過失傷害とは、過失により(わざとではなく、あやまって)人を傷害したときに成立する犯罪です。ですが、過失傷害の種類は多岐にわたります。
不注意で人に怪我を負わせてしまうと刑法上の「過失傷害罪」が成立する可能性があります。
業務上の不注意が原因なら「業務上過失致死傷罪」、不注意の程度が著しいと「重過失致死傷罪」が成立するケースもあります。
人身事故を起こした場合は、自動車運転処罰法違反(過失傷害)の罪に問われることもあります。
この記事では、これらの刑法および自動車運転処罰法上の「過失傷害」の罪について成立要件・罰則・刑事事件の流れ・対処法など解説しています。
思わぬ形で過失傷害の加害者になってしまい、不安でいっぱいの方は、アトム法律事務所の弁護士にご相談ください。
刑事事件の解決を得意とする弁護士がしっかりサポートいたします。刑事手続きはどんどん進んでいきますので、どうぞお早めにご連絡ください。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
【類型①】刑法上の過失傷害罪とは?
はじめに(過失傷害の類型は?)
刑法には「過失傷害の罪」として規定されている「過失傷害罪」のほか、「過失致死罪」、「業務上過失致死傷罪」、「重過失致死傷罪」などの過失傷害が規定されています。
不注意が原因の場合(≒過失犯の場合)、わざとやった場合(故意犯)に比べ刑事責任が軽くなるのが一般的です。故意犯と過失犯では、結果が同じでも行為者を非難できる程度が違うからです。
とはいえ過失傷害の類型によっては、重い刑罰が規定されていることも多いものです。
それでは、まず「過失傷害罪」から刑罰などを確認していきましょう。
過失傷害罪とは?刑罰は?
過失傷害罪は「過失により人を傷害した者」に成立する犯罪です。
過失傷害罪に問われた場合「30万円以下の罰金又は科料」という刑罰に処せられます(刑法209条1項)。
過失傷害罪は、告訴がなければ起訴できない親告罪です(同条2項)。
過失傷害罪になる行為は?
過失傷害罪にいう「過失」は、業務上の過失、重過失、自動車運転上の過失以外のものを指します。
例えば、ペットが人に怪我をさせた場合や、自転車事故のケースで本罪が適用される可能性があります。
過失傷害罪にならない場合は?
なお、不注意でした行為によって傷害結果が発生しなかった場合、軽犯罪法1条11号違反が成立する可能性があります。軽犯罪法違反の刑罰は、拘留(1日以上30日未満)又は科料(1000円以上1万円未満)です。
相当の注意をせずに人が怪我するおそれのある場所に物を投げると、それだけで軽犯罪法違反になる可能性があります。絶対にやめましょう。
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過失傷害罪に該当するかどうかの判断
過失傷害で有罪になった裁判例
過失傷害罪の成否が問題になった事案として、以下の裁判例があります。
過失傷害罪に該当するかどうかの判断をしている裁判例です。
裁判例
普段は温厚な秋田犬が散歩中に子どもに噛みつき傷害を負わせた事件で飼主の過失が認められた事案(名古屋高判昭和36年7月20日)
こちらの判決では「街路上を巨大な体躯の犬を連れあるくような場合にはそれが飼主に対しどのように温順な犬であっても・・・通行人に危害を加えないとも限らない」と指摘し、飼主には「犬の動作を十分制御しうる態勢をとるべき」注意義務があると判断しました。
本件では、飼主は綱を右手のみで握りその端を3回位右手首に巻いていただけであって、注意義務違反があったのは明らかであるとして、過失傷害罪の成立が認められました。
過失傷害の「過失」とは?
過失傷害の「過失」とは簡単に言うと不注意(注意義務違反)のことをいいます。
一般に過失とは、①予見可能性を前提とした予見義務違反、および②結果回避可能性を前提とした結果回避義務違反がある場合に認められます。
①危険な状態が発生することが予見できるのに、不注意で見過ごした場合に、②その危険な結果を回避するために何らかの措置を講じるべきなのに、何も対策を講じなかったとき、人に怪我を負わせるなどすすれば過失傷害に問われます。
飼い犬の事例で言えば、散歩中、通行人にかみつくなどして危害を与えることが予見できるうえ、かみつかないようにする対策が不十分であった点で、過失傷害に問われる結果となったのでしょう。
不起訴になる可能性はあるのか?
ただし注意義務を果たすことができなかったとしても、やむを得ない事情がある場合や、被害者の方との示談が成立した場合は、刑事裁判を回避できるケースもあります。
かりに刑事裁判になった場合は有罪になるような事案であっても、起訴猶予という理由による不起訴処分を目指すことが可能です。
弁護士と相談してみて、今後の見通しや対策を早期に立てることをおすすめします。
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過失傷害罪の刑罰・逮捕を回避するには?
過失傷害罪の刑事責任(刑罰)・逮捕を回避する方法については、次のようなものが考えられます。
過失傷害罪の刑事責任等を回避する方法
- 被害者との示談を成立させる
- 不起訴処分を受ける
- 無罪判決を受ける
被害者との示談
被害者との示談とは、加害者から被害者に謝罪を申し入れ、金銭(示談金)を支払うことで、被害者の刑事事件による損害を賠償し、被害者の許しを得る手続きです。
示談交渉をおこなう中で、被害者が加害者を告訴しない等の示談条件を締結できることもあり、示談が成立すると、加害者は刑事責任等を回避できる可能性が高まります。
なお、示談が成立したことの証拠となるのが「示談書」です。刑事事件の解決には、法律的にみて不備のない示談書を作成することも重要でしょう。
不起訴処分を獲得する
不起訴処分とは、検察官が加害者を起訴しないことを決定することです。
不起訴処分を受けるためには、加害者が過失傷害罪に該当しないことを検察官に訴える必要があります。
通常、被害者との示談成立などの事情が、不起訴の判断要素になることが多いです。
無罪判決を獲得する
無罪判決とは、裁判所が加害者を有罪と認定しない判決のことです。無罪判決を受けるためには、加害者が過失傷害罪に該当しないことを裁判官に訴える必要があります。
過失傷害罪の刑事責任を免れるためには、早めに弁護士に相談することをおすすめします。弁護士は、過失傷害罪の刑事責任を免れるための方法を検討し、適切なアドバイスをすることができます。
過失傷害は逮捕される?捜査の実情は?
過失傷害罪の捜査の流れは?
過失傷害罪の捜査は、被害届や告訴状の提出をきっかけに始まります。場合によっては110番通報されることもあるでしょう。
捜査開始後は、捜査機関から出頭要請を受けたり、逮捕されたりして、取り調べに応じることになります。
在宅事件の場合の流れ
逮捕されないで取り調べを受ける刑事事件のことを「在宅事件」と呼びます。在宅事件の場合、出頭要請に応じて、警察署や検察庁におもむき、取り調べを受けます。
在宅事件だからといって起訴されないわけではなく、しかるべき捜査が終われば検察官の起訴/不起訴の決定を受けることになります。
在宅事件で起訴された場合、「在宅起訴」となり、家に居ながら刑事裁判を受ける期日だけ裁判所に出頭するという流れになります。
路上で昨年1月、バイクを運転していた男子高校生が巡回中の警察官と接触し、右目を失明した事件で、那覇地検は29日、(略)巡査(略)を業務上過失傷害罪で在宅起訴した。(略)巡査は昨年11月(略)書類送検されていた。
2023.6.29 jiji.com「高校生失明、警官を在宅起訴 過失傷害罪で―那覇地検」https://www.jiji.com/jc/article?k=2023062901110&g=soc(2023.11.14現在)
逮捕事件の場合の流れ
一方、過失の程度が著しい場合や死傷者多数など被害結果が重大な場合には、逮捕される可能性もあります。
逮捕される事件のことは「身柄事件」「逮捕事件」などと呼びます。
警察逮捕のあとは多くの場合、警察署内の留置場で生活することになります。逮捕後48時間以内に、検察官に身柄送致され、さらに24時間以内拘束される流れとなり、必要がある場合は勾留されます。
勾留決定された場合は基本的には10日間の身体拘束が継続し、勾留延長の場合はさらに10日間の範囲内で身体拘束が続くことになります。
結果として、逮捕された時から数えると最大23日間留置される可能性があります。
満期までに検察官によって起訴されるか、不起訴(あるいは処分留保)で釈放されるかが決定されます。
タクシーを運転中に歩道に乗り上げ、市内の30代女性に軽傷を負わせたまま逃走した事件で、千葉地検は18日、自動車運転処罰法違反(過失傷害)と道交法違反(ひき逃げ)の疑いで逮捕・送検されていた男性(略)を不起訴処分とした。
2022.1019 千葉日報「ひき逃げ逮捕の男性不起訴処分 タクシー運転、歩道に乗り上げ 千葉地検「事情を考慮」」https://www.chibanippo.co.jp/news/national/987554(2023.11.14現在)
早期釈放や不起訴処分を目指したい場合などは、弁護活動を早くから開始してもらう必要があるでしょう。
在宅事件、出頭要請、逮捕後の流れについて、詳しくは関連記事をご覧ください。
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<コラム>傷害事件の被害届と告訴状…違いは?
被害届は、警察などの捜査機関に被害を受けた事実を届け出る書面のことです。
一方、告訴状は、警察などの捜査機関に対して、被害事実を申告するとともに、犯人の処罰を求める書面のことです。
被害届と告訴状は、犯人の処罰を求めるかどうかの点で違いがあります。
親告罪といわれる一定の犯罪の場合、告訴状が無ければ、犯人は起訴されません。起訴されなければ、刑事裁判で刑罰を言い渡される可能性もゼロになります。
傷害事件の類型のうち「過失傷害罪」は親告罪とされています。そのため、「過失傷害罪」の捜査を受けている場合に、起訴を回避するためには、告訴状の提出を控えてもらうか、告訴状の取り下げをおこなってもらうという対応が考えられます。
被害者側との示談を締結する際は、刑事告訴状の不提出や取り下げについても交渉をおこなう必要があるでしょう。
検察官が起訴の決定を行う前に、早期の段階で、被害者に告訴しないと意思表示してもらうことが不起訴につながります。
補足
なお親告罪でなくても、被害届の不提出・取り下げによって不起訴処分になるケースもよくあります。
具体的にご自身のケースでどのような対応をとればよいのかについては、刑事事件を得意とする弁護士に相談してみるとよいでしょう。
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・被害届を出されたか確認する方法はある?被害届が受理された後の流れは?
【類型②】過失傷害罪に関連する他の罪
過失致死罪の刑罰・裁判例
過失による傷害にとどまらず、死亡させてしまった場合は「過失致死罪」に問われる可能性があります。
過失致死罪は、「過失により人を死亡させた者は、「50万円以下の罰金」に処せられる」という犯罪です(刑法210条)。
過失致死罪にいう「過失」も、過失傷害罪と同様、業務上の過失、重過失、自動車運転上の過失以外のものを指します。
過失致死罪の成否が問題になった事案として、以下の裁判例があります。
裁判例
幼児がため池に転落した死亡事故についてため池の管理者の過失が認められた事案(東京高判昭和62年4月7日)
この裁判例では、被告人はため池の防護柵に破損箇所があり危険防止に役立たなくなっていたと認識していたこと等を挙げ、被告人は本件のような転落事故を予見できたはずであると認定されました。
さらに、防護柵を補修する義務があったのに、その義務を怠ったとして、過失致死罪の成立が認められました。
業務上過失致死傷罪の刑罰・裁判例
業務上過失致死傷罪とは、「業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金に処せられる」という犯罪です(刑法211条前段)。
業務上過失致死傷罪の法定刑は、過失傷害罪や過失致死罪よりも加重されています。その理由は、一定の危険な業務に従事する業務者には通常人よりも特に重い注意義務が課されているからです。
業務上過失致死傷の「業務」とは
業務上過失致死罪にいう「業務」は、社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものを意味します。
業務上過失致死傷罪と聞くと仕事中の事故をイメージすると思いますが、「業務」は仕事に限られません。
判例は、娯楽のため銃器を用いて狩猟行為をした際、不注意で人を傷害した場合も業務上過失致傷罪の成立を認めています(最判昭和33年4月18日)。
業務上過致死傷の判例
業務上過失致死傷罪の成否が問題になった事案として、以下の判例があります。
業務上過失致傷(実刑判決)
花火大会の実施場所付近の歩道橋で多数の参集者が折り重なって転倒し死傷者が出た事故について、雑踏警備に関し現場で警察官を指揮する立場にあった警察署地域官、および現場で警備員を統括する立場にあった警備会社支社長などに業務上過失致死傷罪が成立するとされた事例(最決平成22年5月31日判時2083-159)。
判断内容
事故の発生を容易に予見でき、かつ、起動隊による流入規制等によって事故を回避することが可能であったにもかかわらず、事故を未然に防止すべき業務上の注意義務を怠った過失があるとして、業務上過失致死傷罪の成立が認められた。
最終処分
禁錮2年6月の実刑判決*¹
*¹ 被告人5名のうち2名が禁錮2年6月の実刑判決となり、うち3名は執行猶予付き判決となった。
重過失致死傷罪の刑罰・裁判例
重過失致死傷罪とは、「重大な過失により人を死傷させた者は、5年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金に処せられる」という犯罪です(刑法211条後段)。
重過失致死傷罪の「重過失」とは、注意義務違反の程度が著しい場合をいいます。
実務では、自転車事故をおこした場合、重過失致死罪が適用されるケースが多いです。
裁判例
自転車事故で重過失致死罪が適用された事例として、以下の裁判例があります。
重過失致死罪(執行猶予付き判決)
自転車運転中、前方左右を注視せず、進路前方の赤色信号を見過ごしたまま進行した重大な過失により、被害者に自転車を衝突させ、死亡させた事例(千葉地判平成28年2月23日)。
概要
被告人は、イヤホンで音楽を聴きながら自転車を運転し、前方の赤色信号を見過ごしたまま時速約25キロメートルという相応の高速度で進行。その結果、信号に従い横断歩道上を歩いていた被害者に自転車を衝突させ死亡させた。
判断内容
被告人の刑事責任は軽くはないが、前科がないこと、示談が成立する見込みであることなどは有利な情状となる。
最終処分
禁錮2年6月執行猶予3年の判決
【類型③】自動車運転上の過失が問題になる罪は?
過失運転致死傷罪とは?
自動車運転上の過失が問題になる典型例は、過失運転致死傷罪です。
過失運転致死傷罪は、自動車の運転上必要な注意を怠って人を死傷した場合に成立します。
さらに、交通事故現場から逃亡するひき逃げのケースでは、道路交通法上の救護義務違反と報告義務違反も成立する可能性があります。
各犯罪の実行行為、法定刑は以下のとおりです。
罪名 | 行為 | 法定刑 |
---|---|---|
過失運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法5条) | 自動車の運転上必要な注意を怠り人を死傷させること | 7年以下の懲役・禁錮又は100万円以下の罰金 |
道路交通法違反(救護義務違反、同法117条2項、72条1項前段) | 交通事故を起こしたにもかかわらず、負傷者を救護しないこと | 10年以下の懲役又は100万円以下の罰金 |
道路交通法違反(報告義務違反、119条1項10号、72条1項後段) | 交通事故を起こしたにもかかわらず、警察官に報告しないこと | 3月以下の懲役又は5万円以下の罰金 |
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危険運転致死傷罪とは?
故意に一定の危険な運転を行って人を死傷した場合、危険運転致死傷罪が成立します(自動車運転死傷行為処罰法2条)。危険運転によって人を負傷させた者は15年以下の懲役、人を死亡させた者は1年以上20年以下の懲役に処せられます。
危険運転に該当する行為は次の6つです。
- アルコール・薬物の影響による正常な運転が困難な状態での走行
- 制御困難な高速度での走行
- 未熟な運転技能による走行
- あおり運転
- 悪質な信号無視をした上での危険な速度での運転
- 通行禁止道路における危険な速度での運転
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過失傷害を弁護士に相談するメリット
示談成立が不起訴・刑の減軽につながる
過失傷害罪は誰でも加害者になり得る犯罪です。突然加害者になると、動揺し大きな不安に襲われると思います。そんなときは一人で解決しようとせず、ぜひ刑事弁護の経験豊富な弁護士にご相談ください。
過失傷害罪は、早期の示談によって不起訴処分となる可能性が高いです。
また、過失傷害罪は告訴がなければ起訴できない親告罪ですので、被害者が告訴しない意思表示をすれば100%不起訴になります。
弁護士は、ご本人の真摯な反省と謝罪の気持ちを早急に被害者にお伝えします。ときには、ご本人と共に被害者のもとに謝罪にうかがいます。
加害者となってしまったご本人も辛い立場にあると思いますが、弁護士がしっかりサポートしますのでご安心ください。
示談交渉では、被害者による許し(宥恕)を得られるよう尽力します。宥恕付き示談が成立すれば不起訴の可能性が高くなります。もし起訴されたとしても、刑の減軽が期待できます。
過失等に関する主張が不起訴・刑の減軽につながる
過失が問題になる刑事事件では、行為態様や過失の内容・程度に関する主張も重要です。
弁護士はご本人から詳しく事情をお聴きしたり、事故現場を検証してご本人に有利な事情を集めます。
事案を詳しく分析すれば、結果発生が予見できず過失がないと判明する可能性もあります。また、行為態様や過失の内容・程度が検察官が主張するほど悪質ではないケースもあります。
弁護士は、これらの事情を意見書にまとめ提出したり、検察官と面談して説得的に主張します。
その結果、不起訴処分や刑の減軽につながる可能性が高まります。
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