2023年7月13日、強制わいせつ罪は「不同意わいせつ罪」に改正されました。
「未成年の息子が痴漢で逮捕されてしまった」
「痴漢の少年事件で前科がつくのか心配」
未成年の場合でも、痴漢をした場合は迷惑防止条例違反や不同意わいせつ罪になることに変わりはありません。悪質な場合は逮捕されるおそれもありますが、弁護士に相談することで、様々なサポートを受けることができます。
なお、当記事で記載の未成年(少年)とは20歳未満の少年のことであり、成人とは20歳以上の者を指しています。民法上の成人(民法第4条)とは異なるものです。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は有料となります。
目次
未成年(少年)の痴漢事件
未成年による少年事件|「少年」とは?
少年法において「少年」とは、20歳未満の者を指します。ただし少年事件においては、20歳未満の者の中でも、①14歳未満の場合と②14歳以上20歳未満の場合で意味合いが異なってきます。
①14歳未満の場合
未成年の中でも、14歳未満の者は刑事責任能力がなく、刑事責任を問われることはありません。
②14歳以上20歳未満の場合
14歳以上20歳未満の者が罪を犯した場合、「犯罪少年」と呼ばれ逮捕されるおそれがあります。この記事では「少年」とは主に犯罪少年のことを指します。
未成年(少年)の痴漢は何罪?
少年法では、未成年に対して成人と同様の刑事処分を下すのではなく、原則として家庭裁判所により保護更生のための処置を下すと規定しています。家庭裁判所の事件になった場合、懲役刑や罰金刑などの刑罰は科せられません。したがって、刑事処罰については成人とは異なります。
しかし、未成年の痴漢であっても、悪質な場合には成人と同じ罪に問われる可能性があります。未成年の痴漢で成立するおそれのある犯罪は以下の2つがあります。
①各都道府県における迷惑防止条例違反
衣服の上から触るなどといった、電車内での痴漢を例にとると、各都道府県に規定された迷惑防止条例違反の罪となることが多いです。
たとえば東京都の迷惑防止条例に違反する場合、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。(東京都迷惑防止条例5条1項1号)
②不同意わいせつ罪
衣服の中に手を入れて触るなど、悪質な痴漢は不同意わいせつ罪に問われるおそれがあります。成人の痴漢行為が不同意わいせつ罪に該当する場合、6ヶ月以上10年以下の拘禁刑が科せられます。(刑法176条)
未成年(少年)が痴漢で逮捕されるケース
未成年が痴漢で逮捕されるケースは成人と同様、以下の2つが考えられます。
①現行犯逮捕
痴漢の現場を取り押さえられた場合、現行犯逮捕されるおそれがあります。電車内での痴漢であれば、被害者本人だけでなくその場にいた乗客も現行犯逮捕できます。
②後日逮捕
痴漢行為が防犯カメラに映っていたり、被害者の証言や目撃証言を根拠に、逮捕状が出され、後日逮捕されるおそれもあります。
どちらの逮捕の場合も、逮捕後は最寄りの警察署に連行されることになるケースが多いです。
未成年(少年)の痴漢事件は学校へ連絡される?
未成年が痴漢で逮捕された場合、捜査機関が所属先の学校へ連絡する可能性が低いとはいえません。痴漢事件で逮捕された場合にはスグに弁護士に相談し、学校への連絡をしないように働きかけることが大切です。
未成年(少年)が逮捕された後の流れ
未成年(少年)も勾留される?観護措置との違いは?
未成年も成人と同様、逮捕されたあとは警察による取調べを経て48時間以内に事件と身柄を検察に送られます。そして、検察官が24時間以内に勾留請求するかを判断し、勾留請求が認められれば勾留されることになります。
ただし、未成年の勾留は「やむを得ない場合」でなければならないとされており、原則は観護措置がとられることになります。
観護措置では、少年を少年鑑別所に収容することになっています。
少年事件は原則、家庭裁判所へ送致される
少年事件は犯罪の嫌疑がないと判断された場合を除いて、原則として全件が家庭裁判所に送致されます。
罰金以下の事件については、警察から直接、家庭裁判所に送られます。
法定刑が懲役・禁錮等の比較的重い犯罪の場合は、まず警察から検察に送致されます。その後、勾留または勾留に代わる観護措置を経て、検察から家庭裁判所に送致されることになります。
少年事件の場合は、被害者との示談が成立していたとしても、事件が家庭裁判所に送られます。
未成年(少年)に対する家庭裁判所の審判
事件が家庭裁判所に送致されたあと、家庭裁判所は少年事件について審判を行うかどうかを決定します。その際、家庭裁判所により少年本人やその家族に対して調査が行われます。この調査には時間が必要なため、少年を少年鑑別所に送致する観護措置がとられることも少なくありません。
観護措置の期間は原則として2週間ですが、最大で8週間まで延長できます。多くのケースでは約4週間です。
調査の結果、審判を行わないと決定されれば、審判不開始となり事件は終了します。
審判が開始されれば、家庭裁判所は審理を行い、主として以下のような処分をします。
不処分
審判までに少年の非行原因がなくなったと判断された場合に下される処分です。処分自体は行われません。非行事実があったことが間違いないのであれば、その事実は非行歴として残りますが、前科はつきません。
保護処分
保護処分は少年の更生を目的とした処分です。保護処分には以下の3種類があり、非行事実は非行歴として残りますが、いずれの場合でも前科はつきません。
保護処分の種類
①保護観察
保護司の指導・監督を受けながら日常生活を送ることになります。
②少年院送致
少年の矯正教育のための施設に入れられ、更生を目指すことになります。
③児童自立支援施設等送致
少年院と比べると開放された家庭的な環境の中で、指導を受けることになります。
検察官送致
少年が凶悪な事件を起こし、刑事処分にするべきと認められた場合、家庭裁判所から検察に事件が送り返されます。この処分を逆送といいます。
2022年の民法改正により、逆送が決定すると18歳以上の少年(特定少年)は、20歳以上の者と原則同様に扱われ、17歳以下の少年とは異なる手続きがなされるようになりました。
未成年(少年)に前科がつく場合もある
前科とは、刑事裁判で有罪判決を受け、それが確定した際につくものです。家庭裁判所で審判される少年事件については、前科はつきません。
もっとも、少年事件が凶悪で逆送が行われた場合など、成人と同じく刑事裁判にかけられることがあります。そこで有罪判決が出て確定すれば、未成年にも前科がつくことになります。
未成年(少年)の痴漢事件に対する弁護活動
被害者と示談交渉
痴漢の被害者と示談交渉ができます。痴漢は性犯罪であり、示談交渉には被害者に対する繊細な心遣いが必要不可欠です。刑事弁護の経験豊かな弁護士であれば、被害者の心情に配慮し、示談交渉をすすめることができます。
また、示談交渉をするには、被害者の連絡先を知らなければなりません。捜査機関が加害者に被害者の連絡先を教えることは通常ありませんが、弁護士が捜査機関に「被害者と示談交渉したい」旨を伝えれば、捜査機関が被害者の意向を確認し、連絡先を教えてもらえる可能性があります。
逮捕された直後に接見する
逮捕直後の被疑者は、逮捕から72時間は家族とも基本的に面会できません。しかし弁護士ならば、逮捕直後に接見(面会)することができます。逮捕直後からできるだけ早く未成年と接見し、取調べに対する心構えを伝えたり、黙秘権など権利行使のアドバイスをすることができます。
勾留や観護措置をされるのを防ぐ
弁護士は、勾留の必要性がないことを主張し、勾留や観護措置を阻止することができます。特に、被害者のいる痴漢事件では、被害者と示談が成立しているかどうかによって勾留される可能性が変わるものです。そこで、できるだけ未成年が勾留される前に、弁護士が被害者との示談交渉に動いていきます。
また、検察官が勾留せずに、事件を家庭裁判所に送るケースもあります。その場合、家庭裁判所は捜査機関の資料を見て、未成年を観護措置にするかどうかを判断します。そうすると、観護措置がとられやすくなってしまうでしょう。弁護士として、観護措置の審判の前に、未成年の生活環境が整っている等の意見書を提出し、少年が鑑別所に送られるのを防げるよう活動します。
未成年の痴漢事件で付添人になる
付添人とは、少年事件が家庭裁判所に送致された後に、少年の権利を擁護したり代弁したりしてサポートする人のことをいいます。弁護士は、未成年が被疑者段階にあるときは弁護人として活動し、事件が家庭裁判所に送られれば付添人として少年の更生を助けることができます。
弁護士は付添人として、少年と面会を重ね、少年が痴漢をした原因(非行原因)と再犯防止策をともに考えていきます。具体的には、少年の生活環境を整えたり、痴漢を再犯しないよう専門の医療機関に通院させるなど、少年の更生をサポートしていきます。