家族が薬物で逮捕されたら、どうすればよいでしょうか。
「いつになったら釈放されるのか?」「会社や学校にはどう説明すればいいのか?」など、数多くの不安が頭をよぎることでしょう。
薬物で逮捕されると、勾留と呼ばれる身柄拘束に移行するケースが多いです。勾留されると、最長で20日間は警察署などの施設から外に出られなくなるため、日常生活への影響が極めて大きいといえます。
この記事では、これまで多数の薬物事件を取り扱ってきた弁護士が、薬物事件で重要なポイントについて解説しています。
早期釈放を求めるにはどうすればよいか、不起訴の可能性はあるのか、執行猶予を獲得するためのポイントについてまとめました。大切な家族が逮捕されたという方は、ぜひ参考にしてみてください。
※ 無料相談の対象は警察が介入した事件の加害者側です。警察未介入のご相談は原則有料となります。
目次
薬物犯罪で逮捕されたら
警察による取り調べ
薬物犯罪で逮捕されると、まずは警察署に連行されるのが通常です。「なぜ薬物を所持していたのか」「いつ頃から使用しているのか」「どこで手に入れたのか」など、詳しい取り調べを受けることとなります。
また、家宅捜査によって、自宅の中をくまなく捜索されることにもなるでしょう。
逮捕された後は、48時間以内に検察に送致される流れとなります。
原則として勾留される
薬物犯罪で逮捕されると、勾留されて身柄拘束が長期化するケースがほとんどです。
警察から検察に身柄が送致された後、24時間以内に勾留するか否かを検察官が判断します。「住居不定」「逃亡の恐れがある」「証拠隠滅の恐れがある」のいずれかを満たすと、勾留が決定されます。
薬物事件の場合、自宅にある薬物を破棄してしまったり、関係者や売人と口裏を合わせたりするなど、証拠隠滅のリスクがあると判断されやすいため、勾留されるケースが多いのです。
勾留されると、最長で10日間の身柄拘束となり、捜査のため釈放すべきでないと判断された場合には、勾留期間がさらに10日間延長されます。
起訴される可能性が高い
勾留期間が終了すると、検察が起訴するか不起訴とするか判断しますが、薬物犯罪の場合は、起訴されるケースがほとんどです。
通常、刑事事件では、同種前科や被害者との示談の有無などが、起訴・不起訴を決定する重要な要素となります。
被疑者に前科がなく、示談成立によって被害者が刑事処罰を望んでいないと意思表示している場合には、起訴する必要がないと判断されることがあるのです。
しかし、薬物犯罪は被害者のいない犯罪であるため、示談を締結する相手がそもそも存在していません。
そのため、処罰の必要性が薄くなることはなく、再び薬物に手を出すことを防止する効果を期待して、初犯だとしても起訴されてしまう可能性が高いのです。
刑事裁判で処罰が決まる
薬物犯罪で逮捕・起訴されたら、刑事裁判によって量刑が判断されることになります。
刑事裁判は「冒頭手続き」「証拠調べ手続き」「弁論手続き」の各段階を経て、判決が下される流れとなります。
最終的な判決が実刑である場合には、指定された期間は刑務所で服役しなければなりませんが、薬物犯罪の場合、初犯であれば執行猶予付き判決となることも多いでしょう。
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【コラム】薬物で逮捕されたら解雇?日常生活への影響は?
薬物で逮捕されたとしても、刑事裁判で有罪判決を受けることが懲戒事由になっている会社がほとんどであり、逮捕を理由としてただちに会社を解雇されるケースは一般的ではありません。
既に説明した通り、薬物犯罪は逮捕されると勾留され、起訴される可能性の高い犯罪です。起訴されるとほぼ確実に有罪判決を受けることになるため、懲戒解雇事由を満たすのは時間の問題ということもできます。
しかし、薬物で逮捕された事実も、有罪判決を受けた事実も、会社が調べることはできません。逮捕後に早期釈放され、在宅起訴で執行猶予付きの判決となった場合には、全てを隠し通したまま勤務を継続することもできるかもしれません。
とはいえ、長期間の欠勤や欠席により評価が落ちてしまったり、悪い噂が流れたりして、居づらくなってしまった結果、自主退職を選択しなければならない事態もありえます。
薬物で逮捕されたら、身柄拘束から少しでも早く解放されることが何よりも重要です。
薬物犯罪で逮捕される主なケース
職務質問で発覚して逮捕
薬物犯罪で逮捕されるケースとして多いのが、職務質問による発覚です。
異常な行動をとっていたり、明らかに様子がおかしかったりすると、パトロール中の警察官に声をかけられることが多いです。自動車の中で声をかけられ、薬物が見つかるケースもあります。
発見された薬物が違法薬物だった場合、現行犯逮捕される流れとなります。
仲間や売人が逮捕されて発覚
違法薬物を譲渡してくれた仲間や売人が捕まった場合、彼らの供述により購入者の情報を警察が入手することがあります。
このケースでは、先に逮捕された薬物仲間や売人からの情報により、購入者がいつ頃からどの程度の量の薬物を使用しているのかなど、警察は予め証拠を固めていることが多いです。
そのため、逮捕されてから黙秘したり否認したりすると、刑事処分が重くなるおそれがあるので、警察対応は慎重に行わなければなりません。
隣人に通報されて逮捕
薬物を使用していると、特有の異臭が発生することが多いです。そのため、異変に気付いた隣人から通報されて逮捕に繋がる可能性があります。
ベランダや窓から漂う異臭により通報されるケースや、ゴミ捨て場に遺棄された注射器などの器具を見られてしまうケースなどがありえるでしょう。
家族が薬物で逮捕された場合、すぐに弁護士を留置施設まで派遣する「初回接見」を利用してください。
弁護士の助言を受けずに取り調べに応じていると、警察に誘導された通りの供述調書が作成されてしまい、刑事処分が不当に重くなってしまうことがあります。
黙秘すべき尋問と素直に回答すべき尋問などは、個別の事案によって異なります。過去の薬物事件の解決実績が豊富な弁護士であれば、事件の状況を整理して、最適な取り調べ対応をアドバイスすることができるでしょう。
薬物で逮捕された際の代表的な罪名と刑罰
大麻取締法違反
大麻は大麻取締法により、所持・譲渡、栽培、輸出入などが処罰の対象です。同法では、大麻を所持・譲渡・譲受したときは、「5年以下の懲役」が刑罰として定められています。栽培や輸出入は「7年以下の懲役」です。
大麻取締法では、営利目的の有無によっても、法定刑が変わります。
営利目的で大麻を所持した場合の法定刑は「7年以下の懲役」です。情状によっては「200万円以下の罰金」が併科されます。
一方、営利目的の製造・輸出入は「10年以下の懲役」が法定刑です。こちらも情状により「300万円以下の罰金」が併科される場合があります。
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覚醒剤取締法違反
覚醒剤は覚醒剤取締法という法律により、所持・使用、輸出入、製造、譲渡・譲受などが禁止されています。
大麻事件と同様、営利目的の場合には処罰が重くなります。
覚醒剤の所持・使用では、「10年以下の懲役」が法定刑として定められています。一方、営利目的の所持・使用になると、法定刑は「1年以上の有期懲役」に引き上げられ、情状によっては「500万円以下の罰金」が併科されます。
覚醒剤の輸出入・製造については「1年以上の有期懲役」が法定刑です。営利目的になると、「無期又は3年以上の懲役」に引き上げられ、情状によっては「1000万円以下の罰金」が併科されます。
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麻薬及び向精神薬取締法違反(ヘロイン・コカインなど)
ヘロイン
ヘロインは、植物のケシからモルヒネを抽出して加工した薬物であり、麻薬及び向精神薬取締法で規制される薬物の中でも依存度が強い特徴があります。
そのため、法定刑も重く設定されており、譲渡・譲受・所持などの法定刑は「10年以下の懲役」です。輸出入・製造などに対する法定刑は「1年以上の有期懲役」となります。
コカイン
コカインはコカの葉から作られた強力な中毒性を持つ精神刺激薬であり、覚醒剤と似たような効果をもたらすのが特徴です。
麻薬及び向精神薬取締法では、ヘロインとヘロイン以外の麻薬、向精神薬で、法定刑が異なります。
コカインは「ヘロイン以外の麻薬」に該当し、譲渡・譲受・所持などを行うと「7年以下の懲役」、輸出入・製造などを行うと「1年以上10年以下の懲役」が科せられます。
営利目的が認められると、譲渡・譲受・所持などの法定刑は「1年以上10年以下の懲役」、輸出入・製造などの法定刑は「1年以上の有期懲役」にそれぞれ拡大します。
向精神薬は医療目的で用いられる抑うつ薬や睡眠薬などの総称です。精神機能に影響を及ぼす薬物であるため、不正取引が同法で禁止されています。
ヘロイン | ヘロイン以外 | 向精神薬 | |
---|---|---|---|
譲渡・譲受・所持など | 10年以下の懲役 | 7年以下の懲役 | 3年以下の懲役 |
輸出入・製造など | 1年以上の有期懲役 | 1年以上10年以下の懲役 | 5年以下の懲役 |
※個人利用目的の場合の刑罰です
LSD
LSDはライ麦の麦角菌から作る薬物で、幻覚作用が強い合成麻薬です。水溶液をしみこませた紙片、錠剤、カプセルなどの形状で流通しており、経口又は飲み物とともに飲むなどして乱用されています。
LSDについても「ヘロイン以外の麻薬」となるため、譲渡・譲受、輸出入、製造などを行った場合の法定刑はコカインの場合と同じです。
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MDMA
MDMAは「メチレンジオキシメタンフェタミン」の略名で、「エクスタシー」と呼ばれることもあります。もともとは白色結晶性の粉末ですが、カラフルな錠剤に加工されることの多い合成麻薬の一種です。
MDMAも法律上「ヘロイン以外の麻薬」となるため、法定刑はコカインの場合と同じです。
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毒物及び劇物取締法違反(シンナーなど)
大麻や覚醒剤、ヘロインなどとは異なり、シンナーは適切に使用すれば違法とはならない薬物です。しかし、乱用すると脳神経に異常が現れ依存症となるため、毒物及び劇物取締法によって、吸入・吸入目的での所持や譲渡が禁止されています。
シンナーを吸入したり、吸入目的で所持したりすると、「1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金」が科せられ、情状によっては両方が併科されます。
シンナーは未成年でも容易に入手しやすい薬物犯罪といえます。未成年の子供がシンナーで逮捕された場合の対応については『息子がシンナーで逮捕されたら|薬物犯罪に詳しい弁護士解説』をご覧ください。
薬物犯罪で逮捕されたら弁護士に相談を
薬物犯罪は弁護士のサポートが必須
薬物事件は弁護士のサポートが必須です。違法薬物は既に紹介したもの以外にも、あへん・マジックマッシュルーム・メチルフェニデートなど、たくさんあります。
薬物は一度使用するとその依存から脱するのは簡単ではありません。脳への障害も生じ、正常な判断能力が失われて行きますので、更生意欲があったとしても自分で考え行動することができなくなっていきます。
もし、家族が薬物で逮捕されたら、まずは弁護士を派遣して本人の状態を確認し法的なアドバイスをすることが大切です。その上で、弁護士の指示のもと、釈放に向けた準備をととのえたり裁判の用意をすることになります。
薬物事案は逮捕・勾留が免れないケースが一般的ですが、刑事事件に強い弁護士であれば、釈放に向けた弁護活動を行うことが可能です。また、起訴後の保釈の可能性を高めることもできるでしょう。
また、裁判では執行猶予がつくようしっかり更生計画を練り、弁護士から裁判官へ訴えかけていきます。
家族の協力が早期解決の鍵になる
家族が具体的にどのような点で協力できるか、まとめておきましょう。まず、起訴後の保釈については、家族がしっかり監督できる環境にあるかが大切です。保釈中の生活は家族が責任をもって監督し、被告人の裁判への出廷が確実にできる環境にしておく必要があります。
次に、執行猶予付き判決を獲得するためのポイントです。社会復帰をして更生を目指すには、仕事の受け入れ先が決まっていることも大きくプラスになります。職場が事情を知った上で本人を受け入れてくれるということであれば、それを上申書の形にして証拠化します。
また、医療機関への受診計画(治療計画)を具体的に示すことも、再発防止を説得的に説明する資料になるでしょう。家族が付き添って、どの程度の頻度で通院するか、医師と相談しながら証拠を整えることも大切です。
不起訴・執行猶予の獲得に向けて大切なこと
薬物事件で不起訴を獲得したり、執行猶予を獲得するためには、刑事事件に精通した弁護士に相談、依頼をすることが大切です。刑事事件は刻一刻と手続きが進められ、気が付いた時には起訴されているということにもなりかねません。
逮捕されるとそれがマスコミに報道されたり、会社に解雇される危険が生じる等、これまでの日常生活が瞬時に崩されてしまいます。少しでも早く釈放を求め、ダメージを最小限にするには、逮捕直後から弁護士に動いてもらうことが大切です。
また、執行猶予獲得に向けては、家族や医療機関との連携は必須です。薬物事件に精通した弁護士であれば、どのタイミングで何をするべきかが即時に判断できます。スピード命の刑事事件において、その分野に詳しい弁護士に依頼をすることが、最善の結果を得るための必要条件となります。
まとめ
この記事では、薬物事件で逮捕された場合のポイントについて解説しました。特に、覚醒剤事件と大麻事件での再犯防止策は専門家のノウハウが必要になるため、弁護士に相談しながら対応する必要があります。
家族が薬物事件で逮捕されたら、この記事を参考に、まずは刑事事件に詳しい弁護士までお問合せください。