麻薬とは、麻薬及び向精神薬取締法で規制されている薬物であり、その薬物を使用したり所持したりした場合には、逮捕・勾留される可能性は非常に高いものになります。もっとも、麻薬事件には他にも様々な態様があり、またその内容によって最終的な刑罰が変わってくるものになります。
そこで、以下では麻薬事件とはそもそもどういうものをいうのかを見た上で、実際に麻薬事件で逮捕になった事例を4パターン紹介し、逮捕となった後はどのような流れとなるのか、逮捕された後にはどのようなことが刑罰の軽減のためにできるのかということを見ていきましょう。

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麻薬で逮捕されるとどうなる?
麻薬とは?|大麻や覚醒剤との違い
麻薬にあたる薬物とは、法律的には麻薬及び向精神薬取締法の第2条により「別表1に掲げる物」として指定されたものをいいます。日本で一般的に麻薬としてのイメージの強い覚醒剤や大麻はそれぞれ覚醒剤取締法や大麻取締法が規制しており、これらとは別に規制されたものを麻薬として扱っております。
大麻事件の流れについては『大麻で逮捕されたら|逮捕の条件とその後の流れ』を、覚醒剤事件の流れについては『覚醒剤取締法違反で有罪になったら懲役何年?|逮捕のきっかけは?』をご参考になさってください。
「麻薬」にあたるものは、具体的にはアヘンチンキ、モルヒネ塩酸塩、コデインリン酸塩、コカイン塩酸塩、フェンタニル、リゼルギン酸ジエチルアミド(LSD)などの薬物が含まれることになります。日本の法律上の麻薬のうち、そのほとんどが幻覚剤としての性質を有するものとなります。
「麻薬及び向精神薬取締法」違反で逮捕される行為は?
麻薬及び向精神薬取締法で禁止されている主な行為は、ヘロイン(ジアセチルモルヒネ等)の製剤・小分け・譲渡・譲受・交付又は所持、施用、利益を得る目的のヘロインの所持等、ヘロイン以外の麻薬についての製剤・小分け・譲渡・譲受・交付又は所持、施用、利益を得る目的でヘロイン以外の麻薬の所持等となります。
ヘロインは特に危険な薬物なので、ヘロイン系の薬物とそれ以外の薬物を分けた上で、そのそれぞれで製剤・小分け・譲渡・交付と単純な所持、施用(使用)、そして利益を得る目的の所持等を禁止しております。利益を得る目的の所持等はより悪質であるとして、単純な所持等とは別に規定しているものになります。
麻薬で逮捕されたときの刑罰は?
麻薬事件で逮捕の上、結果起訴されて有罪が確定されたら、刑罰が科されることになります。内容としては、ヘロイン系の薬物に関する罪が同じ行為のヘロイン以外の薬物よりも重く、また利益を得る目的での所持等は単純所持等よりも悪質としてより重く、そして場合により犯罪利益をはく奪する罰金刑が定められています。
ヘロインは麻薬作用が高いために医学的な使用も一切禁止されており、中枢神経を抑制し脳に大きな影響を与え、また高い陶酔感や多幸感から依存性も非常に高い一方、激痛や嘔吐などの激しい禁断症状があります。そのような危険性の高さ故にヘロイン系の薬物の刑罰はヘロイン以外のものよりも重くなります。
麻薬で逮捕されると懲役何年?執行猶予はつく?
麻薬事件での刑罰の内容は、ヘロイン系のものかそうでないかによって懲役刑の長さなどが異なるものになります。もっとも、常習犯の場合には実刑の可能性が高いものになりますが、初犯の場合で数量もそこまで多くないという場合には、1年6月ほどの懲役に3年ほどの執行猶予が付く場合はあるでしょう。
具体的な内容は、ヘロイン系の薬物の罪が10年以下の懲役、なかでも利益目的所持等が1年以上の有期懲役又は情状により1年以上の有期懲役及び500円以下の罰金、それ以外の薬物の罪が7年以下の有期懲役、利益目的所持等が1年以上10年以下の懲役に処し、又は情状により1年以上10年以下の懲役及び300万円以下の罰金となります
以下の6つの表は薬物事犯の態様と刑罰をまとめたものです。ほとんどで懲役刑が規定されており、場合によっては罰金刑との併科もありえることから、いかに薬物事犯が重く見られているかがわかります。
① ヘロイン系薬物の態様と刑罰
態様 | 刑罰 |
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輸入・輸出・製造 | 1年以上の懲役 |
営利目的での輸入・輸出・製造 | 無期若しくは3年以上の懲役又は無期若しくは3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金 |
製剤・小分け・譲渡・譲受・譲受・交付・所持 | 10年以下の懲役 |
営利目的での製剤・小分け・譲渡・譲受・譲受・交付・所持 | 1年以上の懲役又は1年以上の懲役及び500万円以下の罰金 |
② ヘロイン以外の麻薬の態様と刑罰
態様 | 刑罰 |
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輸入・輸出・製造・栽培 | 1年以上10年以下の懲役 |
営利目的での輸入・輸出・製造・栽培 | 1年以上の懲役又は1年以上の懲役及び500万円以下の罰金 |
製剤・小分け・譲渡・譲受・所持 | 7年以下の懲役 |
営利目的での製剤・小分け・譲渡・譲受・所持 | 1年以上10年以下の懲役又は1年以上10年以下の懲役及び300万円以下の罰金 |
③ 向精神薬の態様と刑罰
態様 | 刑罰 |
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輸入・輸出・製造・製剤・小分け | 5年以下の懲役 |
営利目的での輸入・輸出・製造・製剤・小分け | 7年以下の懲役又は7年以下の懲役及び200万円以下の罰金 |
譲渡・譲渡目的の所持 | 3年以下の懲役 |
営利目的での譲渡・譲渡目的の所持 | 5年以下の懲役又は5年以下の懲役及び100万円以下の罰金 |
④ 覚醒剤の態様と刑罰
態様 | 刑罰 |
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輸入・輸出・製造 | 1年以上の懲役 |
営利目的での輸入・輸出・製造 | 無期若しくは3年以上の懲役又は無期若しくは3年以上の懲役及び1000万円以下の罰金 |
使用・所持・譲渡・譲受等の行為 | 10年以下の懲役 |
営利目的での使用・所持・譲渡・譲受等の行為 | 1年以上の懲役又は1年以上の懲役及び500万円以下の罰金 |
⑤ 大麻の態様と刑罰
態様 | 刑罰 |
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輸入・輸出・栽培 | 7年以下の懲役 |
営利目的での輸入・輸出・栽培 | 10年以下の懲役又は10年以下の懲役及び300万円以下の罰金 |
所持・譲渡・譲受等の行為 | 5年以下の懲役 |
営利目的での所持・譲渡・譲受等の行為 | 7年以下の懲役又は7年以下の懲役及び200万円以下の罰金 |
⑥ 危険ドラッグの態様と刑罰
態様 | 刑罰 |
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製造・輸入・販売・購入・授与・所持・譲受・医療等の用途以外での使用 | 3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はその併科 |
業として、製造・輸入・販売・授与・所持 | 5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はその併科 |
麻薬では逮捕・勾留されることが多いって本当?
麻薬事件では、発覚した場合には逮捕・勾留される確率は非常に高いものになります。実際、いままでの弊所での薬物事件の実例のうち、逮捕された割合は91%、そのうち勾留された割合は90%となっています。麻薬事件が発覚した場合には、逮捕・勾留されやすいと思ってよいでしょう。
証拠隠滅の可能性が高い場合には捜査のため逮捕の必要性が高くなりますが、麻薬は証拠隠滅が容易であり、そのため逮捕の必要性が高いと判断されることになります。また、薬物事件は基本的に懲役刑が想定される重いもののため、逃亡を防止するために逮捕の必要性がより高くなります。
麻薬で逮捕されたら家族や会社にバレる?
麻薬で逮捕された場合には、勾留期間が長引く可能性が高く、そのため家族や会社にバレる可能性は十分にあると考えられます。警察から家族や会社に直接伝えられるというよりは、勾留が長引き判明したり、警察が住居や会社に捜索に入ったりすることで伝わる可能性が高いでしょう。
麻薬事件では、逮捕・勾留の可能性が非常に高く、10日間以上という長期間警察に身柄拘束されることになります。そのため、家族や会社が警察に捜索願を出したところ逮捕されていたということからバレる可能性があります。また、麻薬存在の可能性から住居や会社の捜索が行われ発覚することもあります。
麻薬で逮捕されるパターン
①麻薬所持の現場で現行犯逮捕
麻薬を所持している際に現行犯逮捕となる場合があります。たとえば、職務質問などで警察の捜査を受けた場合に麻薬を所持していたり、別の内容で家宅捜索を受けている際に麻薬が自宅から発見された場合など、麻薬を実際に所持している場合には現行犯逮捕される可能性が高まるでしょう。
逮捕は証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれが高い場合に、必要性があるとして行われます。麻薬を所持していた場合、麻薬の証拠隠滅は容易のため、見つけた際にはすぐに逮捕をし証拠隠滅を防止する必要があります。また、麻薬所持の場合基本的に懲役刑という重い刑罰を受けるため、逃亡のおそれも高く現行犯逮捕となります。
②麻薬使用後に検査がなされ逮捕
麻薬を使用した後に職務質問を受けたり家宅捜索がなされ、尿検査などが行われ、使用が確認され次第逮捕というパターンがあります。麻薬使用によってかつて捜査や刑罰を受けたことがある場合には、職務質問などでよりそのような検査を求められることが多く、その結果逮捕となるケースもあります。
麻薬を使用してから少し経った後でも体内に残っていれば、検査の結果陽性となって逮捕となります。検査の結果体内から麻薬が検出されれば、麻薬自体の所持がその際になくても少なくとも麻薬の使用が想定されるため、その後の証拠隠滅や逃亡を防ぐために逮捕されることになります。
③麻薬密売人が捕まり逮捕
麻薬を手に入れるためには、通常麻薬密売人から購入することが一般的です。その麻薬密売人が逮捕され、捜査の過程で密売人から麻薬を購入した人が判明し、密売人の裏取りと麻薬使用の可能性からその購入した人を捜査し、麻薬の所持や使用が確認され、逮捕となるパターンがあります。
麻薬密売人の情報から捜査が行われ、逮捕に至る場合には、密売人が事情聴取の中で麻薬を購入した人物を話すというケースがありえますが、たとえば密売人が薬物売買のために使用していた携帯電話を捜索したところ、その電話で連絡を取っていた人に目を付けて捜査をする場合もあります。
④税関で麻薬が見つかり逮捕
入国する際に麻薬を輸入しようとした場合、税関で発覚しそのまま現行犯逮捕となるパターンがあります。麻薬の輸入も麻薬及び向精神薬取締法違反に該当し、麻薬は外国から輸入され入手されることが多く、税関では麻薬の取り締まりを行っており、発覚すればそのまま逮捕となります。
麻薬は密輸入されることで仕入れられ、その後麻薬密売人に渡り、麻薬使用者の手元に渡ることになります。そのような組織的な仕組みを解明することで薬物事件の根絶を目指す警察としては、組織に繋がる証拠の隠滅等を防ぐために税関にて麻薬を発見した場合には身柄を確保することになります。
麻薬で逮捕された後の流れ
①麻薬による現行犯逮捕・後日逮捕(通常逮捕)
麻薬事件が発覚した場合には、まずは捜査のために逮捕となる可能性が非常に高いものになります。たとえば、職務質問の際に麻薬の所持や簡易検査での使用が発覚し現行犯逮捕されることや、麻薬事件の疑いが掛けられ、疑われた人の住居を家宅捜索し、そして後日逮捕(通常逮捕)となる場合があります。
逮捕は証拠隠滅のおそれや逃亡のおそれが高い場合に、必要性があるとして行われます。麻薬事件の場合、麻薬の証拠隠滅は容易のため、まず逮捕をし証拠隠滅を防止する必要があります。また、麻薬事件では基本的に懲役刑という重い刑罰を受けるため、逃亡のおそれも高いため、原則として逮捕となります。
②警察署への連行・取り調べ
逮捕された後、警察署に連行されて、警察官からの取り調べを受けることになります。警察署では逮捕となった麻薬事件自体に関する事情聴取や、いままでの薬物遍歴などの事情聴取、麻薬の使用方法や麻薬の入手ルートや密売人等に関する事情聴取等が通常複数回行われることになります。
麻薬事件では、その常習性や罪の大きさを把握するために麻薬の使用歴や使用方法、使用した量などを聞くことが通常となります。また、麻薬の根絶を目指す捜査機関は、麻薬の入手経路や麻薬組織の人間など、麻薬の組織自体の解明のためにそれに繋がるような内容についての取り調べも行います。
③留置場での勾留
麻薬事件の場合、その証拠隠滅防止の必要性や逃亡防止の必要性の高さから、通常は逮捕の後に勾留がなされることになります。なお、麻薬事件では単なる勾留に加え、さらに外部との接触を避けて証拠隠滅を防止するため、弁護士以外の人との面会を制限する接見禁止が付けられることも比較的多いものになります。
麻薬事件の場合、麻薬密売組織が存在するなど組織的な側面があり、そのため外部との接触を許した場合に組織に証拠隠滅を図られる危険性があると考えられるため、単なる勾留よりももう一段階証拠隠滅のおそれが高い場合に付けられる接見禁止のついた勾留がなされることになります。
④麻薬事件での起訴・不起訴の決定
麻薬事件の勾留が終わる際に、検察官が起訴・不起訴の処分を決定することになります。麻薬事件は原則的に事実自体が認められれば起訴されることとなるため、現行犯逮捕の場合などは基本的に起訴となるでしょう。不起訴になる場合は、所持が認定できないなど事実自体が証拠不十分になった場合となります。
たとえば、証拠不十分の不起訴も目指すとしても、体内から麻薬が検出されたけれども麻薬ではないと思っていた、記憶がないなどの故意を争う事案も確かにありますが、体内に通常存在しえない麻薬が体内にある時点で故意があるのではという疑いが払拭しづらく、そのような場合には起訴を免れにくいこともあるでしょう。
⑤麻薬事件での裁判
麻薬事件では、起訴された後にはそのまま裁判となり、判決を受けることになります。麻薬事件での裁判の判決では、通常は懲役刑を受けることになりますが、執行猶予が付くかどうかは今までの薬物の使用歴や処分歴、問題となった麻薬の量などから裁判官により判断されることになります。
麻薬事件の裁判の場合、麻薬の所持や使用といった事実自体は争うことが難しい場合も多いため争うのは主に量刑という場合が多いものになります。たとえば、麻薬の使用や所持の再犯防止の可能性を示して執行猶予を目指したり、懲役刑の刑期を短くしたりということが多いものになります。
麻薬で逮捕された後に出来ることは?
弁護士に相談して逮捕直後から接見を
ご家族などが麻薬事件で逮捕された後には、まず弁護士への相談を行い、直後に接見を行ってもらうことがよいでしょう。弁護士は今後の麻薬事件の展開などを熟知しており、逮捕された本人に事案を聴取した上で今後の取り調べ対応や最終的な処分の軽減のための的確な助言をおこなうことができます。
通常逮捕された直後は一般の面会が許されておらず、弁護士のみが接見することができます。逮捕直後はご家族も本人もそれぞれ事案の内容や今後の見通しなどが分かっていないことが通常であり、そのため弁護士が接見に向かい助言を行い、その内容をご家族に報告することが本人ご家族双方にとっての利益となります。
弁護士に接見をする具体的な流れやメリットなどについては『弁護士の接見とは|逮捕中の家族のためにできること・やるべきこと』で詳細に解説しているため、気になる方はぜひご参考になさってください。
麻薬事件での捜査の違法性を確認する
麻薬事件で逮捕された後、尿検査などの捜査態様が違法性がないかどうかを確認する必要があります。麻薬事件では強制的な採尿がなされるケースもありますが、適切な令状が出されていない場合には違法として証拠が使用できない場合があります。したがって、捜査の違法性を確認する必要性があります。
もし違法な捜査手続で得られた証拠であれば、裁判で使用することができず、したがって、罪に問うこともできないということになります。また、麻薬など薬物事件ではそのような違法捜査の可能性が比較的問題になりやすいものになります。そのため、刑罰を避けるために違法な手続の有無は一度確認が必要でしょう。
反省を示し、麻薬の再犯防止策を講じる
麻薬事件では、裁判にて執行猶予を得たり刑罰を軽減するために、反省を示し、麻薬の再犯防止策を講じることが有益となります。裁判の量刑の判断において、反省しており再犯防止の可能性が高いとすれば、より重い刑罰を科す必要がないと判断され、量刑が軽くなるという可能性が高くなります。
被害者がいる事案では被害者との示談等のケアが裁判での量刑判断に大きな影響を与えることになります。しかし、麻薬事件はいわゆる被害者のいない犯罪であり、そのため量刑を争うためには再犯を起こさないということを示し重い刑罰は不要であるということを示すことがもっとも重要となります。
薬物依存の治療、社会復帰のケア
麻薬事件の場合、再犯防止が重要な問題となります。そのため、逮捕後社会に出たときに薬物依存の治療や社会復帰のケアに向けて事前に準備を進めることが、再犯防止の策という性質に加え、常習性の高い麻薬に今後も関わらないというそもそもの本人の利益のために必要になってくるものになります。
薬物依存の治療や薬物依存者の社会復帰に対するケアとして、具体的にはたとえば薬物依存に対する治療を行っている病院やクリニックでの治療を行ったり、薬物使用者に対する支援を行っているダルク等の施設を利用したりなどが考えられます。このような取り組みを示すことがひいては裁判での刑罰の軽減にも繋がります。
NPO法人日本ダルク公式サイト