不注意で人に怪我を負わせてしまうと「過失傷害罪」が成立する可能性があります。業務上の不注意が原因なら「業務上過失致死傷罪」、不注意の程度が著しいと「重過失致死傷罪」が成立するケースもあります。
この記事では、これらの刑法上の過失傷害の罪について成立要件をわかりやすく解説します。自動車運転上の過失が問題になる犯罪についても解説します。
この記事を読めば、過失で人を傷害してしまった場合の適切な対応もわかります。
思わぬ形で加害者になり不安でいっぱいの方。弁護士がしっかりサポートいたしますので、どうぞお早めにご相談ください。

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目次
刑法上の過失傷害に関する罪とは?
過失とは?
「過失」とは簡単に言うと不注意のことです。より詳しく言うと、予見可能性・結果回避可能性を前提とした結果予見義務と結果回避義務に違反することです。
不注意が原因の場合、わざとやった場合(故意犯)に比べ刑事責任が軽くなるのが一般的です。故意犯と過失犯では、結果が同じでも行為者を非難できる程度が違うからです。
以下では、刑法に「過失傷害の罪」として規定されている「過失傷害罪」、「過失致死罪」、「業務上過失致死傷罪」、「重過失致死傷罪」について詳しく解説します。
過失傷害罪とは?
過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金又は科料に処せられます(刑法209条1項)。
過失傷害罪は、告訴がなければ起訴できない親告罪です(同条2項)。
過失傷害罪にいう「過失」は、業務上の過失、重過失、自動車運転上の過失以外のものを指します。
例えば、ペットが人に怪我をさせた場合や、自転車事故のケースで本罪が適用される可能性があります。
なお、不注意でした行為によって傷害結果が発生しなかった場合、軽犯罪法1条11号違反が成立する可能性があります。軽犯罪法違反の刑罰は、拘留(1日以上30日未満)又は科料(1000円以上1万円未満)です。
相当の注意をせずに人が怪我するおそれのある場所に物を投げると、それだけで軽犯罪法違反になる可能性があります。絶対にやめましょう。
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過失傷害罪の成否が問題になった事案として、以下の裁判例があります。
裁判例
普段は温厚な秋田犬が散歩中に子どもに噛みつき傷害を負わせた事件で飼主の過失が認められた事案(名古屋高判昭和36年7月20日)
判決は、「街路上を巨大な体躯の犬を連れあるくような場合にはそれが飼主に対しどのように温順な犬であっても・・・通行人に危害を加えないとも限らない」と指摘し、飼主には「犬の動作を十分制御しうる態勢をとるべき」注意義務があると判断しました。
本件では、飼主は綱を右手のみで握りその端を3回位右手首に巻いていただけであって、注意義務違反があったのは明らかだとして、過失傷害罪の成立が認められました。
過失致死罪とは?
過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処せられます(刑法210条)。
過失致死罪にいう「過失」も、過失傷害罪と同様、業務上の過失、重過失、自動車運転上の過失以外のものを指します。
過失致死罪の成否が問題になった事案として、以下の裁判例があります。
裁判例
幼児がため池に転落した死亡事故についてため池の管理者の過失が認められた事案(東京高判昭和62年4月7日)
判決は、被告人はため池の防護柵に破損箇所があり危険防止に役立たなくなっていたと認識していたこと等を挙げ、被告人は本件のような転落事故を予見できたと判断しました。さらに、防護柵を補修する義務があったのにこれを怠ったとして過失致死罪の成立を認めました。
業務上過失致死傷罪とは?
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金に処せられます(刑法211条前段)。
業務上過失致死傷罪の法定刑は、過失傷害罪や過失致死罪よりも加重されています。その理由は、一定の危険な業務に従事する業務者には通常人よりも特に重い注意義務が課されているからです。
業務上過失致死罪にいう「業務」は、社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものを意味します。
業務上過失致死傷罪と聞くと仕事中の事故をイメージすると思いますが、「業務」は仕事に限られません。
判例は、娯楽のため銃器を用いて狩猟行為をした際、不注意で人を傷害した場合も業務上過失致傷罪の成立を認めています(最判昭和33年4月18日)。
業務上過失致死傷罪の成否が問題になった事案として、以下の判例があります。
判例
花火大会の実施場所付近の歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒し死傷者が出た事故について、雑踏警備に関し現場で警察官を指揮する立場にあった警察署地域官及び現場で警備員を統括する立場にあった警備会社支社長に業務上過失致傷罪が成立するとされた事例(最決平成22年5月31日)
両名は事故の発生を容易に予見でき、かつ、起動隊による流入規制等によって事故を回避することが可能であったにもかかわらず、事故を未然に防止すべき業務上の注意義務を怠った過失があるとして、業務上過失致傷罪の成立が認められました。
重過失致死傷罪とは?
重大な過失により人を死傷させた者は、5年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金に処せられます(刑法211条後段)。
「重過失」とは、注意義務違反の程度が著しい場合をいいます。
実務では、自転車事故の場合に重過失致死罪が適用されるケースが多いです。
自転車事故で重過失致死罪が適用された事例として、以下の裁判例があります。
裁判例
自転車運転中、前方左右を注視せず、進路前方の赤色信号を見過ごしたまま進行した重大な過失により、被害者に自転車を衝突させ、死亡させた事例(千葉地判平成28年2月23日)
被告人は、イヤホンで音楽を聴きながら自転車を運転し、前方の赤色信号を見過ごしたまま時速約25キロメートルという相応の高速度で進行しました。その結果、信号に従い横断歩道上を歩いていた被害者に自転車を衝突させ死亡させました。
裁判所は、被告人の刑事責任は軽くないとしつつ、前科がないこと、示談が成立する見込みであること等を考慮して、禁錮2年6月執行猶予3年の判決を言い渡しました。
過失傷害罪の捜査の流れは?
過失傷害罪の捜査は、被害届や告訴状の提出をきっかけに始まる場合があります。
捜査開始後は、捜査機関から出頭要請を受け、取り調べに応じます。このように逮捕されないまま捜査が進む刑事事件を「在宅事件」といいます。
過失の程度が著しい場合や結果が重大な場合は、逮捕される可能性もあります。また、110番通報された結果、現行犯逮捕されるケースもありえます。
在宅事件、出頭要請、逮捕後の流れについて、詳しくは関連記事をご覧ください。
【コラム】被害届と告訴状の違いは?
被害届は被害事実を警察に届け出る書面です。犯人の処罰を求めるものではありません。被害届が受理されても必ず捜査が始まるわけではありません。
一方、告訴状は被害者が捜査機関に対し被害事実を申告するとともに、犯人の処罰を求めるものです。告訴が受理されると必ず捜査が開始されます。
過失傷害罪は告訴がなければ起訴できない親告罪です。したがって、早期の段階で被害者に告訴しないと意思表示してもらうことが不起訴につながります。
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自動車運転上の過失が問題になる罪は?
過失運転致死傷罪とは?
自動車運転上の過失が問題になる典型例は、過失運転致死傷罪です。
過失運転致死傷罪は、自動車の運転上必要な注意を怠って人を死傷した場合に成立します。
さらに、交通事故現場から逃亡するひき逃げのケースでは、道路交通法上の救護義務違反と報告義務違反も成立する可能性があります。
各犯罪の実行行為、法定刑は以下のとおりです。
罪名 | 行為 | 法定刑 |
過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条) | 自動車の運転上必要な注意を怠り人を死傷させること | 7年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金 |
道路交通法違反(救護義務違反、同法117条2項、72条1項前段) | 交通事故を起こしたにもかかわらず、負傷者を救護しないこと | 10年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
道路交通法違反(報告義務違反、119条1項10号、72条1項後段) | 交通事故を起こしたにもかかわらず、警察官に報告しないこと | 3月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
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危険運転致死傷罪とは?
故意に一定の危険な運転を行って人を死傷した場合、危険運転致死傷罪が成立します(自動車運転死傷行為処罰法2条)。人を負傷させた者は15年以下の懲役、人を死亡させた者は1年以上20年以下の懲役に処せられます。
危険運転に該当する行為は次の6つです。
- ①アルコール・薬物の影響による正常な運転が困難な状態での走行
- ②制御困難な高速度での走行
- ③未熟な運転技能による走行
- ④あおり運転
- ⑤悪質な信号無視をした上での危険な速度での運転
- ⑥通行禁止道路における危険な速度での運転
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過失で傷害を負わせてしまったらすぐ弁護士へ!
示談成立が不起訴・刑の減軽につながる
過失傷害罪は誰でも加害者になり得る犯罪です。突然加害者になると、動揺し大きな不安に襲われると思います。そんなときは一人で解決しようとせず、ぜひ刑事弁護の経験豊富な弁護士にご相談ください。
過失傷害罪は、早期の示談によって不起訴処分となる可能性が高いです。また、過失傷害罪は告訴がなければ起訴できない親告罪ですので、被害者が告訴しない意思表示をすれば100%不起訴になります。
弁護士は、ご本人の真摯な反省と謝罪の気持ちを早急に被害者にお伝えします。ときには、ご本人と共に被害者のもとに謝罪にうかがいます。
加害者となってしまったご本人も辛い立場にあると思いますが、弁護士がしっかりサポートしますのでご安心ください。
示談交渉では、被害者による許し(宥恕)を得られるよう尽力します。宥恕付き示談が成立すれば不起訴の可能性が高くなります。もし起訴されたとしても、刑の減軽が期待できます。
過失等に関する主張が不起訴・刑の減軽につながる
過失が問題になる刑事事件では、行為態様や過失の内容・程度に関する主張も重要です。
弁護士はご本人から詳しく事情をお聴きしたり、事故現場を検証してご本人に有利な事情を集めます。
事案を詳しく分析すれば、結果発生が予見できず過失がないと判明する可能性もあります。また、行為態様や過失の内容・程度が検察官が主張するほど悪質ではないケースもあります。
弁護士は、これらの事情を意見書にまとめ提出したり、検察官と面談して説得的に主張します。
その結果、不起訴処分や刑の減軽につながる可能性が高まります。