「公務員として仕事をしているが、万引き事件を起こし逮捕されてしまった。公務員の仕事を失うことはあるのか」
こちらの記事では、公務員の方のこのような疑問について解説するほか、万引きの罪を犯してしまった場合、公務員としての仕事を失う可能性について、また逮捕後の流れや、仕事を失わないためにすべきことなどについても解説します。
公務員が万引きにより仕事を失わないためには、早期に弁護士に相談することが重要です。
公務員が万引きで逮捕されたら失職する?
公務員が万引き事件を起こした場合、免職などの処分を受ける可能性があります。
公務員は禁錮以上の前科がつくと職に就くことができなくなる
公務員が万引きなどの罪を犯した場合、公務員法に基づき職に就くことができなくなる可能性があります。
国家公務員の場合、国家公務員法38条1号は、以下に該当する者は「人事院規則で定める場合を除くほか、官職に就く能力を有しない」と定めています。
一 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
国家公務員法38条
また同法76条は、公務員として働く職員が38条のいずれかに至った場合は、「人事院規則で定める場合を除くほか、当然失職する」と定めています。
さらに同法79条2号は、国家公務員が以下に該当した場合、「その意に反して、これを休職することができる」と定めています。
二 刑事事件に関し起訴された場合
国家公務員法79条
地方公務員の場合においても、地方公務員法16条1号にて、同じく「禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」は、「条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない」と定められています。
また同法28条2項2号において、地方公務員が刑事事件に関し起訴された場合、休職することができることが国家公務員の場合と同様に定められているほか、同条4号では16条のいずれかに至った場合はその職を失うことが定められています。
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公務員が万引きで逮捕された場合の処分
国家公務員法は82条1~3号において、公務員が次のいずれかに該当する場合、懲戒処分として「免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる」と定めています。
一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
国家公務員法82条
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合
三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
万引きは3に挙げられている「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」に該当すると考えられます。そのため、国家公務員の人事を統括する人事院より懲戒処分が下る可能性があります。
また地方公務員法においても、29条においてほぼ同様の懲戒処分についての規定が定められています。処分については、同法6条が定めている地方公共団体の長などの「任命権者」が行います。
公務員が万引きで逮捕された後の流れ
万引きで逮捕された後は、どのような流れで刑が確定するのでしょうか。
逮捕されてから起訴・不起訴の決定が行われるまでは、最大で23日間の身体拘束が続く可能性があります。
いったん逮捕されても、警察は微罪処分として釈放し、事件が終了することがあります。微罪処分となるのは、被害額が少なく犯行が悪質でない、弁償が行われ和解が成立している等の場合です。
微罪処分以外の場合は、事件を検察官に引き継ぐ検察官送致(送検)が48時間以内に行われます。検察官の判断により24時間以内に勾留請求が行われ、勾留質問などのあと、原則10日間身柄が拘束されます。必要に応じ、最大10日間の勾留延長が行われます。
捜査の結果、検察官は起訴・不起訴を決定します。
公務員が万引きによる前科で免許を失わないための正しい対処法
前科とは起訴され刑事裁判で有罪が確定することをいいます。日本においては、起訴された場合の有罪率はほぼ99.9%に上るため、前科がつくことを避けるためには刑事裁判が開かれなくなる不起訴処分を得ることが重要です。
不起訴処分を得るためには、検察官が判断を下すまでに、示談を締結するなどの活動を行うことが必要となります。
また、逮捕されている場合でも、逮捕されたのみでは前科がつくことはありません。不起訴処分を得るために、まずは早期の釈放を目指すこととなります。
いずれの場合であっても、できるだけ早く弁護士に相談することが大切なのです。
万引きの刑罰は?初犯より再犯の方が罪は重くなる?
万引きで逮捕された場合、刑罰はどのようなものになるでしょうか。また再犯の場合、罪は重くなるのでしょうか。
万引きの刑罰は窃盗罪と同じ
「万引き」という罪名はなく、刑法235条の窃盗罪にあたります。万引きと聞くと軽い印象があるかもしれませんが、刑罰は10年以下の懲役または50万円以下の罰金と定められており、刑法に定められた正式な犯罪であることはしっかりと認識する必要があります。
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万引きの初犯と再犯の刑罰の相場
万引きの刑罰を決定する際は、被害金額が重視されます。初犯で被害金額も少額の場合であれば、弁償や示談が成立することで微罪処分や不起訴処分になる可能性が高まります。また、起訴されても最大30万円程度の罰金刑となる場合が多いです。
また、再犯(2回目)でも罰金刑になる可能性が高いですが、被害金額が高額な場合は正式裁判になることも多く、執行猶予期間中に万引きで起訴されると原則として懲役刑になります。
さらに、服役後に万引きを繰り返した場合、「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」3条により、常習累犯窃盗罪として3年以上の実刑に処せられます。
万引きで有罪になると前科がつき公務員の仕事を失ってしまうことも
国家公務員法・地方公務員法はいずれも、「禁錮以上の刑」に処せられてからその執行を完了しない者は公務員の職に就くことはできないとしているため、万引きの罪を犯した場合でも禁錮以上の刑となった場合は公務員の仕事を失う可能性があります。
人事院は国家公務員における懲戒処分等の状況を定期的に公表しており、2021年7月現在最も新しい資料である「令和3年1-3月期における懲戒処分等の状況について」をみると、「公務外非行関係(窃盗 、暴行等)」で処分を受けた者は23人で、うち5人が最も重い「免職」の処分となっています。
地方公務員における万引きによる処分の最近の例を見ると、軽いものでは2019年、たばこを万引きし、不起訴処分となった山口県の男性が、停職3か月の懲戒処分となっています。
重いものでは2021年6月、リサイクルショップでベルトやネクタイなど約9,000円分を盗み、懲役10か月(執行猶予3年)の判決となった横浜市の運輸職員の男性が、停職9か月の懲戒処分を受けたケースがあります。
公務員が万引きで免許を失わないために弁護士へ早期相談
公務員が万引きの罪を犯したことにより前科がついた場合、免許の取り消しなどが行われる可能性があることがわかりました。
前科により免許を失わないためには、早期に弁護士に相談することが重要となります。
万引き被害者と示談をして釈放と不起訴を目指す
検察官により起訴が行われた場合、裁判で無罪になるのは非常に難しくなります。しかし、検察官が不起訴処分の判断を下した場合は、裁判を受けること自体がなくなるため、前科がつく可能性はゼロになります。
すなわち、前科がつくことを回避するためには、不起訴処分を目指すことが最も現実的な手段となります。
万引きのような被害者のいる犯罪の場合、早期に被害者対応を行うことが肝要です。示談を締結することで、検察官が再犯の可能性や加害者家族への影響などといった様々な情状を考慮し、最終的に「起訴するほどではない」と判断する「起訴猶予」の可能性が高まります。
ただし、チェーン店などは示談には一切応じない方針を取っているところも多く、その場合は被害の弁済を行い、謝罪を尽くすなど、示談とは別の形で反省の意を示すことで、不起訴処分の可能性を高めるケースが多くなります。
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万引きがやめられない窃盗症(クレプトマニア)は治療が必要
万引きを繰り返してしまう人の場合は、窃盗症(クレプトマニア)という精神障害が原因となっている場合もしばしばあります。
窃盗症には、必要のないものなのに衝動的に万引きをしてしまう、万引きが成功したことに満足感を覚える、といった特徴があり、繰り返さないためには治療が必要となります。
万引きを行った場合、窃盗症が認められたからといって無罪となることは基本的にはありませんが、刑事責任が軽減される可能性はあります。
示談で早期釈放・不起訴で前科回避を目指すために弁護士に相談する
被害者との間に示談を締結するためには、弁護士によるサポートが欠かせません。
逮捕されてから起訴される前の身柄拘束が続く期間は、最大で23日間となっています。起訴が決定された後で示談が成立しても、後から不起訴とすることはできないため、示談交渉はその間に行う必要があります。そのため、できる限り早い段階で弁護士に相談することが大切になってきます。
逮捕されている場合、加害者本人は示談交渉はできず、また逮捕されていない場合であっても加害者と被害者が直接示談交渉を行うことは困難です。そのため、示談交渉の際は弁護士を間に立てることが必要となります。
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