SNSなどで簡単で手軽にお金を稼げるなどとして募集されており、軽い気持ちで応募することができてしまうのが「出し子」という犯罪です。出し子は特殊詐欺グループにいいように使われ、都合よく利用したあとは捨て駒として切り捨てられる存在でしょう。
「軽い気持ちだった」「犯罪とは知らなかった」などという理由で出し子という犯罪が許されることはないにも関わらず、若い世代を中心に出し子を行って逮捕される事例が後を絶ちません。
しかし、出し子を行えば、刑事事件の被疑者として逮捕・勾留され、長期間の身体拘束が余儀なくされます。また、起訴されると被告人として裁判を受け、有罪となれば刑罰を受けることになるでしょう。
そこで本記事では、出し子で逮捕された場合の流れや、そもそも出し子とはどういう犯罪をいうのかといった基本的な情報に加え、逮捕された場合に必要な対応を紹介します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
出し子は逮捕されやすい?
出し子の検挙件数は増加傾向
出し子が行う、他人のキャッシュカードを不正に取得してATMから現金を引き出すような行為は「払い出し盗」と呼ばれます。払い出し盗で検挙された件数は年々増加傾向にあります。
検挙件数 | |
---|---|
2018年 | 3,465 |
2019年 | 5,534 |
2020年 | 8,083 |
2021年 | 8,058 |
2022年 | 7,580 |
※「令和5年版 犯罪白書 第1編/第1章/第2節/1」1-1-2-4図より参照
出し子の特徴
出し子は、30歳未満の比較的若い世代による犯行が多いという点が特徴です。
若い世代が出し子を行う理由としては、「軽く考えていた」「だまされた・脅された」「生活が苦しい」というものが主なものとなっています。「割のいいバイトがあるから~」などといった言葉で誘われて出し子をしてしまうのが典型例でしょう。
また、お金(報酬)欲しさで出し子を行ったにもかかわらず、実際には約束していたお金をもらえないというケースや、お金をもらう前に検挙・逮捕されてしまうというケースが多いという点も、出し子の特徴です。
出し子は現行犯逮捕も後日逮捕もされやすい
出し子は、現行犯逮捕も後日逮捕もされやすい類型の犯罪です。
たとえば、ATMで金銭を引き出そうとした現場で警戒中の警察官に現行犯逮捕されるケースが考えられるでしょう。
また、銀行の防犯カメラの映像や、先に逮捕された被疑者のスマホに残されたSNSの記録などが証拠となって足がつき、後日逮捕(通常逮捕)されるのが代表例です。
振り込め詐欺は組織的な犯行で、警察はその全貌を明らかにしようとします。そのため、逮捕と同時に自分のスマホも差し押さえられ、SNSでのやり取りも警察に見られる可能性が高いと考えておく必要があるでしょう。
逮捕されたら弁護士接見
逮捕され勾留が決まってしまうと、起訴・不起訴の判断がでるまで合計で最大23日間も警察署の留置場で身柄を拘束される可能性があります。
特に、逮捕段階の3日間は家族・友人・会社など弁護士以外の外部との面会や連絡が一切できませんので、不安な日々が続くことになるでしょう。
弁護士なら逮捕後でもすぐに面会(接見)に行くことができます。接見を通して、弁護士から取調べの対応や今後の流れなどを聞くことができれば少しは不安も和らぐでしょう。逮捕されたらすぐに弁護士に相談して、接見を検討してください。
出し子で逮捕された後の流れ
出し子で逮捕されると、大まかには逮捕・送致・勾留・勾留延長・起訴・刑事裁判の流れで刑事手続きが進んでいきます。それぞれの段階はどのようなものなのか一つずつみていきましょう。
なお、逮捕の流れに特化した関連記事『逮捕されたら|逮捕の種類と手続の流れ、釈放のタイミングを解説』もお読みいただくことで、逮捕後の対応についての理解が深まります。あわせてご確認ください。
(1)逮捕後の警察による取り調べ
逮捕されると警察署へ連行され、警察官から取り調べを受けることになります。取り調べの内容は供述調書にまとめられ、供述調書の内容に間違いがないと確認するとサインを求められます。一度でもサインしてしまうと、内容を訂正したくても、後から訂正してもらえるハードルは高いです。
また、出し子として詐欺事件に関わってしまったことを認めていても、出し子となった経緯や事情を取り調べで話していれば、その後の刑事処分に影響する可能性があります。そのため、取り調べでどのような話をするかは、非常に重要なポイントとなるのです。
(2)検察官へ送致【逮捕後48時間以内】
逮捕から48時間以内に、ほとんどのケースで事件と身柄が検察官に送られます。これを送致といいます。
送致後は検察官から取調べを受け、それによって勾留の必要があるかが判断されることになるのです。
(3)勾留請求・勾留質問【送致後24時間以内】
検察官に勾留の必要があると判断された場合には、送致から24時間以内に検察官によって勾留請求が行われます。犯罪白書によれば、検察官が勾留請求する割合は統計上約90%です(令和5年版 犯罪白書「被疑者の逮捕と勾留」より参照)。
振り込め詐欺のように組織的な犯罪や共犯者がいる犯罪の場合、そうでない犯罪に比べて勾留請求される可能性は高くなるので、出し子で逮捕されればほぼ必ず勾留請求されると考えておくべきでしょう。
勾留請求されると被疑者は裁判所に連れていかれ、勾留する必要があるかどうかを決めるために、裁判官から勾留質問を受けることになります。
(4)逮捕後の勾留【原則10日間】
裁判官が勾留が勾留すべき事件であると判断すると、勾留状が発付されます。勾留の長さは原則10日間です。
なお、逮捕段階と異なり、勾留段階では家族・友人・会社など弁護士以外の外部との面会や連絡も可能になることが通常は多いです。もっとも、特殊詐欺の場合、勾留段階でも面会や連絡が禁止される可能性が高いでしょう。
組織的な犯罪や共犯者がいる犯罪の場合には、口裏合わせなどを防ぐため、勾留段階でも弁護士以外の外部との面会・連絡が禁止されやすいのです。
(5)勾留延長【最大10日間以内】
裁判官に「やむを得ない事由がある」と判断された場合、検察官の請求によって勾留が延長される可能性があります。勾留延長の期限は最大10日間以内です。
逮捕から勾留、加えて勾留延長となれば、起訴・不起訴の判断が出るまで合計で最大23日間も身柄拘束が継続する可能性があります。
(6)起訴・不起訴の決定
勾留期間が満了するまでに、検察官によって起訴するか不起訴とするかが判断されます。特殊詐欺事件は極めて悪質な犯罪で、社会的にも関心度が高いです。そのため、特殊詐欺事件では組織の末端であるような出し子であっても起訴されやすいでしょう。
もっとも、被害者に慰謝料を含めた被害弁償をしていたり、被害者からの許しを得られたりした示談が成立していれば、不起訴となる可能性も残されています。
(7)起訴後勾留・保釈申請
起訴後も勾留されたまま起訴されると、保釈が認められない限り身柄の拘束が継続します。起訴後の勾留は原則2ヶ月程度続き、事件の内容によっては1ヶ月ごとに勾留が更新されることもあるでしょう。
起訴後、被告人という立場になると、刑事裁判が開かれるまで一時的に身柄解放が叶う保釈申請が可能になります。特殊詐欺事件の場合、重い刑罰から逃れようと逃亡したり、詐欺グループのメンバーに接触して証拠隠滅をしたりすると判断される可能性が高いので、保釈申請が認められないこともあります。
弁護士がついていれば、適切に保釈申請を進められるだけでなく、逃亡や証拠隠滅のおそれがない点も主張できるので、保釈の可能性を高められるでしょう。保釈申請の具体的な方法については『保釈申請の流れ。保釈条件と必要な保釈金は?起訴後の勾留から解放』の記事をご覧ください。
もっとも、保釈が認められたとしても、保釈のためには150〜200万円程度の保釈保証金が必要になります。また、裁判は平日の日中に行われますので、裁判を受けるために仕事や学校を休まなければなりません。
(8)刑事裁判(公判)段階
出し子で正式起訴された場合、裁判所で刑事裁判を受けることになります。刑事裁判の有罪率は99.9%なので、起訴されるとほぼ必ず前科が付くことになるでしょう。一方、不起訴処分となると裁判は開廷されず、そのまま事件終了となり、前科もつきません。
特殊詐欺に限らず、詐欺全体での数値ですが、詐欺罪は約40%の割合で実刑判決を受けることなります。また、2〜3年の懲役刑が最も多いとされています(令和5年版の犯罪白書より算出)。
出し子とは何か?何罪にあたる?
出し子とは詐欺における現金の引き出し係のこと
「出し子」とは、振り込め詐欺(特殊詐欺)などの被害者からだまし取った金銭を、ATMなどから引き出す役割を担う人物のことをいいます。
振り込め詐欺には、オレオレ詐欺、預貯金詐欺、キャッシュカード詐欺、架空料金請求詐欺、還付金詐欺、融資保証金詐欺、ギャンブル詐欺、金融商品詐欺、交際あっせん詐欺などの類型があります。
振り込め詐欺は1人で行うことはできず、組織的な犯行として行われるのが特徴です。出し子のほかには「主犯・指示役」、犯行拠点や架空・他人名義の携帯電話・銀行口座を用意する「犯行準備役」、電話をかけて被害者をだます「架け子」、被害者の自宅に現金を受け取りに行く「受け子」などの役割があります。
出し子は詐欺罪ではなく窃盗罪が適用
特殊詐欺の出し子で検挙・逮捕されるなら、詐欺罪ではなく窃盗罪が適用されることになるでしょう。窃盗罪は「10年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処せられる可能性がある犯罪です。窃盗罪の刑罰や量刑相場などについて詳しくは『窃盗罪の刑罰は懲役何年?』の記事をご覧ください。
振り込め詐欺の一環として行われることから、詐欺罪になるのではないかと考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、詐欺罪が成立するためには人を欺くことが必要であるところ、出し子はATMという機械を操作して金銭を引き出すだけで、人を欺く行為はしません。したがって、出し子で詐欺罪は成立し得ないことになります。
窃盗罪という名前だけ聞くと万引きや自転車泥棒のように軽微な犯罪のように思えますが、被害額も大きくなりやすく、極めて悪質な犯罪の特殊詐欺に荷担している点からすると、実刑となる可能性も十分あるでしょう。
SNSなどで「裏バイト」「闇バイト」と称して募集されていることが多い出し子ですが、窃盗罪に当たる犯罪行為です。安易に応募するのではなく、本当に違法性がないかどうか、慎重に判断すべきといえます。
出し子と違って受け子は詐欺罪が適用
出し子と違って、特殊詐欺の受け子で検挙・逮捕される場合は、詐欺罪が適用されます。詐欺罪は「10年以下の懲役」に処せられる可能性がある犯罪です。
闇バイトに応募して言われるがまま受け子となった場合、被害者を「だましている」という意識がなかったとしても、受け子も詐欺にあたるという過去の判例があります。罰金の規定がない詐欺罪では、初犯でも実刑となる可能性は十分あるでしょう。
特殊詐欺の受け子で逮捕されてお困りの場合は、あわせて『詐欺の受け子は犯罪!特殊詐欺で逮捕された場合の刑罰はどうなる?』の記事もご覧ください。
出し子で逮捕されたときに必要な対応
釈放の早期実現
逮捕勾留されれば、最大で23日間、身柄を拘束される可能性があります。
これだけ長期にわたって身柄を拘束されれば、仕事をしている方であれば職を失うおそれがあり、学校に通っている方であれば退学となるおそれがあるでしょう。そのため、逮捕されても勾留を阻止する、勾留されても早期釈放を実現するための弁護活動が必要となります。
具体的には、以下のような活動を行います。
- 被疑者の家族や友人などと連絡をとり、身元引受を約束してもらう
- 被疑者自身に反省文を作成してもらう
- 身元引受人がいることや反省している点をなるべく早く検察官に伝え、勾留請求しないように働きかける
勾留されてしまった後の場合は、準抗告という手続によって裁判所の勾留決定を取り消すように求めたり、勾留の必要がなくなったとして勾留取消請求を行います。
これらの活動は、法律に基づく手続であるため、専門的な知識が要求されますし、そもそも、身柄を拘束されている被疑者が自身で行うことができません。
そのため、出し子で逮捕されてしまった場合には、できる限り早く、刑事裁判に精通した弁護士に相談・依頼することをお勧めします。
不起訴処分の獲得
準抗告で勾留を阻止できたり、勾留取消請求で勾留を取り消すことができたとしても、それで捜査が終わるわけではなく、検察官が起訴するかどうかを判断するために、在宅のままで捜査は続きます。
起訴されてしまうと、99.9%前科が付くことになります。前科が付けば、一定の職業に就くことができなくなるなど、極めて大きな不利益が生じます。
そのため、前科を回避するために、不起訴処分を獲得することが重要です。
起訴するかどうかは検察官が判断します。
勾留されている場合には、勾留期間が満了となるまでに、検察官に対して不起訴とするように働きかけなければなりません。
限られた時間の中でスピーディーに弁護活動を行う必要があるわけです。
一方、在宅のままで捜査を受けている場合には、このような時間制限ありません。
しかし在宅事件は処理が後回しとされがちになるという側面もあり、いつまで経っても起訴されるかどうかが分からない不安定な立場に置かれることになります。
弁護士であれば早期に捜査を終えて不起訴とするように申し入れることができます。
被害者と示談を締結し不起訴処分の獲得を目指す
ここまで、釈放の実現や不起訴処分の獲得に必要な弁護活動をお伝えしましたが、出し子のように被害者が存在する犯罪で最も必要な活動は、被害弁償を行い示談を成立させることです。
出し子の初犯の場合、被害者に被害弁償をし、慰謝料を支払い、被害届を取り下げてもらうことができれば、釈放や不起訴処分を実現できる可能性が非常に高くなるといえます。
前科が複数あるような場合には、起訴される可能性もありますが、それでも被害弁償と示談ができていれば、執行猶予付き判決を獲得できる期待も高まります。
被害弁償と示談に当たっては、適正な慰謝料額の提示や、重要な点に漏れのない示談書の作成が不可欠となり、専門的な知識と事案に応じた対応能力が必要です。詐欺事件における示談の方法や流れについては『詐欺事件で示談できると刑事罰が軽くなる?示談成功のポイントがわかる』の記事で詳しく解説しています。
なお、詐欺事件の示談交渉については、刑事事件の経験豊富な弁護士に相談・依頼し、適切な解決を実現いただければと思います。
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