などという理由で許されることはなく、出し子を行えば、刑事事件の被疑者・被告人として捜査・裁判を受けることになります。
そこで本記事では、そもそも出し子とは何かといった解説や、出し子で逮捕された場合の流れや必要な対応などを紹介します。

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目次
出し子とは何か、何の罪にあたるか
出し子とは詐欺における現金の引き出し係のこと
「出し子」とは、振り込め詐欺(特殊詐欺)などの被害者からだまし取った金銭を、ATMなどから引き出す役割を担う人物のことをいいます。
令和3年の犯罪白書によれば振り込め詐欺には、発生件数が多い順に、オレオレ詐欺、預貯金詐欺、キャッシュカード詐欺、架空料金請求詐欺、還付金詐欺、融資保証金詐欺、ギャンブル詐欺、金融商品詐欺、交際あっせん詐欺などの類型があります。
振り込め詐欺は、1人で行うことはできず、組織的な犯行として行われるのが特徴です。
出し子のほかには、「主犯・指示役」、犯行拠点や架空・他人名義の携帯電話・銀行口座を用意する「犯行準備役」、電話をかけて被害者をだます「架け子」、被害者の自宅に現金を受け取りに行く「受け子」などの役割があります。
出し子の特徴
出し子は、30歳未満の者が過半数を占めているように、比較的若い世代による犯行が多いという点に特徴があります。
令和3年の犯罪白書によると若い世代が出し子を行う理由としては、「軽く考えていた」「だまされた・脅された」「生活が苦しい」というものが主なものとなっています。
「割のいいバイトがあるから~」などといった言葉で誘われて出し子をしてしまうというのが典型例です。
また、お金(報酬)欲しさで出し子を行ったにもかかわらず、実際には、約束していたお金をもらえないというケースや、お金をもらう前に検挙・逮捕されてしまうというケースが多いという点も、出し子の特徴です。
出し子は何罪になるか
出し子を行えば、多くのケースでは、窃盗罪として検挙・逮捕されます。
振り込め詐欺の一環として行われることから、詐欺罪になるのではないかと考える方もいらっしゃるかと思います。
しかし、詐欺罪が成立するためには人を欺くことが必要であるところ、出し子は、ATMという機械を操作して金銭を引き出すだけです。人を欺く行為はしませんので、詐欺罪は成立し得ないこととなります。
出し子は、SNSなどで、「裏バイト」「闇バイト」などとして募集されていることが少なくありません。
しかし、出し子は窃盗罪に当たる犯罪行為ですので、安易に応募するのではなく、本当に違法性がないかどうか、慎重に判断すべきと言えます。
出し子で逮捕された場合の流れ
逮捕されるまで
出し子は、ATMで金銭を引き出そうとする現場で、警戒中の警察官に現行犯逮捕されるケースと、銀行の防犯カメラの映像や先に逮捕された被疑者のスマホに残されたSNSの記録などから、事後逮捕(通常逮捕)されるケースが代表的だと思われます。
逮捕されれば、そこから最大で72時間、警察署の留置場で身柄を拘束される可能性があります。また、逮捕段階では、弁護士としか面会・連絡することができず、弁護士以外の外部(家族・友人・会社など)との面会・連絡は一切禁止されます。
振り込め詐欺は組織的な犯行であり、警察は、その全貌を明らかにしようとしますので、逮捕と同時に自分のスマホも差し押さえられ、そこでのSNSでのやり取りも警察に見られる可能性が高いと考えておく必要があります。
逮捕後、送致・勾留されるまで

逮捕から48時間以内に、ほとんどのケースで事件と身柄が検察官に送られます。これを送致といいます。
逮捕後に送致されれば、検察官の取調べを受け、それによって勾留の必要があるかが判断されます。そして、勾留の必要があるとされた場合には、送致から24時間以内に検察官が勾留を請求し、被疑者は、裁判所に行って勾留質問を受けることになります。
検察官が勾留を請求する割合は統計上約90%です(令和3年犯罪白書)。
振り込め詐欺のように組織的な犯罪や共犯者がいる犯罪の場合、そうでない犯罪に比べて勾留が請求される可能性は高くなりますので、出し子で逮捕されれば、ほぼ必ず勾留を請求されると考えておくべきでしょう。
勾留されれば、さらに最大で20日間、身柄拘束が継続する可能性があります。
また、勾留段階では、逮捕段階と異なり、弁護士以外の外部との面会・連絡も可能になることが多いのですが、特殊詐欺の場合は事情が異なります。
組織的な犯罪や共犯者がいる犯罪の場合には、口裏合わせなどを防ぐため、勾留段階でも弁護士以外の外部との面会・連絡が禁止されるケースが少なくありません。
起訴・裁判(公判)段階
検察官は、勾留期間が満了するまでに、被疑者を起訴するかどうかを判断します。そして、勾留されたまま起訴されると、保釈が認められない限り、身柄の拘束が継続します。
仮に保釈が認められたとしても、保釈のためには150〜200万円程度の保釈保証金が必要ですし、裁判は平日の日中に行われますので、裁判を受けるために仕事や学校を休まなければなりません。
刑事裁判の有罪率は99.9%ですので、起訴されると、ほぼ必ず前科が付いてしまいます。
一方で不起訴処分となると裁判は開廷されず、そのまま事件終了となります。
振り込め詐欺全体での数値ですが、振り込め詐欺で起訴された場合、約67%の割合で実刑判決を受けることなり、2〜3年の懲役刑が最も多いとされています(令和3年犯罪白書)。
出し子で逮捕されたときに必要な対応
釈放の早期実現
逮捕勾留されれば、最大で23日間、身柄を拘束される可能性があります。
これだけ長期にわたって身柄を拘束されれば、仕事をしている方であれば職を失うおそれがあり、学校に通っている方であれば退学となるおそれがあります。そのため、逮捕されても勾留を阻止する、勾留されても早期釈放を実現するための弁護活動が必要となります。
具体的には、被疑者の家族や友人などと連絡をとり、身元引受を約束してもらったり、被疑者自身に反省文を作成してもらったりして、これらの書類をもとに、なるべく早く、検察官に対して勾留請求しないように働きかけます。
勾留されてしまった後の場合は、準抗告という手続によって裁判所の勾留決定を取り消すように求めたり、勾留の必要がなくなったとして勾留取消請求を行います。
これらの活動は、法律に基づく手続であるため、専門的な知識が要求されますし、そもそも、身柄を拘束されている被疑者が自身で行うことができません。
そのため、出し子で逮捕されてしまった場合には、できる限り早く、刑事裁判に精通した弁護士に相談・依頼することをお勧めします。
不起訴処分の獲得
準抗告で勾留を阻止できたり、勾留取消請求で勾留を取り消すことができたとしても、それで捜査が終わるわけではなく、検察官が起訴するかどうかを判断するために、在宅のままで捜査は続きます。
起訴されてしまうと、99.9%前科が付くことになります。前科が付けば、一定の職業に就くことができなくなるなど、極めて大きな不利益が生じます。
そのため、前科を回避するために、不起訴処分を獲得することが重要です。
起訴するかどうかは検察官が判断します。
勾留されている場合には、勾留期間が満了となるまでに、検察官に対して不起訴とするように働きかけなければなりません。
限られた時間の中でスピーディーに弁護活動を行う必要があるわけです。
一方、在宅のままで捜査を受けている場合には、このような時間制限ありません。
しかし在宅事件は処理が後回しとされがちになるという側面もあり、いつまで経っても起訴されるかどうかが分からない不安定な立場に置かれることになります。
弁護士であれば早期に捜査を終えて不起訴とするように申し入れることができます。
被害者と示談を締結し不起訴処分の獲得を目指す
ここまで、釈放の実現や不起訴処分の獲得に必要な弁護活動をお伝えしましたが、出し子のように被害者が存在する犯罪で最も必要な活動は、被害弁償を行い示談を成立させることです。
出し子の初犯の場合、被害者に被害弁償をし、慰謝料を支払い、被害届を取り下げてもらうことができれば、釈放や不起訴処分を実現できる可能性が非常に高くなるといえます。
前科が複数あるような場合には、起訴される可能性もありますが、それでも被害弁償と示談ができていれば、執行猶予付き判決を獲得できる期待も高まります。
被害弁償と示談に当たっては、適正な慰謝料額の提示や、重要な点に漏れのない示談書の作成が不可欠となり、専門的な知識と事案に応じた対応能力が必要です。
刑事事件の経験豊富な弁護士に相談・依頼し、適切な解決を実現いただければと思います。