児童から虐待の相談を受けているとして突然学校や児童相談所から連絡が入ったり、しつけのつもりが近所の人に通報されたりと、児童虐待が疑われるきっかけは様々です。
「スキンシップのつもり」「しつけの一環」は親の主観に過ぎず、児童虐待の恐れがあるものとして真摯に反省して対応するべきです。
しかし、親が逮捕されて重い刑事罰を受けることが最適な解決策とはいえないケースも存在します。再犯防止に努めること、児童が安心して過ごせる家庭環境の構築に力を入れるため、寛大な処分を求めるべき場合もあるでしょう。
この記事では、児童虐待とはどういった犯罪で、弁護士を入れることでどんなメリットが得られるかを解説します。
なお夫や妻が既に逮捕されてしまっている場合は、弁護士が留置先へ出向いて話を聞くこともできます。アトム法律事務所の初回接見サービスの利用も検討してください。
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目次
児童虐待が疑われると今後どうなる?
親による児童虐待を疑われると、児童の安全確保が優先され、親子の接触ができなくなる可能性があります。
そして虐待行為についての捜査が行われ、警察に呼びだされて取り調べを受けたり、必要に応じて逮捕されてしまう可能性もでてくるでしょう。
子どもが児童相談所に保護される
親から児童虐待を受けたと思われる児童を発見した場合には、都道府県の福祉事務所や児童相談所に通告がなされます。そして、児童の安全を優先するため、児童相談所などの施設で保護措置が取られるのです。
また、児童相談所が「面会制限」を課す場合では、親子の面会が難しくなる可能性もあります。直接会うことはもちろん、電話やメールなどの通信でのやりとり、手紙の交換、子どもが保護された施設の所在地などは秘匿されるでしょう。
さらに、児童につきまとったり、児童の居住地付近に立ち入らないよう接近禁止命令がつくこともあるのです。
親権停止になることも
親権は、子どもの利益のために監護や教育、財産を管理するなどの権限と義務のことで、父母が共同で行使するものです。
いいかえれば、子の利益を損なうような親権の行使は認められていません。
親権停止の申し立ては、児童本人、児童の親族、検察官、児童相談所長、未成年後見人、未成年後見監督人に認められています。申し立てを受けて、家庭裁判所が認めた場合には、児童虐待を理由として親権停止が認められることは十分ありえるのです。
例えば、父親による虐待行為があった場合には、母親のみが親権を行使できるようにするなどの対処が取られることもあります。
虐待行為の捜査、必要に応じて逮捕も
警察は民事不介入といいますが、虐待行為が刑事罰の対象となるような行為であったときには捜査の対象となります。
警察から都度呼出しを受けて捜査される在宅事件として扱われることもありますが、親の身柄拘束が必要となれば逮捕される可能性もあります。
児童虐待で逮捕された後の流れ
児童虐待で逮捕されると、まずは警察署にて取り調べを受けることになります。
逮捕には現行犯逮捕と後日逮捕の2パターンがありますが、いずれにせよ、警察署の留置施設に収監される流れです。
勾留されるかどうかが決まる
逮捕から48時間以内に、被疑者である親の身柄は警察から検察へと移ります。
検察は24時間以内に、引き続き身柄を勾留するべきかを決めなくてはなりません。検察が勾留が必要であると判断すると裁判所へ勾留請求をします。そして、裁判所でも勾留請求が認容されると10日間の身柄勾留となるのです。
さらに検察側が勾留請求を行い、裁判所が認容した場合は勾留が10日間追加されます。
逮捕から検察が起訴・不起訴を決めるまで最長23日間と長期間です。
起訴されるかどうかが決まる
検察は被疑者に対する刑事裁判を起こすかどうかを検討します。
起訴されるとほぼ確実に有罪判決がくだされるのが現状です。有罪ということは何らかの刑事罰を受ける可能性が高く、前科は免れません。
前科を避けることはできる?
検察により「不起訴」とされれば刑事裁判は開かれず、前科もつきません。
不起訴には、嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予の3つがあります。もし虐待にあたる行為があったとしても、起訴猶予として不起訴になることは不可能ではありません。
不起訴となるには、児童が虐待行為についてどう考えているか、虐待行為をしたことを深く反省して再発防止に取り組んでいるかなど様々な事情が考慮されます。どういった弁護方針が望ましいのか、弁護士に相談して見通しを聞いてみると良いでしょう。
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刑事裁判で刑事罰が決まる
刑事裁判では、虐待行為に応じた刑罰が科されます。虐待の内容、虐待の結果、反省の様子など様々な視点から司法が判断します。
情状酌量を求めること、再発防止に取り組む姿勢、児童との関係性などを考慮して罰金刑に留まったり、執行猶予がついたりする可能性はあるでしょう。
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児童虐待にあたる犯罪行為と刑罰・量刑
児童虐待とは、保護者による身体的虐待、性的虐待、監護を著しく怠る行為(ネグレクト)、心理的虐待のことです。保護者とは親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護する者をいいます。
児童虐待の定義は、児童虐待の防止等に関する法律の第二条で以下の4つに定義されています。
児童虐待の定義
一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
児童虐待で適用されることの多い犯罪について、児童虐待にあたる具体例と刑事罰の量刑をみていきましょう。
暴行罪や傷害罪
児童虐待で問題になりやすいのは、親にとってはしつけのつもりだという点にあります。しつけとして身体に危害を加えることは身体的虐待にあたり、暴行罪や傷害罪などに該当する犯罪行為です。
暴行罪とは
暴行罪とは、人の身体に対する不法な有形力の行使をいいます。
殴る・叩く・蹴るといった典型的な暴行だけでなく、刃物を差し向ける・物を投げつけるなど物理的には身体に影響しないものも暴行罪に該当するものです。
暴行罪の法定刑は2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料になります。
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傷害罪とは
傷害罪とは、人の生理機能に障害を与えることをいいます。
殴ってあざができた・刃物を振り回して傷を負わせる・蹴り飛ばして頭部外傷を負わせるなどが該当します。
傷害罪の法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。暴行罪と比べると重い刑罰になります。
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不同意わいせつ、監護者わいせつなど
児童に対してわいせつな行為を行ったり、わいせつな行為をさせることは性的虐待に該当します。軽いスキンシップのつもりだった、昔からやっていて子供も嫌がっていないなどは親の主観に過ぎません。
とくに、監護者という優位な立場を利用したわいせつは悪質です。親は子の監護者にあたるので我が子へのわいせつ行為は「監護者わいせつ」という罪になります。
また、子どもに性的な行為を見せつける行為も心理的虐待にあたる可能性があります。トラウマを植え付けるなどして精神的な障害を発症させた場合には身体的虐待にも該当する可能性があるでしょう。
不同意わいせつ罪は6か月から10年の拘禁刑、不同意性交等罪は5年以上の有期拘禁刑となっています。罰金刑は設けられていません。
監護者わいせつ罪は6か月以上10年以下の拘禁刑、監護者性交等罪は5年以上の有期拘禁刑が規定されており、極めて重大な犯罪行為です。
拘禁刑とは
拘禁刑とは、2025年に施行される見込みの改正刑法により新設される、新たな刑の種類です。自由刑の中の「懲役」と「禁錮」を一本化して新たに創設されることが決まりました。
拘禁刑の詳細については「拘禁刑とは?拘禁刑の内容、創設の理由を解説」の記事をご覧ください。
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保護責任者遺棄罪、保護責任者遺棄致死罪
監護者としての役割を怠るネグレクトは虐待行為にあたります。児童は自己のケアを自分一人ではできない弱者にあたるため、保護者がその責務を全うしない育児放棄や監護放棄は加害行為といえるのです。ネグレクトは保護責任者遺棄罪や保護責任者遺棄致死罪とされ、重大な犯罪です。
具体的には、食事を満足に与えない、体調が悪いのに治療を受けさせないなどがあげられるでしょう。
また、保護者ではない同居人による虐待行為の見逃しや放置もネグレクトといえます。恋人や内縁関係者による虐待行為を黙認するのも虐待なのです。
保護責任者遺棄罪の刑事罰は3か月以上5年以下の懲役、保護責任者遺棄致死罪の罰則は3年以上20年以下の懲役であり、いずれも罰金刑はありません。
脅迫罪、強要罪
心理的に強いストレスを与えることも虐待です。
例えば、高圧的な態度で畏怖を与え、本来は義務がないことについて、児童の意志に反して無理やりに行わせることは強要罪や脅迫罪にあたる可能性があります。
脅迫罪とは
脅迫罪とは、相手を畏怖させる行為により成立する犯罪のことをいいます。
脅迫罪の法定刑は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です。
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強要罪とは
児童に対して、暴行や脅迫をおこない、義務のないことをさせると強要罪です。何らかの罰として家の外で立たせるといった行為は強要罪にあたる可能性があります。
強要罪の法定刑は3年以下の懲役です。罰金刑はありません。
親の内縁関係者や恋人による虐待行為
血のつながりはなくとも、監護者たる親と同居している恋人や内縁関係にある者からの虐待行為も同罪です。
またこれらを見過ごしたり、同調した親自身も児童虐待防止法違反に問われるでしょう。
児童福祉法違反
児童虐待防止法違反以外にも、児童に淫行をさせる、児童にこじきをさせるなどは処罰の対象とされます。刑罰は違反した内容にもよりますが、最も重いもので10年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、または併科とされている重大な犯罪です。
具体的にどういった行為が児童福祉法違反に該当しうるのかは、関連記事『児童福祉法違反の罪に問われたらどうなる?定義や禁止行為、刑罰を解説』を参考にしてください。
親の児童虐待容疑で弁護士ができること
児童虐待の容疑がかかった親に対して、弁護士ができることを説明します。
児童相談所への対応を相談できる
児童相談所は親から子を取り上げる機関ではなく、子どもが明るく健やかに成長していけるような手伝いをする相談機関という位置づけです。家庭に戻っても安全だという確認が取れる場合には、子どもが家庭で過ごせるようにサポートをする機関でもあります。
児童虐待の疑いがかけられても、児童相談所に対してどういった働きかけが有効か、児童とまた一緒に暮らすために親として必要な努力や態度とは何かなど、適切なアドバイスが可能です。
取り調べ対応の助言や検察官への対応ができる
法律の専門家である弁護士として、取り調べではどういった答え方をすると事実誤認を招かないかといったアドバイスが可能です。仮にしつけのつもりでやっていたとしても、そればかりを述べていては反省していないように受け取られかねません。
また、実際に虐待を訴えた児童の中には「こんなに大ごとになるとは思っていなかった」と後から困惑しているケースもあります。いきすぎた刑事処分を受けることにならないか、検察に対して訴えかけていくことも重要な弁護活動のひとつです。
アトム法律事務所の解決実績
傷害事件(罰金刑)
自宅で実子である被害児童の太ももを蹴って踏みつけた虐待のケース。近隣住民の通報により臨場した警察官に逮捕された。被害児童は加療2週間を要する左大腿部打撲傷等のケガを負った。傷害の事案。
弁護活動の成果
親族からの嘆願書を取得し検察に提出する等の弁護活動を行い、正式裁判とならず略式起訴により罰金刑となった。
起訴の有無
あり(略式起訴)
最終処分
罰金10万円
略式起訴では前科こそつきますが、正式裁判が開かれるよりも早く事件を解決できることや、法廷で事件の内容が公にならないといったメリットがあります。
略式起訴となる要件や罰金の相場を知りたい方は関連記事を参考にしてください。
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児童虐待の被疑者になったら早急に相談してください
「子どもへのしつけだ」「単なるスキンシップだ」と思っている行為も犯罪にあたる可能性は十分あります。ときに逮捕されてしまう重大な結果になりかねません。アトム法律事務所では24時間つながる法律相談の予約ダイヤルを設けています。ご相談は早い方が、今後の選択肢を多く持てる可能性がありますのでお早めにご連絡ください。