わいせつ罪とは、刑法に定められたわいせつ行為に関する性犯罪の総称です。
被害者の性的自由を侵害する不同意わいせつ罪(旧・強制わいせつ罪)、公共の場での性的行為を処罰する公然わいせつ罪、わいせつな画像や文書の流通を禁じるわいせつ物頒布等罪などが含まれます。
法律上のわいせつ行為は、公然わいせつ罪等の文脈では「いたずらに性欲を興奮・刺激させ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反する行為」(最判昭和26年)を指し、不同意わいせつ罪の文脈では「被害者の性的自由を侵害する行為」を広く意味すると解されています。
本記事では、各わいせつ罪の定義・罰則の違いを整理するとともに、逮捕から起訴までの流れや不起訴を目指すために重要な示談交渉の実務、わいせつ容疑をかけれた際に取るべき行動を解説します。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
わいせつ罪とは|刑法における位置づけ
わいせつ罪とは、刑法に規定されたわいせつ行為やわいせつ物に関する犯罪の総称です。一口にわいせつといっても、被害者の性的自由を侵害する類型と、社会の性的秩序・善良な風俗を侵害する類型の大きく2つに分けられます。
前者の代表が不同意わいせつ罪(刑法176条)であり、後者の代表が公然わいせつ罪(刑法174条)やわいせつ物頒布等罪(刑法175条)です。
いずれも刑事事件として立件されれば、逮捕・勾留・起訴といった刑事手続の対象となり、有罪判決を受ければ前科がつきます。
わいせつ行為の法的定義|どこからが犯罪?
わいせつという言葉は刑法上の複数の犯罪で用いられていますが、その意味合いは保護法益(法律が守ろうとする利益)の違いによって異なります。
大きく分けて、社会の性的秩序を守る「社会的法益型」と、個人の性的自由を守る「個人的法益型」の2つの文脈で理解する必要があります。
社会的法益型におけるわいせつ(公然わいせつ罪・わいせつ物頒布等罪)
公然わいせつ罪やわいせつ物頒布等罪のように、社会全体の性的秩序・善良な風俗を保護法益とする犯罪においては、判例上、以下のように定義されています。
「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳観念に反するもの」(最判昭和26年5月10日・チャタレー事件)。
この定義は、特定の被害者の有無を問わず、社会一般の性的感情や道徳観念を基準にわいせつを判断するものです。
公共の場での露出行為や、わいせつな画像・動画のインターネット上での公開などが典型的にこの基準で判断されます。
個人的法益型におけるわいせつ(不同意わいせつ罪)
不同意わいせつ罪は個人の性的自由・性的自己決定権を保護法益とする犯罪です。
ここでのわいせつな行為は、社会一般の道徳観念というよりも、被害者の立場に立った一般人の性的羞恥心を害する行為、すなわち被害者の性的自由を侵害する行為を広く指すと解されています。
具体的には、身体への直接的な接触(胸や臀部を触る、キスをする等)が典型例です。
一方で、着衣の上からの接触や、身体的接触を伴わない行為(裸にして写真を撮る等)も、被害者の性的自由を侵害すると認められればわいせつ行為に該当する可能性があります。
ただし、16歳未満の者(13歳以上16歳未満の場合は加害者が5歳以上年長である場合に限る)に対してのわいせつな行為は、同意の有無や暴行・脅迫等の有無を問わず不同意わいせつ罪が成立します。
なお、着衣の上から身体に触れる行為であっても、その執拗さや態様がわいせつな行為としての重大性に達しない場合は、不同意わいせつ罪ではなく迷惑防止条例違反として処罰されることがあります。
わいせつ罪の種類(刑法)と罰則一覧
わいせつに関連する主な犯罪類型は以下のとおりです。それぞれ保護法益(法律が守ろうとする利益)や法定刑が異なります。
| 罪名 | 条文 | 法定刑 | 保護法益 |
| 不同意わいせつ罪 | 刑法176条 | 6月以上10年以下の拘禁刑 | 個人の性的自由 |
| 公然わいせつ罪 | 刑法174条 | 6月以下の拘禁刑/30万円以下の罰金等 | 社会の性的秩序 |
| わいせつ物頒布等罪 | 刑法175条 | 2年以下の拘禁刑/250万円以下の罰金等 | 社会の性風俗 |
| 監護者わいせつ罪 | 刑法179条1項 | 6月以上10年以下の拘禁刑 | 個人の性的自由 |
なお、未成年者に対するわいせつ行為は、上記の罪に加え、児童福祉法違反や青少年健全育成条例違反、児童ポルノ禁止法違反等にも問われる可能性がありますが、本記事では刑法上のわいせつ罪を中心に解説します。
不同意わいせつ罪(旧・強制わいせつ罪)
不同意わいせつ罪は、同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にある相手や、わいせつではないと誤信している相手、人違いをしている相手に対して、わいせつな行為をした場合に成立する犯罪です。
不同意わいせつ罪
- 条文:刑法176条
- 法定刑:6月以上10年以下の拘禁刑
- 保護法益:個人の性的自由・性的自己決定権
2023年(令和5年)7月13日施行の改正刑法により、従来の強制わいせつ罪は不同意わいせつ罪に改正されました。
名称変更だけでなく、「同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態」であることや年齢要件等が設けられ、被害者保護の範囲が大幅に拡大されています。
改正前後の比較
旧・強制わいせつ罪では暴行又は脅迫が成立要件とされていたため、被害者が恐怖で抵抗できなかったケースなどで立証が困難でした。
改正後の不同意わいせつ罪では、暴行・脅迫のほか、心身の障害、アルコール・薬物の影響、睡眠・意識不明瞭、拒絶する暇がないこと、恐怖・驚愕、虐待に起因する心理的反応、経済的・社会的地位に基づく影響力など、8つの類型が明文化されました。
なお、不同意わいせつを行い怪我を負わせてしまった場合は不同意わいせつ致傷罪が成立します。
公然わいせつ罪
公然わいせつ罪は、不特定又は多数人が認識できる状態でわいせつな行為をした場合に成立します。
公然わいせつ罪
- 条文:刑法174条
- 法定刑:6月以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料
- 保護法益:社会の善良な性風俗・性秩序
典型例としては、公共の場での露出行為やストリーキング(公共の場を全裸で駆け抜ける行為)などが挙げられます。
被害者の存在を前提とする不同意わいせつ罪と異なり、公然わいせつ罪は社会全体の性的秩序を保護する犯罪類型です。
わいせつ物頒布等罪
わいせつ物頒布等罪は、わいせつな文書、図画、電磁的記録などを頒布(配布)したり、公然と陳列したりした場合に成立します。
わいせつ物頒布等罪
- 条文:刑法175条
- 法定刑:2年以下の拘禁刑もしくは250万円以下の罰金もしくは科料、またはこれらの併科
- 保護法益:社会の善良な性風俗
インターネット上でのわいせつ画像・動画の公開も陳列に該当し得るため、近年ではデジタルコンテンツに関する摘発事例も増加しています。
監護者わいせつ罪
監護者わいせつ罪は、18歳未満の者に対し、その者を現に監護し、かつ、その者の生活全般にわたって影響力を及ぼしている立場の者がわいせつな行為をした場合に成立します。
監護者わいせつ罪
- 条文:刑法179条1項
- 法定刑:6月以上10年以下の拘禁刑
- 保護法益:個人の性的自由・性的自己決定権
不同意わいせつ罪のような暴行・脅迫などの手段を要件とせず、監護者としての影響力を使用した行為であれば成立する点が特徴です。
現に監護する者とは、実親や養親のように、経済的(衣食住の提供など)および精神的(生活上の指導監督など)な観点から、継続的に生活全般にわたって保護・依存関係にある者を指します。
実親や養親でなくとも、親と同程度に生活全般を継続的に保護・指導している同居の交際相手や施設職員なども該当します。
わいせつ事件における刑事事件の流れ|逮捕から判決まで
わいせつ容疑で刑事事件の対象となった場合、手続きは以下のような流れで進行します。各段階には法律で定められた時間制限があり、迅速な対応が求められます。
刑事手続きの流れ
| 段階(期間) | 内容・ポイント |
|---|---|
| 逮捕(最大72時間) | 警察が被疑者を逮捕し、48時間以内に検察官に送致。検察官は24時間以内に勾留請求の要否を判断。この間に弁護士との接見(面会)が可能。 |
| 勾留(原則10日間、最大20日間) | 裁判官が勾留を認めた場合、原則10日間身柄が拘束される。やむを得ない事由がある場合はさらに10日間の延長が可能。弁護士による勾留取消請求・準抗告が重要。 |
| 起訴/不起訴の判断(勾留期間満了まで) | 検察官が起訴(公判請求または略式命令請求)するか、不起訴処分とするかを決定。示談成立や被害者の処罰感情の緩和は不起訴判断に大きく影響。 |
| 公判(起訴後1〜3か月程度) | 起訴された場合、公開の法廷で審理が行われる。弁護士は被告人の権利を守りつつ、有利な情状証拠の提出や証人尋問を行う。 |
| 判決(公判終結後) | 有罪の場合、実刑(拘禁刑)または執行猶予付き判決が言い渡される。初犯で示談成立の場合、執行猶予が付く可能性が相対的に高い。 |
逮捕後72時間は家族も通常面会できません(接見禁止)。しかし、弁護士だけは逮捕直後から面会が可能です。早期に弁護士を選任することが、その後の手続全体を左右します。
示談の重要性|不起訴・執行猶予を目指すために
被害者が存在するわいせつ事件(特に不同意わいせつ罪)において、示談の成立は刑事処分を大きく左右する要素の一つです。
示談が刑事処分に与える影響
検察官は起訴・不起訴の判断にあたり、被害者の処罰感情を重視します。被害者との間で示談が成立し、処罰を望まない旨の意思表示(宥恕)が得られた場合、不起訴処分となる可能性が高まります。
仮に起訴された場合でも、示談の成立は量刑判断において有利な情状として考慮され、実刑ではなく執行猶予付き判決が得られる可能性を高めます。
示談交渉の注意点
わいせつ事件の示談交渉にあたっては、以下の点に注意が必要です。
(1)被害者への直接連絡は厳禁
加害者本人やその家族が被害者に直接連絡を取ることは、証拠隠滅やお礼参りと受け取られるリスクがあり、逆効果になるばかりか、新たな犯罪(強要罪等)に問われる危険すらあります。示談交渉は必ず弁護士を通じて行いましょう。
(2)示談金の相場
不同意わいせつ事件の示談金は、行為の態様や被害の程度によって幅がありますが、一般的に数十万円から数百万円程度が目安とされています。
ただし、あくまでケースバイケースであり、弁護士に具体的な事情を伝えた上でアドバイスを受けることが不可欠です。
(3)示談書の作成
示談書には、示談金額、支払方法のほか、加害者の処罰を望まない旨の宥恕条項や、被害届の取下げに関する条項を含めることが一般的です。法的に有効な示談書を作成するためにも、弁護士の関与が不可欠です。
わいせつ容疑をかけられたら今すぐやるべきこと
わいせつ容疑で捜査を受けている方、または逮捕された方のご家族が、今すぐ取るべき具体的な行動をまとめます。
早急に弁護士へ相談する
刑事事件は時間との勝負です。逮捕から起訴までの期間は最大23日間しかなく、この間に示談交渉や証拠収集を進める必要があります。
刑事事件に精通した弁護士への早期相談が、最善の結果を得るためには最重要です。
取調べでは黙秘権を行使できることを知る
憲法38条および刑事訴訟法198条に基づき、被疑者には黙秘権が保障されています。
取調べで不利な供述をしてしまうと、後の裁判で不利な証拠として使われるおそれがあります。弁護士と相談した上で、供述方針を決定しましょう。
証拠の保全に努める
自身の無実を示す証拠(アリバイを裏付けるメッセージ、防犯カメラ映像の確認依頼など)がある場合は、早期に弁護士に伝えて保全を図ることが重要です。時間の経過とともに証拠が散逸するリスクがあります。
事実関係を正確に整理する
弁護士に相談する際は、事件の日時・場所・状況・被害者との関係性など、できる限り正確に事実関係を伝えることが重要です。弁護士は守秘義務を負っていますので、不利な事実も含めてすべて正直に伝えてください。
わいせつ罪に関するよくある質問
痴漢はわいせつ行為に該当しますか?
痴漢行為は、態様によって「不同意わいせつ罪」(刑法176条)または各都道府県の「迷惑防止条例違反」のいずれかで処罰されます。
下着の中に手を入れるなど悪質な態様の場合は不同意わいせつ罪、着衣の上から触れる程度であれば迷惑防止条例違反として処理されるのが一般的ですが、最終的な判断はケースバイケースです。
初犯であれば実刑を避けられますか?
初犯であること自体は有利な情状ですが、それだけで実刑を回避できるとは限りません。
行為の悪質さ、被害の程度、示談の成否、反省の度合いなど、複数の要素を総合的に考慮して量刑が決まります。
示談が成立し、真摯な反省が認められれば、初犯の場合は執行猶予付き判決が得られる可能性は比較的高いといえます。
わいせつ事件で逮捕されたら会社に知られますか?
逮捕されたこと自体は、警察から会社に連絡されるわけではありません。ただし、長期間出勤できない場合や、実名報道がなされた場合には、結果的に会社に知られる可能性があります。
早期の身柄解放(勾留阻止・保釈)を実現することが、社会生活への影響を最小限に抑える鍵となります。
わいせつ罪でお悩みなら弁護士へ相談を
この記事の要点
- わいせつ罪は類型により法定刑が大きく異なる
- 逮捕後最大23日間で起訴されるかが決まるため、早期対応が不可欠
- 被害者との示談は不起訴・執行猶予を目指す上で最重要
- 弁護士への早期相談が、最善の結果を得るためには重要
わいせつ罪は、不同意わいせつ罪・公然わいせつ罪・わいせつ物頒布等罪など複数の類型があり、それぞれ法定刑や成立要件が異なります。
わいせつ容疑で捜査を受けている、あるいは逮捕された場合に最も重要なのは、一刻も早く刑事事件に精通した弁護士に相談することです。
弁護士は、取調べへの対応助言、示談交渉、勾留阻止・保釈請求、公判での弁護活動など、刑事手続のあらゆる場面であなたの権利を守ります。


