無銭飲食をすると詐欺罪で逮捕される可能性があります。もっとも、無銭飲食の場合に必ず詐欺罪が成立するとは限りません。
この記事では、無銭飲食で詐欺罪が成立する場合・成立しない場合をわかりやすく解説します。無銭飲食で逮捕された場合にとるべき対応も詳しくご説明します。
無銭飲食は早期に適切な対応をとれば社会生活への影響を最小限にとどめることが可能です。この記事を読んでぜひ参考になさってください。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
無銭飲食で詐欺罪が成立する場合とは?
以下のようなケースでは無銭飲食で詐欺罪が成立します。
- 当初から無銭飲食する意思がありつつ飲食を行った
- 飲食後に無銭飲食の意思を有し、「後で必ず支払う」等と言って逃亡した
無銭飲食で詐欺罪が成立するケースを、詐欺罪の成立要件を紹介しつつ解説します。
詐欺罪の成立要件とは?
詐欺罪は、①人を欺く行為(欺罔行為)によって、②相手方を錯誤に陥らせ、③それに基づく処分行為により、④財物を交付させ、又は財産上の利益を移転させた場合に成立します(刑法246条)。
欺罔行為は、処分行為に向けられたものでなければならない点がポイントです。だませば全て詐欺罪になるわけではなく、相手方に財物を提供させる等の目的をもってだました場合のみ詐欺罪が成立します。
詐欺罪の成立には故意も必要です。故意とは、①~④の事実の認識・認容を意味します。後で詳しく述べるように、「故意=無銭飲食する意思」をどの時点でもったかで詐欺罪の成否が変わるのです。
欺罔行為により財物を得た場合には刑法246条1項の詐欺罪が成立し、財産上の利益を得た場合には刑法246条2項の詐欺罪が成立します。
詐欺罪の法定刑は10年以下の懲役です(刑法246条1項・2項)。詐欺罪には罰金刑がありません。
詐欺罪により実刑になる可能性や刑罰の程度について詳しく知りたい方は『詐欺罪は逮捕されたら初犯でも実刑?懲役の平均・執行猶予の割合もわかる』の記事から確認可能です。
無銭飲食で詐欺罪が成立する場合
①当初から無銭飲食の意思があった場合
最初から無銭飲食するつもりだった場合、飲食した時点で詐欺罪が成立します。
お金を支払う意思も能力もないのに、これがあるかのように装って店員を欺き、飲食物という財物を提供させているからです。
【注目】無銭飲食で検挙されたケース
無銭飲食の疑いで逮捕されニュースになった例として、知人女性らと飲食後に未入金のプリペイドカードをクレジットカードのように装って提示し、エラーが出ると「現金がないので銀行で下ろしてくる」と嘘をついて逃走したケースがあります。
また、無銭飲食で起訴され懲役2年の実刑になったケースもあります(福岡地判令和2年11月5日)。
事案の概要は、飲食後直ちにお金を支払う意思も能力もないのに、札束を模したメモ帳(市販のジョークグッズ)の一部を示すなどして酒食を注文し、シャンパンなど酒食の提供を受けるとともに接客等のサービスの提供を受けたというものです。
この事案では、被害額が120万円を超えていたこと、累犯前科を含む同種前科があること等から実刑が言い渡されました。
②飲食後に無銭飲食の意思を生じ、「後で必ず支払う」等と言って逃亡した場合
飲食後にお金がないと気づいた場合、「後で必ず支払う」と言って逃走すると詐欺罪が成立します。
この場合、飲食代金の支払いを猶予するという店員の「処分行為」に向けた欺罔行為があるからです。
つまり、このケースで店員が「わかりました」と言って退店を許可した場合、法律的には支払い猶予の意思表示をしたといえ、欺罔行為により飲食代金の支払いを免れるという財産上の利益を得たといえます。
無銭飲食で詐欺罪が成立しない場合
①飲食後に無銭飲食の意思を生じ、単に逃走した場合
飲食後に財布がないと気づいた場合、店員の隙を見て逃走したのであれば詐欺罪は成立しません。
この場合、注文時には無銭飲食の意思がなく、詐欺罪の故意がありません。したがって、飲食物を提供させた行為について詐欺罪は成立しません。
では、飲食後に黙って逃走した行為が欺罔行為にならないのはなぜでしょう?
それは、黙って逃走する行為が、店員の処分行為に向けられた欺罔行為に当たらないからです。黙って逃走する場合、店員による支払い猶予の意思表示を予定していないのです。
黙って逃走した場合、債務免除という「財産上の利益」を盗んだといえます。このような行為を「利益窃盗」といいます。
利益窃盗は刑法上において不可罰とされているので、刑罰の対象とはなりません。
②飲食後に無銭飲食の意思を生じ、「店内のトイレに行ってくる」等と言って逃走した場合
飲食後にお金がないと気づき「店内のトイレに行ってくる」と言って逃走した場合、詐欺罪は成立しない可能性が高いです(福岡地小倉支判昭和34年10月29日参照)。
この場合、注文時には無銭飲食の意思がなく、詐欺罪の故意がありません。
したがって、飲食物を提供させた行為について詐欺罪は成立しないといえます。
では、「店内のトイレに行ってくる」と言う行為が欺罔行為にならないのはなぜでしょう?
この場合、店員が「わかりました」と答えたとしても、店内のトイレに行くことを容認したに過ぎません。店内のトイレからさらに別の場所に行くことを容認し、支払いを猶予したわけではありません。
つまり、処分行為に向けられた欺罔行為がないのです。
欺罔行為を行っていない以上、詐欺未遂罪も成立しません。
逃走時に暴行や脅迫を行った場合には強盗罪が成立する可能性
飲食後に欺罔行為を行わず逃走した場合には詐欺罪は成立しませんが、逃走しようとして店員に気づかれたため、店員に暴行や脅迫を加えて飲食代金の支払いを免れたのであれば強盗罪(236条2項)が成立する可能性があります。
利益窃盗と異なり、利益強盗は刑罰の対象となるのです。
利益強盗の法定刑は5年以上の懲役と詐欺罪よりも重くなる可能性があります。
利益強盗を含めた強盗罪の成立要件や逮捕後の流れについて知りたい方は『強盗で逮捕されたら弁護士に相談を』の記事をご覧ください。
無銭飲食で逮捕後の流れ
無銭飲食で逮捕後の流れは?
無銭飲食で逮捕されるパターンは、現行犯逮捕と通常逮捕(後日逮捕)があります。逮捕されると警察署に連行され取り調べを受けます。
逮捕時に名前や連絡先を伝えないといった態度をとると、証拠隠滅、または、逃亡のおそれがあると判断され、逮捕に引き続き勾留される可能性が高くなるでしょう。
逮捕・勾留となった場合には、起訴までに最大23日間の身体拘束を受ける危険があります。
無銭飲食で逮捕後の流れ
無銭飲食のような単純な類型では、逮捕されず在宅事件となる可能性もあります。在宅事件になると日常生活を送ることができるでしょう。
ただし、無罪になったわけではありません。警察や検察から呼び出しがあれば出頭して取り調べを受けます。
正当な理由なく呼び出しを何回も拒否すると、逃亡のおそれありとして逮捕・勾留されるおそれがあるので注意してください。
無銭飲食を軽く考えず早期に弁護士に相談しよう
無銭飲食を軽い犯罪だと考えて何も対応しないままだと、逮捕・勾留されてしまう可能性があります。
起訴されると、無罪にならない限り前科がついてしまいます。前科がつくと就職時など様々な場面で不利益が生じます。
無銭飲食は、弁護士に依頼の上、早期の対応をとれば生活への影響を最小限に食いとどめることが可能です。
次は、無銭飲食の弁護を依頼するメリットを具体的に解説します。
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無銭飲食の弁護を依頼するメリット
示談成立による不起訴
無銭飲食で不起訴になるため最も重要なのは、示談の成立です。不起訴になれば前科はつきません。
被害額が少なく、手口も単純、前科もないといった事情があれば、示談成立により不起訴となる可能性は高いでしょう。
ただし、示談はただお金を払えばいいというものではありません。被害者への十分な配慮が必要ですから、刑事弁護の経験豊富な弁護士にぜひ依頼してください。
弁護士は、事案に応じ、加害者を許す旨の条項(宥恕条項)や、示談以外にお金の請求はしない旨の条項(清算条項)を組み入れます。宥恕条項付きの示談が成立すれば、不起訴の可能性が高まるでしょう。
また、清算条項付の示談は、民事事件の解決にもつながります。
刑事事件・民事事件を一挙に解決するために示談は非常に有効です。
関連記事
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・詐欺加害者の弁護士|詐欺に強い弁護士とは?弁護士費用や選び方がわかる
取り調べアドバイスによる不起訴
無銭飲食のつもりがなかったのに逮捕されてしまった場合、適切な取り調べ対応が非常に重要です。
詐欺罪の故意を否定する場合、捜査機関による取り調べが厳しくなることが予想されます。犯罪の主観面に争いのある事件では、自白が重要な証拠となるからです。
一度でも故意を認めてしまうと後で否定するのは極めて困難です。不本意な供述をしてしまう前に、できる限り早い段階で弁護士のアドバイスを受けてください。
弁護士は黙秘権をはじめ、ご本人の身を守るための術をわかりやすくお伝えします。
事案によっては、積極的に説明した方がよいケースもあるでしょう。
とはいえ、1人で入店し、所持金がわずかしかない状態だった場合、「無銭飲食するつもりがなかった」と単に主張しても認めてもらうのは困難です。
詐欺罪の故意を否定する場合、飲食前後の言動、店員とのやりとりなど事案ごとに主張すべきポイントがあります。
ご自身のケースでどのように説明すべきか気になる方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
関連記事
・警察の事情聴取(取調べ)をどう乗り切る?不利にならない対応と今後の流れ
・黙秘権って何?逮捕後に黙秘すると不利?有利になる場合とは?
早期釈放
無銭飲食により逮捕・勾留された場合、弁護士は一日も早く釈放されるように弁護活動を行ってくれるでしょう。
具体的には、まずは示談成立を目指し被害店舗に真摯な謝罪と反省の意をお伝えした上で示談交渉を行います。
また、家族に身元引受人になってもらうなど逃亡のおそれがないといえる事情を収集します。
これらの事情を意見書にまとめて提出しつつ、検察官・裁判官と面談して、被疑者をすぐに釈放すべき理由を説得的に主張し、早期の釈放を実現するのです。
無銭飲食を繰り返さない環境整備
無銭飲食を繰り返す原因が経済的な困窮にあるケースもあります。
その場合、弁護士は、生活保護に関するアドバイスを行ったり、支援機関へつなげるなど生活環境の改善を図るという活動を行ってくれるでしょう。
生活環境が整えば、再犯のおそれがなくなったと評価され不起訴処分となる可能性が高くなりるのです。
まとめ
この記事を読んでいらっしゃる方の中には、ご家族が無銭飲食で逮捕されてしまったという方もおられると思います。
弁護士が事案を詳しく分析すれば、詐欺罪が成立しないケースもあります。
詐欺罪が成立する場合でも、早期の示談成立によって不起訴となる可能性は十分あるのです。
早期の対応がご家族の今後の人生に大きく影響します。
無銭飲食の逮捕でお困りなら、刑事事件の解決実績豊富なアトム法律事務所までぜひご相談ください。